リアルが忙しくって……すみません。最低でも週一で投稿出来るようにしますので。
翌日。
由比ヶ浜はやはりアホであった。まああんまり期待してなかったから良いんだが、あくまで秘密裏にすべき事なのにも関わらずド直球で聞きに行くというのはある意味凄い。褒めてないが。
結果的に由比ヶ浜の聞き込みで分かったのは赤いフレームの眼鏡の女子が腐界の住人だということぐらい。死ぬほどどうでもいい。
そんな由比ヶ浜の様子を視界に納めながら、俺は机に突っ伏して寝ている振りをしながら葉山グループを観察する。四六時中女子と男子で一緒に居るわけでは無いようで、葉山を中心とする男子グループと三浦を中心とする女子グループで教室の前と後ろに別れている。だがそれも一瞬の事ですぐ女子グループ(というか三浦が)が葉山に近づきいつものごとく騒ぐ騒ぐ。ほんとうるさい。
そんな葉山グループを観察し続けて二日程経過した。そろそろ職場見学のグループを決める筈なのでさっさと解決しなければならない。とは言っても由比ヶ浜は元々こういうことには向いていなかったのか調査は進んでいないようだし、俺も一つ案が無いことも無いが雪ノ下の方針とは外れる。
「ごめんっ!ぜんっぜん分かんなかった!」
由比ヶ浜は雪ノ下に向かって両手を合わせながら謝っていた。まあ仕方ないと言えば仕方ないのだが由比ヶ浜はもう少し考えることをしたほうが良いと思う。え?お前何様だって?お☆れ☆さ☆ま
ふぅ。俺疲れてんな。
「そう……それなら仕方無いわ」
そう言いつつも雪ノ下は頭を抑える。まあ情報が集まらないとやりようが無いもんね。
「まぁ俺も出来る限り調査してみる」
「ええ。けれど、このままだと犯人を見つけるまでどれだけかかるか分からないわ」
「……犯人が見つからなくてもやりようはある」
「?何か案があるの?」
「ああ。それを説明するから、今日の昼休み部室に集まってくれ」
「……まあ、一応聞いてあげるわ 」
「そりゃどーも」
****
そして時は昼休み。雪ノ下によって俺、雪ノ下、由比ヶ浜、葉山が部室に集められる。
「で、何か分かったのかしら?」
窓に寄りかかっていた俺は雪ノ下に話を促され、葉山を真っ直ぐ見据える。
「犯人についてはさっぱり分からん」
それを聞いて雪ノ下と由比ヶ浜はやっぱりかといった表情を浮かべ、逆に葉山は少しほっとしたような顔を浮かべる。それを素でやってるなら完全に良いやつなのだが、如何せん俺にはどこか演じているように感じられる。意識的にやってるにせよ無意識にせよ、だ。
人の醜い部分だけを見て生きてきて、そういったものを見抜く技術が自然と身に付いてしまった。これもまた俺が狂った一因だろう。特に意識せずともそういった仮面を見破ろうとしてしまう。そしてその精度もバカにならないので質が悪い。
「だが一つ分かったことがある。それはあのグループは葉山のグループということだ」
何を今さら、とでも言いたげな表情を浮かべる雪ノ下と由比ヶ浜。対して葉山は微苦笑を浮かべて俺に続きを促す。
「……えーっと、どういうことかな?」
「あぁ。言い方が悪かったな。つまり、葉山目当てのグループってことだ」
「そんなこと無いと思うけどな……」
そう言って葉山は困ったように苦笑を浮かべる。何となく話が見えてきたのだろうか。
「なら葉山、お前は自分が居ないときの三人を見たことがあるか?」
「いや、ない……けど」
「いないんだから当たり前じゃん」
由比ヶ浜が心底呆れたかのようにジト目を向けて来る。いやんっ!そんな眼で見ないでっ!
……ぐぅっえっ、おえっ
やばい。由比ヶ浜のクッキーを食べたとき以上の吐き気がする。
「あいつらなぁ、お前が居ないときは喋りもしないしお互いの事を見向きもしない。つまりあいつらにとってお前は友達だけどあいつら同士は友達の友達なんだよ」
そう。俺が観察していたこと。それは葉山が居ないときのグループだ。葉山が居るときはお互いに仲の良い友達のように接し、葉山が居なくなった途端スマホをいじり始める。あそこにあるのは固い友情などではなく、薄っぺらい上部だけの関係である。俺はそんなものを信じてきた結果狂人になり果てたし、俺ほどでなくともそんな経験をしてきたのは雪ノ下も由比ヶ浜も同じだろう。知らんけど。
そして今回はその薄っぺらい関係の弊害その一、すぐ裏切る。が発動した。ただグループ内で裏切り合う分にはどーぞどーぞって感じなのだが、こうして周りを巻き込めるリア充(笑)グループだとほんとめんどくさい。これまでこういった類いのものは報復する時にしか関わっていないから穏便な納め方などこれっぽっちも知らない。
「そうだとしても、三人の犯行動機の補強にしかならないわ。犯人を突き止めないと事態の収束は望めないと思うのだけれど?」
「……そうだな。だが、犯人が分からないなら原因を取り除いてやれば良い」
俺はいつだって壊すことで解消をしてきた。今回もそれと同じだ。犯人を割り出す方法も無いことは無いが相応のリスクを払う必要がある。こいつにそこまでする義理はない。俺がリスクを払うのは己と小町のためだけだ。
「葉山。お前が望むなら教えてやろう。犯人を突き止める必要も無く、これ以上事を荒立てることも無く、あの三人がさらに仲良くなれる……かもしれない方法を」
俺はそうしてさながら悪魔のような笑顔を浮かべる。そして憐れな子羊葉山は、その提案に、頷いた。
****
「やあ、ヒキタニ君。隣、良いかい?」
「ダメ」
「あ、あはは……」
ものすごい爽やかなオーラを振り撒きながらやって来たので思わず反射で断ってしまった。そして俺が断ったにも関わらず、隣の女子の席に座る。ちょっとー俺断ったんだけどー。
と思ってたら向こうの三浦と腐海の住人が騒がしいので何とかしていただきたい。
「ありがとう。君のお陰で丸く収まったよ」
「俺はなんにもしてねぇよ」
「そうかい?……俺があいつら三人と組まないって言ったらあいつら驚いてたけどな」
「まあ雪ノ下は納得して無いようだったがな……ありがたいと思うなら代わりにあいつの罵詈雑言受けてくんね?」
「あはは、遠慮しておくよ……でもまぁ、これをきっかけにあいつらが本当の友達になれたらって、そう思うよ」
そう話す葉山の視線の先には、今回のチェーンメールで随分と騒がせてくれた三人が居る。しかしその様子は変わっていて、葉山が居なくとも少しは話すようになったらしい。黒板に自分達の名前を書いて笑い合ってるのは何かムカつくが。
葉山隼人が演じているお手本のような善人。それは俺にとって多大な違和感を抱くもので、同時に忌むべき対象である。狂人だからこそ、そういった下らないものを躊躇い無く壊そうとする。
しかしそれを葉山隼人を見る俺という視点ではなく、葉山隼人を通して周りを見たとき理解する。理解してしまう。
周囲に望まれ、それに応え、さらに望まれ、それに応えて、もはやそのことを当たり前のことのようにこなしている。周囲に飲まれ、結果自分の中の何かを見失う。あいつと俺の間には期待に飲まれたか悪意に飲まれたかという違いはあれど、失ってはならない何かを失ったのは同じだ。そして俺は悪意に溺れ、自分を見失い、狂気に堕ち、強大な理性を育て、結果歪な何かに成り果てた。葉山が仮面で押さえつけたのは自分自身。そして俺が理性という鎧で押さえ込むのは狂気。根幹にあるものはベクトルこそ違えど限りなく似ていて、そして限りなく違っている。
だが、だからこそ俺は葉山が嫌いだ。確かに少しは面白いが、同族嫌悪というものは如何ともし難い。
とまあ色々考えてはみたものの、結局は俺が勝手に推測して勝手に嫌っているだけだ。この違和感も何もかも勘違いで葉山は本当に良いやつなのかもしれない。だがまあそんなことはどうでも良くて、俺は常識も何もかも遠い昔に捨ててきた狂人だ。自分勝手に考えて、理性的に狂った狂人として、矛盾した自分を抱えて生きるのだ。
だから俺は勝手に嫌う。
「あぁ、そう」
そして素っ気なく返して机に突っ伏す。葉山はまたも苦笑いを浮かべるも俺はふつーに無視。というか戸塚が近づいてきたので葉山(笑)なんぞと会話する必要性なんか皆無なのである。
「ね、八幡。職場見学一緒に回らない?」
「え?……俺と?」
「?そうだけど……いや、かな?」
「い、いや全然。……俺で良いなら」
「うんっ!八幡がいい!」
天使だ。やっぱ戸塚って天使なんだな。さっきの上目遣いといい不安げな表情といい何で戸塚は男なのか、そもそもほんとに男なのか分からなくなりそうなくらいかわいい。ほんと何なの小町の次にかわいいよマジで。
……神様は何で戸塚を男にしちゃったかなぁ。
「なぁ、戸塚」
と俺が居もしない神への恨みに打ち震えていると、マイエンジェル戸塚に葉山(笑)が話しかけていた。その顔には真剣な表情を浮かべている。
戸塚が「なにかな?」と葉山の方を向くと、葉山は立ち上がり軽く頭を下げる。
「ごめん」
「え、えっと……」
「テニスのこと。戸塚のことなんか何も考えないで踏み込んでしまった。本当にすまない」
ほんとだよな。いまさら理解しても遅いっつーの。だがここ最近葉山と関わって分かったがこいつはそういう望まれる仮面を被るし、善人としてあるべき姿を演じる。けれどこの謝罪には、そういったものではない葉山自身の意思が少しだけ感じられるような気がする。
「あ、う、うん。別に気にしてないよ」
「……そうか」
「うん。だからこの話はこれでおしまい……あっ」
そして戸塚は俺と葉山を交互に見て、うんっ!と一人頷くと
「じゃあ、葉山くんも入れてこの三人で組もう!」
おーうそう来たか。嫌ってやる宣言をしたところ(一方的に)でそんな提案……まあ戸塚も居るならそんなに苦ではないだろうが。
「ふっ……じゃあ、どうやら同じ班になるらしいね。よろしく、ヒキタニくん」
戸塚の提案に少し驚いたような顔をしていた葉山だったが、ふっと息をつき俺に手を差しのべる。どうやら握手をしろということらしい。
「はぁ……はい、よっ」
何だ何だこいつアメリカ人かと思いながら葉山の手を叩く。もちろんちょっと強めに。別にリミッターを外した訳では無いからそこまで痛くは無い筈だ。俺も傷害沙汰を起こしたい訳では無いのだ。
そして俺が叩いた手を擦りながら葉山は黒板の方へ歩いていく。そんなに痛かったのん?
葉山が黒板に戸塚、葉山、比企谷、と書く。漢字だと間違えないのな。
「あ、隼人そこにするん?ならあーしもそこにする」
「嘘、葉山くんそこに行くの?」
「あ、私もそこにするー」
「俺も俺もー」
「パないわ、隼人くん超パないわ」
まあその後はご想像の通り。結局クラスのほとんどが俺たちと同じところに行くことになった。ほんと葉山が教祖か何かに見えてきた。新興宗教葉山教(笑)。
そんなクラスメート達を苦笑しながらも見つめている葉山。あの演技の下には何が隠されているのか、葉山の思考をトレースできるほど俺は葉山のことを知らないから分からない。けれど少なくとも、良い気持ちで見ている訳ではないだろう。あれだけ葉山隼人という演者のもとに人が集まる。けれどそれは本当の自分を見ているわけではない。それを理解しているからあいつの笑顔は薄っぺらい。
そして、それを見ている俺のこの狂人という自覚でさえも―――
結局は、偽物なのかもしれない。