―7年後―
「ふぅ、これで薪割りは全部?アーサー義兄さん」
気持ちのいい太陽の下で薪割りをしていた少年―カインは自身が慕う義兄―アーサーに尋ねた。
「ああ、これで全部だ。すまなかったな手伝ってもらって」
アーサーは申し訳なさそうにいった。別段アーサー一人でも十分こなせたのだが、カインが一人でやらせるわけにはいかないといって、手伝っていたのだ。
「いいよ、無理いって手伝ったのは俺だし、それにこれも修行の一環だしな」
「そうだな。ありがとう、カイン」
アーサーはカインに礼をいうと、薪を片付け始めた。
カインも急いで薪をまとめ始めた。
「しかし、そんなに修行がしたいなら、今度の修行メニューはもっと増やしておくとしようか、薪割りじゃあ物足りないだろ」
「お、おう!望むところだ!」
カインは少し修行メニューが多くなることを聞いて怯むが、すぐに胸をはって答えた。
「俺もいつか、アーサー義兄さんみたいに強くなりたいからな。どんどん来てくれて構わないぜ!」
「そうか、いっておくが俺のようになるにはそう甘くはないぞ?」
アーサーは微笑みながらカインを試すように言った。
「わかってるよ、そのための修行だろ?」
「ああ、そうだな」
すると、アーサーが急に片付けの手を止め、カインと向き合い、いつになく真剣な表情をした。
「カイン」
「何?義兄さん?」
カインはアーサーの真剣な表情を見て、何か感じたのか、カインもアーサーの言葉にしっかり耳を傾けた。
「なぜ鳥は、空を飛ぶのだと思う?」
一見したら変な質問に聞こえるが、カインにはなぜかアーサーが自分を試しているように感じた。でも、例え自分を試していたとしてもこの質問の答えは自分の中で決まっていた。
「そんなの、決まってるよ」
カインはハッキリと答えた。
「鳥が飛ぶのは―――」
アーサーがその答えを聞くと目を細めながら、カインの目を見据えていた。その目はあの日と同じ目だった。
「それが・・・・お前の答えか?」
カインはアーサーのその目に恐れを感じたが、怯むことなくカインもまたアーサーの目を見て答えた。
「ああ、そうだ」
するとアーサーはすぐにいつもの優しい表情を見せると微笑みながら、カインの頭をポンポンと撫でた。
「実にお前らしい答えだな、納得だよ」
カインは照れくさそうに頬を赤らめた。
「や、やめろって、もう子どもじゃないんだから」
アーサーは笑いながら手をどけた。
「アルトリウス様」
すると突然仮面を着けた赤い髪を肩の辺りまで伸びている女性が現れた。
ちなみにアルトリウスとはアーサーの本名で、アーサーは略称で皆が呼んでいた。
「あっ、シアリーズ」
シアリーズと呼ばれた女性は、聖隷と呼ばれる存在で、聖隷術と呼ばれる特別な力を扱うことのできる種族である。かつて、聖隷は特別な人にしか存在を認識することができなかったが、7年前の「開門の日」以来、普通の人にも聖隷を認識できるようになった。カインも「開門の日」から見えるようになった人の一人である。
「どうした、シアリーズ?」
「アルトリウス様、少々お話が」
どうやら二人で話したいことがあるらしい。自分は邪魔のようだった。
「じゃあ、俺先に家に戻るよ。」
「すまんな、すぐに戻るよ」
アーサーとカインはそこで別れ、カインは先に家に戻って言った。
(やっぱり、義兄さんって対魔士なんだよなぁ)
対魔士とは、聖隷を従え、その力を使い今世界に蔓延している業魔病と戦う者達のことである。7年前の「開門の日」から人々に霊応力という聖隷や業魔を認識できる力が強まったことでその数が増えたという話は聞いていた。自分もその力を身に付いてしまった者の一人だから、自分も対魔士になるべきなのか、考えていた。
「義兄さんみたいに強くなるには、やっぱりそうなるべきなのか?」
対魔士になれば、ベルやラフィを守ることができるかもしれない。でも、対魔士は自分がなりたいものとは違う気がする。
「まぁ、先のことは後で考えるか」
そんなことを考えていたら、家に着いてしまっていた。
「たっだいま~!」
カインか能天気な声で家に入ると、台所で料理をしていた少女がカインを思い切り睨んだ。その少女は長い腰の辺りまである綺麗な黒髪を結び、金色の瞳をした整った顔立ちの少女だった。
「カイ、うっさい」
「帰って来て第一声がそれかよ」
帰ってくるなり、罵声をあびせるとは酷い幼馴染である。彼女の名前はベルベット・クラウ。カインの幼馴染でもある。
「薪割りもう終わったの?」
「ああ、一冬分やっておいた」
「ありがと、義兄さんは?」
「なんか用事があるみたい、ライフィセットは?」
「まだ寝てる、そろそろ起こさないと」
「朝ご飯はもうできたのか?」
「今終わったとこよ」
どうやら、スープとお粥を作っていたらしい。お粥は多分ライフィセットに食べさせるためなんだろうな。
台所を片付けたあと、ライフィセットのいる部屋へ向かった。
「起きて、ラフィ。朝だよ」
「う・・・・うん・・・・」
ラフィと呼ばれた少年、ライフィセットが眠たそうにベッドから起き上がった。ライフィセットはベルベットの弟でカインやアーサーにとっても実の弟ような存在だった。
「も~、ラフィって呼ぶのやめてってば。子どもっぽい・・・・」
「そうだぞ、ベルは男心がわかってないからなぁ~、なぁライフィセット」
「あ、カインお義兄ちゃん。おはよう」
「ああ、おはようさん」
「何よ、二人して文句ばっかり」
そういうとベルベットはライフィセットの額に自分の額を優しく押し付けた。
「・・・・ちょっと熱があるわね。今日は、おとなしく寝てなさい。丁度新しい薬が届く日だし」
ベルベットはライフィセットの頭をポンポンと撫でると、ライフィセットつまらなさそうに言った。
「え~?僕、岬に行くつもりだったのに」
ベルベットは人差し指を上に立てながら
「だめ、今日は我慢」
「そうだぞ、あまり無理しないで家で安静にしてろ」
ベルベットとカインがライフィセットに体を酷使させないよう言い聞かせようとするも、ライフィセットはそれでも何かしたいらしく
「本くらいよんでも・・・・」
ベルベットはそれでもだめと口に出すまでもなく、ライフィセットを黙らせた。そんな様子をカインはやれやれと言わんばかりの様子でみていた。
するとアーサーがかえってきたらしく、玄関が開く音がした。
「ベルベットとカインを困らせるな、ライフィセット」
「そんなつもり・・・」
アーサーはライフィセットなだめるように言った。
「義兄さん、話終わったのか?」
「ああ、だが、出掛ける用ができてしまってな。薬の代金は、少し待ってもらってくれ」
ベルベットがアーサーのちかくまでかけよると
「なら、あたしが稼いでくるよ。ウリボアを何匹か狩れば、薬と交換できるでしょ」
ベルベットが自信満々で答えた。
「お前一人でか?」
するとカインが右手をあげて
「俺も行くよ、丁度腕も鈍ってたし」
「え~、あたしだけで十分よ」
ベルベットがついてくるなと言わんばかりの目をしている。アーサーにいいとこ見せようとしているな。たが
「アーサーの戦訓その一!『策戦は堅実に。対応は柔軟に』だろ、一人より二人のほうが効率がいいしな」
「あ!それあたしが言おうとしてたのに~」
ベルベットが頬を膨らませながらこちらを睨んできた。
一日何回睨んでくるんだこいつは。
「わかった。弟子達の腕を信じるとするか。すまんが二人とも、頼む」
「ごめんね、お義兄ちゃん、お姉ちゃん」
自分のせいで二人に無理をさせているようで、申し訳なさそうにライフィセットが言った。
「ゴメンもスマンもなし!家族なんだから当然でしょ、ね!」
「そうそう、思い切り頼りにしてくれていいんだぞ!」
二人は当然のようにライフィセットに答えた。本当の家族ならこれくらいあたりまえなのだろう。
「では、行ってくる」
そういって、アーサーは出掛けていった。シアリーズと何処か行くのだろうか。カインはそんなことを考えていた。
「お粥をつくってあるから、食べてね。夕方前に戻るから」
「わかった。気をつけてね、お姉ちゃん、お義兄ちゃん」
「おう!じゃあ行ってきます!」
カインがライフィセット元気よく行ってきますのあいさつをし、ベルベットとともにウリボア狩りに向かった。
ライフィセットに早く元気になってもらうために、薬を届けなくては。