翔鶴ねぇ☆オンライン!   作:帝都造営

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3-5編は少し長くなりそうな予感


オーロラと踊れ!その弐

「青葉さん、数は?」

 

「ちょおっと待ってくださいよぉ……戦艦1を基幹とする打撃群、随伴に水雷戦隊がついていますねぇ」

 

 編成を見る限りは『北ルート』初手の打撃群、ということでしょうか。

 

「青葉さん! 敵艦隊の座標をお願いします。翔鶴さんと瑞鶴さんは航空隊発艦させてください。合戦用意ですっ!」

 

 旗艦の榛名さんが一声号令すればたちまち陣形が戦闘用のそれへと変わります。もちろん私と瑞鶴も離れ離れ。まあ密着してたら航空隊も発艦できませんし、致し方ありません。たいへん名残惜しいのですが、矢を取り出し弓を引きます。

 

「行くわよ、瑞鶴」

「うん! 翔鶴ねぇ!」

 

「航空隊、発艦はじめ!」

 

 文字通りに息の合った発艦作業により、私たちの翼が北の空へと舞い上がっていきます。まさに一糸乱れぬ編隊飛行とはこのことです。艦隊のそらを覆いつくさんばかりの百機越えの艦載機たちが、青葉さんの偵察機が送ってくれた座標へと殺到していきます。

 

 攻撃隊を見送っていると、瑞鶴が話しかけてきました。

 

「翔鶴ねぇ。私の彩雲、どこに飛ばせばいいかな?」

 

「そうね……」

 

 彩雲。偵察機ですね。我に追いつくグラマンなしとはよく言ったものです。そしてこの索敵が重視される戦場においては索敵機をどう動かすかは生死にすら関わってきます。

 私は榛名さんへと視線を振ります。航空作戦についての作戦立案とその指揮は基本的にこの私が任されてはいるのですが、旗艦との連携は大事ですからね。

 

 こちらの視線に気付いた榛名さんは私を一瞥だけしてすぐに向き直ります。任せる、ということでしょう。それにしても戦闘時の榛名さんのとても凜々しいことといったら! 流石は艦隊(クラン)の旗艦を務めるだけの猛者ということでしょう。

 

「北東方向を中心に30°おき120°の二段索敵を」

 

「りょーかい! 索敵機、発艦しちゃって!」

 

 彩雲の数には限りがありますが、索敵は可能な限り濃密にしたいものです。たちまち瑞鶴の弓から彩雲が飛び立ちます。あの子たちが敵機動艦隊を発見してくれることに期待しましょう。

 そんなこんなで、航空機たちは空に消えていきます。

 

 さあ、意識を向こうへと飛ばしましょう。念じれば私にも艦攻を通じて戦場が見えます。例の如く直接の指揮下に入る小隊を完全追従に変更、今回は主力艦隊(ボス)に取りつくことが重要ですので出し惜しみはナシです。お腹に大事そうに抱えた航空魚雷、いつも通り3機で編成される小隊ごとに分散、私が直接操作する小隊長機に従わせて雷撃を敢行します。

 よくある空母プレイングでは小隊ごとの微調整は自動制御とし、残りの部隊の大まかな突入コースを指定するだけのことが多いそうですが……正直、そんなまどろっこしいことをしていては戦闘がいつまで経っても終わりません。完全追従なら小隊長機の操作だけで済みますし、なにより操作すべき機体数を少なくすることが出来ます。小隊ごとに雷撃タイミングはずらせば、一回一回の雷撃に文字通りの全身全霊を注ぎ込むことが出来るわけです。

 

「翔鶴ねぇ! 制空権確保ッ!」

 

 瑞鶴からの報告。まあ飛んでいたのなんて敵戦艦や巡洋艦の偵察機程度でしょうからそんなに難しいことではないのでしょうが……ともかく、これで私たちの攻撃隊を阻むモノはいなくなりました。

 

 と、言いたいところなのですが。

 

「うわッ、ツカスが撃ってきた!」

 

 その言葉と同時に二個小隊分の反応が無くなります。あとカンマ一秒でも早く降下していれば躱せたでしょうか? いえ難しいに違いありません。艦これ特有の対空防御システム「対空カットイン」が発動したのです。初弾から異常なまでの命中率を叩きだすこの対空砲火を躱すのは至難の業。味方に居ればこれほど頼もしい防空の要もありませんが、敵となれば厄介です。

 

「瑞鶴。「つかす」だなんてそんな汚い言葉を使っちゃ駄目よ?」

 

「ご、ごめんね。翔鶴ねぇ……でも翔鶴ねぇの雷撃機が……」

 

 窘めれば、しゅんと目を伏せる瑞鶴。私の機体が壊されたことに怒ってくれるのは嬉しいですし、この反省気味にしょぼくれたツインテールがまさに瑞鶴を形容してくれているよう。いつまで観ていても飽きることはないでしょうが……残念ながらクソッタレの早漏対空ビッチことツ級がいる以上はそんなことをしている暇はありません。

 

「ありがとう瑞鶴。まずはツ級から潰すわよ。雷爆同時攻撃!」

 

「りょーかい!」

 

 瑞鶴の操る艦上爆撃機が翼を翻し、その白い腹を太陽へと向けます。急降下爆撃直前の動作。これから高揚力装置(フラップ)をいっぱいに開いて死線の中へと飛び込むのであろう翼。

 

 もちろん私の雷撃機も負けてはいません。対空砲火を躱す最善の方法は極限まで高度を下げてしまうことです。旗艦級(フラッグシップ)ともなれば電探と連携して対空砲火を放たれることもありますが、海面を舐めるように飛びさえすれば海面にもレーダー派が反射して狙いがまあ気休め程度にはマシになるのです。

 

 しかし、先陣を切った小隊の二番機が落伍します。それは仕方がありません。ツ級のモデルがなんだかは知りませんが、実際かつての日本海軍も雷撃機に対する対空射撃の方が得意だったのです。それはもちろん日本海軍の大半の砲が仰角を水平にしないと再装填が出来なかったという悲しい都合から来るものなのですが……まあ、そうでなくとも真っすぐ突っ込んでくるだけの雷撃機は三次元的な動きをする急降下爆撃と比べて被弾のリスクが高いのです。

 

 そしてまた、雷撃が命中した際の戦果(リターン)が高いのもまた事実。優先すべきは雷撃機の撃墜という気持ちはよく分かります。

 

「……だからって、頭上が疎かになっていませんか?」

 

「やっちゃえ艦爆隊!」

 

 直上より急降下、瑞鶴の航空隊が放った大重量500㎏爆弾の鉄槌がツ級の頭部に見事命中。頭部が潰れて規制がかかりそうな光景が描画されるよりも早く爆炎に包まれます。たった一発の爆弾で大炎上。これでは対空射撃のしようもありません。

 

 そしてがら空きになったツ級の横っ腹に残った一番、三番機が魚雷を発射、向こうは操舵能力すら失ったかのように変針も増減速もせず、二本の航空魚雷は白い泡を立てながら吸い込まれていきます。

 

「やった! 沈めツカス!」

 

「……」

「ご、ごめんなさい」

 

 流石は私の妹、微笑みだけで私の言わんとすることを分かってくれたようです。

 

 さて、戦闘に意識を戻しましょう。ツ級というクソッタレの防空の要が無くなってしまえば、あと残っているのは敵の漸減という名の作業です。

 

 図体がデカくて当たりやすい戦艦もいいですが、数がいて厄介な駆逐を瑞鶴の爆撃と連携して潰していきます。もちろんベストは戦艦含めてすべてを吹き飛ばしてしまうことですが、手数が足りないのです。命中率が仮に100%であっても爆弾一発では一隻が限度。雷撃隊も一小隊で一隻です。

 

 とにかく小型艦艇を中心に吹き飛ばしていきます。手早く駆逐艦・軽巡洋艦を片付けられずに戦艦が残ると厄介ですからね。射程や装甲の関係上、まともに戦艦とタイマンを張れるのは榛名さんくらいです。

 

 

 

 そうこうしている間にも縮まっていく彼我の距離。榛名さんが砲撃戦の開始を宣言するまで後数分……とにかく敵戦力の漸減に努めましょう。


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