『完結』家族ができるよ! やったねモモンガ様!   作:万歳!

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第7話

 モモンガは自分の内にあった黒い感情を吐き出した。いや、吐き出してしまった。言わなくてもいいこと、言ってはいけないことまで、一時の感情で全て喋ってしまっていた。

 

 確かに教えを乞うと思ってた以上、自分が支配者としての能力に欠如している点は、言わなければならない。必要があれば、人間であったことまでは語っても良かったかもしれない。

 

 

 だが、だからと言ってユグドラシルがただのゲームであったという、真実を話す必要はなかったはずだ。

 

 否、NPCには絶対に告げてはいけない残酷な真実である。モモンガは正気に戻ったが、時既に遅い。

 

(……失態だ。ユグドラシルとリアルの事まで言うなんて、俺は何を考えていたんだ! 裏切ってくれと言うようなものだろう!)

 

 殺されても仕方がない。この場で彼が自分を殺しに来たとしても、反論することはできない。

 

 だからモモンガは、恐怖故に一度この場から逃げようと考えた。沈黙している今なら逃げられると……しかし実行には、どうしても移せなかった。黒歴史(パンドラズ・アクター)の語ってくれた自分への思い。たとえユグドラシルが幻想(ゲーム)であったとしても、彼の言葉に嘘は無いように感じた。

 

 そして、カルネ村で見た村人達の死を覚悟して進む意思……記憶に残る様々な遺恨。これ以上、後悔を作る事だけはしたくない。今のモモンガにあるのはその思いだけだ。その思いだけで目の前のパンドラズ・アクターを見据える。

 

(……目を背けては駄目だ。ここで逃げたら何かが終わる)

 

 先程から黒歴史は静かだ。まるで何かを考え込むかのように。その静粛はどれだけ続いただろうか? 長い時間かのように感じられたし、とても短い時間だったのかもしれない。

 

 そして、遂に審判の時は訪れた。長い沈黙の後、遂にパンドラズ・アクターが口を開いたのだ。

 

「――ユグドラシルがゲーム、ですか」

 

 何を考えているのだろう。もしかしたら自分達の存在をゲームと呼ばれて怒ってるのかもしれない。自分がただの人間と言う事に怒りを感じているのかもしれない。

 

 そして、モモンガは信じられない事を聞いたのだ。

 

「なるほど。そういう事でしたか。言われてみれば、確かに思い当たるモノがあります」

 

 モモンガは固まっていた。なぜ怒りの感情を自分にぶつけないのか分からずに、困惑してしまったのだ。

 

「……今回モモンガ様が来られる以前は、自分から話しかける事も出来ませんでした。確かに私は置物でありました。命令されなければ何もできない」

 

「しかし、それではこの記憶は何なのでしょうか? この新たな世界に移動するまで、私が置物であった事は理解できましたが、なぜユグドラシルの頃の記憶が存在しているのでしょうか? ……何か心当たりはございますか?」

 

 予想も出来ない事で話を振られた。だが、確かにそれはモモンガ自身も疑問に思っていたのだ。ユグドラシルの全盛期に大侵攻を受けた時、八階層で返り討ちにすることができた。

 

 できたが、被害も甚大で七階層守護者までのNPC全員が死亡していた。彼らの中でその記憶はどうなっているのか? 死亡して復活した、同一人物なのか? だが残念ながら、聞くことができない。アインズでは墓穴を掘る可能性が高いからだ。

 

「……分からない。この世界に転移した日ユグドラシルのサービスは終了するはずだった。お前達も、私のこの姿も、泡沫の夢として消える運命だった。それがいきなり、リアルの世界になったからな。法則にも変化が見えている。分からない事だらけだ」

 

「……さようでございますか。ではこの事を現状で、これ以上考えるのは無意味でございますね」

 

 緊張感を纏ったまま、一呼吸置かれた。今までのは前振りだったのだろう。冷静になるための時間稼ぎだったのかもしれない。だから。今度こそ静かになされるはずの糾弾を受け入れる。

 

「……モモンガ様はリアルの世界に帰られたいと思わないのですか? 超位魔法や世界級(ワールド)を使用すれば可能かと思われますが?……不可能な場合を考えてこの世界で帰還のためのアイテムを探されるので?」

 

 だが、彼の言葉はモモンガを気遣う物であった。リアル(地獄)に帰りたいのかと言う気づかいだ。もし、リアルに未練が一つでもあれば、きっと幸せだったのだろう。だが、そんなものモモンガには存在しない。

 

「リアルに未練はない。家族はいない。母は……私が小さいときに、俺の好物でも作ろうとしてくれたんだろうな。疲れた体に鞭打って……台所で、冷たくなってたよ」

 

 目の前の出来事に集中すべきなのに我知らず、震えてしまう。それが怒りなのか、悲しみなのかは分からない。だが、あの時の母の姿が鮮明に、モモンガの頭に浮かぶ――

 

「……如何なされましたか?」

 

「……いや、すまん。どうにもこの体になってから、感情が大きく動くと感情が抑制されてしまうのだ。アンデッドの特性だな。どこまで話したか……リアルでは、ナザリックの仲間たち以外に友人はいない。あの世界は地獄だからな」

 

 リアルの世界の状況をできる限り話す。

 

 リアルは人が生きる土地ではないこと。防護マスクをしなければ、生存すらできない不毛の……死の大地。勝ち組が負け組を搾取し、梯子すら外された世界。

 

 緩やかに死滅していくだけの世界の事を、自らの知る限り語る。そして、同時にユグドラシルの事も。

 

 仲間たちの間で決して埋まることがなかった溝……ウルベルト・アレイン・オードルとたっち・みーのどうすることもできない、一方的な反目。

 

 最後にアルベドにしてしまった、馬鹿なこと。

 

 語る必要がないことまで、全て語ってしまう。きっと、誰かに悲しい胸の内を打ち明けたかったのだ。

 

もしかしたら、誰かに話して懺悔をしたい感情があったのかもしれない。人間―――多少語弊があるが――の心は複雑怪奇なもの。どれが正解かは判断できないが。

 

「……リアルとはそのような世界でしたか」

 

 途中、話は横にそれたが質問に答えることはできた。だが、黒歴史が静かに何かを考え込むばかり。モモンガが覚悟していたことは、決して言われない。

 

 自ら聞くことが、モモンガに課せられた罰なのだろうか? 一歩、踏みだした。糾弾を受け入れるために。

 

「……パンドラズ・アクター。お前は私に騙されたと感じないのか? 本当の私は脆弱な人間なんだぞ?」

 

「そのようなこと、決してありません。先程語った事が全て真実であります」

 

「……なぜだ? ユグドラシルの記憶があるらしいが、それは偽りかもしれない。それに私はお前に何もしていないだろう?」

 

「何もしていない? いいえ! いいえ! モモンガ様は私に掛け替えのない物をくださいました! ……私を生み出してくださいました! 例え……例え、それがゲームの一環だとしても、それだけは真実であり、それだけで私がモモンガ様に忠誠を尽すには十分でございます!」

 

「……」

 

 

 耳を疑う言葉が聞こえ、彼からモモンガを詰る言葉は一つも出てこない。いや、信じられない事だが感謝の言葉すら述べられているのだ。……信じきれない。

 

「……私は確かにお前を生み出したかもしれない。だがな、ずっとここに閉じ込めてきた。怨まないのか? もし別の階層に配置すれば、偽りの記憶だとしても他のNPC達との会話もあったかもしれない。常に一人でいる事もなかったはずだ」

 

「……なぜ怨まないといけないのでしょうか? モモンガ様。私は命令を下され、宝物殿の領域守護者として、モモンガ様にとって、一番大事な場所を守護するように命令されたのです。何よりもモモンガ様の命令です」

 

 言葉が区切られ、もう一度大きな敬礼がなされた。まるで、殉教者のように。

 

Wenn es meines Gottes Wille(我が神のお望みとあらば)!」

 

 パンドラズ・アクターは言いたい事を全て述べたのだろう。敬礼をしながらモモンガの言葉を待つ。

 

 今の彼は一言でいえば、輝いていた。普段ならドイツ語、オーバーなアクションでダメージを受けていた。だが、覚悟が伝わっている。

 

 

 パンドラズ・アクターは、自身にとって辛いはずの出来事を乗り越えている。自らが意思を持たない、ただの人形だったと明言されても。

 

 アイデンティティが崩壊しても可笑しくないはずだ。だって、恐らく存在するのだろう記憶すら、偽物と断じられたのだから。

 

 だが彼は乗り越えて見せた。

 

 これ以上彼の言葉を疑うのは間違いである。何より彼には鈴木悟の頃にはなかった強い意思を感じた。そう、まるでカルネ村の人々が、家族や隣人を守るために見せた輝きを目にした。

 

「お前の考えは分かった。疑ってすまなかった」

 

 モモンガは頭を下げる。パンドラズ・アクターが何かを言おうとしたが止める。

 

「そしてだ……お前のユグドラシルの頃の記憶は確かに偽りなのかもしれない。だからこそ、この現実で共に生きよう。……本物の記憶(思い出)を作ろう。今度こそ一緒に、な」

 

 静寂が舞い戻り、モモンガの言葉が心に沁み込むのに十分な時間が経過し……パンドラズ・アクターから静かな嗚咽が漏れ始めていた。知らずに手が伸び頭を撫でていた。

 

「……我が神よ。ありがとうございます。」

 

「感謝するのは私の方だ、パンドラズ・アクター。お前のおかげで私は黒い感情を払拭する事ができた」

 

(黒歴史、か。……いや、違うな、パンドラズ・アクターは俺の希望()だな。俺が創造した存在が強い意志を持っていた。俺に可能性を見せてくれたのだから。だったら)

 

 これから言うことに一抹の不安はある。が、話さない選択肢はない。

 

「パンドラズ・アクター。そこまで畏まるな。私がお前を創ったのだから、我々は家族のようなものだ……これからは私がお前の父なのだから……お前が認めてくれればだが……」

 

 自らの子供であるパンドラズ・アクター(希望の光)が深く頭を下げた。

 

「畏まりました。父上。私が認めぬ訳ありません。感謝致します」

 

「ふふ。それにしても人生は面白いな。リアルで一度も恋人がいなかったのにまさか子持ちになるとはな?」

 

「確かに。面白い物がありますな父上。私が偽りの存在ではなく、本物になるのですから」

 

 お互いを眺めあい、同じ拍子で大きく笑い出した。先程までの暗い空気はすべて消え去り、二人の陽気な笑い声が宝物殿を支配して――

 

「ははは!…………っち」

 

「……抑制なされましたか?」

 

「ああ。役には立っているんだが、楽しい気分まで台無しにされるのは、嫌な気分だ」

 

「……それでしたら、何かアイテムをお探しになられますか? 一時的にですがアンデッドの特性を解除できるアイテムがあったかと……確か完全なる狂騒という名前のアイテムでした。それに宝物殿には似たようなアイテムがあったと思いますが……如何なさいますか?」

 

 確かに感情を抑制されず楽しめるというのにはメリットがある。が、答えは簡単だ。

 

「メリットとデメリットが釣り合わなさすぎる。確かに沈静化は面倒だが、役に立つ部分も多いからな……特に支配者として演技をするときに」

 

「演技、ですか……失礼ながら、先程のお話をお聞きした限り、父上はただの一般人であり、社会の歯車でしかなかったとか?」

 

 ここからは本題だ。恐らくモモンガの目的にも感づかれたのだろう。緩やかな空気から、重要な話をするとき……会社の会議で重要な議題を話し合う時の空気に変化しているのが証拠だ。

 

「その通りだ。そして、恐らくお前が思っている通りでもある。俺は上手くナザリックを率いていける自信……方針を示せる自信……過ちを犯さない自信がない。手伝ってくれるか?」

 

「このパンドラズ・アクターめにお任せあれ! 必要な支配者としての振舞い、考えかた、私の力の限り伝授致しましょう!! 父上のお望みを果たせるように方針も打ち立てて見せましょう! ついに、このパンドラズ・アクターがお役に立つときが参りました!」

 

 我が世の春が来たと、モモンガが考えたカッコイイポーズを繰り返しながら、喜んでいる。喜んでくれるのは嬉しいし、父よりも賢い息子に申し訳無い思いも確かにある。だが、どうしても早急に何とかしなければならない問題がある。

 

 時々なら、良い。覚悟を見せてくれる時ならかっこいいと思える、はず。だが、普段からは無理。

 

「なぁ、パンドラズ・アクター。敬礼は止めないか? あとその、過剰すぎるアクション……舞台演技みたいなのも、な?」

 

 分かっている。理不尽だってことは重々承知している。パンドラズ・アクターがただ単に自分が決めた当時カッコイイと思っていたポーズをカッコイイと理解して行動しているのも分かっている。全ての元凶は自分自身だ。

 

 だとしても、これから一生共に生きて行く過程で、その姿を常に見せ続けられるのは……無理だ。とてもじゃないが耐えられない。

 

 いや、感情の動き次第で抑制される以上、耐える事ならできる。だが、確実に何かが摩耗する事だけは分かる。

 

我が神のお望みとあらば(Wenn es meines Gottes Wille)……いえ、違いますね。神ではなく、父上(Vater)なのですから――」

 

「――ドイツ語も止めよう。頼むから? なっ?」

 

「は、はぁ」

 

 これ以上喋らせたら、沈静化があっても精神的に死亡するのは明白だ。

 

 敬礼をしてドイツ語を叫ぶパンドラズ・アクターを精一杯止める……納得はしていないようだが。不承不承従ってはくれるだろう。どうすべきなのだろう? 本当のことを語るべきなのだろうか? いや、これは語るべきではない。

 

 お前の姿やドイツ語が常に私の精神にダメージを与えるから動きを抑えてくれ……十中八九、リアルについて語る事と同じぐらい残酷なことだ。

 

 パンドラズ・アクターからは演技やドイツ語を話している時に何故か、誇りが見え隠れしていることを考慮すれば、リアルのことを告白するよりも、反逆される可能性が高いのではないだろうか?

 

 だから、傷つけないように誘導して、止めてもらうしかないのだ。

 

「……パンドラよ。お前は私の子どもなのだから、ユグドラシルの頃の設定全てに従ってはならないぞ? それでは私の子どもではなく、変化のないNPC(置物)と変わらないからな?」

 

「……なるほど、そういうことでしたか。承知致しました、父上。必ず変わってみせましょう!」

 

「楽しみにしている。本当に、心から……それでだ、ここに来た理由のうち一つは方が付いた。もう一つの難題だが、アルベドとどう話せば言いと思う?」

 

 変な方向に行っていた空気が修正されパンドラズ・アクターは熟考に入る。実際問題この後で話し合う予定のアルベドとどうすべきなのだろう? どうするのが最善なのだろうか? アルベドの疑問全てに答えるのは恐らく難しい。

 

「まず、カルネ村での出来事を詳しくお聞かせ願いますか? それ次第で、今後の対応に変化が現れます」

 

「そうだな。そもそも、カルネ村にはたっちさんへの恩返しのつもりで向かったんだ。それで、ネムという子にとても感謝されてな、舞い上がってたんだろう。ネムの姉であるエンリという少女が、私の姿に恐怖を抱いていたことに気付かないぐらいに……そのせいで、アンデッドがこの周辺で生者を殺戮する存在と思われてることに気付けずに、多くの者たちに顔を晒してしまった」

 

 そして最終的にアンデッドである自分を受け入れ、感謝してくれたことで親近感が湧いてしまった事。そしてある意味、現在の全ての元凶ともいえる存在。

 

「母に良く似ている人を見付けてしまってな」

 

「――モモンガ様のお母様にですか!?」

 

「ああ。本来なら、ナザリックのためにあの村を見捨てる事が、最善だというのは分かっていたんだ」

 

 確かに今になって思えばこれで良かったのだろう。しかし、情報が無いときにナザリックを危険に晒そうとしたこともまた変わりはない。

 

 もし、モモンガがナザリックを危険に晒すことを許容できるとすれば、ギルドメンバー……友達を救うのに必要な時だけだ。

 

「でもな、どうしても彼女を見殺しにすることはできなかったんだ……それに、あの村を助けたこと、そのこと自体は一つも後悔していないんだ」

 

 だが、アルベドに無理やり帰れと命令したり、動揺した姿を見せすぎたり、理不尽にも怒鳴ったりしてしまった。ナザリックよりもあの村を優先した姿を見せてしまった。

 

「まぁ、だいたいこんなところだ」

 

「なるほど……確かに絶対なる支配者が見せてはいけないお姿を、お見せになられすぎたかもしれません。ですが、問題は何一つないかと」

 

 それに、と一区切られ話は続く。

 

「……恐らくになりますが、アルベド殿の疑問の解消のために、先程私に話されたこと全てを話さられても問題はないかと……ほかのNPCたちも同様かと思われます」

 

 モモンガは考える。自分が全てをアルベドたちに話した後のナザリックを。パンドラズ・アクターの言う通りなら、きっと重圧を感じずに……もしかしたら、仲間達がいた頃のように過ごせるかもしれない、と。だがそれはできない。

 

「……いや、駄目だな。真実を話していいのは、NPCの創造主だけだ。私が彼らに語るのは、裏切りだろう。パンドラ、お前とて私以外から、真実は語られたくないだろう? 確かに私はアインズ・ウール・ゴウンとしてナザリックの代表ではあるが、彼らの本物の創造主にはなれない。ただの代理人に過ぎないんだ」

 

「他の御方々もこの地におられるので? 確か、アカウントでしたか? それを残されておられるのも、ごく少数とか? それに、ユグドラシル最後の瞬間、ナザリックにおられたのはモモンガ様だけだとか。どのような条件で、この世界がリアルに変化したかは皆目見当が付きませんが、他の御方々が存在される可能性は皆無といっても良ろしいのでは?」

 

 ……深く、心が抉られる。パンドラズ・アクターの言うとおりだ。確かに自らは何らかの奇跡で、今この場にいる事ができる。だが、あの瞬間にログインしていなかった仲間たちが本当にこの世界のどこかにいるのだろうか? 可能性はどれぐらい存在するのだろうか?

 

「……ああ。お前の言う通りだろうな。可能性は低い。いや、皆無に近いだろう、な」 

 

「それでしたら、嘘偽りなく全てを語られたほうがよろしいのでは? それでこそ――」

 

「――それでも、俺は信じたいんだよ。パンドラズ・アクター。奇跡を、願いたいんだ。もう一度、みんなに会えることを信じたいんだ。この世界には奇跡も魔法もあるのだから」

 

 分の悪すぎる賭けだとしても信じたいのだ。

 

 この世界で、ようやく一歩踏み出した程度だ。なら、今までと同じように待ち続けてもいい。

 

 もちろん、出会えない事も覚悟はしている。独りなら耐えられないかもしれないが、ナザリックには思い出がある。仲間たちの子供たちだっている。十分に耐えられる。

 

 もう、モモンガは独りぼっちではないのだ。

 

 それに、自らは寿命の無いアンデッド。永遠の時を以てしても絶対に再会することはできないのだろうか? 否だ。世界の可能性はそんなに小さい訳がない。

 

「……左様でございますか。それは困りましたね……アルベド殿はナザリックで一、二位を争う智者だとか……下手な回答では矛盾が生じて、違和感から何かを感づかれる場合があります」

 

「……やはり、無理か? 例えば、リアルの事に関りが無い点だけで話を誤魔化すとかはどうだ?」

 

「それも考えましたが、この後すぐにアルベド殿の疑問にお答えになられるとのこと?」

 

「……そうだ」

 

「では、モモンガ様と共に辻褄の合わせ方を考える、時間が足りないと思われます」

 

「……そうか」

 

 確かにアルベドからされる質問への対策。生半可な物では疑惑を残すどころか、より深くアルベドに疑惑を植え付ける結果になる。

 

 疑問を払拭するために疑惑を作るのでは意味がない。

 

「父上。アルベド殿の質問に答える時期を先延ばしにしては如何でしょう?」

 

「……なに? だがそれは、アルベドの疑問を高めるだけではないか?」

 

「いえ、アルベド殿は父上を愛しているとのこと。真摯にお願いすれば、問題はないかと……それに見ようによっては、モモンガ様の秘密をただ一人握っている立場になります。短期間でしたら問題はないかと」

 

 ……やはりそこを利用せざるを得ないのか。仕方がないのだろう。納得するほかない。

 

「それにナザリックが現状でどう変化しているかの情報収集も必要です。ある程度情報が集まってからの方が私としても対応策を練りやすくなります……できれば、アルベド殿の観察もしたいですし」

 

「……すまんが、頼む。ただ、アルベドには一言だけでもいいから謝りたい。問題はないか?」

 

「問題はないかと思われます。後は……そうですな、父上がこの世界でなさりたい方針をお教えください」

 

「方針か……そうだな。アインズ・ウール・ゴウンの名を全世界に広めること。ナザリックを守り抜くこと……」

 

 本来ならこの二つだけでいい。だが、断言しきれない。やはり引きずられているのだろう。

 

「……前の二つに抵触しない範囲で、カルネ村を見守ること、だな。あと付け加えるなら冒険もしてみたいな」

 

「承りました! このパンドラズ・アクターにお任せください!」

 

 これで二人の会話は終了した。モモンガはパンドラズ・アクターに自身の教育方針及び、モモンガ自身の思いを元に、実際にどう行動するかを一任したのだ。

 

 

★ ★ ★ おまけ

 

 モモンガはこの時知るよしもなかった。パンドラズ・アクターが善意から……本当にただの善意から、モモンガを永遠力暴風雪(エターナルフォースブリザード)する計画を立案していたことを。

 

「父上! 必ずや不肖パンドラズ・アクター、お望みに従いモモンガ様から頂いた設定を、自らの手で昇華させて見せましょう! そう、定められた偽りの演技ではなく、モモンガ様が本心からかっこいいと思えるように!」

 

 モモンガは早まった。一言も止めろとは言っていないせいで、パンドラズ・アクターは単に定められた演技では満足いかないから、止めさせられたと理解してしまったのだ。

 

 平穏をモモンガは得る事ができる。パンドラズ・アクター自身が満足できる代物にならない限り、モモンガは直に見ないで済むのだから。

 

 だから、モモンガの未来はとても明るい。誰が何と言おうとも、明るいのだ。ただ単に勝手に黒歴史を昇華されて公開されるだけなのだから。

 

 独りぼっちで支配者の演技をして、知らない内に取り返しがつかずに世界征服しなければならない事に比べれば、ましなのだから。

 

 

 

 

 

 例え、パンドラズ・アクターの手によって、アルベドにモモンガがカッコイイと思っていたポーズなどが暴露されて、アルベドがパンドラズ・アクターの動きやドイツ語を真似してモモンガに披露してこようとも……

 

 それは遥か未来の話なのだから。

 




誤字報告、感想いつもありがとうございます!

おまけはおそらく本編には関係ありません(*´ω`*)

クリスマスとクリスマスイブ、どっちが最終話に相応しいですか?

  • クリスマス
  • クリスマスイブ

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