「金剛型の妹分、比叡です! 普段は
元気いっぱいの声。清潔さの象徴とも言える白に真紅の装飾が踊る装飾。健康的な小麦色の肌。
「と、言うわけで助っ人の比叡お姉様です。『Tea Party』については、皆さんご存じでしょうけど」
「まあそりゃ。水上打撃部隊系の
とりあえずおもむろに頷いておきます。
翔鶴氏の『代わり』として榛名氏が連れてきたのは、長い付き合いだという比叡氏。「榛名の相談にも乗ってくれて、さらにこうして助っ人にも入ってくれるお姉様はとってもお優しい方だと思います。榛名、幸せです!」というのは榛名氏の談ではありますが……つまり比叡氏も榛名氏の被害者ということなのでしょうか。
「とにかく。私たちは今月もしっかり北方作戦にトドメを刺さなければなりません。だからこそ比叡お姉様をお呼びしたのです」
「うんうん、大丈夫。お姉ちゃんちゃんと分かってるよ。ところでさ榛名……そろそろ、降りてもいい?」
「いいえだめです。比叡お姉様のふくよかな
「えぇ……」
「もしかして榛名のお膝は、お姉様のお気に召しませんでしたか……? でしたら榛名!!」
「わー! わかったわかったよ! いいお膝です! オネエチャンウレシイ!!!」
まあ、そうですよね。やっぱり被害者ですよね。分かってましたよ青葉。決して一瞬たりとも比叡氏が榛名氏のお膝の上じゃないとヤダヤダな方だなんて思いませんでしたよ。ええもちろんですとも。
一応状況だけ説明しておきますと。はい、比叡氏が榛名氏の膝の上に座っています。比叡氏と榛名氏の背丈はほとんど同じですから、青葉からは榛名氏のお顔を見ることは出来ません。まあ、きっと楽しそうな顔をしているのでしょう。
「さて……こんな比叡お姉様ですけれど、実力は折り紙付きです」
「こんなって酷くない!? ねぇ!」
そう反論する比叡氏ですが、榛名氏はどこ吹く風。顔は見えませんけど。
「ご安心ください。青葉、分かってますから」
「ホントに……?」
「えぇ、本当です」
というのもですね。榛名氏が以前所属していた
そこからわざわざ引っこ抜いてきたわけですから。そりゃもう一騎当千、いえ一隻当千ですしょうとも。しかも比叡氏はそこのNo.2! 榛名氏のコネには、流石の青葉も舌を巻かされます。
「では作戦についてご説明します。敵の主力艦隊にさえ取り付いてしまえば勝利は確実です。そのためには――――」
★ ★ ★
鏡の前に立つ。この身体で身支度をするのはもう慣れたもので、気づけば両手が髪型を整えてしまっていた。深緑のツインテール。いつもなら三回に一回は翔鶴ねぇが結ってくれて、自分で結ったときは癖でちょっとズレがちな右のを翔鶴ねぇが直してくれるんだよね。
バランスを鏡で確認して。ちょっと直す。だって、完璧じゃない「瑞鶴」で翔鶴ねぇに会いたくないんだもの。
「翔鶴ねぇ。このままじゃ瑞鶴、癖が直っちゃうよ?」
そんなこと言ったって目の前に眠る私の姉が目を覚ますわけではない。
「……榛名さんがね。
姉は応援してくれるだろうか。
「いつだったかさ……翔鶴ねぇは、私が世界でたったひとりの妹だって、そう言ってくれたよね」
二房の髪を結わえるリボンを、そっと外す。わざとらしい演技だと。そう笑われるかもしれない。でも、言葉にすればそれが本物になるような気がするし、不思議と本当のことのように思えてくるのだ。
世界で唯一。たったひとり。その言葉は、きっと嘘じゃなかった。待っても待っても目覚めない姉がそう言ったのだ。たったひとりの妹が信じなくて、誰が信じるというのか。
重力に惹かれて髪は落ちる。透き通るような髪は、下ろしてしまえばまるで姉のようだ。
「……まさか、こんな形で使うことになるなんて思わなかったけどなぁ」
決戦仕様、などと安い文句が飾られた陣羽織。課金アイテムの一種に過ぎない装束も、ここまでくればまるでこの瞬間のために誂えられたかのよう。こんな
「行ってくるね。翔鶴ねぇ――――瑞鶴
★ ★ ★
「いいですか皆さん。前回私たちが不覚を取った原因はもう分かっています」
私たちは一路、北方AL海域へと向かう。
「電探を完全装備していた私たちの
「覚えてる覚えてるー。台風が追加されたんだよねー」
それから早く台風の中で戦いたいなーと続けるのは時津風ちゃん。この子本当にそう思ってそうだから怖い。
「えぇ、確か。天候関連でしたっけ?」
「そうですそうです。台風を始めとして気象条件がいくつか追加、各
そう説明を続けていく榛名さん。その間にも艦隊は単縦陣を組んでどんどん進む。もうすっかり寒い。この前来たときは呑気に翔鶴ねぇと温めあってたりしていたっけ。
「そうです。その気象条件の一つ……オーロラです」
「オーロラ……まさか」
息を呑んだ北上さん。榛名さんは小さく頷く。
「そういうことです。
電探。現代ではレーダーという名前で親しまれているこの装置は、VR艦これの中では敵艦隊や敵艦載機の接近を知らせてくれる便利なアイテム。というか、思考加速のおかげで長時間の出撃が可能になったこのゲームでは必須アイテムだ。
「電探が使えなくなるなんて……」
「あいえ、使えなくなるわけではないようです。一定時間ランダムで電磁波が発生しますけれど、再起動すれば使えるみたいですよ?」
「あれ? そうなんですか?」
「ええ、つまり定期的に動作チェックをしてみれば問題は無いわけです」
これについては、
「まあとにかく青葉達は、お互い電探がちゃんと動いているのかどうか確かめ合いながら進めばいいわけですね。分かりましたか?
えっ……。まさかそんな風に言われるとは思ってなかったわけで。そりゃ、確かに青葉さんたちが参加してた打ち合わせには参加しなかったけれども。
「な、なんかごめんね?」
「いえいえ、良いんです……その衣装、似合ってますよ?」
★ ☆ ★
夢というのには、色々なものがある。夢というのは不可思議なもので、誰も望んでいないような驚きびっくりな結果や過程。もしくはオチとも呼べないような意味不明でかつ中途半端な終わり方をすることもある。
だというのに、夢の私は常々その終わり方に納得するし、夢の中で展開される諸法則が自然の摂理からいかに離れた代物であろうとそれを受け入れてしまう。本当に夢というのは不思議なものだ。
今日は、夢を見た。
愛おしくて、忘れられないような夢。
しかし、夢というのは忘れてしまうものだ。そう、それこそ起きて瞼を二、三回開けたり閉じたりすれば消えてしまう。まるで掌からこぼれ落ちる滴のように。
だとしても、それを惜しんではならない。夢の存在意義は記憶の整理にある。脳神経工学を専攻する学生にあるまじき非科学的な比喩で申し訳ないが、夢というのは一杯になった記憶の本棚をひっくり返し、大切な
ありとあらゆる記憶をごちゃごちゃにして確認していくから、当然その副産物である夢は支離滅裂なものになる。当たり前の話だ。
今日は、夢を見た。
夢の中の私が、どんな姿で、どんな人物だったかは思い出せない。普段通りのしがない大学院生かもしれないし、案外どこかの宰相サマかもしれない。
ただ、とても大切な誰かを見守る。ただそれだけの夢だった。
きっと明日も、夢を見る。
そう。私は――――あの子を、あの子を。
「翔鶴ねぇ、見てて。瑞鶴、しっかりやってくるからね」
守らなきゃいけないのに。