結論から言えば、俺はヘタレだった。
「はぁ――――――――――――――そんな覚悟で聞きやがるんじゃねーですよ」
「……す、すみません」
気になることがあるとすぐに突っ込んでしまうのは悪いクセだ、というのを今日は身をもって体験した。
ことの発端はこのゲーム――つまり、俺が今どっぷりハマり込んでいるVR艦これというゲーム――でその、え、えっちが出来ると聞いたのだ。分かるよね? なにがいいたいか? ゲーム内でえっちするなんて、そんなのほら、なんというかさ。しかも今の俺って中身はともかくゲーム内での外見って小学生かも怪しい感じの子供だし。
それでですよ。丹陽さんに単刀直入に聞いたんですよ。出来るのかって。
そしたら、その、なんでだか「えっちをしたい」と解釈されたみたいで……丹陽さんに迫られて……いや、迫られてというか、ぐいっと近づかれて、その……。
とりあえず、丹陽さんに呆れられてます。はい。
「全く……分からないでやがりますね。なんだってそんなことに興味を持ったんでやがりますか?」
「えっと……MASAYAさん、あ、別ゲームの友達なんだけど、このヒトがVR艦これは『ゆりえっち』するための場所だって……」
「……」
押し黙る丹陽さん。うーん、なんというか。不味いことを言ってしまっただろうか。いや、うん。一応ね、言葉の意味は調べたのよ。「ゆり」ってのは女の子同士の恋のこと。それどうなんだろう、生産性なくない? 恋ってほら、男の子と女の子がするものじゃん?
「……まあ。そういう認識がされやがってるのは事実でやがりますけどね。実際、性別規制なしでプレイ出来るゲームはそこまで多くないのでやがりますし」
「えぇと……」
なんだか不機嫌そうだ。まあそれは分かる。だって戦争ゲームをエッチするゲームって言われたら誰だって嫌だよねぇ……。
「……だからこそ人気があるんでやがりますけど」
ところが、丹陽さんは聞こえるか聞こえないかの声でぼそり。
え。もしかして丹陽さんそーいう趣味だったりするの?
いやそりゃね。丹陽さんも俺も見た目はカワイイ女の子ですよ。だから俺もね、ついつい丹陽さんに抱き着いたりしちゃうのよ。そういうこともあるよ。柔らかいし。暖かいし。
……もしかして、そういう俺の軽はずみな行動がさっきのアレに繋がっちゃったのかな?
だとしたらなんというか……とっても申し訳ない。
「ま。外野の声は気にしたら負けでやがりますよ。で? 知りたいんでやがりますか? 知りたくないんでやがりますか?」
丹陽さんは俺にそう聞いてくる。さっきみたいな迫ってくる感じではなく、落ち着いた調子で、いつもみたいに冷静沈着な瞳で。
もしかして……
な、なんか悔しい。そりゃあさ、きっと丹陽さんはプレイ歴も俺よりずっと長くてさ、リアルでも俺より年上なんだろうけどさ。だからってさっきみたいにからかうことないじゃん。正直思いっきり身の危険感じたんだからね? 死ぬかと思ったよホント。
丹陽さんとはいえネットの知り合いだもんね……もっと気をつけないといけないよね……。
そんなこんなでずっと一人反省会を続けている俺だったが、やがて丹陽さんが呆れたようにもう一度言った。
「……なに黙ってやがるんですか。えっちなこと、知りたいんでやがりますか?」
「………………しりたい」
そりゃまあ。知りたいよ。うん。
★ ★ ★
「まず常識的に考えて、VRゲームは
「まあ。それはそうですよね」
「で、やがりますから、この丹陽がこうやって脱いでも……」
「まってまってまってぇえええええええええ!」
いきなり意味が分からないことを言い始める丹陽さん。いや、脈絡がないといったほうが正解か。
「止めるなでやがります。ものはやって見せた方が早いのでやがりますよ」
「いや! 意味わかんないし、というか誰も求めてない!」
「えっちなことが気にやがるんでしょう?」
「だからって、おかしいでしょ!」
「この丹陽の身体じゃ不満でやがりますか」
「そんなこと言ってないよ!」
「じゃあ問題ないでやがりますね」
なんで! なんで! なんで脱いでるの!? ねぇなんの躊躇いもなく下を脱がないでよ! あなたの服装って
慌てて手で目を覆う。そういうの誰も求めてないって!
「……って、あれ?」
掌の隙間から見た丹陽さん。ところが不思議なことに、俺が想像したような風景は広がってはいなかった。
そこには――――――光があった。下半身のごく一部にだけ。
これあれだ。深夜アニメとかでやけに光が濃い奴だ。あと湯煙がやけに濃かったり円盤になると盛大に修正される奴だ。
「ほら。心配することはないでしょう? こういう風に、ちゃんと隠されるのでやがりますよ」
「でもお風呂の時はそんなこと……」
そこまでいいかけて、思う。そうだっただろうか。自分の身体に変な光が被っていたとかそういうのはなかったけれど……。
「公衆浴場は
「……な、なるほど」
「アンタが随分無防備に晒しやがった「あの時」も肝心な部分は辛うじて
「わ、悪かったですね……」
さらっと黒歴史をほじくり返す丹陽さん。このヒトアレだよね、絶対根に持つしいつまでもネチネチ突いてくるタイプだよね。
「ま、そんな
「ぬ、抜け道……」
なんだか悪いことをするようないいかた……いや、実際悪いことか。だって
★ ★ ★
「……で、上から三つ下のを選びやがってください」
「…………これ、ですか」
そういうことでやがります。丹陽さんの非常に長い長い誘導に従ってたどり着いたのはその項目。いついつの電郵省令第何号云々かんぬんについてのなんとやら……メニュー画面の選択肢で急に長ったらしくなったこれが、所謂『倫理コード』の解除ボタンだというのはよく分かる。
倫理コードというのはとどのつまり、いろいろイケないことが出来るようになっちゃうよ。というアレである。VR艦これは
「これを解除しやがれば、アンタのいうようなことも出来るようになるのでやがります」
もちろん、自分自身のにも奥深くまで触れるようになるのでやがりますよ。そんなことを説明する丹陽さん。奥って、奥ってあれだよね。つまりその、女の子の大切なところの奥ってことだよね?
「……」
うん……丹陽さんは根っからの戦闘狂だと思ってたし俺の前ではそういう風に振る舞ってたけど、うん。これは丹陽さんに対する認識を改めた方がよさそうだ。本当に。
「ち、ちなみに……丹陽さんはこれ使ったりとかは……」
「別に」
「嘘だ。絶対嘘だ」
流石にここまで誘導しといて否定するのは無理があるでしょ、ちょっと。
そう思ったのだが、丹陽さんは否定した訳ではなかったようだ。
「昔の話でやがりますよ。今は全くでやがります」
「……」
また、
最近の丹陽さん、そう。俺が
いや、もしかしたら俺が意識するようになったから気付くようになっただけで、丹陽さんは言ってたのかも知れないけれど……ともかく、丹陽さんはその「昔の話」というのを聞かせてくれたことは一度もないのだった。
なんとも、言えない雰囲気になりそうなので、俺は話題逸らしも兼ねて丹陽さんに質問する。それは倫理コード解除の下に現れているコマンドについてだった。
「あぁ……それでやがりますか。
「え……じゃあ、えいっ」
すると浮かびあがったのは、今まで見たことのないメッセージ。
《『VR艦これ』を終了しますか?》
「え、えぇえええ?」
いやいや、なんでそうなるの。もちろん『No』を選択。いま目下プレイ中じゃん。すると丹陽さんは、にこりともせず言うのだ。
「終了画面が出たでやがりますでしょう?」
「うん。なんで?」
「それは当然、
現実での同意が必要……。あー知ってる知ってる。フルダイブVRって、なんか脳の神経かなんかを読み取るみたいなことをして、それをコンピューター上で再現するだけなんだってね。
だからそれは本人の思考じゃなくて本人の思考を限りなく正確に再現したものらしくて、だから現実ではありえない思考の加速なんかも出来るんだって、聞いたことがある。
で、その関係で課金の決済みたいな法的な責任が関わってくるものは、フルダイブ中ではなく現実で承認しないといけないって……じゃあこれは。
「課金画面?」
「なんでこんなまだるっこしい場所にあるんでやがりますか」
「まあそうだよね」
フルダイブのVR空間では個人の行動に法律を当てはめるのは難しいとされている。だから金銭の取り扱いが絡むゲーム内通貨とかは
とはいうけど、課金の場所は別にあったしなぁ。というかゲームを運営していく上で大切な課金がこんな分かりづらいところにあるわけがない。
「なら……これは……」
「損害の表現、そして反映設定でやがります」
それはわかりやすく言うならば、R18Gを許すかって話らしい。ゲームにおける小破や中破、そして大破に轟沈といった艦娘の損害は、普通HP制……つまり、どれだけ攻撃を受けたかのみで判定される。
ただ、設定によってはこれを細かい部位ごとのダメージ判定に切り替えることも出来るそうなのだ。つまり骨折とか、そういう判定もしてくれるらしい。例えば艤装で攻撃を受ければ
逆に言えば腕を盾代わりに攻撃を受け続ければ、HP制の時よりも多くの攻撃を受けても沈まない、ということになる。
もちろん、痛覚制限入ってるとはいえ痛いんだけどね。あとさっき言ったみたいに主機やられたら他のところが無傷でももう詰みだし、要はダメージをどうコントロールするか。そういうものなのだと思う。
で、まあ。その判定にもいくつかの段階がありまして……その最高バージョンが『リアリスティック』。部位ごとの損傷が如実に再現される鬼畜使用。腕に砲弾が当たった時に貫通判定が出ればまず間違いなく腕が消し飛び、胴体に当たれば良くて喀血。艤装損傷からの誘爆もあり得る……って、誰がそんな設定を使うんだ。それ。
「……というかさ。リアリスティックって『一発轟沈』もありえるんじゃ……」
例えばさ、頭に砲弾とか直撃したら気絶しただけでも絶対沈んじゃうじゃん。
「だからこそ、電郵省令に基づく同意ってやつが必要なんでやがりますね」
「つまり、一発轟沈に対する認証……ってこと?」
「それと、それに伴う
「……丹陽さん。この設定ってさ。必要なのかな?」
「『
忘れ去る権利って……あ、そういえばそういうのがあるとか公民の授業で言ってたな。フルダイブVRにおける消費者の云々。
「……忘れ去る。権利」
★ ★ ★
「天津風から聞いてるわよ。結構頑張ってるそうじゃない」
「は、はい……」
久しぶりに見るその艦娘。公衆浴場以来の顔合わせとなる陽炎型の艦娘は、俺のことをあの時と同じようにじっと見つめていた。
「どうしたの? 天津風の前では随分フランクに接していると聞いているわよ?」
「え……まあ、それは」
なんだかんだ。天津風とは週一くらいのペースで稽古をつけてもらうようになっていた。いくら俺だって毎日丹陽さんと行動しているわけではない。リアルの友人と艦隊を組んだりもするし、一緒に動くヒトがいなければ野良で活動したりする。
「ま、別にいいんだけどね。私はあなたと付き合いがあるわけでもないし。礼儀正しいのはいいことだし」
それで? わざわざ来たことだし、聞きたいことがあるんでしょ?
その通りだ。ずっと考えてたこと。初風さんなら、きっと知っているはずのこと。
「丹陽さん、ううん。雪風さんが
俺の質問を聞いた初風は、笑った。というよりか、微笑んだ。という方が適当だろうか。
「そうね……じゃあその前に」
―――――――何も知らなきゃ、それで良かったのかもしれない。
「第十六駆逐隊? 野良中華民国クンの古巣でしょ。知ってる知ってる」
「結構伝説的な
「そこのさ……時津風ってヒトは、どんな艦娘だったの?」
―――――――何も知らなくたって。それでいいはずなのだから。
「私の過去を嗅ぎ回ってるようでやがりますね」
「そ、そんなこと」
「忠告がいいでやがりますか? それとも警告がお望みですか?」
「……べ、別に。その」
「私は中華民国の駆逐艦。過去が必要でやがりますか?」
「天津風、わかんないよ。何があったの?」
「時津風。貴女はどっちを知りたいの? 昔の時津風? それとも……雪風のこと?」
「……なんで、アンタはそうやって……!」
「勝ったら、勝ったら認めてもらうから――――私が、
次章、
……さて皆さん。そんなこんなで駆逐艦戦記も2章を無事終えたわけですが……もちろん最大の問題にお気づきのことでしょう。本編の3-5編、これがどー考えても未完結以外の何者でもないんですよね。実際、翔鶴ねぇどこ行ったんだタイトル詐欺だ瑞鶴かわいいなど様々な意見が寄せられている訳でして……
白状しますと、情報不足ではあったんです。このVR艦これというゲームを描く作品として読者に提供するべき情報は、不足することはあれど満足することは決してありません。
この
もう、聡明なる読者の皆様方はお察しかと思います。
3-5編《後編》”鶴の矜持”
ご期待ください。