心を殺した少年   作:カモシカ

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どうも皆さん。週一投稿をするといいながらも一ヶ月投稿しなかった作者でございます。

いやね、部活で二週に一回泊まりで山登りをさせられたり、新しい連載を始めたりしてたんですよ。まじさーせん。

ではどうぞ。


川崎大志は、川崎沙希に説教をする。

「……ごめん、待たせたね」

「いや、別にどうってことねぇよ。寧ろすっぽかされなかったことに驚いてる」

「そんなことするわけ無いでしょ……」

 

 川崎のバイト先に突撃をした翌日。俺は川崎に指定されたハンバーガーショップに来ていた。ポテトのSで三十分粘り、段々混雑していく店内を横目に川崎を待つ。そして漸く川崎が到着し、謝罪する川崎をさっさと座らせ話を聞くことにする。

 

「で、何か話があるのか?」

「ん……話って言うか、相談かな?」

「はぁ」

 

 相談。相談ねぇ。俺に話して意味があるのだろうか。それは家族に話すべき内容じゃねーの?まあ本人がそれで良いってんなら別に何も言わねぇが。……いや、やっぱ言うかも。

 

「うん。あんたも、その……働いてるって言うし」

「あー、まぁそうだが。つっても俺とお前じゃ似ているようで大分状況も条件も違うからな。あんま参考にゃならんと思うぞ?」

「ん。それでも良いよ。実際はただ愚痴聞いて欲しいだけだし」

「はぁ」

 

 色々と溜まっているのだろう。同じような境遇のやつが居れば吐き出したいとも思うのだろう。俺には良く分からんが。

 

 それから語られたのは、お涙頂戴の感動話だ。普通の人なら同情なり何なりを抱くであろうエピソードだ。

 だがそれは、俺にとっては余りにも意味の無い話。感情を落としてしまった俺には、到底理解など出来ない話。だがそこで突き放すほど落ちぶれてはいない。

 だから川崎の気が済むまで聞いてやる。疲れたような顔で話す川崎はしかし、俺のような異常者とは違う、ただ真面目で家族想いなだけの女の子だ。だというのに家族のためにと無理を重ね、俺に止められなければいつか倒れていただろう。そして深夜バイトが学校側にバレ、家族にバレ、下手すりゃ家庭崩壊。まあそれは極端かもしれないが。俺の家族は小町だけだからね。分かる筈がない。

 

「……まぁ、そんな感じかな。ありがとね。最後まで聞いてくれて」

「おう。まあ聞くだけだし大して苦にはならねーよ」

「そ、ならあたしはそろそろ帰るね」

「まーまー待て待て。俺の話も聞いてけや」

 

 言うだけ言って帰ろうとする川崎を止める。こうやって川崎の鬱憤を晴らすだけでは根本的な解決にはなり得ない。という訳で俺は型落ちどころかそもそも折り畳み式のケータイを取りだし、格安で利用できる数少ない機能の一つである通話機能を使用。店内で待機して貰っていた小町達を呼び出す。毒虫(大志)がビクついていた気がするが気にしない。

 

「……姉ちゃん。さっきの話、どういうこと」

 

 大志は驚愕に目を見開く川崎の前に立つと、俺への恐怖を押し殺し、静かな怒りと幾ばくかの悲しみ、そして混乱の入り交じる声で詰問する。川崎は少し俺を睨んだ後、大志の言葉をにべもなく切り捨てる。

 

「……別に。あんたには関係、ない」

「何だよ、それ……無いわけ無いだろ!」

「ッ!」

 

 そう。今まで川崎と大志、一対一で話していたから川崎には逃げ道があった。だがここは放課後のハンバーガーショップ。人目もあるし、何より事情を知る俺や雪ノ下、由比ヶ浜、小町がいる。さらに総武校生が居るかもしれないこの場で必要以上に騒ぎ立てることは自身の身を危うくすることに繋がる。そして俺をこの時間に、しかも駅から程近いこの店に呼び出してしまうほど川崎の危機管理能力は落ちている。余裕がなくなっているのだ。

 

「家族だろ!何で相談してくれなかったんだよ……!」

 

 そして大志もまた、悔しさに歯を食い縛り、自身の無力さに怒り狂っている。何故家族の抱える問題に気づき、支えてやることができなかったのかと。そして俺は、その光景を何処か冷めた目で見ていた。

 

「まあまあ、お前ら少し落ち着け。ここは店の中だ。騒ぐなら外行くぞ」

 

 そのまま流れるような手際でゴミを片付け、川崎姉弟を引っ張って外に連れ出す。あのまま放っておいても更にヒートアップして取り返しのつかない亀裂が出来てしまう未来しか見えない。別に予知能力があるわけではないが、壊し壊されることについては最早専門家とも言える俺がそう思うのだ。

 

「ちょ、お兄ちゃん!置いてかないでよ!」

「あー、スマンスマン。雪ノ下達もいきなり店出ちまってすまんな」

 

 二人を店から出て五分ほど走ったところにある住宅街の中の小さな公園に連れ出し、追い付いた小町達に謝罪をする。

 

「はぁ、はぁ……良いわよ、別に……はぁ、あのまま……んっ、けほっ、ほ、放っておいても、冷静に話し合えるとは、……思えないもの」

「……ゆきのん、大丈夫?」

 

 雪ノ下の体力を計算に入れてなかった。というか何でそんな体力無いんだよ……

 

「大志、川崎」

 

 雪ノ下達から視線を外し、俯いたまま向かい合う大志と川崎に向き直る。

 

「ちっとは頭も冷えたと思うが、未だ問題は解決していない。そうだな?」

 

 俺が念を押すと川崎は力なく微かに頷く。それを見届け、俺は小町に持ってきて貰った資料を取り出す。

 

「ほれ、川崎。俺が用意した解決策だ」

「え……?」

 

 困惑の眼差しを向けられるが、それを気にもせず資料を川崎に押し付ける。

 

「そこに書いてあるのは俺が行ってる予備校のとある制度の資料だ。スカラシップっていうんだが、学力が一定の水準を越える生徒の授業料を無料、ないし減額してくれるものだ。こっちは大学生向けの奨学金制度の資料。基本的には返さなきゃいけないが、給付型なんてのもある。他にも色々あるぜ?総武校(うち)は進学校だし、そういう資料も揃ってる。ちゃんと調べろ」

 

 そもそも川崎が働き出した原因は予備校代の捻出、及び大学の学費を稼ぐためだ。普通にアルバイトをしたところで、予備校代ぐらいは何とかなるかもしれないが大学の学費など稼げるはずもない。そしてそういう家庭というのは世の中に幾らでもある。ならばそれを助けるのも国という組織の義務である。ということは金銭的な問題を解決するための制度だって幾らでもある。勿論審査の基準は厳しいが。他にも学校側に聞けば提示してくれる資料、実際に俺が利用している制度。その他諸々を呆然とする川崎に説明する。

 

「……さて、色々と言ったがこれが俺の提示した解決案だ。利用するかどうかはお前次第……と言いたいんだが、こっからは理屈じゃない感情論の出番だ。という訳で大志、言いたいこと言っとけ」

「え、あ、はいっす!」

 

 同じく呆然としていた大志に話を振る。こいつらは家族なのだから、説教は身内がしてやれば良い。俺自身川崎には物申したいことがかなりあるが、それをするのは俺の役目じゃない。

 

「姉ちゃん」

「……なに?」

「まずはごめん。俺のせいでそんなことになってたなんて、気づけなかった。少し考えれば分かることなのに……」

「そんな……こっちこそごめんね。心配かけちゃって」

「そうだよ!俺も、ちび達も、心配したんだからな!」

「ん、そうだよね……ごめん」

「ほんとだよ。でも……ありがとう。俺の、俺たちのこと、ちゃんと考えててくれて」

「お礼をいうのはこっちだよ。ありがとね……こんなバカな姉ちゃんだけど、これからも一緒に居ていいかい?」

「……当たり前、だろ!」

 

 静かに涙を流しながら、姉弟は抱き合う。その姿はとても美しいのだろう。きっと俺には理解できない美しさを持った光景を、俺たちは静かに見守る。

 

 由比ヶ浜は、見るもの全てを包み込むような優しい笑顔で。けれど、何か眩しいものを見る様に、目を細めて。

 

 雪ノ下は、無表情のまま、けれど暖かい慈愛と少しの羨望を孕んだ目で。

 

 小町は、いつかの思い出を懐かしむように、澄んだ瞳で。

 

 ならば俺は、どんな想いでこれを見つめているのだろうか。自分のことなのに分からない。……いや、とっくに擦りきれた心なのだから、それが当たり前だろう。だが何も感じていないとも言えない。どんな名前を付ければ良いのか分からない感情が、静かに、けれど確かに燻っている。それは決して慈愛や理解などではなく、きっと無意識に夢想した仮定の結末。まともな心を持っていれば、あるいは具体的な名前をつけるられたのかもしれない。

だが、俺には結局()()()感情が存在しない。不安定で不完全な、偽物とも呼べる歪なココロがあるだけ。だからこの気持ちに感じることは無い。それはどう取り繕おうと、偽物でしか無いのだから。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

「きょうだいって、ああいうものなのかしらね……」

 

 夕日を浴びながら、雪ノ下が不意に漏らす。

 

「さあ?少なくとも俺にとっては、一番近くて一番遠い存在だな」

「一番近くて、一番遠い……そうね、それは……良く、分かるわ」

 

 それきり大した会話もなく、雪ノ下、由比ヶ浜と別れ、それぞれの帰路につく。小町の希望により、自転車を転がしながら歩いている。

 

「いやー、解決して良かったねー。良いことをすると気分も良いっ!」

「お前今回大したことしてないだろ」

「そりゃまあお兄ちゃんに見せ場持ってかれたしねー。あ、でも最終的には大志君が解決したってことなのかな?」

「ま、俺がどうこう言うより家族が言ってやった方が良いだろ」

「……そー、だね」

 

 俺が家族という言葉を出したからか、小町が悔しそうに歯を噛み締める。それによって俺と小町の間に幾分か重い空気が蔓延し出した。だがその空気もすぐに小町によって打ち砕かれる。

 

「で、でもさー、良かったね。ちゃんと会えて」

「あ?」

 

 唐突にそう切り出した小町の言葉の意味が分からず、思わず聞き返す。

 

「お菓子の人。ちゃんと会えてたじゃん。良かったねー結衣さんみたいな可愛い人と知り合えて」

「……なーに言ってんだ。小町の方が可愛いっての」

「お、お兄ちゃん、不意打ちは卑怯!」

 

 笑いながら照れる小町を宥める。

 

 だが、そうか。由比ヶ浜がお菓子の人、か。……ならば、確認した方が、良いんだろうな。




祝!!『今日が最後の人類だとしても 2』&『幻獣調査員 2』発売決定!

という訳で皆さん!二巻ですよ!しかも同時発売!イヤッホォォォォォォイ!!!
と、キャラ崩壊を起こし、母に結構マジなトーンで心配されました。解せぬ。

クーシュナやユージの活躍を期待しましょう。

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