心を殺した少年   作:カモシカ

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ほんっとーに申し訳ございません!
気づけば十一月が終わっていました。これからは月一更新は維持出来るように頑張りますので、どうか皆さんよろしくお願いします。


心を殺した少年は、同類に遭遇する。

 その後の店からはスムーズに進んだ。世間というのは思いの外シンプルで、ついでに単純らしい。あれ、これ同じ意味だな……。

 お前ら日本代表いけるよ、と言いたくなるぐらいにはフィジカル強かった店員達も、近くに雪ノ下が居るだけで包囲陣を解く。

 

 で、どちらにせよ出来ることがない俺は、時折ピンと来たらしい服を縦横にグイグイ引っ張って耐久力を測る雪ノ下を心の中で爆笑しながら観察する。っべー、ぬののふくに防御力求める雪ノ下さんマジっべー。……辞めよう。寒波が来そうだ。

 

「次、行きましょうか」

 

 耐久力に難があったらしく、手に持っていた服を素早く畳んで棚に戻す雪ノ下。

 

「や、耐久力で服選ぶってのはどうなんだ?俺は防御力も欲しいが、由比ヶ浜は別にケンカとかしないだろ?」

 

 ゲームみたいにただの服でもそう簡単に壊れないでくれると良いのに。そうでないと変なのに絡まれた時、服を汚さないように戦わなきゃならない。あれはマジでめんどくさい。

 

「それではあなたがケンカするように聞こえるのだけれど……。まあ、聞かなかったことにしてあげましょう」

「さいでっか」

「…………はあ、仕方がないじゃない。材質や縫製ぐらいでしか判断がつかないのよ。……私、由比ヶ浜さんが何が好きとか、どんなものが趣味とか……知らなかったのね」

 

 そして、ため息。

 え、なぜため息。やたら物憂げなのが印象的なような気がする。や、知らんのだが。

 ……あれか、知る機会はあったのにそういうのを聞いてこなかったことを悔やんでるのか。これは。

 まあ、知ることが常にいい事とは言えないから、それはそれで良いのだろうが。

 

「別に知らなくて良いんでねーの。中途半端に知ってても、失敗するだけだし」

「……そういうものかしら」

「さあ?俺は生憎と、小町以外には基本的に興味無いし。というか、小町以外の事は知る必要無かったし」

「シスコン発言は控えなさい」

 

 ほんと、まだ壊れる前を除いて俺が他人に興味を抱くことは無かった。もちろん、実害を被れば徹底的に調べ上げてからきっちりこっそりがっつり叩き潰してきたのが。

 

「……たしかに、相手の得意分野で戦っても勝ち目は薄いものね。勝つために弱点を着くのは当たり前。なぜ気づかなかったのかしら」

 

 ほんとそれ。弱点は弱いから弱点なのであって、そこを突けば簡単に倒せる。弱点を持ってないものに置き換えれば、この買い物でも同じ事が言えるのではないか。ないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 雪ノ下が入っていったのは、フライパンや鍋といった基本の物からマトリョーシカを模した食器セットなどまで様々なキッチン用品の並べられた雑貨点だった。

 未だに料理を習得しようと哀れな努力を続ける由比ヶ浜に贈るには丁度いいだろう。

 

「確かにこれは弱点だな」

「由比ヶ浜さん、やっと焦がさないことを覚えたみたいよ。まだ隠し味という名の毒物調合は続けているらしいけど」

「お前何気に酷いな」

 

 店内に所狭しと並べられた雑貨たち。俺には何でこんなものが必要なのか分からないが、それでも何かしらの使い道はあるのだろう。食えれば十分幸せだなぁーという思考回路の俺には分からんが。

 

「比企谷君、こっち」

 

 呼ばれて行ってみれば、そこにはエプロンを装着した雪ノ下が居た。薄手の黒いエプロンだ。具体的な描写は必要ないだろう。三巻の百二十五ページを見てくれ。……なんだ、電波受信したか?

 

「どうかしら?」

「どうって言われても……似合ってんじゃね?」

「そう……私が聞いたのは由比ヶ浜さんにどうか、という事なのだけれど」

「んー、あいつはもっとフワフワポワポワした頭悪そうなのが良いだろ」

「なかなか酷い表現だけれど言い得て妙ね……」

 

 雪ノ下はそう言いながら、今しがた着ていたエプロンを丁寧に畳み由比ヶ浜への贈り物と一緒にレジに持って行く。どうやらちゃっかり自分の買い物もしているようだ。そういう効率的なのは嫌いで無いので特に何も言わないが。

 

「……エプロンは買う予定に無かったのだけれどね」

「衝動買いか。まあ買い物には良くあることらしいな」

「………………」

 

 俺の視線に気づいたのか、そんなことを言ってくる雪ノ下。

 何か言いたげではあるが、結局なにも言って来ない。変なやつだ。俺が言えた義理ではないが。

 

 もう一つ言えるとすれば、パンさんのぬいぐるみは最初から買う予定だったということである。

 

 あと、俺はペットショップで買い物を済ませた。そこで雪ノ下がどうなったかは……まあ、言うまでもあるまい。

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 

 用を済ました俺と雪ノ下は、俺を先頭にして出口に向かっている。雪ノ下に先を行かせては二度と出られないような気がする。

 その道すがら、家族や恋人向けのゲームコーナーがあった。俺には全くと言っていい程縁のない代物だ。

 メダルゲームにクレーンゲーム、カーレースにプリクラなどなど。

 小町と遊びに来るなんてことは出来なかったから、俺には何が何だか全く分からない。

 

 だが、雪ノ下はそこで足を止めた。

 

「どした?なんかやりたいのあんのか?」

「特にないわ」

 

 そう答えるものの、雪ノ下の視線はUFOキャッチャーに釘付けだ。

 と、言うよりはパンダのぬいぐるみに釘付けである。

 

「欲しいならやってみれば?まあ最初の内は無理だろうがな」

「……言ってくれるじゃない。私を見くびっているのかしら?」

「いや、こういうのって慣れないと難しいって聞くしよ。やった事はないからあれだが」

「なら、慣れれば良いのでしょう」

 

 そういうと、雪ノ下は千円札片手に両替機に向かう。

 そして、コイン投入口の横に百円玉を積む連コ態勢に入っていた。

「ふぇぇぇ……」という間抜けな機械音が何度も鳴らされる。しかし目的のぬいぐるみは少しずつ移動するだけで取れる気配がない。

 

「……お前、へったくそだな」

「なっ……そこまで言うのなら、あなたは当然上手いのでしょうね」

「んー……やった事はないが、まあ出来んじゃねーの?」

 

 雪ノ下の何言ってんだこいつという視線を受けながら筐体の前に立つ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これによってぬいぐるみの位置をより正確に把握。そしてある程度近付いていたことも手伝って無事にぬいぐるみゲット。

 狂人パワーの無駄遣いだが、まあこれは俺の力だ。どう使おうと俺の勝手だろう。

 

「驚いた……本当に取れたのね」

 

 まるで信じていなかったらしい雪ノ下がガチで驚いた表情をしている。そんなに俺のスペックが信じられないのかしらん?……まあそうだわな。むしろ小町以外に信用された事とかなかったわ。

 

「ほれ、やるよ」

 

 雪ノ下に凶悪な爪を持つパンさんを押し付ける。が、押し返される。……なぜに?

 

「……あなたが手に入れた物なのだからこれは貴方の功績。私の物では無いわ」

「いや、俺ぬいぐるみとか要らんし。小町もこんなでかいのは貰ってくんねーし……つーか要らんし」

「そ、そう?あなたがそう言うのであれば、貰ってあげるのも吝かではないのだけれど」

 

 結局、雪ノ下はパンさんのぬいぐるみを嬉しそうに抱えた。雪ノ下ほどの美少女がぬいぐるみを抱えていると、それだけで絵になる。まあ俺に普通の感性は無いからよく分からんが。

 

「……返さないわよ」

「だから要らんって」

 

 その後、ユキペディアさんによるパンさん講座が行われたりした。俺はそんなに興味は無いが、これも小町に話すネタになるかなと適当に相づちを打つ。

 けれど、そんな平和な時間は、近付いてくる一つの気配と共に終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれー?雪乃ちゃーん?あ、やっぱり雪乃ちゃんだ!」

 

 無遠慮で、ともすれば無粋ですらある声が雪ノ下の声を遮った。

 艶やかな黒髪。きめ細かく透き通るような白い肌……とかなんとか、普通の主人公なら観察を始めるのだろうが、生憎と狂ってる系主人公である俺はそんな評価などできない。その容姿を判断する価値基準が日々変動し、崩壊と再成を繰り返しているのだから。

 

「姉さん……」

「あ、やっぱり」

 

 未だに見つかっていないつもりなのか、小町は柱に隠れてこちらを見ているがとっくのとうに気配を察知していた俺からすれば可愛いだけである。

 そして、小町と行動していたのは、目の前の胡散臭い気配と嘘と欺瞞に固められた仮面を被った女性なのだ。

 

「んー?やっぱりって何かな?」

「いえ、なんでもないっす」

 

 無闇に情報を与える必要も無いので、姉のんさんの追求は躱す。本当に躱せているかは疑問だが、今この場で感づかれなければ問題ない。

 

「で?雪乃ちゃんはこんなところでどうしたの?───あ、デートか、デートだなー?このこのっ!」

 

 冷めた視線で射抜くように睨みつける雪ノ下を、姉のんさんはうりうりーと肘でつついてからかう。

 ふむ。見た目こそ似ているが、性格は随分と違うらしい。

 

「ねえねえ雪乃ちゃん、あれ雪乃ちゃんの彼氏?彼氏なの?」

「……違うわ。ただの部活仲間よ」

「またまたぁー、照れなくっても良いのにー」

「どーもー、部活メイトの比企谷八幡でーす」

 

 埒が明かないので、元から腐った眼を更に腐らせ死にきった目で軽薄な挨拶をする。俺なりの威嚇である。

 

「雪乃ちゃんの姉、陽乃です。雪乃ちゃんと仲良くしてあげてね」

「うーっす」

 

 馴れ合う気は無いが、雪ノ下が作り上げる世界を見定めたい俺にとっては、雪ノ下と仲良くすることは吝かではない。まあ世間一般の『仲良く』とは異なるのだろうが。

 

「それにしても比企谷……ねぇ」

 

 真っ直ぐな、それでいてどこか作り物めいた二つの瞳が俺を覗き込む。どうやら品定めをしているようなので、俺も死にきった目を腐った眼に戻して観察をする。何気に死んだ目って疲れるのよね。

 

「ふぅん……ねえ、ちょっとお話ししない?」

「は?姉さん、一体何を」

「んー?別に良いですけど」

「そ。なら決まりね。雪乃ちゃんには悪いんだけど、ちょっと比企谷君借りるねー」

 

 俺たちの集合時点から跡を着けていた理由を聞くためと、ある妄想とも言える懸念を確かめるためにはるのんさんの提案に乗ることにした。

 

「……そう。あなたも、そうなのね」

「あ?いやなにがそうなのかは知らんけど、お前の姉ちゃんには聞きたいことがあってな」

「聞きたいこと?」

「……ま、気にすんな。別にあの程度の外面に騙されるほどアホじゃねえから」

 

 そう言って、先に歩き出してしまったはるのんさんを追い掛けながら、雪ノ下にひらひら手を振る。小町から困惑の気配が伝わって来るが、まあ、その辺は雪ノ下に押し付けるとしよう。

 

 ……さてさてさーて。この人は、同類なのか、そうでないのか。俺の事を知っていて接触してきたのか、そうでないのか。それによっては、相応の対応をしなければならなくなる。

 

 出来ればそれは、あまりしたくは無いのだが。

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 姉のんさんに連れてこられたのはオシャンティーなカフェだった。俺には全く縁のない場所である。

 

「それでー?なんで比企谷君は着いてきてくれたのかな?お姉さんのこと、好きになっちゃったー?」

「んなわけないでしょ気持ちわりぃ」

 

 おっと口が滑った。

 

「じゃなくて聞きたいことがあってですね?」

「……うん。まあ良いよ。聞かなかったことにしてあげる」

「ありがとうございます。で、聞きたいことと言うのは、何故俺たちの後を着けていたのかということなんですが」

「んー?そりゃあ雪乃ちゃんが友達と出かけるって言うんだから気になるのは当然でしょう?」

 

 さらっと誤魔化された。いや、これも本心なのかもしれないが、生憎とそれを判断することは俺には出来ない。狂人の名に恥じない力を持ってはいるが、出来ないことだってあるのだ。

 

 さてさて、一体なにが出てくるか。




それと、作者の他作品『やはりセルデシアでも、俺の青春ラブコメはまちがっている』のギルド名や装備の募集をしています。活動報告に募集欄があるので、どんな些細なことでも提案してくれるとありがたいです。
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