翔鶴ねぇ☆オンライン!   作:帝都造営

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お久しぶりです。


駆逐艦戦記3-1

 定期考査も終わり、面倒な夏期講習も終わった。いよいよ夏本番というヤツで、つまり冷房の効いた部屋で朝から晩までゲーム三昧!

 

 だったはずなのだけれど。

 

「しかし……まさかプールが閉鎖してるとは思わなかったぞ……」

 

「水温が高すぎるって書いてあったけど、いったいどうなってるんだこの夏……」

 

 そう。もうお察しのことだろう。俺はプールに来ていた。小学生の集まりならともかく、この年でしかも男子校でプールと来た。

 なんのポロリも望めないプールサイドとなっては泳ぐ前からやる気も失せるものだけれど、家の冷房を付け替えるとかで俺の安息の場所はないのである。流石に暑い部屋でゲームをやってるうちに熱中症とか洒落にならないので、こうして親友のこいつを誘ってきたのだけれど……まさか、プールすらも暑さにやられているとは。

 

「仕方がない。図書館にでも行こう」

 

「そうだね、それにしても……あづい」

 

「言うな」

 

 騒がしいばかりの蝉の鳴き声。そらを埋め尽くす青。残された雲が力強く空へと伸びていく。絵に描いたような夏。

 

「暑い……というか熱い」

 

「二度も言わないで、余計に暑くなる」

 

 そう、俺たちは真っ赤な太陽の下にいる。太陽は熱い。あまりに熱い。つまり暑い。アスファルトは燃えてるんじゃないかと疑うほどの温度。

 

「とける……海……いきたい……」

 

 もちろん、その“海”というのは電子の海。時代を席巻しているといっても過言ではないVRゲーム『艦隊これくしょん』のこと。現実の海はこの小さな島国と世界を繋ぎ、インターネットもまた世界を繋いだ。

 

「図書館のネットブース、空いてるかなぁ」

 

「いや、無理だろ……あそこ人気だし」

 

「だよなぁ……」

 

 ネットの仮想空間に構築される電子の海は、いつだって快適。とはいえ貧弱な携帯回線でフルダイブ型のゲームにログインするのは躊躇われるもの。痛覚も再現できる全体感型のゲームはどうしても通信量が多くなるから、携帯回線を使った日にはたちまち速度制限が掛かるだろう。それは困る。

 

「……ん? というか、お前もしかしてVR艦これやろうとしてた?」

 

「え。そうだけれど」

 

 こいつは俺が『VR艦隊これくしょん』にどハマりしていることを知っている筈。なんで当たり前のことを聞くのだろう。

 ところが俺の親友は首をぶんぶんと振る。

 

「いやいや。それは不味いだろ、あれ一応成人向けゲームだぞ」

 

「え、そうなの……あ、いや。そうか」

 

 そういえば、あの世界(ゲーム)って()()()()()()とかも出来るんだったな……確かに公共施設でそういうのにアクセスするのは不味いかもしれない。

 

「でも、別に俺は駆逐艦乗り(すいらいや)プレーしかしないし」

 

 極めて自由度の高いゲームであるVR艦これというのは、艦娘(プレイヤー)ごとにプレイスタイルが大きく分かれる。大規模作戦(イベント)攻略に血道をあげる攻略系や、艦隊(クラン)運営を楽しむ提督系、味覚エンジンやNPCの言動などをひたすらに研究する求道系など。自らを「遊び人(ホモ・ルーデンス)」と名乗る自由奔放な艦娘(プレイヤー)だっている。

 そんな中で、どうしても「操作可能艦(プレイアブル・キャラ)は全員女の子」という前提から「そういう遊び」に興じるヒトはいなくはないわけで。ただ俺はそういうことをするためにプレイしている訳ではない。

 

「あ、その顔は信じてないな???」

 

「いや。別に? シンジテルヨ、ウン」

 

「絶対信じてない!」

 

 いやまあ確かに、艦娘はみんな可愛いし「自分の艦」に対する思い入れは半端なモノではないとは思う。でもそれは、もう一人の自分というか家族に対する思い入れであって、別に時津風の身体をどうこうしたいとかロリコンとかそういう話ではないのだ。

 

「とにかく。俺はただ戦うだけだし。というか倫理コードをオフにしておけば済む話じゃん」

 

 公共の空間でわいせつ行為はよくない。なら、それをしなければいい。

 ところが、この俺の鉄壁の理論に親友は首を傾げる。

 

「いや。お前、そもそもなんでVR艦これが成人向けなのか知らないのか?」

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 

「……いいですか? 向こうの指揮艦は綾波さんです」

 

 そう言ったのは朝潮型の一番艦である朝潮さん。本家(げんさく)通りの真面目なヒトで、今回の戦隊(パーティー)において司令艦(リーダー)を務めてくれている。海の向こうを睨んだままに言う彼女は、その『綾波さん』というのを随分と警戒しているようだった。

 

「綾波さんはとにかく近接戦闘を得意とします。私たちも近接戦闘で劣るわけでは決してありませんが、戦いの常道とは相手の得意分野に乗らないことです」

 

 私たち駆逐艦乗り(すいらいや)というのは、たいてい近接戦闘を好む傾向がある。まあそういうのが好きな艦娘(プレイヤー)集団だとばっさり切り捨ててもいいのだけれど、ここには駆逐艦という艦娘の特性、さらにいえば限界が関係しているというべきだろう。

 

 駆逐艦は元来、武装の都合で射程が短い。観測射撃モードなら水平線の向こうにだって撃てる戦艦や巡洋艦とは違い、駆逐艦の砲撃は目の前の敵艦を撃つことしか出来ない。威力も劣るし、優っているのは速射性くらいなものだと思う。

そういう訳だから、駆逐艦としての強みというのは、小柄ゆえに誇る高い機動力と速射性の高い主砲を軸に据えた機動戦となる訳で……結果、近接戦闘が多くなるという訳だ。

 

 だからまあ、決して俺は近接戦闘が好きな訳ではないのだけれど……。

 

「ハイッ、大潮意見具申!」

 

「なんですか。大潮?」

 

 本家(げんさく)と同じように元気いっぱいに手をあげる大潮さん。なんだろうね、やっぱり「なりきる」艦娘(プレイヤー)って多いんだよね。勿論俺だってロールプレイは一応する方。だってこんな可愛い子(ときつかぜ)が「俺」とか言ってたらどうかと思うじゃない? そういうことだ。

 でもまあ、ロールプレイをしていても所謂「中の人」が飛び出すことは往々にしてあるわけで。

 

「ハイッ、綾波さんの先手を取って突撃します!」

 

 うーん……この大潮さん。さっきの朝潮さんの話をちゃんと聞いていたのだろうか。

 言ってたよね「相手の得意な近接戦をする必要なない」って。突撃したら近接戦になっちゃうじゃん。それともあれなの? ヒトの話を聞かないというロールプレイなの? これは指摘した方がいいのだろうか。

 まあ朝潮さんならきっと却下するだろう。このヒトが求めているのは突撃以外の戦術のはずだし。そう俺が朝潮さんを見やると、彼女は顎に手を当てて考える素振り。

 

「うーん。やはり突撃ですか」

 

「……え?」

 

 待って待って。それ考えることなの? 即却下するべきじゃないの?

 流石にこのまま突撃になると大変な気がするので、俺は口を挟むことにする。正直、朝潮さん達は初対面で、こっちから飛び入り参加させてもらってる都合があるからあんまり口出しとかしたくないんだけど……。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい。突撃なんてしたら綾波さんの思う壺なんじゃないですか?」

 

「時津風さんもそう思いますか!」

 

 目を輝かせるように食いついてくる朝潮さん。完全に気圧された俺はうんうんと頷くだけ。距離感が分からないのって辛いよね。俺は別にコミュ障ってわけじゃないけれど、流石に初対面の相手に時津風(ロールプレイ)を突き通せるほどの度胸はなかった。

 

「これは難しい問題ですね。荒潮、満潮。貴女たちはどう思いますか?」

 

 どうやら朝潮さんは他のヒトにも意見を聞くらしい。まあ突撃しても勝てる保証はないし、ここは何か妙案を出してもらう事を期待したい。

 ……したかったのだけれど。

 

「あらあら……突撃しちゃうのぉ?」

 

「ふん、どーせ最後は突撃するんでしょ」

 

ところが、困ったというか楽しげに主砲を振り上げる荒潮さん。呆れという言葉を擬人化したような満潮さん。というか満潮さんは口元が歪んでません?

 

「え。ちょっと待って下さい本気で突撃するんですか?」

 

 慌てて回り……というか複縦陣を組む面々を見回す俺。今回は朝潮さん達四隻の戦隊(パーティー)ゲストとして参加させて貰っている立場なので決定権はない。

 けれど、だけれども。これはどうかと思うのだ。

 

「それでは単縦陣を組んで下さい! 突撃よーい!」

 

「聞いちゃいないよ!」

 

 叫びたくもなるよ、だって誰も聞いていないんだもの。するすると速度を調整しながら単縦陣へと組み替えられていく。

 

「あらあら時津風ちゃん? 遅れてるわよぉ?」

 

「えっ」

 

 するーと寄ってきた荒潮さん。視界の後ろに居たこともあって気付いたときにはすぐ間近。

 

「わっ、ぶつかるッ!?」

 

「あぶなーい。ふふふ♪」

 

 そう言いながら衝突……をしないように荒潮さんは俺の腕を掴む。それはもう、やわらかく絡まるように。丁度イチャイチャするカップル(リア充爆発しろ)がよくやる感じに腕を抱きしめてきたのだ。

 

「え。あのちょっと」

 

 近いですって。そんな言葉は口から出ない。しかもなんか良い匂いするし。五感を再現するのがフルダイブVRとはいえ、こんな匂いまで再現できるのか……いや、現実逃避している場合じゃないよねうん。離れようとしても、荒潮さんはぴったりくっついて離れない。そうして俺の小さな胸に手を当てると、底なし沼のような笑みを浮かべた。

 

「心臓がどきどきしてるわねぇ?」

 

「いや……! そら、そうですよ!」

 

 だって、衝突寸前からの急転直下なこの展開だよ??? 驚くなって方が無理があるじゃん? しかもなんか良い匂いするし!

 

「大丈夫よ、安心して?」

 

 いや、安心もなにも貴女のせいなんですがね荒潮さん。そんな抵抗を俺が見せるまもなく、荒潮さんは口元を耳に寄せる。ふぅっと吐かれた温い息が、髪の毛を撫でる。

 

「痛いのは最初だけ、慣れればすぐに楽しめるようになるわよぉ?」

 

「いやそれは誤解を生みますって!」

 

 そういうことではないでしょ?! 俺の抗議も聞かず、頑張ってねぇと荒潮さんは離れていく。

 

「ちょっと!? 荒潮さん? 荒潮さーん!」

 

「うふふふふ~♪」

 

 いやいや。じゃんけんポンのお姉さんじゃないんだからさ。そんな投げっぱなしはないでしょ。ねぇ!

 

「……ったく。なに惑わされてるのよ、時津風」

 

「あ。満潮さん」

 

 と、入れ替わるように俺の隣にやってきたのは満潮さん。陣形組まなくていいんですかね? そろそろ突撃するんじゃないの?

 

「いい? これは私たちの艦隊旗艦(クランマスター)からの依頼(オーダー)なの。私たちの任務はあなたを『生きて還すこと』なんだから、浮ついて変な動きしないでよね?」

 

「あと、はい……それは分かってるんですけれども」

 

 俺が頷くと、満潮さんはため息。なんというか、すごく視線が鋭い。

 

「まあ。痛覚制限の解除は触覚系の制限(リミッター)を外すことでもあるから、抱きつかれて気持ちいいとかいう気持ちは分かるけれど……とにかく、真面目にやってよね」

 

「は、はい……」

 

 あの、なんというか。どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 

『いや。お前、そもそもなんでVR艦これが成人向けなのか知らないのか?』

 

『なんで? エッチな描写があるからじゃないの?』

 

『なわけないだろ? あれはR18G、グロ描写があるからだよ。エッチなのはR18にするんだから付け足そうか程度のオマケ!』

 

 そしてその「グロ描写」とやらを()()()()()()()()ゲームモードは「リアリスティック」と呼ばれていた。被弾するとHPではなく部位ごとの耐久計算が行われ、負荷の掛かりすぎた箇所は破損する。要するに腕がもげたり足が折れたりする。

 もちろん、頭に被弾したりすれば……。

 

『だからこそ、電郵省令に基づく同意ってやつが必要なんでやがりますね』

 

 ()()()()()()()()()()。丹陽さんはそんな風に言った。艦娘が轟沈すれば、その艦娘(キャラクタ)に紐付けられた記憶が削除される。VR消費時代の新権利「忘れ去る権利」を応用したトンデモないゲームシステム。

 

 俺は、これを知らなきゃいけない。かつて丹陽(ゆきかぜ)さんに何があったのかを知るために。

 

雪風(アイツ)にとって、あなたは何番目の時津風(あなた)だと思う?』

 

 

 

 初風のあの言葉の、本当の意味を知るために。

 

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