Magicを知らない方でも読み進める事が出来る内容になりますので是非とも皆さんこれをきっかけにMTGを始めて頂けると嬉しいです。
魔術、それは理より外れた超常の力。行使する者は魔術師と呼ばれ、他の者とは一線を画した存在であり神秘の体現者として、同時に神秘を追い求める者として存在する。
魔術は継承され、時を重ねるごとにその輝きを呪いの様に強めていく。
人は誰もその呪いに逆らう事は出来ず。魔術に関わる者は誰しもが運命を背負い生まれてくるのだ。
その運命に抗い、理想的とは呼べずとも確かな勝利を掴み取った男、衛宮士郎。
これは、彼が辿る多元宇宙の物語。
灯、本来であれば彼には芽生える事の無い偉大なる炎。しかし、悪戯にも運命は彼を選び、そして動き始める。次元を渡る者、魔術という範疇から飛び出し、その常識は多元宇宙の広大さに包みこまれ別次元の物へと消化する。
知る者は呼ぶ。次元を渡りし者達を総称して、『プレインズウォーカー』と―――。
「長かった…」
陽が落とす影が二つ、長く地面を這う様に映し出されている。雪積もる中、降り積もる寒さの塊が青年の頬に纏わりつく。
周囲は陽を落としたかの如く朱に染められているが、それは液体であり光の反射が眼に映す色彩では無い。その液体を垂れ流すたんぱく質の塊を見れば命をそのままに垂れ流している様にも見える。
青年は黒いボディスーツを身に纏い、褐色の肌のいたる所から血を流している。その血の色は周囲を染める朱と同じ色をしている。だが、青年は周辺に横たわるたんぱく質の塊とは違い動く事も出来れば心臓の鼓動も病んでいない。
「これで…もうイリヤは狙われないだろう」
三年、極寒の大地において三年の月日を費やして衛宮士郎は遂にアインツベルンという巨大な敵を討ち果たした。突如として現れ、イリヤ=スフィールを攫い自分達の安息を奪った報いを受けさせる事が出来た。
アインツベルンの城、その頂上。円柱状の塔の屋上にて衛宮士郎は深く息を吐いた。
目の前で僅かに動きがあった。
ユーブスタクハイト・フォン・アインツべルン、アインツベルンの現当主にして令呪というシステムの開発者でもある規格外の大魔術師だ。身体に傷は無いというのに、苦しげな様子は今にも息絶える事を想わせた。いや、事実もう数刻としない内にこの老人は息絶える。
「よもや…私と現世の繋がりを断ち切られるとは…な」
二世紀、長きにわたり生を享受したその身に一片の刃が突き立てられていた。
「死…それをこの様な形で迎える事が出来るとは、思ってもみなかったが」
高く風の強い場所であるというのに、その言葉は不思議と耳に届いた。死せる者の残す言葉が持つ力強さか、衛宮士郎は頬に付いた雪を拭おうと手を動かしたが、結果として腕に付着していた血液が頬を汚した。
「この身の死をこの城で迎えるなど、有り得ぬ事だと思うていたが…やはり、魔術は奥が深い」
精神と肉体、それを城という無機物と繋ぎ合わせる事で悠久の時を永らえてきた老獪の崩壊だった。今や、城もいたる所が崩れ、その戦いの壮絶さを物語っていた。
雪が止み始める。だというのに、白片が宙を舞う。
アハト翁と呼ばれた人物の身体が段々と粉の様な小ささで崩れていく。
「聞かせてくれないか、生きた英霊よ…聖杯戦争は何をもたらしたのか…私には第三魔法へ到達する為の足掛かりでしか無かったあの闘争が、君という英傑に何を残したのか」
作り上げた。
確かなシステムを構築し、闘争という形を執って己の願望を叶える為の形を成した。願いを叶える願望器などという表現は偽り、全てはアハト翁の願望を叶える為の物でしか無かった。
たとえ、事実がそうであっても、
「私はあの闘争で、強さを手に入れた。目標を手に入れた」
握り込んだその拳が物語る。確かにその手に得た物を、共に過ごした時間の大切さと暖かさを。
「貴方が作り上げた全てが今の私を形成しているのかもしれない、ホムンクルスという技術も、聖杯…は貴方自身が作り上げた物では無いとしても、令呪というシステムがもたらしてくれた絆も」
衛宮士郎、という名前をした人形。
今の彼はそう表現する他無い、魂は確かに衛宮士郎の物だ。内に走る魔術回路も正に彼の物、そして現界させる事が出来る固有結界は彼特有の物だ。
しかし、衛宮士郎という肉体は既に失われ、彼に与えられたこの肉体は友がくれた新しい人生だ。
「今はもういないイリヤの為に、その全てを賭して私を殺すか…くくっ、くははははは!」
確かにイリヤはいない、しかし、イリヤの肉体は残っている。
そのイリヤの肉体を、聖杯の降臨の鍵となった少女を研究しようとした目の前の男を、衛宮士郎は討ち果たしたのだ。
「当たり前だ。たとえそこに魂は無くとも、絆は確かに在ったのだから」
目を見開き、その言葉を噛み締めたアハト翁は小さく笑みを作った。その笑みが嬉しさから来る物なのか、それとも悔しさから滲んだ物なのかは本人にしか分からない、だが、跳ねるウサギの描いた弧の様なその笑みからは純粋さが感じられた。
崩れる。城の外壁が音を立てて地面を揺るがした。足場に亀裂が走り、この場所がもう長くは保たれない事を示唆していた。
「衛宮士郎…イリヤと君の仲間は既に城を脱出して、安全な所まで逃げおおせた様だが、君はどうするのかね、このままでは間に合わんよ」
「…あぁ、知っている。貴方と戦っている時にその覚悟は出来ている」
「…そうか」
二人のすぐ近く。床の一部が大きく欠損し、穴を開けた。
「君の様な若者が、私と死を同じくするとは…勿体無いな」
崩れる身体から零された言葉は温かみがあった。この時まで雌雄を決しようとしていたとは思えぬほどに、その言葉は衛宮士郎の心の奥底に弾むゴム毬の様に何度も響いた。
「あぁ、時間か」
足場が完全に崩れ、自由落下が始まる。消えゆく身体、最後の一片になるその寸前、アハト翁は呟いた。
「衛宮士郎…望め、さすれば開かれん」
たった一言、その一言が衛宮士郎の中にある何かを突き動かした。
「(私は、今、生きる事を諦めようとしていたのか)」
終端、迎えたと思っていた。区切りが着いたのだと、全うしたのだと。
「(馬鹿野郎と…言わざるを得んな!)」
生きる。
一つの物語の終わりに自らの死を刻む必要は無い、幾重にも重なる命を奪おうとも、その上に立ち続ける生き方もある。
それは王、覇者、英雄、それらの生き方だ。
「(私の憧れた存在は、死すべき場所で死を享受する生き方をしていなかった!)」
足掻く。足掻く。
瓦礫を掴み、姿勢を変えて自身の取れる最善を探す。
魔力はもう空だ。それどころか絞り出して身体も髪も変色している。
身体ももう限界だ。酷使に次ぐ酷使によって英霊相当の身体能力を有しているが、それは英霊の物では無く人の到達し得る現界地点に他ならない。
「(何か、何かないのか―――!)」
成す術が無い、そんな言葉が脳裏を過る。
「(本当にそうか?)」
何かが、見えた。
種の様な、小さな灯りの様な、曖昧で名前の付けられない何かが。
「(何だっていい、生きる!生きてまた日本で皆と暮らすんだ!)」
過る。
様々な想い出が、お前は死ぬのだと告げるかの如く走馬灯が駆け抜ける。
まるで自身を生かそうとするかの様な風を下からその身に受け、巻き上がる風に飛ばされ空へ消えゆくアハト翁の残滓を仰ぎ見る。
そして、言葉を思い出す。
世紀を跨いで生きた
「望め…だと」
ただ望んだ所で何かが変わるとは思えなかった。もしもそんなことで現実が事象の変質を遂げるというのなら、衛宮士郎の人生はもっと平坦な物になっているはずだ。言葉にするよりも微かで曖昧で伝わらない望むという行為。
「いいだろう…望んでやる!」
それでも、残した言葉だから。
死にゆく者が残した言葉、そこに何の意味も無いと思いたくは無かった。
故に、衛宮士郎を動かした。
心の底から、ただ一つの願望を存在さえ分からぬ何かに祈る。
「生きたい」
奥底から湧き上がる何かを解き放つ様にして、衛宮士郎は言葉を並べる。
「生きたい、まだ生きたい、どんな形でもどんな方法でも良い、俺はまだ―――生きていたい!!」
瞬間、
衛宮士郎の内が弾けた。
爆発、傍から見ればそうとしか見えない光量が周囲を照らした。線香花火の燃え尽きる間際の様に、夜空に打ち上げられた花火よりも短くとも輝きはそれを上回る。
何が起きているのか、誰が起こしているのか、そんな事を考える暇も無く衛宮士郎の意識は爆発によって生じた光の海に投げ出された。
衛宮士郎を中心として起きたその爆発は、何かを傷つける事も無くただ収まりを見せた。
瓦解し、煙を上げるアインツベルン城の残骸から、衛宮士郎が見つかる事は無かった。
これは、運命の輪から解き放たれた一振りの剣の物語。
現在Magic DuelsというIOS、Steam、PS4、XOBXにおいて無料配信されているゲームもプレイしています。もしも戦う事があれば問答無用で叩きのめして下さい。MTGは勝てない程の知識の人と当たった時が一番面白い(ドM)。