止めどなく降り注ぐ砲弾を必死に躱す。回避の癖が読まれているのは分かった。なら方法は一つしかない。回避のタイミングをずらし、その読みを無効化すること。心の中で数を数え、その分だけ回避を我慢する。
はっきり言って、余裕はない。
でも、こっちだって負けてはいられない。連装砲を取り出して応射、撃って撃って撃ちまくる。牽制程度にならないのは知っているけれど、そうでもしなければ天津風が攻撃の手を緩めることはないだろう。
海が破裂する。水柱が立つ。対面の突撃――つまり反航戦――はどちらからとでもなく同航戦に移行し、気づけば互いに距離を測りあいながらの撃ち合いに変わっていた。過度に近づこうとすれば遠のかれ、逃げようとすれば追ってくる……そんな感じの、撃ち合い。
でも、これはただの演習ではないのだ。丹陽さんが何者なのか、丹陽さんがどんな過去を持つのか、それが知れるまたとないチャンスなのだ。
だから、俺は天津風に聞く。聞かなくちゃいけない。
「四隻だけの
普通、
で、となると四隻の
というかそもそも、四隻しかいないってことは四人のプレイヤーが同時にログインしていないといけない訳で……いくら思考加速で現実の三十倍長くプレイできるといっても、そんな風に皆揃うなんて出来るのだろうか?
《そのままの意味よ。所属艦娘四隻、四人だけの小さな
砲弾の応酬の一瞬の間を縫って、天津風は答えてくれる。撃ち合いだけで精一杯の俺とは違って、その問答には余裕すら感じられた。
「よく分かんないけどっ……!」
その瞬間、気付く。水飛沫を立てる水面に紛れて――――雷跡。
そんな! 天津風が魚雷を放った様子なんて無かったのに!
流石に避けられない。丹陽さんは「飛べば避けられるのでやがります」とか訳わかんないこと言うけど、今私たち30ノット……車で言うなら時速50キロとか余裕で出てるからね? 車道を猛スピードで走る車の上で跳んだりはねたり出来るかっての!
「なら……こうだっ!」
咄嗟の判断で弾種切り替え、この前ゲットした
変更するのは徹甲弾から対空弾へ、一瞬ホップした調定画面から急いで「爆発距離:0」を選んで、次の瞬間
爆発距離が0ということはすぐに爆発するということで、海へと放った対空砲は即座に炸裂。俺の目の前に巨大な水柱が立った。
もちろん、至近弾の判定が出てダメージが入る。蓄積したダメージはついに小破へと突入してしまった。
なぜそんなことをしたかって? そりゃ「
水柱は水中で対空弾頭が破裂した証拠。そのエネルギーは海を震えさせ、こちらへと向かってくる魚雷にも衝撃を与える。
……そして、予想通りにさっきの水柱よりも巨大な水柱、そして耳を震わせる轟音。
《ふぅん。やるじゃない。良い判断ね》
耳鳴りの後には、どこか満足げな表情で俺に主砲を向けてくる天津風の姿があった。
「……でもまあ、負けますよねー」
うん。知ってた、勝てるわけがない。いや勝てるわけねーよ! 勝てるかボケェ!!
だってさぁ、アレだよ?! いきなり回避癖見切って回避した先に砲弾落としてくるヒトだよ? ランダム回避にしたって限界あるし、そもそも至近距離での撃ち合いとか負けるしか無いじゃん!
最後にヤケクソで放った魚雷は案の定躱されるしさぁ……いやホント、フィギュアスケートかなにかみたいな綺麗な舞でしたよ。見えなかったのが残念。
「ま。初風じゃないけどさ、なかなか見所あるじゃない? どーりで雪風が可愛がるわけね」
「は、はぁ」
というわけで感想戦という名の反省会です。はい。今回の演習は頑張ったと思うんだけどなぁ。でも、なんだかんだと課題とか教えてくれるあたり、天津風も優しいと思う。
「時津風はさ、雪風と普段何してるの?」
「え……一緒に出撃したり、他の艦娘と野良艦隊つくったり……」
野良艦隊というのは、さっきから話題にしている
駆逐艦は射程の短さや索敵能力の低さからあんまり人気はないというけれど、それでも対潜戦に特化し、本領の夜戦では爆発的な火力を誇る。
つまりまあ、随伴艦としての需要はない訳ではないのだ。問題は「ない訳ではない」というだけであってあるかというと微妙というところ。だって同じことは軽巡でも出来るじゃん。それに、軽巡なら一部の艦娘を除いて偵察機が積めるし……。
だからこそ、駆逐艦でプレイするなら野良艦隊への参加が一番手っ取り早い。数合わせの意味合いが強くても参加してしまえばこっちのものだし。
「そう。野良艦隊とか……やっぱりソロがメインなのね」
どこかため息交じりに言う天津風。そりゃだって
そんなこんなで反省会は続いていく。ひとしきりの話を終えると、天津風も俺も話すべき話題が無くなってしまう。
思えば、どうして天津風は俺に会いに来たんだろう。なにか聞きたいことがあったのだろうか。
それとも、俺がなにか教えに来てくれた……いやないか、天津風はPC、つまりプレイヤーキャラであって、どこかでVR艦これをプレイしているプレイヤーの思うがままに行動している。
イベントに必要な情報とか、クリアの条件とかを教えてくれる
「……なんか、押しつけがましくなっちゃたわね」
「いやそんな。全然助かったよ。色々参考になったし」
「なら、いいんだけど」
これは解散の流れだろうなぁ。そう思いながら、天津風を見る。
今の俺には、聞きたいことが一つあった。
「ね、ねぇ……」
「なに?」
「その……」
でも、そんなこと聞いてしまっていいんだろうか。
「その……また、今度演習をしてもらっても、いいかな?」
無理だ。聞けるわけがない。
その日の俺は、そのまま天津風と別れた。
★ ★ ★
誰かの叫びが無線に乗った。
《チクショウ! だから『タバ作戦』なんてフラグしか立たねぇ作戦名は止めろって言ったんだ!!》
あ、こんにちは。時津風です。突然ですが
このゲーム。現実の地形データを利用したタイプのガンシューティングゲームでして、まあとりあえず歩兵装備で撃ち合うゲームなんですよ。市町村単位で国が作れて、天下統一を目指す的なゲームです。ガッチガチの
ちなみに現在は俺の所属国家である大東京共栄圏が滅びる瞬間でございます。ついに最終防衛線である多摩川を支える対空砲陣地が破壊され、待ってましたと言わんばかりに頭上を通り過ぎていく戦闘ヘリ。東海道同盟にはあんな高コストの武器をたくさん揃えるだけのポイントがあると考えれば、まあいくら23区を保持してる大東京でも勝てないですよ。
「あーあ。負けちゃったなぁ……」
うん。まあ、あんまり悔しくはないんだよね。別に愛着がないわけじゃないよ? VR艦これを始めるまでは町田遠征とかネズミ帝国征伐とか西へ東へ東京の兵士として戦いましたよ?
でもまあ、最近なおざりになってたからなぁ……ログインもしてなかったし。今日の東海道同盟との最終決戦であるタバ作戦――とある映画で出てくる作戦が元ネタらしい――も、人手が足りないから参加してくれって頼まれたから参加した訳で。
そしてまあ、引退気味だった俺にまで声をかけるほどヒトがいない状況で、勝てるわけはもちろんない訳で。
「おいTaisei。敗戦おめでとう」
「え……あぁうん俺のことか。というか久しぶりねMASAKI」
あ、Taiseiってのは俺のユーザーID。VR艦これでは識別のためにランダム生成される艦娘IDを使うことはあってもユーザーIDを明かすことはないから、俺は最近ずっと「時津風」だったんだよね。
そういう訳で「Taisei」と呼ばれるのはかなり久しぶりになる。なのでつい反応が遅れてしまった。ごめんよMASAKI。
……というか敗戦おめでとうってなんだよ。
「いや。これで清々しく新しい国家に移籍できるなぁと思ってよ。お前はどうすんの? やっぱ東海道同盟かね?」
「うーん……でも、俺は大東京にしか所属したことしかないし、丁度滅んだからこれが『止め時』かなぁ」
そう言うと少し残念そうな……いや、フルフェイスマスク被ってるから表情は見せないんだけど、MASAKIは残念そうにいう。艦これを始める前はいつもバディを組んでたものね……残念がる気持ちも分かる。
でもゲーマーの性か、結局ゲームに飽きてしまったら仕方ないんだよね。
「……そうか。最近全然オンにならなかったけど、リアルが忙しくなった的な?」
「あーその。新しいゲームにハマっちゃってさ」
「なに?」
え、聞いちゃう? 聞いちゃうの?? アレだよ? この世界では屈強な兵士やってる俺だけど、控えめにいって向こうだと女の子だよ?
「えーと……その、艦隊これくしょんというゲームでして」
ところがその次にMASAKIが放つ一言に、俺はびっくり仰天どころか宇宙にまでぶっ飛びそうになる。
★ ★ ★
「丹陽さん丹陽さん丹陽さん!!!!!!!」
「……なんでやがりますか」
思いっっっきり面倒くさそうな顔をする丹陽さん。しかしそんなこと構っていられない。
「
「……なにを出し抜けに」
「いやね! この前聞いたの!! 別ゲームの友達に!!! そしたら――――べぶぅ!!」
痛い。ジンジンするし目が回る。丹陽さんに思いっきり叩かれたのだ。
「分かった。分かったでやがりますから、とりあえず部屋に移動しやがるのです……少しは自重しやがってください」
「あ……ごめんなさい」
そう言いながら鬱陶しそうにメニュー画面を開いて何かしらを操作、俺の目の前にメッセージが表れる。部屋への招待画面だ。
まあ部屋というか
という訳で移動。丹陽さんの部屋は最低限の調度品が揃えられているだけだけど、対する俺の部屋なんて整理のせの字もないから部屋の体裁を保っているのは羨ましい。
「……で、なにを吹き込まれたんでやがりますか」
目の前にはお茶。丹陽さんがたった今淹れてくれたお茶。落ち着けって意味なのは分かる。
うん。大丈夫……ここに移動する前の周囲の目線で落ち着いたよ……流石にいつもの集合場所――つまり掲示板前――で叫ぶ内容じゃなかったね。他のヒトもいるってのに。
「えーとですね……VR艦これは、その……かなり本格的な……」
「S〇Xでやがりますか」
「セッ……!」
な、なんでそんなはっきり言っちゃうかなぁ!
「公衆の面前でエッチとか言ってた艦娘はどこの誰でやがりますか?」
いや、それはまあ、反省していますよ……はい。項垂れる俺に、丹陽さんはお茶を啜る。
いやね。ほら、初めてプレイした時にもおっぱい触って変な感触はあったんだよね。うん実際。でもほら、なんか
だからね。考えないようにしてたんだよ。俺は。
でもほら。少年よ大志を抱けって言ってたじゃん? ただし性的な意味でって付け加えるらしい。偉いヒトがそんなこと言うわけないし、流石に後半のはギャグだと思いたいけど。
とにもかくにも、メッチャ気になる。気になってしまったのだから仕方が無い。
「……で、どうなの?」
「めげないでやがりますね」
ま、アンタらしいでやがりますけど。付け加える丹陽さん。なんだとぅ。
「いいでやがりますよ。メニュー画面を出しやがってください」
「……えなに。本当に出来るの?」
丹陽さんの眼を思わず見てしまう。
えなに、これから始まっちゃう的な??
「……」
丹陽さんの剣呑な眼。思わず引き下がりそうになる。いや、いやね。俺はその、知らないんですよなにも。なんといいますか、その、ほらね? ね?
どうなるんだろう。俺、まだ