魔装機神 THE WIND OF STRATOS 作:バイル77
自己紹介のHRが終了した後、すぐに1時限目の授業が開始された。
その際1年1組の担任であり現在の世界で最も有名な人物、初代ブリュンヒルデ【織斑千冬】からとある爆弾発言が投下されていた。
「そうだ、忘れていたが、もうすぐクラス代表戦がある。 だれか立候補する者はいるか?」
彼女のその言葉にそっと手を挙げる金髪ロールの美少女。
1年1組唯一の代表候補生、英国代表候補生の【セシリア・オルコット】であった。
「ん、立候補はオルコット……他にはいないな?」
千冬が教室を見回すが、セシリア以外に手を挙げている生徒はいなかった。
「それでは推薦はあるか?」
千冬の言葉に一斉にクラスメイト達が手を挙げる。
「織斑君がいいと思います!」
「同じく織斑君で!」
「えっ、俺!?」
選ばれることはないだろうと思っていたのか、素っ頓狂な声を一夏が発する。
「私は安藤君で!」
「私も安藤君で! サイバスターってISも見てみたいですし……うっ、星の王子様、少女の見た流星……頭が……!」
「大丈夫? とと、私も安藤君で!」
「はぁっ!?」
クラス代表に興味などなかったため流し聞いていた正樹も驚きの声を上げた。
他者からは見えないが彼の両肩に乗っていたシロとクロは驚いて飛び降りていた。
(冗談じゃねえぜ、なんでまたんなめんどくさそうなのを……!)
辞退しようとした正樹であったが、彼の言葉は掻き消える事となる。
「納得いきませんわっ!」
バンッと机を叩きつつ、セシリアが自席から立ち上がったからだ。
その表情には怒りの感情が溢れていた。
「物珍しいからという理由だけで彼等を代表にしなければならないのですか!?」
「自薦他薦は問わないといったはずだ、それではオルコットも含め安藤、織斑の3人か……そうだな、3人で戦って勝った者がクラス代表でどうだ?」
千冬のその提案にセシリアは笑みを浮かべる。
その笑みは明らかに男子2名を軽く見ているものだ。
「その様な勝負の結果など見えておりますわ、私の実力ならば勝利という結果に揺らぎありませんもの! 極東の猿など相手になりませんわ!」
「よく言うぜ、イギリスだって大した国じゃないくせにさ。料理なんかじゃ英国料理は世界一まずい料理何年1位だよ」
声高々に勝利を確信し暴言を吐いたセシリアに、一夏が食って掛かる。
「あっ、あなたは私の祖国を侮辱しますのっ!?」
一夏の挑発に今度はセシリアが食って掛かった。
「先に馬鹿にしたのはそっちだろ! 何言ってんだよっ!?」
「許しません……決闘ですわっ!!」
再度バンッとセシリアが机を叩く。
怒り心頭の表情、だが相対する一夏も同じく怒りの表情。
「そのくらいにしとけよ2人とも」
一夏とセシリアの2人の間に正樹が割り込む。
当然2人の感情の矛先は割り込んだ正樹に向かった。
「何でだよ正樹、悔しくないのかっ!?」
「別に? けど流石に立場ってもんがあるだろオルコットには」
「立場?」
一夏が怪訝な表情で正樹に尋ねる。
それと同時にハッと何かに気づいたようにセシリアの表情が変わった。
「代表候補生なんて立場だ、流石にこれ以上はまずいだろ?」
苦笑しつつも納得してくれと正樹が暗に伝えている。
本来、直情的な正樹がこうして立場を気にするようになったのは彼がラ・ギアスでの【魔装機神操者】であったことが大きい。
魔装機神操者には、ラ・ギアスの為に自分の意志で行動するという、国家に属する機動兵器の搭乗者としては破格の権利が与えられていた。
だがそれには相応の【責任】が付きまとうものであった。
自分と共に笑ってくれた、傍に付き添ってくれた立場を超えた友人であったフェイルロード・グラン・ビルセイアがラ・ギアス統一を目指して暴走した際、マサキはその手で彼を殺めている。
主に紛争の調停・抑止を主任務としていた【アンティラス隊】に所属していたことも大きい。
故に責任の重さについては重々承知しているのだ。
正樹の言葉を理解できないセシリアではない。
だがそれを認める事などそうそうできはしない。
そのため言葉が漏れた。
「……ふん、所詮は貴方も情けない男の1人なのですね、サイバスターとかいうISもたかが知れますわ」
「……なんだと?」
その捨て台詞だけは看過できるものではなかった。
【サイバスター】は正樹にとっては相棒であり誇りであり、【愛する大切な人達】から託されたものである。
それを侮辱されたら黙っているわけにはいかなかった。
「オルコット、その言葉だけは見過ごせねぇ……決闘だったな、いいぜ受けてやるよ」
「あら、やる気になったんですの? なら叩きのめして差し上げますわ」
「上等だ、痛い目見て吠え面かくなよ」
正樹とセシリアの視線がぶつかり合って火花を散らす。
「……あれ、俺忘れられてない?」
火花を散らす正樹とセシリアを見て一夏が隣にいた少女に尋ねる。
丈が余りまくった女子用制服に、眠そうな表情をした少女。
見るからにゆるく、いうならばのほほんとした雰囲気を漂わせていた。
「うーん、どうだろうねー、それにしてもマッキーって結構短気なんだねー……かんちゃんやたっちゃん苦労してそー」
その少女が呟いた瞬間、バンッと手を叩く音が響きクラスメイトの視線は教壇に集まる。
「勝負ということで話はまとまったな? なら1週間後、第2アリーナを使用してクラス代表を決めるぞ。さて、それでは1時限目を始める」
千冬の声と共に授業が始まり、仕方なく正樹は席に着いた。
―――――――――――――――――――――
同日 放課後 学生寮
『初日から問題起こすニャンて……刀奈が知ったらなんていうかしらね、マサキ?』
「だけどよ、あの言葉だけは見過ごせなかったんだ、仕方ねえだろ」
「そんな事があったんだ……クラス別だから知らなかった」
正樹の部屋、正確には正樹と簪の部屋で2人は今日の出来事を振り返っていた。
ファミリアであるクロとシロは部屋のソファで丸くなっている。
『簪は4組ニャンだっけ?』
「うん……正樹と一緒が良かったな」
少しだけ寂しそうに呟いた言葉を正樹は聞き逃さなかった。
そして少し照れたように頬をかいて言う。
「まあ、俺も簪と一緒だったら楽だったけどさ……学校なんだし、しょうがないだろ? それに部屋が同じなんだからいいじゃねえか」
「……うん、そこは姉さんに感謝だね」
励ましているのが分かったのか彼女は笑みを浮かべる。
正樹の言葉の通り、簪と彼の部屋は同じである。
男性搭乗者として一夏と正樹は急な発見であった為、学生寮の部屋を確保できなかったため仕方なく男女共同の相部屋となっているのだ。
ただ正樹と簪の場合は、簪の姉である刀奈の手引きによって同じ部屋になっているのだが。
「英国の代表候補生か……確か国家代表にほぼ内定してるって聞いたよ」
「へぇー……そういえば一夏も専用機が用意されるらしいな、それに訓練をつけるのはあの篠ノ之束の妹の箒ってやつらしいし、侮れねぇな」
「手ごわそうだね、でもサイバスターにとってもいいデビュー戦になると思う、それに正樹なら絶対勝てるよ、私信じてるから」
「おう、サンキュな簪」
「うん」
そう言って簪は正樹の隣に移動する。
彼女のその行動に内心ドキリとしながらそっと肩に手を回す。
正樹に身体を預け、簪は彼の鼓動を感じる為に目を閉じる。
その時であった。
「簪ちゃん、正樹の独り占めは駄目じゃない?」
その声にビクンッと2人が飛び上がる。
声がした方向は部屋の扉、そこには簪の姉、更識刀奈がいた。
「ねっ、姉さんっ?!」
「いっ、いつの間にいたんだよっ!?」
「ついさっきからよ、丁度簪ちゃんが正樹に体を預けたくらい」
ふふっと笑いながら正樹の左手を取って身体を寄せる。
丁度右側にいる簪と対象になる形だ。
「私だって正樹と一緒にいたいのよ?」
「いや、まあ、別に構わないけどよぉ……」
「……!」
正樹が言うとぎゅっと右手に感じる力が強くなる。
それに答える為に簪と刀奈、2人を抱きしめる。
「2人とも落ち着けって、な?」
「まっ、正樹……っ!」
「顔近っ……貴方がそういうなら……そうするわ」
2人が顔を朱色に染めて、手に感じる力が弱まったことに内心安堵していた。
正樹は簪と刀奈、2人とも平等に愛している。
これは前世の関係が複雑であったからである。
ウェンディの意識の中にテューディがいて、マサキは2人に惹かれていたのだ。
しかし以前のようにウェンディ1人で2人と付き合えるという訳にはいかない。
現在は国家代表の仕事のせいで忙しい刀奈より、簪と一緒にいる機会の方が多い。
なので刀奈は正樹には積極的なスキンシップを行っている。
それに対抗して簪も――というループが最近は発生しているのだが。
(まー、そういうところも可愛いって気付けたのはデケぇよなぁ……)
かつての自分は相当の朴念仁だったなと自嘲できるくらいには成長している正樹であった。
余談であるが、ラングラン王国ではある種の階級制度が敷かれていた。
マサキのラ・ギアスでの名は【ランドール・ザン・ゼノサキス】
ザンは戦士階級を意味し、【重婚】が許されていた。
この世界ではそういった制度はないが、彼等の中では前世から関係が続いている為、交際相手が複数いても何ら問題はない認識であった。
なお、浮気は許さないと2人は正樹に語っているが。
―――――――――――――――――――――
そして時間は流れ――
代表決定戦当日 第2アリーナ Aピット内
試合開始はもう間もなくであり、すでに対戦相手のセシリアは専用機【ブルー・ティアーズ】を纏い、アリーナ上空で待機している。
Aピットでは正樹と簪が試合前の最終確認を行っている最中である。
別クラスである簪がこの場にいてもいいのかと思われるが、そもそもこの代表候補決定戦は他クラスにも情報が開示されている為、いまさらである。
加えて、彼女はサイバスターの開発責任者である。機体の稼働状況をチェックする義務があるのだ。
同じく開発責任者である刀奈は国家代表の仕事がある為、不在である。
早朝に学園を発ったらしく、その際ものすごく不機嫌であったとの事だ。
「正樹、サイバスターの武装についてだけど」
「ん?」
ISスーツ姿の正樹が振り返りつつ尋ねる。
正樹が身につけているのは特注のISスーツであり、鋼龍戦隊の標準パイロットスーツに近いデザインのものだ。
色合いについては派手気味なオリジナルから多少落ち着いた色に変化している。
魔装機の操縦の際には特にスーツの着用などが必要なかったため、彼にとっては新鮮なものであった。
「【アカシックバスター】と【コスモノヴァ】は使っちゃだめだよ」
「……わかってるって、流石にそこまで馬鹿じゃねえさ」
「うん、武装にはリミッターを掛けてあるけど念のためにね」
ISサイバスターの性能はオリジナルの魔装機神サイバスターと比較しても性能の低下は最小限であった。
・サイズによる火力の低下。
・オリハルコニウムの装甲からIS標準合金への材質変更。
・永久機関未搭載による稼働時間制限の発生。
大まかにあげると上記の3つ程度である。
それ以外は通常のISと比較すればまさに次元が違うスペックを持つ機体である。
サイバスターの性能が既存のISを隔絶している理由は簡単な事である。
【サイフィス】と言う高位の精霊王と契約している点と、簪と刀奈が力を入れすぎたのである。
元々2人とも技術者であり、そこに愛する男性の機体という事で必要以上に力を入れすぎたのだ。
特に武装については完全再現されていると言ってもいい出来だ。
因果律を計算し、召喚した火の鳥と共に突撃し相手を文字通りアカシックレコードから消し去る【アカシックバスター】
光球を放ち対象を莫大なエネルギーと共に破砕する【コスモノヴァ】
この2つがようやくビーム兵器の普及が始まり始めたISで使用可能なのである。
アカシックバスターについてはその威力も当然ながら高いが、相手の存在をアカシックレコード、つまりは世界から消してしまう事が可能な魔術的要素を含んだ武装。
コスモノヴァについては、その後の戦闘機動に影響が出る範囲でエネルギーを収束してようやく1発だけが発射可能な極悪燃費である。だがその分威力は折り紙つきであり、シミュレータでは粒子ビーム用コーティングを施された、小型シェルターを1発で跡形もなく吹き飛ばす威力が出ると想定されている。
両方とも直撃すれば【絶対防御】など意味をなさずに、搭乗者ごと消し飛ばしてしまう可能性が高い。
故に今のサイバスターの武装には厳重なリミッターが掛けられている。
なおリミッターが掛けられているのは上位武装のみであるため、機体自体はフルスペックではあるが。
「ディスカッターとハイ・ファミリアだってあるんだ、何とかするって、な?」
『任せるニャ、簪』
『マサキは私達でサポートするニャ』
使い魔であるシロとクロが正樹の両肩の上から簪に告げる。
シロとクロは魔術によって隠れている為、傍から見ても簪が正樹と話しているようにしか見えないだろう。
「うん、頑張ってね」
『ああ』
簪にそう返した正樹は待機形態のオリハルコニウムのペンダントを握りしめ、サイバスターを起動させる。
使い魔であるシロとクロは量子化し、サイバスターの両肩部のハイ・ファミリアに同化する。
1秒にも満たない時間で白銀の鎧を全身に纏った正樹がそのまま浮遊してカタパルトに向かう。
『安藤君、準備いいですか?』
カタパルトにサイバスターを接続させると通信が繋がる。
通信先は副担任である山田真耶先生。
『ああ、準備万端だぜ、山田センセ』
『了解しました、それではコントロールを渡しますね』
真耶の言葉の後サイバスターのコンソールにコンディションOKと表示される。
それを確認した正樹はカタパルトから飛び立つ。
『GO、サイバスター!』
白銀の翼から溢れる美しい緑の粒子を残像にサイバスターは空に射出された。
―――――――――――――――――――――
蒼のIS、英国で開発された【BT兵器】を搭載した試作型IS【ブルー・ティアーズ】を身に纏い、空中で待機していたセシリアは、カタパルトから射出されたサイバスターを確認して目を細める。
そしてサイバスターが眼前に現れると口元に笑みを浮かべつつ、告げる。
『女性を待たせるとは紳士ではありませんね』
『そりゃ悪かったな』
セシリアが浮かべる挑発的な笑みを無視して正樹が返す。
『それで、負けた際の言い訳は考えましたか?』
『その言葉リボンでもつけて送り返してやるよ、オルコット』
やれやれと両肩をすくめて正樹が返すとセシリアの顔から笑みが消えた。
『そうですか……では後悔はなさらないでくださいね?』
右マニピュレータに狙撃銃【スターライトMk-Ⅲ】を展開しセシリアが構える。
同時に正樹も実体剣【ディスカッター】を展開する。
『行くぜ、サイバスターっ!』
正樹の掛け声と共に、試合開始のブザーが響く。
同時にセシリアの視界から相対しているサイバスターがロストした。
―――――――――――――――――――――
『っ!?』
(何を……されましたのっ!?)
思考は突然の事態で混乱していたが、しっかりと原因をその目で見ていた。
試合開始と共にブルー・ティアーズが――自身がサイバスターの実体剣による斬撃を貰い、そのまま弾き飛ばされたという事を。
(速すぎるっ!?)
機体のハイパーセンサーでサイバスターを感知してみればすでに背後に回り、再び斬撃の体勢を取っていた。
『後ろっ!?』
『でぇいっ!』
上段から振り下ろされたディスカッターを左マニピュレータの装甲で防御する。
装甲の一部分が破壊され、シールドエネルギーが減少する。
だが防御したことでサイバスターの動きが止まっていた。
『っ……そこっ!』
右のマニピュレータに持っていた狙撃銃をサイバスターに突き立てる様に突き出し、トリガーを引く。
しかし次の瞬間にはサイバスターは射線を外れ、距離を取っていた。
『なんて機動性能ですの……あの機動力ではこちらの攻撃が……っ!』
当たらないという言葉を何とか飲み込んだセシリアにサイバスターから通信が繋がる。
『どうしたよ、この程度じゃないだろ?』
『っ! 私を本気にさせましたわねっ!』
正樹の挑発の言葉に乗ったセシリアが叫ぶ
すると、背部スラスターが切り離されて、浮遊砲台へと姿を変える。
(凄まじい程の機動性ですが、逃げ場をなくしてしまえばっ!)
これがブルー・ティアーズに搭載された【BT兵器】
オールレンジ攻撃が可能な無線誘導自立砲台だ。
『お行きなさい、ティアーズっ!!』
セシリアの叫びと共に4つのティアーズが高速でサイバスターに向かっていく。
当のサイバスター、正樹はブルー・ティアーズから切り離された遠隔自動砲台【ティアーズ】を見て少々驚きの表情を浮かべていた。
『ハイファミリア……じゃねえな、ビット兵器か』
しかしすぐに驚愕は収まった。
ビット兵器、新西暦世界にも同様の武装を搭載していた機体がいたからだ。
また一時迷い込んでしまった世界のガンダムと言う機動兵器も類似したファンネルとかいう武装を積んでいたことを思い出した。
(……動きが鈍い? 試作型だって聞いてたが……)
正樹がそう思ってしまうのも仕方ないだろう。
ブルー・ティアーズのBT兵器はまだまだ試作段階の代物である。
戦場で使われ苦渋を舐めさせられた兵器、味方として何度も援護してもらったモノとはどうしても劣ってしまう。
『なら、こっちもだっ! クロ、シロっ! 頼むぜっ!』
サイバスターの両肩部から小型の機動砲台が射出される。
『ファミリアづかいが荒いニャぁ』
『つべこべ言わず行くわよ、シロッ』
【ハイ・ファミリア】
それは魔装機神に装備されたファミリアが使う機動兵器の総称。
『BT兵器っ!? まさかそんなっ!?』
セシリアの動揺の声が響く。
ハイファミリアは正確にはBT兵器ではないが、オールレンジ攻撃が可能な点が共通している為、彼女の誤解も致し方ないだろう。
ティアーズがハイファミリアの小型粒子ビーム砲によって機関部や銃口を撃ち抜かれて墜落していく。
本体であるセシリアの動揺がBT兵器に伝わることで動きがより鈍くなる。
それを見逃す正樹ではない。
動きの鈍ったティアーズをディスカッターで切り裂き、本体であるセシリアに迫る。
『なっ、同時制御が可能だというのですかっ!?』
彼女の驚きも当然だ。
BT兵器の第一人者でもある彼女ですら、ティアーズ操作中は動けずに無防備になってしまうからだ。
ハイファミリアはあくまで同化したシロとクロが操作するため、正樹が直接動かしているわけではないのだが、それを知らない彼女には自身が使えない技術を使われたというショックを与えることとなった。
『そらよっ!』
『ちぃっ!』
振り下ろされたディスカッターを何とか回避し、瞬時に爆発的な加速を生む【瞬時加速】を用いてセシリアは正樹から離れる。
『逃がすかよっ!』
同じように瞬時加速を用いてブルーティアーズに追いすがる。
そしてディスカッターの一閃がセシリアを弾き飛ばした。
『きゃぁっ!?』
弾き飛ばされ落下していくセシリア、だがすぐさまAMBACで姿勢制御を行い復帰する。
そしてサイバスターと相対する。
(……強い、認めざるを得ないほどに……!)
情けなさなど微塵も感じさせないその戦いぶり、世の男とはまるで異なる堂々とした態度。
(ですが私も……代表候補生、そして誇り高いオルコット家当主、負けられない、負けたくないっ!)
ここまで誰かに負けたくないと感じたのはいつ振りだろうか。
損壊したライフルを格納し、代わりにショートサーベルを展開する。
『安藤さん、少しよろしいでしょうか?』
『……何だよ』
『私の全身全霊、受けてもらえますか?』
サーベルを構えつつ笑みを浮かべる彼女の雰囲気が変わったことを正樹は感じていた。
それに不思議と笑みがこぼれた。
『いいぜ、受けてやるよっ!』
『それでは……参りますわっ!』
瞬時加速からの攻撃、それはただ真っ直ぐな刺突であった。
だが刺突から感じる気迫は並大抵のそれではなかった。
咄嗟にディスカッターで突きを受け流す。
だがそれこそがセシリアの狙いであった。
『ティアーズはまだ2基ありますわっ!』
『なっ!?』
残っていたティアーズ、ミサイルビットを至近距離で起動させる。
本来は遠距離から操作して相手を攻撃するための武装をこの距離で爆破させれば当然、彼女も巻き込まれる。
だが、それは覚悟の上――
『はあっ!!』
『ぐっ!?』
この試合、初めての正樹の呻き声。
サイバスターの胸部装甲に刺突の一撃が突き刺さった。
スナップさせることでそのまま連撃に移行し、ディスカッターを弾き飛ばす。
『ちぃっ!』
先程セシリアがやったように瞬時加速によって距離を離しつつ、姿勢を立て直す。
ディスカッターは弾き飛ばされ落下し、アリーナの地面に突き刺さっている。
今の彼女が回収させてくれるとはとてもじゃないが思えない。
(勝機っ!)
近接武装がなくなったことで、反撃手段を失ったサイバスターにセシリアがショートサーベルを構えつつ突っ込む。
だが――サイバスターの腰部分から緑の魔法陣が現れ、そこから剣の柄が2つ現れた。
それを勢いよく抜き、二刀流の構えをサイバスターは取った。
片方はサイバスターの全長に届き得る大型の実体剣。
もう片方はディスカッターと同等の長さの細身の実体剣。
2つの剣には宝玉がはめ込まれており、剣の背には連結機構が見て取れる。
『【バニティリッパー】ッ!』
『二刀流……ですが負けませんっ!』
残ったエネルギーで瞬時加速。
先程と同じ最大加速からの刺突。
しかし――勝負はあっけなくついた。
細身の方で刺突を受け流し、そのまま大剣と連結。
鍔迫り合いは一瞬、バニティリッパーはそのままショートサーベルを斬りおとして、ブルー・ティアーズのシールドバリアを切り裂いた。
『あぐっ!?』
衝撃に弾き飛ばされると同時に機体のエネルギーが尽きる。
ブルー・ティアーズはゆっくりと降下を始めている。
『やるじゃねえかよ、オルコット。 自爆からの一撃はビビったぜ?』
降下を始めていたブルー・ティアーズをサイバスターが抱え上げる。
パーツ交換で修復が可能とはいえ、ティアーズは全機大破し墜落、ミサイルビットによる自爆で各部装甲にも少なくないダメージが見て取れる。
整備課には深く深く頭を下げる必要があるだろう。
『当然ですわ、ですが安藤さん……いえ、
試合前とは打って変わった、どこか吹っ切れた様な彼女の顔。
その表情に笑みを浮かべつつ正樹が返す。
『まぁな、もっともサイバスターを造ってくれた皆がいるからこそ俺はこうして戦えたわけだから、俺1人が強いってわけじゃないけどな、
正樹の笑みに、彼女もまた笑みを返す。
そしてサイバスターに身を任せることにした、彼ならば信頼に足ると分かったからだ。
(本当にお強いのですわね……ああ、それにしても……)
代表候補生として、オルコット家当主として、全力で相対した。
しかしそれでも正樹とサイバスターには一撃与える事しかできなかった。
機体性能もあるだろうが、それを手足の様に、いや完全に自分の身体として操作する能力。
完敗――しかしセシリアの顔には陰りはなかった。
(こうまで手も足も出ないとなると、逆にすっきりしました……彼のような男性もいるのですね……まるで風の様に全てを吹き飛ばしてくれる殿方も)
女尊男卑の考えなどすべて吹き飛ばしてくれた。
そして心には風が吹いている――さわやかな春風のような心地よい風が。
『試合時間5分43秒、安藤正樹の勝利です』
サイバスターがBピットに降下すると同時に、試合終了のブザーが響いた。
セッシーは援護攻撃高レベルで持ってそう。
次回予告
「重力の魔神」
『フフフ……マサキ、貴方は相変わらずですね』
『テメェ! なんでこの世界に居やがるんだっ!?』