『完結』家族ができるよ! やったねモモンガ様!   作:万歳!

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考察すれば考察するほど人類って詰んでるなと思いました(小並感)
ニグンさんはこれぐらいかっこよくていいはずだ!



第6話

 ガゼフたちは敵を引き付けて撤退するために、特殊部隊に突撃を開始した。別れ際に村人たちを頼むとだけアインズに告げて。

 

 カルネ村の者たちを守るのは当然だ。そのためにアインズはここにいるのだ。言われるまでもない。

 

 

 ただ彼らを村を確実に守るために利用させてもらいはした。特殊部隊の能力を把握するために、魔法で観察していたのだ。

 

 そう、ただそれだけであった。どちらにせよ特殊部隊たちはアインズに能力をある程度把握されたため、ガゼフたちが逃げ切った……または全滅した後に強襲される事は確定していた。

 

 アインズにとってガゼフは生きようとも死のうとも、どちらでも構わない程度の存在でしかない。だからこそ陽光聖典は全滅と引き換えに、戦士長殺害の任務は成功することが可能なはずであったのだ。

 

 

 しかし、特殊部隊の長は決して言ってはいけない言葉を……アインズが絶対に許すことができない言葉を吐いてしまった。

 

「——村長。戦士たちは敗北したようです。今から魔法で敵を排除してきます……邪魔になるので戦士団たちはこちらに転移させます。護衛として月光の狼(ムーン・ウルフ)死の騎士(デス・ナイト)を残して置きます……それでは」

 

 

 隣にいた村長の返事を聞くこともせずに、魔法を行使した。はっきり言えば戦士団を転移させるのは無駄の一手だろう。それでも転移させたのは情報の流出を少しでも避けたいという思いが、辛うじて残っていたからである。

 

 理性が少しでも残っていなければ、この場でガゼフたちは巻き込まれて死んだ可能性が高い。感謝すべきことである。

 

 だがここからは別だ。村人たちもいない。アルベドを含めた部下たちもいない。自分の周囲にいるのは前衛として呼び出した炎の根源精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)と対峙する特殊部隊だけだ。

 

 つまり怒りの感情を理性でもって無理やり押し留める必要性は皆無だ。今までにたまっていた怒りの全てを露にするのを止める存在はもういない。

 

「——クゥ、クズがぁあああああああ! 貴様らは俺が救った者達を、俺に憧憬の眼差しを抱かせた村人達を殺すと言ったのだぞ!……俺がようやくたっちさんに恩を返せたと思える人達を殺すだと! ……俺の大切な人を殺すだと! 許せるかぁ! 許すものかぁ! ……もう二度と、死なせたりなんかしない!!」

 

 沈静化は行われる。しかし、このどうしようもない怒りは間欠泉の様に吹上、決して収まることはない。

 

 

 

 

 ここに恐怖劇(グランギニョル)の幕が切って落とされたのである。

 

 

 

★ ★ ★

 

 ニグンは焦っていた。目の前にいる存在は仮面やローブで姿を隠しているため、何者かは不明だ。だが一つだけ分かることがある。

 

 この敵と対峙すべきなのは我々ではない。

 

 殲滅戦に長けた陽光聖典ではなく、英雄という人外たちで構成された漆黒聖典が対峙すべきだという事だ。

 

(まさか、ガゼフ・ストロノーフの言葉は真実だったのか!?)

 

 

 

 ガゼフは確かに強かった。数々の至宝を奪われ、力量差は明白であった。だがそれでも、強く捨て身であった。

 

 陽光聖典に襲われ生き延びるには捨て身にならざるを得ないのは間違いない。それでもなお、ガゼフの強さは鬼気迫る物があった。もし後一手、ガゼフに何かがあれば、切り札を使用することも検討せざるを得ないほどに。

 

 腹立たしかった。何故、王国に仕えているのかと。お前が仕える場所は違うだろう。お前が武力を振るう場所はこんな場所じゃないだろうと。

 

 ……何かに駆り立てられたように戦うガゼフも遂に倒れた。後は止めを刺すだけ……その時、ガゼフは自分より強い人がいると、どこか悲しそうに、しかしはっきりと呟いていた。

 

 ハッタリだと思っていた。法国ならまだしも、王国に王国戦士長より強い存在がいる訳がないと断じていた。

 

 しかし事ここに至っては、強者がいないとの判断は間違いだったと認めざるを得ない。

 

 

 

 陽光聖典に所属する者たちは強い。人を超越した英雄たちで構成された漆黒聖典を除けば法国の中でも精鋭中の精鋭である。そして仮に相手が漆黒聖典級の化物だとしても、一人だけなら十分に勝ち目はあるはずなのだ。

 

 では、今目の前で起こっている惨状は一体何だ?

 

 ニグンも部下たちも目の前に相対する存在の危険性を感じとってしまった。だからこそ、すぐに天使たちに突撃の命を下せた。しかし……仮面をした存在にはダメージを与える以前に攻撃することすらできなかった。

 

「■■■■■!」

 

 そう、ほとんどの攻撃は、言葉にできない雄叫びを上げている、炎の巨人に遮られているからだ。さらに言えば、迂回する形で炎の巨人を抜けた天使たち……恐らく見逃されたのだろう。その天使たちの攻撃を喰らったはずなのに、仮面の存在はダメージを喰らった素振りすら見せず、何らかの魔法で天使たちを消し飛ばしていた。  

 

 あれは化物である。陽光聖典では勝ち目が万に一つもない。深い絶望が陽光聖典を覆っていた。

 

「……これで、終わりか?」

 

 仮面の存在が一歩踏み出す。ただそれだけで、法国の精鋭である陽光聖典の士気は地に落ちる。すでに軍勢としてのモラルは壊滅寸前である。それでも誰も逃げないのは、あの存在を相手に後ろを見せたくないからだ。

 

 仮面で顔を隠している存在は、化物だ。人間ではどうしようもない程の。そう、魔神と言っても差支えが無い存在なのだ。

 

(……まだだ、切り札はある)

 

 本来の陽光聖典では勝ち目は絶対にない。しかし、ニグンの手元には切り札がある。だが、恐怖から体が動いてくれないのだ……もう、全てを忘れて楽になりたい。このまま目を閉じればきっと、全てが夢だ。

 

 そして、眠りに就こうとしたその瞬間、唐突に思い出す。

 

 ――もしここで陽光聖典が全滅すれば、竜王国は遠からず亜人たちに飲み込まれる。そうなれば、人間の生存のための一角が食い破られたことになる。

 

 いや、殲滅戦に長けた陽光聖典がいなければ王国や帝国が、トブの大森林などから湧き出てくる、ゴブリンを代表する亜人たちの狩場になるかもしれない。

 

 事実、そうなるはずだ。自分たちの任務は人類の生存圏で台頭しようとする亜人たちの間引きなのだから。間引きする者がいなくなれば、結末は簡単だ。本来の食物連鎖に従って、人間のほとんどが食べられるだけの存在に堕とされる。

 

 自分たちの代替えに成りうる者たちはほぼいない。代わりになれるとすれば、自分たちを上回る存在であり法国の切り札、漆黒聖典だけである。力量だけなら、アダマンタイト級冒険者でも可能だろうが……現状を理解しない者たちに期待するだけ無駄だ。また漆黒聖典でも例外を除けば殲滅戦が得意と言える訳ではない。

 

 それに、陽光聖典の任務を唯一肩代わりできる存在である、漆黒聖典は破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の復活に備え神器の護衛に入っているため動けないのだ。

 

 漆黒聖典は切り札中の切り札。陽光聖典だけで対応可能な任務に彼らを投入するのは愚の骨頂だ。いつ、漆黒聖典が必要になるか分からない以上、できる限り彼らにはフリーハンドでいてもらうことが重要なのだ。

 

 さらに言えば、敵は亜人や異形種たちだけではないのだ。裏切り者の薄汚いエルフども……同じ人間種でありながら、人類の生存を妨げようとする汚物たち。

 

 現状の法国は事実上のではあるが多方面作戦を実施している。戦力の分散は危険と分かっていても、多方面作戦を実施せざるをえないのだ。

 

 だから、現状の法国に余力はないのだ。法国が、六つの神殿が、六色聖典が力を合わせる事で今はある。陽光聖典が崩れれば、法国はさらに余力を失うのだ。きっと、均衡は大きく傾く。

 

 

 

 ……陽光聖典には自負がある。桁が違う漆黒聖典と共に人類生存への最前線に立ち続けているという自負が。必要があれば同じ人間ですら手にかけよう。人類を守るために。ただ一心に人類の未来を守るために……自分たちはこんなところで、死ぬ訳にはいかない――

 

 

 恐怖で閉ざそうとしていた目を大きく見開いた。我を見失いかけていた。我々の任務は人類を守護する事。ならば、漆黒聖典でも難しい任務であろうとも、決して諦める訳には行かない。最後の時まであがき続ける。

 

「——最高位天使を召喚する! 時間を稼ぐのだ! それしか勝ち目はない!」

 

「……あれは、魔封じの水晶?……最悪の場合、切り札を切るか?」

 

 聖なる存在、威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)は今ここに降臨した。陽光聖典を守るため、引いては陽光聖典が守護する人類を守るために。しかし――

 

 

 

 

 

 ニグンは絶望の淵にいた。最高位天使の攻撃は炎の巨人を倒す事すらできずに、炎の巨人のただ一度の反撃で消滅した。伝説の最高位天使はただの一撃で打倒された。

 

 そう、魔神すら単騎で打倒した最高位天使がただの一撃で破れたのだ……

 

(……人類は終わり、なのか?)

 

 もう人間の滅びを覆すことはできないのかもしれない。もし可能性があるとすれば漆黒聖典が破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)と、目の前にいる最高位天使を歯牙にもかけなかった存在を被害なく打倒して、際限なく湧き出る亜人たちを殲滅してくれることだ。

 

 それが、どれほど可能性が低いかは理解している。だが、ニグンには望むことしかできなかった。

 

 陽光聖典の者たちはニグンも含めて心は折れてしまっていた。もう、立ち向かおうという勇気も無様に生き延びようとする気持ちもない。

 

 これが絶望だ。これ以上の絶望があるはずがない。あって良いはずがないのだ。

 

 仮面の男が炎の巨人より前に出た。そしてまるで見せつけるように仮面を外した。

 

「………あ」

 

 ……知っている。知っている。自分たちはあの御方を知っている。

 

 六百年前に人類を救ってくれたのは誰だ? 我々人類を守護してその命を擲ってくださったのは誰だ?

 

 六大神様たちだ。そして目の前にいる御方は誰だ? 最後まで我々を守護してくださり、大罪人によって追放された存在は誰だ? スルシャーナ様だ。

 

「スルシャ――」

 

「貴様らにはただの死すら生ぬるい……この村に殺戮を招いた事を永遠の絶望に身を包ませて、後悔させてやる」

 

 その言葉を最後に何らかの魔法を使われたのだろう。ニグンの意識は落ちて行った。我々は神と敵対し、神の思いを踏みにじった末に捨てられたことを理解して……信じた存在を知らず知らずに裏切っていた……真の意味で絶望しながら。

 

 

 

 声が消えた。近くであった戦いの音が嘘のように消えていた。決着が付いたのだ。それも自分たちを救ってくれた方の勝利で。

 

 その姿が村に近づいてくるのをただ眺めていた。そして、少し離れた場所で村長との話声を、お借りした狼を抱きしめて、ただ声を聞いていた。

 

「では、今日のところは失礼します」

 

「……はい。いつでもお越しください!」

 

「ええ。その時はぜひ……それと――」

 

 また会いたいな。そう思っていた……願いは比較的早く叶えられることになる。

 

 

★ ★ ★

 

『アルベド聞こえているか?』

 

『はい、聞こえております。アインズ様』

 

『ナザリックに帰還するぞ……私は一足先に帰る。それと、今回の件で話がある。お前も私に言いたいことがあるだろう?……後で執務室に来てくれ』

 

『……承りました』

 

『……あと、あの村での出来事は他の者たちには内密で頼む……ではな』

 

 本来なら一緒に帰るべきなのだろう。だがそれはできなかった。何故か? 簡単である。アルベドに顔向けができなかったからである。

 

 鈴木悟としては今回の行動に恥じるべきことは一つもない。それは断言できる。しかし、ナザリックのモモンガとして考えれば、行き過ぎだろう。

 

 アインズ・ウール・ゴウンとして、支配者として考えれば完全に失格である。

 

 

 ナザリックに帰還したアインズはアルベドと二人きりになる機会を作らずに、ギルドの名を全世界に広める命令を階層守護者やシモベたちに伝えて、今は宝物殿に来ていた。アルベドに自分が人間達にどのような思いを持っているか、自分がカルネ村でどのように行動したかの詳細の口外を禁じたまま。

 

 

 本来なら玉座での命令が終われば、カルネ村の件をすぐに話し合うつもりだったが、その前に確認すべきこと……必要になる事があると思ったため、アルベドの件は後回しにした。

 

 そう、もしかしたらアルベドはカルネ村の件で自分に失望している可能性すらある。思われていなくとも人間を愛している事が知られれば、自分が支配者に相応しくないと思われる可能性が高い。いや、思われるはずだ。

 

 だがこれは偏に自分の想像でしかない。……ほかのNPCで失望されないかを聞いて確かめるべきだ。

 

 宝物殿領域守護者なら外に出られないため時間は稼げる。それに自らが創造したNPCなら安心感が違う。自身にとって味方に一番近いだろう。裏切りの可能性も一番低いはず。

 

 いや、そうではないのだ。もし本当にアルベドが今の自分をギルド長として相応しくないと断じるのであれば、それは正しい。今の揺れに揺れている自分では受け入れるしかない。

 

 沈静化を以てしても微弱な感情の揺れは続くのだから。

 

 隠居しろと言われれば、素直に受け入れよう。さすがに、殺されそうになれば、抵抗はするだろうが。

 

 

 しかし、自らをギルド長から引きずり下ろすことを、アルベドにさせるには不安がある。アルベド以外から見れば自分は絶対の主に相応しいという思いに変化が無いはずなのだ。そんな中アルベドが何か行動を起こしたとしても不和が残るだけだ。

 

 彼らがみんなの思いを受け継いでいるのなら、下手をすれば空中分解すら起きる可能性がある。たっち・みーやウルベルト・アレイン・オードルの様に……。

 

 それは嫌だ。ギルドの崩壊。それだけは絶対に阻止する。

 

 問題なくギルド長から降りる方法は一つしかない。ギルドメンバーが帰還して、多数決を以て解任してもらう事だが、現時点ではできない。

 

 ならば少しでもナザリックに不和を残さない方法を、探さなければならない。アルベドが決断したときに被害を少しでも減らすために。それが今の自分が唯一できる行動だ。

 

 被害を減らすためには、アルベドが弾劾をしてはいけない。だが、自ら主の座を降りるなんて無責任な真似はできない。

 

 なら代役を立てる必要がある。そして最適な人材はただ一人。自らが創造した宝物殿領域守護者だ。

 

 彼が弾劾するのなら、ナザリック全体の不和は減るはずだ。少なくともすぐにナザリックが割れる事態は防げる可能性が高い。そうすれば、アルベドが事実上のトップだ。自らより、円滑にナザリックを運営できる。

 

 だがそれは自らが背負うべきはずの重荷全てを持たせるような事、自ら責任を放り投げる事と同義でもある。一言でいえば……。

 

(最低だ……な)

 

 いや、アルベドが自らを見放していない可能性もある。だからそれは本当に最後の手段だ。ここに来た真の目的は別にある。自分の思いを話した場合NPCはどう行動するかを知ることだ。

 

 そして宝物殿領域守護者が自分に失望せず、アルベドも今でも自分を主として見てくれているのなら、彼らが見ている主に近づこう。それが礼儀だ。

 

 だが自分には足りないものが多すぎる。誰かに教えを乞うしかないだろう。しかし、ナザリック最高の智者であるデミウルゴスやアルベドに支配者として相応しい教育をしてくれなんて言える訳がない。

 

 そんな中、唯一の例外が彼だ。彼は表には出ない。他の者たちと知り合う機会もない。自らが創造したNPCであり、アルベドやデミウルゴスに匹敵する智者……教えを乞うにこれ以上最適な人材はいない……何となく情けなくもあるが。

 

 合言葉で戸惑い時間を使ったが無事にたどり着いた。かつての友人の姿に変身しているNPCが見えた。

 

「戻れ。パンドラズ・アクター」

 

 言葉に従い、パンドラズ・アクターの姿が歪み真の姿が現れる。彼は二重の影(ドッペル・ゲンガー)であり、アインズが創り出したNPC……自らがカッコイイと思った、中二的な設定を詰め込んだ……黒歴史である。

 

(認めたくないな……自分自身の若さゆえの過ちは)

 

「ようこそ、お見えになりました! モモンガ様! 私の創造主よ! このたびはどのようなご用件で? もしや私の力を振るう時が来たのですかな?」

 

「……そうとも言えるし、そうじゃないとも言える」

 

 この返答は予想していなかったのか黒歴史が驚愕していた……オーバーなリアクションで……精神が削られていくようだ。アインズにこの世界で最初にダメージを与えたのは黒歴史である。

 

「それは一体どのようなことでございますのでしょうか?」

 

「……そうだな。まずは現状の説明をする」

 

 アインズは今までに起きた事を要点を摘まんで黒歴史に語る。黒歴史も真剣に聞いているが。重要な事を話すたびオーバーなリアクションをするため説明は難航した。……主にアインズの沈静化で。

 

 自らが創り出した動く黒歴史と顔を合わせながら話す……ある意味地獄だった。

 

 苦行を何とか終える頃アインズのHPは大幅に削られていた。ような気がする。実際肉体的には削られていないのだろうが、精神的には削られている。

 

 沈静化が無ければ即死だった。むしろ気絶したい。

 

「……では、アインズ様とお呼びいたします。それで私はどのような任務を拝命されるのでしょうか?」

 

「その前に一つ、お前に聞きたい事がある」

 

 凛とした空気が張り詰め、黒歴史が襟を正し敬礼する。自らがカッコイイとありありと見せつけて。いや、まるでそこに舞台があり自らが主演役者の様に振舞っているのかもしれない。

 

「どのようなことでもお聞きください! アインズ様に、我が創造主に対してお答えできない事など存在しません!」

 

 死にた……逃げたい。先程まであったはずの覚悟や罪悪感より強い感情(羞恥心)が全身を駆け上り……沈静化されてしまった。あと何度繰り返せばいいんだろう? いっそ清々しいほどに絶望的な戦いである。

 

「……まず確認させてくれ。お前は私にどれほどの忠誠を捧げている?」

 

「私の全てを! たとえ他の至高の方々を殺せと命じられても迷いなく実行できます!」

 

「なに!?……いや、そうか。ならば、もし私がナザリックの支配者として相応しくない行動をした場合、お前は私に忠誠を誓えるか? もしお前を失望させる行動をとっても、その忠誠は変わらないか? ……私が命令すれば、お前は私をギルド長の座から引きずり下ろすことができるか?」

 

 今まで自分が沈静化されて止まった時のように黒歴史が固まった。立場が逆転し気づけば先程まであった軽い空気がすべて消え去り、重苦しい空気だけが宝物殿を支配していた。

 

「…………何が、ございましたか?」

 

「まず私の質問に答えよ」

 

 黒歴史が軍靴の音を鳴らして綺麗に敬礼する。

 

「失礼を、承知で言わせて頂きます。……何をふざけた事をあなた様は仰るのですか?」

 

 黒歴史は怒気すらこめて言い放った。これは予想がつかなかった。そう今まであってきたNPCの中で自分に怒りの感情を示すなんて初めてのことなのだ。

 

「アインズさ……いえ、あえてモモンガ様とお呼びさせて頂きます」

 

 霊廟前には宝物殿の荘厳さに相応しくない、怒気が集っていた。

 

「もしモモンガ様がナザリックの支配者として、相応しくないと言う者がいるのでしたら、どのような手を使ってもそいつを殺しましょう。モモンガ様以上にナザリックの支配者に、相応しい方などいないのですから。他の方々はどのような理由であれ、ここをお捨てになられたのだから……ナザリックにおられるだけでモモンガ様はナザリックの支配者なのです」

 

 彼の口からは洪水のように言葉が飛び出す。一体何を言っているのか理解できないし、理解したくない。だがモモンガのその思いを汲まれずに、まるで宣誓のような思いは続く。

 

「私がモモンガ様を裏切る? そんな事絶対にありません。たとえモモンガ様がどのような行動を取ろうと私の忠誠は揺らぎません。私がモモンガ様に対して失望する? ふざけないで頂きたい。モモンガ様がたとえ愚かな存在であろうと、忠誠を誓い続けます。モモンガ様が何かを成し遂げるのに邪魔な存在があれば全て取り除きます。仮に世界級(ワールド)を破壊すると仰れば、必ず破壊する手段を見つけ出して御覧に入れましょう」

 

 黒歴史がここまで言い切ると一瞬ではあるが静粛が戻ってきた……訳が分からない……なぜそんな不可能な事でも実行すると言うんだ。

 

「……もしモモンガ様がナザリックが邪魔になり、ギルド長の座から降りたいと仰るのであれば、私が先頭に立ち全てのNPCやシモベたち、必要があれば至高の御方々……全てを殺害し自害致しましょう……これが私の嘘偽りのなに一つない私の思いでございます!」

 

 

 彼の思いや敬礼した姿に一瞬ではあるが魅了されてしまったのだろうか?……まるで彼に触発されたかのようにモモンガは自分の思いや疑問を吐き出す……今までNPC達に向けられて、疑問に思っていた全てを。

 

 この後どうなるか全てを放り投げて。

 

「……なぜそんなことを言えるのだ! お前達は私が何者かを知らないだけだ!……私は愚かなただの人間だ! お前に、お前たちに忠誠を尽くされるような存在じゃないんだ!」

 

 黒歴史(パンドラズ・アクター)が途中で話を遮ろうとするが無視する。だって我慢できないのだ。ただの子供のように。

 

「私は、ただの人間だ! どこにでもいる社会の歯車でしかない。この姿は(ゲーム)の姿でしかない! ユグドラシルなんてのはな、ただの幻想(遊び)なんだ。いやだったんだ! 今でこそお前達は自ら動き喋るがこの世界に転移する前はお前達はただの置物(フィクション)に過ぎなかった……お前達と喋れるのは嬉しいさ! でもな、俺がお前達に何をしたんだ……俺はお前達に何もしていないだろう! ただのゲームだったんだぞ! 一度も話したことは無いだろう!……お前はそんな奴に忠誠を誓うのか……何でお前達はそんな奴に忠誠を誓うのだ!?」

 

 何度も沈静化が起こるが、そのたびに自身の思いが憤怒のように燃え上がる。モモンガは長くて短い時間に疑問に思っていた事全てをさらけ出した。

 

★ ★ ★ 今日の守護者統括

 

 アウラたちの指揮権を得たが、使用する機会はなかった。敵が余りにも脆すぎたからである。それでも本当は駆けつけたかった……必死にその思いを堪えて、別方向からの敵襲が無いかの監視に徹した。

 

 いやそれだけではないのだ。モモンガの余りの怒りの強さで動くことができなかったのだ。アルベドも、アウラやマーレも。

 

 二人も疑問に思ったのだろう。何故そこまでの怒りを示してるのか分からずに最終的に困惑していた。

 

 自分だって完全には理解できてはいない。だが、今はそれでいいのだ。

 

 撤退が始まり、玉座の間での命令の伝達……その間アルベドはアインズに避けられ続けた。

 

 焦る気持ちが全くないと言えば噓になるが、そこまで心配もしていない。後で詳しく話すと伝えられている上に、自らの疑問に答えてくださると仰っておられるのだからだ。そして何よりも重要なことは……

 

(ナザリックでモモンガ様に一番近い存在は私だわ)

 

 元々アルベドは守護者統括と言う地位であり、役職的には一番近かった。これに加えて精神的にも近くなれる。嬉しいことだらけである。

 

 あの村の立ち位置が不明な点が気がかりではあるが……

 

「皆、面を上げなさい」

 

 今考えるべきことではない。今は守護者統括として先程の命令の徹底及び、デミウルゴスの聞いた話を守護者各員で共有……少しずつ意識改革も必要だろう。

 

 嬉しさの感情を解き放つのはまだ早い。




もうちょっとだけ、シリアスは続きます。
きゃっきゃうふふはもう暫くお待ちください。

クリスマスとクリスマスイブ、どっちが最終話に相応しいですか?

  • クリスマス
  • クリスマスイブ

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