魔装機神 THE WIND OF STRATOS 作:バイル77
謎の無人機のテスラ研襲撃と前後し、とあるニュースが世界を駆け巡った。
そのニュースとは、IS史上初の男性搭乗者が日本で発見されたというニュースであった。
搭乗者の名前は【織斑一夏】
かの初代ブリュンヒルデで世界最強、【織斑千冬】の実の弟との事だ。
――彼の身柄はその貴重性ゆえにIS学園で保護される事となっていた。
―――――――――――――――――――
テスラ・ライヒ研究所 極東支部 第1会議室
テスラ研の会議室の1つ、その中で正樹は襲撃の混乱収束後から続けて正座をさせられていた。
彼の前には赤紫のワンピースに薄手の白いカーディガンの私服に着替えた簪が立っていた。
表情は優しい笑み――だが、正樹には冷や汗をかかせる圧力があった。
「正樹、なんで正座させられてるか、分かるよね?」
「いっ、いででっ、ちょっ、簪、勘弁……」
完全に痺れている両足を彼女につんつんと突っつかれながら、正樹は情けない声を上げていた。
何故、彼が正座させられているのか、それは会議室のモニターに映されている映像が物語っている。
その映像は、無人機3機を飲み込んだサイバスターのMAPW、【サイフラッシュ】の映像。
「自分のプラーナが強いことくらい分かってるよね? 魔力とプラーナを最大にしてまだ調整が済んでないサイフラッシュを使ったら、結果見えてるよね?」
IS【サイバスター】の武装である【サイフラッシュ】は、オリジナルと同じく【悪意】を読み取り、味方には全くの被害を出さずに敵にのみ損害を与えることが可能なMAPWである。
だがこの便利すぎる特性は、機構の繊細さと複雑さに直結している。
今回、サイバスターはまだ【初起動】であり武装の調整などは全て後回しにされていた。
未調整の武装を、プラーナと魔力を最大にして放った――つまり【壊れた】のである。
彼の強いプラーナのせいでサイフラッシュ放射機構が完全にイカれていた。
流石にダメージレベルが一定以上のラインを超えたわけではないので、ISの自己修復機能で修復可能であるがいっそ取り替えたほうが早い。
しかし、初回起動を優先したためパーツはまだ組み立て前の状態であるのが問題であった。
サイフラッシュ放射機構は繊細な構造、そして【魔術】を組み込む必要がありかかる工数が全パーツの中でも飛びぬけて高い。
現在、急ピッチで組み立て作業が進行しているが、襲撃の混乱もありサイフラッシュの完全な修復にはそれなりの日数がかかると見ていいと判断されていた。
「相変わらず無茶ばっかり」
簪が手に持ったペンダントをそっと撫でる。
現在サイバスターは待機形態である【オリハルコニウムのペンダント】となって簪の手の中にある。
その形状はかつて、ラ・ギアスでマサキが彼女に送ったペンダントと同じ形状。
――それを見た簪の表情はとても嬉しそうであったと、シロが報告していた。
「はっ、反省してます……!」
『ニャさけないわね、マサキ』
「うっ、うるせぇ……っ!」
洒落にならないレベルで足が痺れているため、正樹もそろそろ限界であった。
簪もそろそろ許してあげようかと口を開いたときであった――
「ああ、ここにいたわね、良かった」
女性の声が響き、正樹達の視線が声の下に集まる。
簪によく似た顔、その美少女がやれやれと言った表情で2人を見ていた。
髪型は彼女と違い短く、肩まで伸びた水色の髪。
毛先の方は【紅】く、まるでグラデーションされているかに見えるが地毛である。
白を基調とした【IS学園の制服】を身に着けており、胸元で腕を組んでいるため彼女の抜群のプロポーションが強調されていた。
「あ、姉さん、そっちは終わったの?」
「ええ、何とかね、まあ、抑えるのは無理だったわ……あの襲撃、今までの偽装工作が全部無駄になったわ」
カツカツとヒールの音を響かせ簪の姉、【更識楯無】――本名【更識刀奈】が正樹たちに歩み寄る。
彼女も簪と同じく、正樹、いや【マサキ・アンドー】と深い縁で結ばれたもう1つの名前を持っている。
それは――
『テューディ、久しぶりニャ』
シロが正樹の左肩の上から刀奈に声をかける。
だがジロッと横目で刀奈に睨まれる。
「シロ、今の私は【刀奈】と、何度言わせるのかしら?」
『ごっ、ごめんニャ……』
視線から感じる圧力にシロが謝りつつも視線を外す。
彼女のもう1つの名前、それは【テューディ・ラスム・イクナート】
ウェンディ・ラスム・イクナートの双子の姉であり、出産を迎える前、母体内にいた時点で肉体的に死を迎えた存在であった。
しかし、魂はウェンディの中で思念という形で生き続けており、記憶や感情も共有していた。
妹の成長と共に、彼女の心と精神も発達し、ついにはウェンディの身体を乗っ取るまでに至ったこともあった。
だが紆余曲折を経て、彼女はウェンディと和解し、共に歩むこととなった。
この世界で生まれ変わった2人は以前の様に身体を共有しているわけではない。
しかし、彼女達2人の間には確かな信頼が構築されている。
加えて、彼女とは共有しているものも存在している。
それは――
「刀奈、シロに悪気はねぇんだ、許してやってくれよ」
「……まあ、貴方がそういうなら許すわ、正樹」
見かねた正樹がシロのフォローに入る。
彼の言葉に刀奈は少し戸惑いつつも、了承の答えを返す。
――簪から見て、その頬に赤みが差していたのは気のせいではないだろう。
(姉さんも相変わらず……本当は正樹のこと心配で仕方なかったはずなのに……)
「……何か言ったかしら?」
「いえっ、何にも」
ニコッと笑った刀奈の笑顔に薄ら寒い気配を感じた簪が苦笑しつつ返す。
「さて、正樹、簪ちゃんからの報告は聞いたわよね?」
あの【テューディ】がちゃん付けを使っているのには当初、正樹も大層驚いたが今はすでに慣れている。
彼女曰く、親愛の意味を率直に表すことができて効率がいいとの事だ。
彼女がそれを気に入っている為深く言うこともしなかったが。
「ずっと正座させられてたが聞いたよ……俺のほかにも男性搭乗者が現れたんだろ?」
正樹の言葉に刀奈が頷く。
「テスラ研を襲った謎の襲撃と撃退……貴方のおかげで救われた命もあるのだけれど、そのせいで貴方の存在が漏れたわ」
刀奈の言葉に正樹の表情は曇る。
「出資者として、【更識家】として、そして【個人】として色々と匿えてた訳だけど……正樹、これから貴方にはもう1人と同じく【IS学園】に入学してもらうことになるわ」
「ってことは卒業式には……」
「出られないわね、残念ながら」
刀奈の返答にがっくりと正樹は肩を落とす。
正樹がサイバスターを駆って無人機を撃墜したことがすでに外部に漏れていた。
正樹と言う存在はテスラ研としても独占したかったが、その為に日本の【暗部】と深い関係になっていると知れ渡ってしまえば企業としてのイメージの低下が発生する。
更識家としても出資者として、また身内の所属企業であるテスラ研のイメージを低下させるわけには行かない。
それを防ぐために更識家とテスラ研上層部はあるシナリオに沿うことにした。
シナリオとしては以下のとおりである。
【正樹はテスラ研を見学中に襲撃に巻き込まれ、騒動の際に【偶然】新型機であるサイバスターに触れ、何とか襲撃犯を鎮圧した】
【正樹は本人了承の元、サイバスターの専用搭乗者としてテスラ研が保護】
【サイバスターを通じて得られたデータは政府、そして国際IS委員会に提出し共有する】
幸い外部に漏れたのはサイバスターの戦闘映像のみであったため、このシナリオもある程度の説得力を持っており国際IS委員会も深い追求はしてきていない。
つまり正樹は本人の知らぬ間にテスラ研所属のIS搭乗者となっていたのだ。
ちなみにサイバスターに使用されている魔術については簪と刀奈がサポート予定である。
もっともあくまで渡すのは機体の稼動データであるためこの部分に対する心配はあまりないのだが。
また、正樹のIS操縦技術については問題ない。
元々思考や感覚で動かす【魔装機】とISの操縦方法は似通っているからだ。
そして何よりも刀奈たちに秘匿されつつも、テスラ研でデータ収集に付き合っていた彼にはそれ相応の技術が身についているのだ。
閑話休題
「……流石にテスラ研の皆や、簪達にこれ以上迷惑はかけられねえしな、仕方ねえな」
「ご両親にはすでに話が通ってるわ……ホントに腹立たしい、今までの苦労が完全に水の泡よ」
ギリッと刀奈の表情が歪む。
「まあ、何とかなるだろ。そんなに怒るなって刀奈、綺麗な顔が台無しだぜ?」
ウィンクしつつ正樹が刀奈に告げる。
すると彼女の顔が一瞬で真っ赤に染まった。
「きっ、綺麗、正樹が、私を綺麗って……フフッ……!!」
顔をそらして刀奈が顔を押さえて笑みを浮かべだす。
『まーた始まったニャ……』
「姉さん、ああなると長いからなぁ……」
「それにしてもIS学園かぁ……簪が入学する学園だったよな、確か?」
「うん、姉さんもいるからサポートは任せて」
グッと張り切るポーズを見せた簪に正樹が微笑む。
しかし次の刀奈の言葉が衝撃を走らせた。
「あ、言い忘れてたわ、残念だけど……2人は別のクラスよ?」
「「え?」」
正樹と簪の情けない声が重なった。
―――――――――――――――――――
1週間後 IS学園 1年1組教室
【IS学園】とは文字通りIS操縦者の為の教育機関のことである。
正確にはISの情報開示と共有、研究のための超国家機関設立、軍事利用の禁止などを定めたアラスカ条約に基づき、日本に設置された特殊国立高等学校である。
また操縦者に限らずIS専門のメカニックや開発者、研究者などISに関連する人材は、ほぼこの学園で育成されていると言っても過言ではない。
学園の土地は本土から離れた人工の離島にあり、あらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されないという規約が存在している。
「マジかよ……」
クラスの天井を仰ぎつつ、正樹が心中を吐露する。
本来卒業してから通うはずであった藍越学園の入学は取り消しになっている。
移籍タイミングの影響で入学式に出れなかった、すでに授業開始日となりこうして教室にいるのだ。
先ほどから好奇の視線が自身と、隣で同じように天井を仰いでいる【織斑一夏】に注がれていた。
織斑一夏という男性搭乗者が発見された後、全国で一斉に適正者検査が実施された。
正樹はその際に一夏に続いて発見された【第2の男性搭乗者】と言う肩書きになっていた。
加えて、正樹は新西暦世界でも黙っていればイケメンといわれるくらいには端正な部類の人間だ。
鋼龍戦隊やラ・ギアスには不思議と容姿の整った人間が多く集まっていた。
彼の容姿はこの世界に生まれても変化がない。
また、一夏も同レベルの容姿である。
そして周りにいる女子たちは花の10代――つまり必然的に目立つのだ。
『凄い視線の数ね、マサキ』
『流石のマサキもここまで女の子に囲まれたらきついニャ?』
(流石の俺って何なんだよ、シロ、クロ……まあ、確かにキツいけど)
机の上に乗っかっている2体の使い魔の言葉に心中で返す。
現在シロとクロには【隠行の術】と言う魔術を応用し、正樹や簪達、テスラ研一部の前世を知っている人間以外からは認識できないようになっている。
ふと、女子達との視線とは別の視線が自分に向けられていることに気づく。
隣の席にいる一夏からの視線だ。
その視線は興味と話しかけたいオーラに溢れていた。
「……よぉ、どした?」
流石に男2人だけの空間は居心地が悪い、よって少しでも負担を減らすため同じ境遇である一夏と話すことにしたのだ。
「ん、ああ、えっと安藤……だっけ?」
「ん、正樹でいいぜ、俺も一夏って呼んでいいか?」
「ああ、全然大丈夫だぜ、正樹……良かった、もう1人男がいて」
心底安堵したような表情で一夏が言う。
それには正樹も心から同調する。
「俺も同じだぜ、ホントまさかこんなことになるなんてな」
「ホントにな……正樹、これからよろしくな」
「ああ、何か困ったことがあったら力貸すぜ、一夏」
この学園唯一の男2人、その2人が自然と手を差し伸べて握手をする。
それに悶えていた生徒が何人かいたが、何故悶えているかは正樹には分からなかった。
(一夏はイイ奴そうだな)
握手した一夏の雰囲気はさわやかさに満ちていた。
気持ちのいい奴というのが正樹の一夏に対する第一印象であった。
――ふと時計を見ると、HRの時間が迫っていた。
(さてと、何も起こらないでくれよ……頼むから)
目を伏せつつ、正樹が考える。
しかし、正樹の望みは適うことはなかった。
――何故ならば、この後起こった【波乱】に自ら首を突っ込むことになってしまったからだ。
サイフラッシュが壊れてるのはお約束。
次回予告
「疾風VS蒼き雫」