今年も瑞鶴と、いえ私の瑞鶴をどうぞよろしくお願い致します。
さて。今回からは駆逐艦戦記の続き、2-1から2-4までをお送りしていきたいと思っております。
私翔鶴と致しましても、前回までの3-5AL海域攻略戦の推移が気になって気になって瑞鶴としか眠れない夜をお過ごしの方も多いのではないかと心中慮っておりますが、その上での作者のこの暴挙、この投稿。
ですがどうかご無礼をお許しください。
……今の私には、3-5攻略戦の仔細をこれ以上紡ぐことは叶わないのです。
駆逐艦戦記2-1
爆音。お腹の底に響くようなくぐもったそれ。振り返れば蒼い海がにわかに膨らみ、それから巨大な水柱が立つ。
水柱というのは、文字通り水の柱だ。どこからどう見ても物理法則に従っていないそれは、ここが電子の海であることを忘れてしまいそうだ。
とはいえ、このゲームがなんやかんやとリアルさを重視する都合上、物理法則には従うわけで。
「あぶっ」
巨大な水柱が風に煽られて、こちらへと降ってくる。もちろん降り注ぐ水が避けられる訳がなく。
「うわぁ……びちょびちょ」
駆逐艦「時津風」。俺がこのゲームを始めて以来使っている
普通なら潜水艦なんてそうそう出てくるものじゃないだろうけど、そこはゲームということで……コツさえ掴めば簡単に発見できる。
発見してしまえば簡単、今みたいに爆雷を投下してドカンである。
「さすがに手応えはあったし、やっつけたと思うけど……」
水柱の場所を中心に、ぐるりと大きな輪を描くように旋回する。潜水艦を撃沈出来たなら、何かしらの浮遊物が浮かぶはず……お、油っぽいのが浮かんできた。
「重畳。大分上手くなって来やがりましたね」
同じく浮遊物を確認したようで、この時津風と同型艦である陽炎型駆逐艦の艦娘が近寄ってくる。見れば、制服からタイツまで水を吸ってしまっているこっちと違い……全くの無傷である。いや、別に俺も傷を負ったわけではないのだけれどもさ。
「むー……なんで丹陽さんは無事なのさ」
「それは風が決めることなのでやがります。風下にいるのが悪いのです」
陽炎型駆逐艦「雪風」。どういうわけだか中華民国に引き渡されてからの艦名である丹陽を名乗るこのヒトは、このゲームのレクチャーを頼んでからの付き合い。今ではお互いがログインしているのなら大抵は行動を共にする仲だ。
「さ、帰りやがりますよ」
「はぁい」
気付けばもう現実で一ヶ月。俺はもうすっかりこのゲームの虜になっていた。
★ ★ ★
「しっかし、分からんなぁ~」
「えぇ。なんで」
それは、ある晴れた日の昼下がりであった。いい加減近づいてきた定期考査を前にしても未だに振るわない数学小テストの点数。先生が考査前最後の小テストを前にしてホームルームにまでその話題を持ち込むなか、俺たちはと言えばゲームの話に華を咲かせる。
「駆逐艦なんてあのゲームじゃ一番役に立たないだろ。主砲の射程も短いし、索敵に使える装備も少ない。知ってるか? 駆逐艦を使ってるユーザーこそ多いが、アクティブユーザーはとことん少ないんだぞ?」
「アクティブ……なに?」
聞き慣れぬ言語に首を傾げれば、やれやれと言った様子でかぶりを振る親友。彼こそが俺にVR艦これという存在を教えてくれた
ともすればしょっちゅう一緒にプレイしていてもおかしくはないのだが……実はとある事情から、彼とはそんなに一緒にプレイすることはない。
「アクティブユーザーだよ、アクティブユーザー。要は、きちんと定期的にログインしてるプレイヤーのこと! 駆逐艦は登録数こそ多くても毎日遊んでるヒトは少ないってこと!」
「あー……言われてみれば確かに、駆逐艦の人数は少ないよね。実装艦娘数としては一番多いのに」
「だって出来ることが少ないもの。やり込むのは変態かロリコンでしょ」
変態か
「ろ、ロリコン……」
そ、そんな犯罪者みたいな目でこっちを見るの止めてくれない?? 別に俺、そんなことしようとも思わないししし。そりゃ見るのは初めてだったし興奮を通り越して逆にまじまじと見たけどさ。丹陽さんに「その肉体年齢じゃ普通は痛いだけでやがりますよ」って言われたから控えてるし……。
「そう思われても仕方ないでしょ。お手軽に砲雷撃したいなら重巡洋艦でいいし、水雷や対潜に特化したいんなら軽巡洋艦でいい。わざわざ装甲も薄い駆逐艦選ぶ理由ある?」
しかも偵察機積めないし。いや、そりゃその通りなのだ。
実際、丹陽さんが居なければもうとっくに駆逐艦
……そういえば、あの時の丹陽さん、後ろで「ま、慣れればイケますけど」とか言ってたような……あのヒトってもしかして? いやまさか、ないよね。変態なのはプレイスタイルだけだと思いたい。
「でもまあ、よくしてくれる駆逐艦のヒトもいるし……」
「そんなこと言わずに空母プレイやろうぜー。今なら私の姉妹艦にしてやろう!」
いきなり親友の声が大きくなって、まわりの視線がこっちに向く。気付いた先生がそれにお小言。
とりあえずこういう時ばかりは男子校で良かったと思う。女子に「男子のクセに姉妹だって、きもーい」とか言われた日には立ち直れそうにないからだ。
★ ★ ★
「ふー。あったかいー」
VRであれ現実であれ、やはりお風呂はいいものだ。なんていったって身体がぽかぽかと温められるのが良い。しかもVRならどんなに長い間はいってもふやけたりしないから最高だと思う。
びしょびしょになってしまった後だから、それは余計にそう思う。
「で、やがりますね」
そう頷く丹陽さんも俺と同じく顎まで使ってのんびりと。一応戦闘がメインであるこのゲームだけれど、入渠と称してお風呂にはいれたり、自分の部屋に布団を敷いてお昼寝したり、とにかくなんでもアリ。
それこそ戦闘を一切せずにこうして艦娘として生活するだけの楽しみ方だって出来るのだ。最近のゲームってホントに自由度が高いのが多いよね。
「でも丹陽さん。なんで公衆浴場なの?」
そう。ここは公衆浴場。あー……正式にはなんか別の名前があったような気がするけど、まあ皆そう呼んでいるので正式な方は知らない。
まあとにかく、誰でも自由に入れるお風呂なのだ。プライバシーもへったくれもない空間だ。
「ふふふ。そんなことも分からないでやがりますか」
「……分からない」
さっき自由度が高いといったような気がするけど、自由度が高いっていうことは色んな艦娘がいるんだよね。
例えば……ほら、あそこにいる金剛型姉妹。
『……は、はるなぁ。皆見てるよ……?』
『気になさったら負けですよお姉様? 洗いっこぐらいどこの姉妹だってするじゃないですか?』
「……あ、『ああいうの』が目的?」
「違いやがりますよ……。
「ああいうのも……」
「アレは目的じゃないでやがります。いいですか、私たちはこの前駆逐艦トライアスロンに参加したでやがりましょう?」
「え、ああうん。参加したね」
駆逐艦トライアスロン。もちろんオリンピックでやられているトライアスロンとは違うものだけれど、トライアスロンのように様々な技能を総合的に競うものだ。
「あそこで時津風もなかなかいいスコアを出しやがりましたからね」
「桁クラスでスコアが上の丹陽さんに言われても……」
「丹陽は歴戦でやがりますからね」
まあ、砲撃と機動性の部門ではそこそこいい結果が出せたけどさ。結局ビギナーには変わらないわけで。
そしてなんの躊躇いもなく歴戦って言えちゃう丹陽さんはどれだけ自信家なんだか……まあ実際、スゴイ強いけどさ。
「でもさ。いいスコアを出すとどうなるのさ」
すると丹陽さんは、自信満々に言うのだった。
「オファーが来るのでやがります」
「オファー?」
オファーというと、誰かに誘われる的な感じだろうか。
「まあ待ってれば分かりやがります。
はあ。まあそういうのだからそうなのだろう。どういうことなのかはよく分からないけれど。そういうことなのだろう。
そして気付けば、いつの間にか寄ってくる影が二人。
「ねぇ。隣、いいかな?」
「っぽい?」
「えー……と」
えーと。誰だっけ。いや「っぽい?」の方は分かるよ流石に、夕立でしょ? 知ってる知ってる。しかしもう一人、このおとなしめの方は誰だ?
「(誰だっけ丹陽さん……っていない?!)」
いつの間にか消えてる? というか何処行ったの??
うーん。さあ困ったぞ。いやね、服を着てりゃ分かったのよ。これでも初心者並に勉強したしね? でもほら、ここお風呂じゃん。着衣で入るのってテレビくらいじゃん?
「えーと」
「時雨だよ。よろしく」
「夕立っぽい!」
「ご、ごめんなさい……」
答えを先に言われてしまい。なんというか申し訳ないというか、恥ずかしい気分に。
「ううん。気にしないで。意外と間違われるんだよね。僕」
「時雨はキャラが立ってないし、しかたないっぽい! でも髪飾りを見れば見分けるのは余裕っぽい?」
「キャラがたってないなんてことはないんじゃないかな……?」
あ、なんか二人で会話を始めてしまった。ど、どうしたものか。丹陽さんもいなくなってしまったし、俺がおどおどしていると、時雨がこっちを向く。
「……ぁあ、ゴメンね。今日は君が本題だった」
「本題??」
その言葉に、夕立がにやり、と笑う。紅い瞳も相まってなかなか怖い。今更気付くけどこの二人「改二」コンビだ。やばい。
「この前のトライアスロン、見せてもらったっぽい」
「どうだろう、もしよければ、今度一緒に出撃しないかい?」
あ、『オファー』ってのはそういうことか! お誘いを受けるってことなのね?
いやでも、この二人って確かかなり強いじゃなかったっけ? というか改二の時点でもうスゴイし。
「で、でも。私じゃ釣り合わないんじゃないかなぁ……?」
と、とりあえず時津風っぽく返しとこう。あでも初対面なんだしこういう時は敬語なのかな? 分からないので時津風で。これでも俺は一応ロールプレイ派だ。
「そんなことないっぽい!」
ずいっと身を乗り出してくる夕立。
「ち、近い、近いって……」
その上お、おっぱいが丸見え……。
「あはは、夕立。あんまりがっついちゃダメだよ?」
それに、駆逐艦は層が薄いからね。有望な子は囲っときたいじゃないか。そう言いながら時雨はウインク。時雨さん。あなたそういうキャラでしたっけ……あぁ。
ま、まあ。流れ的にはこれ了承する奴だよね? 了承した上でお試しで艦隊を組んでみて、それから仲間になるのを決める的な。
「じゃ、じゃあ。よろしくおねが――――」
「――――待つのでやがります」
と、俺の声を遮る声。
「あれ、丹陽さん?」
いつの間にか後ろに丹陽さん。いつにない厳しい面持ちで改二の二人を睨んでいる。え、すごい怖いんだけど、なにこれ。
「せっかく時津風にオファーが来たと思ったら、『港湾駆逐艦組合』の狂犬二匹でやがりますか」
「夕立は犬じゃないっぽい!」
「……
喧嘩腰には喧嘩腰。なんか急に険悪なムード。
「……どうせ駆逐隊を組むんでやがりましょう? 駆逐隊の僚艦はこの丹陽で決まってるのでやがります」
「まあ、そういうならいいけどさ。いくよ夕立」
「ぽーい……」
「……ったく。油断も隙もないのでやがります」
「と、というか。よかったの? あれ」
オファーってのはつまり、
「『港湾駆逐艦組合』は水雷戦特化のクランでやがります。水雷戦なら、別にこの二人でも出来るのです。
そう言う丹陽さん。そういえば、何時だったか俺が大手の
「トライアスロンの成績も良かったやがりますのに、来るオファーは水雷系だけ……やっぱり
ぶつぶつと丹陽さん。そんなに
「でもさ。私は丹陽さんと駆逐隊を組むだけでも楽しいよ?」
「……さ、さいでやがりますか」
「あ、紅くなった! 照れた? ねぇ照れた??」
それに、この丹陽さんとの関係、居心地が良くて俺は気に入ってたりもするのだ。
だから、このままでもいいかなぁ。なんて――――
「ねぇ。雪風、あんたまだこんなコトしてるの?」
――――そう、思っていたかったのだけれど。