翔鶴ねぇ☆オンライン!   作:帝都造営

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戦闘前の説明シーンが予想以上に伸びちゃったので分割。これでも削ったのですが……


駆逐艦戦記3-2

 

 刻は少し遡る。

 

「やぁ。今日は来てくれてありがとう! やっとボクらの艦隊(クラン)に入る気になってくれたんだね?」

 

「あ、いや……そういう訳じゃなくてね? 今日は時雨さんに相談したいことがありまして」

 

「やぁ。今日は来てくれてありがとう! やっとボクらの艦隊(クラン)に入る気になってくれたんだね?」

 

「いやだから。相談したいことが……」

 

「無駄っぽい。時雨はすぐ勧誘Botになるっぽい」

 

「ふふ、いい雨だね……」

 

 なんだろう。公衆浴場(おふろ)艦隊(クラン)に誘われた時とはえらい違い。それともあの時は仮にも「公衆の場」だったから抑えていただけで、元々こういうヒトなのだろうか。

 

「ごめんね時津風、ウチの艦隊旗艦(マスター)はこんな感じっぽい」

 

「そんなことはないよ夕立。ただ、今日はいい雨だからさ……つい、ね……」

 

 そして夕立さんのなんて頼もしいことだろう。用件を聞くっぽいと応接セットに転がり込んだ彼女に、俺はその件を切り出すのだった。

 

 ★

 

 天津風曰く、それは四隻だけの艦隊(クラン)だった。

 

「『第16駆逐隊』……久しぶりに聞いた艦隊(クラン)名だね」

 

「知ってるんですか?」

 

 頷いた時雨に俺は思わず身を乗り出していた。元々ダメ元だったのだ。知ってるだけでも大当たり。ところが、続いた次の言葉に俺は首を傾げることになる。

 

「知ってるというか。彼女たちはウチの『リアリスティック・パッケージ』の元ネタなんだよ」

 

「りありすてぃっく・ぱっけーじ?」

 

「時雨、それは組合のことを説明しないと分からないっぽい?」

 

 夕立さんがそんなことを言う。実際分かっていないので俺はこくこくと頷いておく。それもそうだねと時雨は微笑むと、じっと俺のことを見つめた。

 

「まず時津風は、僕たちの艦隊(クラン)……『港湾駆逐艦組合』がなにをしているか知っているかな?」

 

「大規模作戦の攻略じゃないの?」

 

 時雨に誘われたことで意識するようになったので、この「港湾駆逐艦組合」という名前がちょいちょい大規模作戦の戦績上位組(ランカー)に入っていることは知っている。

 

「実はその時、僕たちは他の艦隊と共同で攻略をしているんだよ」

 

「いつも大規模作戦の戦績掲示は他の艦隊(クラン)さんと一緒っぽい」

 

 あれ? そうだっけ? 言われてみれば、いつも「港湾駆逐艦組合」の全文は掲載されていなかった気がする。複数艦隊(クラン)名を表示すると文字数制限で溢れることがあるので「《オクチャブリスカ・レボリューチィアとなかまたち》&《港湾駆」みたいな表記になるのだ。まあ、どう考えても組んでる艦隊(クラン)の名前が長いのが原因だろうけれど……。

 

「僕らの艦隊(クラン)は、一言で言えば『駆逐艦派遣業者』なんだよ」

 

 アウトソーシング、という言葉がある。英語がよく分からない俺のために夕立さんは外部委託と訳してくれる。要するに、仕事を部外者にやってもらうことらしい。

 

「夕立たちの目的は、強力な駆逐艦が居ないか足りない艦隊(クラン)に駆逐艦戦力を提供することっぽい」

 

「中世系ファンタジーにおける『冒険者ギルド』とでも言えばいいのかな? 雑多な掲示板から募集要項を探して野良戦隊(パーティー)を組むのは大変だし手間が掛かる。しかも連合艦隊とかを組もうとすると駆逐艦が複数必要だったりする」

 

 駆逐艦は、とにかく特殊な艦種。艦これが艦隊を組むゲームである以上は連携はどうしても必要になってくるが、駆逐艦の連携は単なる攻撃防御といった連携では済まない。

 

「もちろん理想は信頼し合う個々人が集まって戦隊を組むことだけれど、現実(リアル)の都合を考えると難しい。だから、僕たちはいつでも均質な戦力を提供できる組織を作った。それが港湾駆逐艦組合」

 

 時雨さんの話によると、組合に所属する構成員(クランメンバー)は艦隊内で演習を繰り返すことで技術を磨き、その技術を他の艦隊(クラン)に提供。そうすることで大規模作戦などの報酬を山分けしてゲットしているらしい。

 

「なんか……ホンモノの企業みたい」

 

「会社ごっこをやりたい! ってところから始まったから、それは間違ってないっぽい!」

 

「まあ元々は駆逐艦に不利な報酬体系の是正のためだったんだけどね……」

 

 なんでここまで大きくなっちゃったかな、と苦笑する時雨さん。おっと、話がそれた。

 

「で。その組合とさっきのリアリスティック・パッケージはどう関係してくるの?」

 

「うん。リアリスティック・パッケージはリアリスティック設定の駆逐隊を派遣する契約(サービス)なんだよ」

 

 リアリスティック設定は危険だけれど、上手く使いこなせばこの世界(ゲーム)では一番強い。確かに、HP制が適用されないリアリスティックに「中破」や「大破」などのペナルティは適用されない。文字通りに「肉を切らせて骨を断つ」戦い方が出来る。

 

「『第16駆逐隊』はね、その戦い方で大規模作戦(イベント)に挑み続けた艦隊(クラン)だったんだよ」

 

 4隻だけの艦隊(クラン)。大規模作戦は複数艦隊を同時に動かす連合艦隊戦(レイドバトル)形式で挑むのが一般的。そこにたったの四隻で挑むなんて、想像もつかない。

 

「すごかったんだよ。本当に」

 

 時雨さんは、そう言ったのだった。

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 

「突撃~~~~~!!!」

 

 号令一斉。五つの主機(もとき)が唸りをあげる。駆逐艦の装備はどうしても射程が短いので、戦いの主軸はこうした電撃(とつげき)戦になる。

 

「遅れてないですね! いいですね時津風さん!」

 

 風にのった朝潮さんの声が俺の耳に届く。時津風は朝潮型よりも新しい陽炎型なのだから、この位で遅れを取るつもりは……と言いたいところなのだけれど、それでも危うく遅れそうになった。

 理由は至極単純。

 

《ふふふ、危なかったみたいねぇ》

 

 声ではない声が聞こえる。コイツ、脳内に直接……? な通信は個別通信(カスタムチャット)だ。正直今は口を開く余裕もないので、俺も念じることで返事をする。

 

《こ、こうなるって分かってましたよね!? 荒潮さんッ!》

 

 横目で笑ってくる荒潮さん。俺は必死に()()()()()()()()抗議する。

 

《姿勢も低くしないとダメよぉ? 空気抵抗をモロに受けちゃうからね♪》

 

 そう、リアリスティックモードの特徴の一つ。空気抵抗。

 そもそも、艦娘は滅茶苦茶足が速い。というのも、艦娘は女の子の身体をしていても軍艦を擬人化した存在な訳で。つまりおおよそ軍艦と同じ能力を与えられている訳で。

 その一つが速力。軍艦は戦うこともあって速度が出せるように設計されている。フネと聞くとのんびり進んでいくイメージがあるけれど、丹陽さんが言うには「遠近ホーと経済速度のなせる技」らしい。遠いとモノはゆっくり動いて見えるし、そもそも速く動くと燃費が悪くなるらしいのだ。まあ全速力で走ると疲れるし、そらそうだよね。

 

 まあとにかくそんな感じで高速で動けるのが駆逐艦。それでも、高速道路を走る自動車やバイクよりは遅いのでなんとかやっていける。

 そう、なんとかやっていけてるつもりだったのだ。風という一番大切な要素を無視していたから。

 

「これっ、やばいっ……!」

 

 そもそも。人間の服はあまり風を考慮していない。防寒対策の施されたウインドブレーカーなどは名前の通り(ウインド)遮断(ブレーカー)するけれど、それは逆に普通の服が遮断(ブレーカー)しないからこそ。

 

《台風の中にいるみたいでしょう~? 生きてるって感じで気持ちいいわよねぇ♪》

 

《そーいう問題じゃないー!》

 

 そう、本当に暴風が俺を襲っているのだ。速度は下げられないから風は止まないし、俺の制服はウインドをブレーカーしてくれない。

 さて、ではここで時津風(おれ)の制服をみてください。

 

《ほらほら、今度は右が解けかかってるわよぉ?》

 

 その言葉に俺の右手が動く、なんとか解けないように引っ張って抑える。しかし風とは残酷なモノで、僅かな隙間を狙って吹き込んでくれば風圧で服が吹き飛びそうになる。

 そう、問題は服なのだ。知っての通り時津風という艦娘は、なんというかその……ほら、あれですよ、アレ。服がね?

 

「時津風さんッ! 遅れてますよ!」

 

 いやいやいや。朝潮さんもしかしてわざと? それとも突撃に集中しすぎてこっちの事情なんて見ていない? どっちにせよ酷いと思うよ俺は。もう少しね、配慮ってものをお願いしますよ。いやまあ、リアリスティックモードの世界に案内してくれる人達にこんなことを言うのはどうとは思うんだけどさ。

 もう少し! 思いやりをもってくれないかな!

 

《でも、時雨さん(クランマスター)からは徹底的にしごいてくれって依頼(オーダー)なのよねぇ》

 

 俺の頭の中を読んだかのように荒潮さんが言う。でも、このまま増速したら見えちゃうじゃん!

 

《可愛いわねぇ♪》

 

 あ”ら”し”お”さ”ん”ッッ! ぜったいワザとでしょ!!

 

「うぅ~~~!」

 

 でも、これでも俺だってこの身体の扱いには慣れてきているのだ。無理矢理なんとか制服の端を縛って原状回復。陣形を立て直す。少なくとも、これで服がめくれて状態で敵に突っ込むという恥ずかしい様を見せることは回避された。よかったよかった。

 まあ、ちゃんとタイツは履いてるしめくれたからといって別に恥ずかしい場所がみられることはないのだけれどもね? というか、そう考えると雪風……あぁと、あの人は丹陽って名乗ってるけれど彼女だけじゃなくて一般的な駆逐艦雪風のことだ……雪風の服装って、なんというか。すごくすごいよね。いや他人(ヒト)のこと言えないんだけれどさ本当に。

 

 ……なには、ともかく。これで準備は整った。

 そろそろ相手も迫ってくるはず。俺は、ようやく空いた両腕を使って連装砲を構えた。

 

「さぁ! 叩くよ!」

 

 さあ、砲雷撃戦の始まりだ。

 




次回は戦闘回!

あとお知らせです。なんと本作「翔鶴ねぇ☆オンライン!」の設定をベースにした小説をプレリュード先生(ID:128417)が書いてくださいました!やったね!

それでは、先生の「加古鷹おんらいん!」もあわせてよろしくお願いします~!
URL→https://syosetu.org/novel/243735/

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