心を殺した少年   作:カモシカ

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ごめんなさい!週一投稿を完全にサボりました!
今日から時間があるのでまた更新頻度あげたいと思います……


心を殺した少年は、毒虫と出会う。

 中間試験。

 それは学生であれば誰にでも訪れるものである。そしてその時期は学校にもよるが高校生でも中学生でも基本的には変わらない。

 つまり、俺が中間試験を迎える時期には、小町もまた中間試験を迎えるのである。

 

「……あの、お兄ちゃん」

「……どした」

「べ、勉強……教えて」

 

 

 

 ****

 

 

 

 放課後、小町に頼まれた通り勉強を教えている。ただ家だと親が帰ってきたときに俺と小町が一緒に居るところを見られると面倒なことになるのでサイゼにて勉強会をする。由比ヶ浜が勉強会しようとか何とか喚いてた気がするが小町との予定より優先すべき事柄など世界の何処を探しても存在しない。というか小町から誘ってくれたのが嬉しすぎてちょっと泣いた。

 

 まぁそんなわけで学校の帰りにそのままやっちゃおうということでサイゼで待ち合わせをしたのだが、そこで事件は起きた。小町が男を連れてきたのだ。小町を待っている間由比ヶ浜達が入ってきた気がするがそんなことは些事に過ぎない。問題なのは小町が男と一緒にサイゼに来たということである。

 その男の名前、年齢、小町との関係などなどを早急に聞き出し場合によっては始末しなければならない。

 そういうわけでまずあの毒虫を捕獲するべく自作のスタンガンを鞄から取りだし、テーブルに備え付けられているナイフを手に構え――

 

「はいお兄ちゃんストーップ」

「止めてくれるな小町。俺はこうしなければならないんだ」

「気持ちは嬉しいけど、大志くんはお友だちだから」

「……ほんとに?」

「うんっ!大志くんは一生 お と も だ ち だから」

「……そうか。なら良い」

 

 見事なお友だち宣言にその毒虫は軽く撃沈していたがざまあ見ろとしか思わない。お前と小町は釣り合わん。

 そしてこの時、俺たちはそこそこ大きな声を出していた。そして小町ほどの超絶美少女が大きめの声を出したら目立つ。何なら世界のどこに居ても察知できる。

 そして俺は先程、由比ヶ浜、雪ノ下、戸塚がこのサイゼに入ってきたのを確認した。つまりこのそこそこ広い室内にあの三人は居るのである。

 Q.するとどうなるか、

 

「あ!ヒッキー!」

 

 A.気づかれる。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

「……さて、川崎大志。貴様小町の友達を名乗るならそれ相応の覚悟はあるのだろうな……?」

「うん。ちょっと落ち着こっかお兄ちゃん」

 

 由比ヶ浜たちの席に引っ張られ、最終的に俺、小町、戸塚と由比ヶ浜、雪ノ下、毒虫(かわさきたいし)の順に向かい合って座る。もちろん俺は毒虫の正面に座ってめっちゃ睨んでる。そして右手でしっかり小町を抱き寄せている。小町は誰にもやらん。

 

「……比企谷くん、一体なんなの」

 

 雪ノ下が頭を押さえながら俺にそんなことを聞いてくる。随分と抽象的で雪ノ下らしくない問いだなと思いつつも、毒虫の様子を見て納得する。

 俺に睨まれながらがたがた震え、助けを求めるように小町の顔を見るがその瞬間俺が殺気を飛ばす。そして毒虫は冷や汗だらだらで死にかける。まあこんな状態を見たら流石の雪ノ下でも戸惑うか。

 

「あーっと、こいつが妹の小町だ」

「どーもいつもお兄ちゃんがお世話になっておりますっ!比企谷八幡の妹の比企谷小町です!……うっはーお兄ちゃん何でこんな美少女三人に囲まれてんの!?一体何があったの!?」

「あほ、この場に美少女は小町一人だっての」

「ふぇっ!?……い、いきなりは反則!」

 

 そして俺が毒虫を華麗にスルーしながら全世界の常識を口にするも、小町は顔を真っ赤にして俺の腕から抜け出す。あぁ、小町よ行かないでくれ。

 そして戸塚は性別:戸塚なのので美少女では無く美戸塚だから無問題。

 

「あはは、八幡と妹さん仲が良いんだね」

「……まあ割と最近からだけどな」

「そうなの?」

 

 戸塚が不思議そうに首を傾げる。いやー戸塚はやっぱり可愛い。戸塚可愛いとつかわいい。

 

 だがまあここまで表だってベタベタできるようになったのは割と最近からだ。具体的にはチェーンメールの件を解決した辺りから。今まで俺が小町を遠ざけてたのは小町に悪影響を与えないようにするのと、俺自身を両親から守るためだった。そしてその前提は既に崩れたのだ。まず小町への悪影響については奉仕部とその関係者との接触で俺が及ぼした悪影響なんかほとんど見受けられないため安心して良いと分かった。そして俺自身を守るためということだが、これについては日々トレーニングを積んでいるお陰と脳のリミッター解除の力でいくらでも返り討ちに出来る。

 まあそういうわけで俺は表立ってシスコン活動が出来るようになった。しかしまあ一つ想定外のことが起きた。自分で言うのも何だが小町がブラコン化しているのだ。それについてはドンと来いというかウェルカムなのだが俺が止まれなくなりそうで色々危ない。まあ小町を傷つけるなんてあり得ないから小町が俺の理性を殺しにかからない限り大丈夫だ。

 実験台にしていた奉仕部の二人や戸塚達には若干申し訳なく思うような気もするが小町とのイチャラブためだ。許してもらおう。

 

「えーっと、八幡の友達の戸塚彩加です」

「どもども、お兄ちゃんがお世話になっております。……いやー可愛い人だねーお兄ちゃん」

「んーまあ男だけどなー」

「またまたご冗談をー……え、ほんとに?」

 

 小町は信じられないと言うように何度も俺と戸塚を見比べる。まあその気持ちはわかる。俺もたまに戸塚が俺と同じ男だと思えないもん。

 

「え、えっと、始めまして、ヒッキーのクラスメートの由比ヶ浜結衣です!」

「あー始めまし……て……んん?」

「あ、あはは」

 

 由比ヶ浜と挨拶を交わす小町。しかし唐突に切り、いきなり由比ヶ浜の顔を訝しげに見つめる。そして十秒ほど経った頃、律儀に待っていたらしい雪ノ下がん、んんっ、とわざとらしい咳払いをする。はっとして小町は視線を由比ヶ浜からはずし、雪ノ下を見る。

 

「はじめまして、雪ノ下雪乃よ。比企谷くんとは……クラスメートでは無いし、友達でも無いし……強いて言うなら、知り合い、かしら?」

「何故そこで疑問形……最初から知り合いって言っとけよ」

「うるさいわね。貴方にとやかく言われたくは無いわ」

「はいはい」

 

 小町は雪ノ下を見てほーとかへーとか綺麗な人ーとか言ってる。

 

「あ、あの、か、川崎大志っす!比企谷さんとは塾が一緒で……」

「ほぅ……」

「っ……ぅ」

「はーいだからお兄ちゃんストーップ」

「へぶっ」

 

 どさくさに紛れて自己紹介を始めた毒虫を軽く睨む。それだけで大志(毒虫)は萎縮し動かなくなる。これぞフ〇ウ・カナ〇バリジ〇!

 と、引き続き毒虫の処理を続行しようとするも小町に頭を叩かれて止まる。暴力反対!でも小町が相手なら許しちゃう!

 

「……それで、一体あなた達は何をしに来たのかしら?私たちは今勉強会をしているのだけれど」

「俺も小町に勉強教えてくれって頼まれて来たんだが……川崎大志、お前はどういう用件で小町と一緒にここへ来た?場合によってはサイゼに血の壁画が加わることになる」

「え、えっと……お、俺は、そ、相談を」

「相談?」

 

 毒虫は途切れ途切れながらも俺の質問に答える。そして部活がら反応せざるを得なかったかのように雪ノ下が毒虫に返す。そして毒虫は俺との会話から逃げられると思ったのか、雪ノ下に向かって事情を説明する。

 

 何でも姉が不良化して帰るのが遅いそうだ。酷いときは朝の五時ぐらいに帰ってくるらしい。それもう朝だし。

 

「なるほど……なあ雪ノ下、これ依頼として受けられねぇか?」

「……どういう風の吹き回し?あなたさっきまで物凄く睨んでたじゃない」

「いや、さっさと解決して小町に近づかせないようにする」

「……シスコン」

「マジキモイ」

「褒めるなよ照れるだろ」

「「褒めてない」」

 

 雪ノ下と由比ヶ浜が声を揃えて否定する。だが残念だな。シスコンと言うのは俺にとって最高の褒め言葉だ。それだけ小町を愛せているように見えているのだから。狂人である俺は、普通の愛し方なんてとうの昔に忘れてしまった。まあろくに愛されたことなんて無いから元から知らなかったとも言えるが。

 そういう訳で俺は小町を愛している。小町も俺を少なからず好いていてくれる。何と素晴らしいことか。狂人に堕ちた俺には過ぎた幸せだ。だから俺は恐れる。この幸せが消えてしまうことを。俺の周りのやつらを巻き込んで、不幸のどん底に叩き落としてしまうことを。

 それは俺が背負うには重すぎる罪だ。だとするなら俺はどうすれば良いのか。守るためにはどうすれば良いのだろうか。…………まあ、答えが出るわけは無いな。俺狂ってるし。だとするなら、狂人は狂人らしく何も考えずにただ己の赴くままに動けば良い。何せ、俺には後悔するような心は無いし、悲しみも切なさも、およそ繊細な感情などとっくに捨てているのだから。


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