魔装機神 THE WIND OF STRATOS 作:バイル77
数時間後 テスラ・ライヒ研究所 極東支部 正門前
テスラ・ライヒ研究所――
新西暦世界のテスラ・ライヒ研究所と同じく広大な敷地の中で様々な最先端科学の研究が昼夜行われている。
この世界では主に【IS】を中心として機体開発と共に、ISから得られる物体の量子化、【
PICと機能的に類似している【
だが【粒子ビーム技術】はテスラ研の研究成果として発表され、すでに実用化もされていた。
「おっちゃん、お疲れー」
警備員の初老の男性の前を、正樹は笑みを浮かべて通り過ぎる。
企業であると共に研究機関であり、厳重な警備が敷かれている施設に、正樹は顔パスで入ることができる立場であった。
その理由は――
「ん、正樹か、1週間ぶりか? その様子だと今日もテストか?」
「ああ、ウェン……じゃなかった、簪は?」
「簪ちゃんなら第二整備区画にいるはずだが……ん、間違いないな」
警備員の男性が入場記録を確認して頷く。
「第二区画だな、サンキュー、おっちゃん!」
男性に礼を言いつつ、正樹は正門を駆け足で通り抜けていく。
その様子に男性は苦笑しながらも微笑ましく見つめていた。
―――――――――――――――――――
数分後 テスラ・ライヒ研究所 極東支部 第二整備区画
いくつもの区画に分けられた整備区画の中でも最も広く、設備が充実しているのが第二整備区画である。
IS用のメンテナンスベッドの上に白銀の装甲を煌めかせる機体が鎮座していた。
その機体から伸びているコードが集束している端末の前に正樹が探している人物がいた。
「簪、待たせてわりぃ」
「大丈夫だよ、お疲れ様、正樹」
長い水色の長髪、ISに搭乗する際に機体との連携率を高める作用のあるISスーツ、その上から白衣を身につけた少女が微笑みながら正樹に返す。
彼女の名は【更識簪】
正樹と同い年の15才でありながら、テスラ・ライヒ研究所の開発主任の席にいる人物だ。
しかもテスラ研所属のIS搭乗者であり、IS日本代表候補生とIS搭乗者としても上位に位置する人間である。
また彼女にはもう1つ名前があり、正樹とは前世からの仲である。
その名前は【ウェンディ・ラスム・イクナート】
地底世界【ラ・ギアス】はもちろんのこと、新西暦世界で名を轟かせた【風の魔装機神 サイバスター】の開発者である。
「またその格好かよ、冷えるぜ?」
「ん、大丈夫だよ、保温性はあるし空調も効いてるから」
「そうじゃなくてだなぁ……」
苦笑して正樹は返す。
マサキとウェンディは互いに大事な存在である。
前世での苛烈な三角関係を超えて結ばれたのだ、互いの信頼はとても強固であり、姿が変わった今でも変わらない。
余談であるが、以前の彼女は正樹よりも【10歳】以上【年上】であった。
それがコンプレックスになりかけていたのだが、今は【同い年】であるためか口調もかなり変わっている。
全身のラインがはっきりと出る水着に近いISスーツをテスラ研にいるときは、常に身につけている彼女から視線を外す。
ふと彼女の右肩には白猫が乗っかっていることに気づいた。
『遅いニャ、マサキ』
クロと対になる彼の使い魔、白猫のシロである。
「うるせぇ、これでも急いだほうだっての」
『鞄のニャかでかき回されたわよ、マサキ……』
よろよろと正樹の鞄からクロが這い出てくる。
その様子を微笑みながら見ていた簪が告げる。
「正樹、【サイバスター】は残すところ最終調整だけだよ」
「……みたいだな」
自然と笑みが浮かぶ。
2人の前に鎮座している白銀の機体の名は【サイバスター】
風の高位精霊【サイフィス】と契約を結んだ、4体の【魔装機神】の中でも最強と言われる【風】の魔装機神だ。
正樹が【マサキ・アンドー】として幾多の戦いを共に駆け抜けた機体をモチーフに、現行技術の粋と【魔術】も組み込まれて製作された事実上、彼の為の機体だ。
簪のみでは【サイフィス】との契約を行うことは不可能だが、彼女には心強い【姉】がいる。
2人のおかげで、IS【サイバスター】はオリジナルと同じように、風の高位精霊との契約に成功していた。
流石にオリジナルの様に【フルカネルリ式永久機関】をこの世界で搭載することは不可能なため、ISのエネルギー機関とは別個に【大型のプラーナコンバータ】を増設している。
しかし大型のプラーナコンバータを増設したためか、サイバスターの拡張領域はゼロに等しい状態だ。
だがこれによりまさに【疾風】と呼べるだけの機動力を持つ機体となっている。
――男性である正樹の為にISの専用機が開発される。
通常ならばあり得ないことだ。
しかし、彼はその例外の存在だ。
とある間抜けなISとの【接触事故】がきっかけで、彼に【IS適正】があることが確認された。
これを簪を含めたテスラ研上層部は、今世紀最大の発見とも言える事柄の秘匿を決定。
【簪の姉】であり同じく前世から深い間柄の少女も全力で助力、外部に漏れだすのを防いだのだ。
そしてそれとほぼ同時期、【ISコア】には特殊な【精神感応金属】が使用されている事を簪は解明していた。
その精神感応金属はラ・ギアスでのみ産出される【オリハルコニウム】と組成がほぼ一致していたのだ。
正樹は前世からとても高い【生体エネルギー】、【プラーナ】をその身に秘めている。
その非常に高いプラーナがISコアと感応することで、彼はISを自由に動かすことができるのだ。
最も通常の機体では彼のプラーナに耐えることができないため、こうして【サイバスター】が開発される事につながったのだが。
しかし簪や彼女の姉をして、女性しか動かせないという【根本的な欠点】はいまだに解明できていないのが現状ではあるが。
「ISコアの【オリハルコニウム】を通じて【サイフィス】と交信して」
「分かったぜ」
着ていた学生服の上着を脱いでから鎮座しているサイバスターに触れる。
すると優しい【風】が頬を撫で、頭の中に声が響いた。
――マサキ
1度は巨人族の怨念と共に消え、銀河の危機に復活した【風の精霊王】の声。
この世界は、ラ・ギアスよりも劣るが、新西暦世界よりも【精霊】が多い。
ラ・ギアスほどではないが精霊信仰も残っている。
そのため、精霊との簡単な交感ならば正樹程の【プラーナ】とサポートがあれば可能である。
優しい女性の様な声、その声が聞こえると同時に鎮座していた【サイバスター】が光に包まれる。
ISの機能の1つである【量子化】
そして再び形を作っていく。
――閉じていた瞳を開ける。
ISとしては表面装甲は薄い部類に入るが、背部のウィングユニットから溢れる緑の粒子は穏やかさと確かな力強さを感じさせる。
全身装甲ではなく頭部など一部生身が露出しているが、鎧の様に身に纏ったその姿からは神聖さを感じさせた。
各部装甲共に問題なく稼働し、簪が手元で確認するモニターにはエラーなど見られなかった。
『――ああ、行こうぜ、サイフィス』
こうして、IS【サイバスター】はその翼を再び広げることに成功したのであった。
―――――――――――――――――――
IS サイバスターの初起動成功とほぼ同時刻――
テスラ・ライヒ研究所極東支部の上空3000mの空間が突如として歪み始める。
その歪みが臨界まで達すると、数m程の【漆黒の孔】が広がった。
その中からゆっくり【蒼色】の装甲を持つ【機械】が現れた。
現れたのは、この世界での超兵器の地位を確保した【IS】であった。
『どうやら、サイバスターの起動は成功したようですね』
現れた【蒼いIS】、サイバスターに比べると重厚な装甲を身に纏った【紫髪の青年】が口を開く。
すると通信を行っていたのか、空中投影ディスプレイが展開される。
表示には【sound only】と記されているが、女性の声だ。
『しーちゃん、ゴーレムの準備は大丈夫だよー』
声色は軽薄だが、その声には喜の感情が多分に含まれていた。
その回答を聞いた青年が心底嫌そうな表情をその端整な顔に浮かべる。
『束博士、その呼び方はやめて下さいと何度も言っているはずですが……?』
『ええー、いいじゃーん、しーちゃん、一応束さんよりも年下なんだから気にしない、気にしないっ!』
束と名乗る女性の声が通信越しでも、大いに笑みを浮かべているのが想像できた青年は一度話を切り替える。
『……それではゴーレムの起動はお任せしますね』
合点と束が通信を返すと通信が切れる。
『ククク……それでは見せてもらいましょうか、マサキ、この世界で新たに生まれた【サイバスター】の力を』
蒼いISの両腕に装備されている宝玉の様な箇所が煌めくと、歪んでいた空間がさらに捻じれ、ついには先程青年が現れた際の漆黒の孔が空間に形成される。
続いて、その孔から【全身装甲のIS】が3体続いて現出し、青年の前で浮遊している。
『3体もいれば十分でしょう……死人が出ない程度に暴れてきなさい』
蒼いISに搭乗している【青年】の言葉に従い全身装甲のIS【ゴーレムⅠ】がテスラ研へと降下していく。
『フフフ……さて、私も一旦戻りましょうか』
ゴーレムの降下を確認した青年が笑みを浮かべた後、再度機体の宝玉が煌めく。
そして漆黒の孔が現れたのを確認して、機体を孔の中に移す。
機体が孔の中に消えると、孔自体もまるで最初からなかったかのように消え、空間の歪みも無くなっていた。
―――――――――――――――――――
サイバスターの起動に成功したと同時に、突如として、施設内に警報が響いた。
『っ!? 何が起こったっ!?』
正樹が叫ぶと同時に、簪が手元のコンソールを操作して施設外部カメラの映像を映し出す。
そこには3体の【全身装甲のIS】がテスラ研の施設を襲撃している映像が映し出されていた。
しかもISに装備されている武装は【ビーム兵器】、テスラ研以外では開発が非常に難しいとされている技術が搭載されていた。
「ビーム兵器っ!? そんな、ここ以外であれを実用化できるなんて……っ!」
簪の驚きの声が漏れると同時に、正樹は行動に移っていた。
『ディスカッターッ!』
正樹の叫びと共に実体剣【ディスカッター】が展開される。
サイバスターの近接主武装であり、正樹にとっても最も信頼している武装である。
『簪、皆の避難をっ!』
「分かった! 正樹、気を付けてねっ!」
『ああっ!』
簪にサムズアップして答える。
サイバスターは整備室の壁をその圧倒的な加速力と、ディスカッターで突き破り、屋外に向かう。
―――――――――――――――――――
警報は依然として鳴り止まず、パニックになった職員や少しでもパニックを抑えようとしている研究員などが屋外に溢れていた。
屋外に凄まじいスピードで飛び出したサイバスターは、テスラ研を襲っている【敵】の存在を確認した。
3体の【全身装甲のIS】、先ほど外部カメラで確認したISが掌から放たれる【ビーム】によって施設を破壊していく。
外に逃げた職員には手を出すことはなく、施設の破壊だけを目的にしているように見える。
『どんな理由がある知らねぇが、行くぜ、サイバスターっ!』
ISの加速技術である【瞬時加速】ではないただの加速、しかし影すら残さない速度でゴーレムに接近し、そのままゴーレムに切りかかる。
『ディスカッター、霞切りっ!』
――疾風一閃
ディスカッターで斬りつけ、そのまま斬り抜ける。
ただ単純な斬撃であるが、その速度が圧倒的過ぎた。
加えて正樹が【ラ・ギアス】で広く流布された剣術の流派【神祇無窮流】を真伝まで修めているからこそできる一撃。
ゴーレムの胸部装甲にはディスカッターによる斬撃の後がくっきりと残っていた。
『安心しろよ、手加減はしてあるぜ?』
ディスカッターを構えなおした正樹が告げる。
相手はIS、それには当然【搭乗者】の存在が不可欠だからだ。
しかし、すぐにそれは否定される。
空中に展開された投影ディスプレイに簪からの通信が繋がったからだ。
『正樹、あの機体、ISだけど人間が乗ってないっ!』
『なっ!? ってことは無人機かよっ!』
『うんっ、一応生命探知もしてみたけど間違いないっ!』
彼女の言葉にすぐさま思考を切り替える。
この切り替えの速さは彼が歴戦の戦士であるからだろう。
【DC戦争】や【修羅の乱】、【封印戦争】や【カドゥム・ハーカームとの決戦】、息つく間もない戦乱を駆け抜けたその経験の中で【無人機】など腐るほど相手にしたからだ。
『なら、今度は3機纏めてだっ! プラーナ最大、魔力最大で行くぜっ!』
ISは人間が乗るものと言う先入観があった、故に先ほどの一太刀は手加減したモノであった。
無人機ならば遠慮は要らない。
サイバスターのウィングに緑の稲妻が走り、その稲妻がディスカッターに流れていく。
サイバスターの搭載する【大量広域先制攻撃兵器】
新西暦世界でもその名を轟かせた【Mass Amplitude Preemptive-strike Weapon】――【MAPW】の代表格。
『いっけぇえ! サイフラッシュっ!』
ディスカッターが緑の稲妻と閃光を拡散させるかのように振り払われる。
剣閃と同時に閃光が辺りを包み込み、ゴーレムたちもその圧倒的な光の波に飲み込まれてしまった。
―――――――――――――――――――
サイバスターのサイフラッシュにより、謎の無人機ISは殲滅された。
しかし、無人機によってテスラ研極東支部には少なくない被害が出ていた。
その被害状況を確認していると、驚くべきニュースが飛び込んできた。
――内容は、【初の男性搭乗者】が現れたというニュースであった。
熟練度条件:無人機3機を2ターン自軍フェイズまでに殲滅する。
ここの正樹はウェンディルート。
サイバスターはカッコイイ、ホント色褪せない。
一体何河博士なんだ…!
次回予告
「波乱の学園」