テ―ロス、そこは神々が顕現し、人の生活を見守り、時に乱し、常として共にある次元だ。広大なる大地は様々な土地を育み、かつて人が拓いた場所は都市として繁栄し賑わいを見せる。
時として神々は試練を与える。それは成長を願い、娯楽として興じ、対抗し合う神々の摩擦の間に人が生きる事もあるが全ては円環の理の中の出来事である。
街、石造りを主とした建築様式、周囲に木材が無いのでは無く。発達した建築様式が石材を加工する物だったというだけだ。アケロスの名を持つその街は四方を街壁で守られ、世に跋扈する亜種族の脅威を退けている。
家々に備え付けられている窓はガラス式では無い、ともすれば空気穴と呼んでも問題が無い程に簡素な穿たれただけの物、差し込む陽の光を調整するために外側に造られた陽差しを見ればそこに木材が使われている事が分かる。
豪雪の心配が無いこの街の家屋は屋根が平に出来ている。それは熱が一か所に固まらない様に工夫がなされているのだが、その屋根を影が通れば一転して走り易い為に平になっているのではと思うのも仕方が無い。
故に、その屋根を走る少年は思う。
「(人の混みあってる地面なんか走ってたら、追い付けないぜ)」
少しの癖っ毛、少年の性格を顕わしたが如く跳ねっ返りを持つ髪は茶と黒の混ざり合った物、幼さは残れど精悍な顔付きはまさしく生存競争を生き抜いてきた風格を伴っていた。そう、少年にとっての日常は生存競争と呼んで差し支えが無い程に険しい。
それもそのハズ、彼は元々が軍に所属していた。しかし、身内を守る為に追放され、今は街を守る不正規軍として活動している。とはいえ、現在では日を過ごす為に泥棒をしているのだから何とも言えない状況なのだが。
「(パンをくすねたぐらいで動くとは、この街の軍隊様も暇な物だなおい)」
屋根の終わり、少年は飛び降りて即座に通れる道を選別して走り抜ける。大人の図体では通り抜けられない隙間をまるで駆けまわるネズミの様に疾く駆けた。
街の地理は頭に叩きこんである。現在地から目的地までのルートを大まかに割り出して走る。人波を掻きわけるのでは無く。人波を泳ぐかの様に止まる事無く当たる事無く風の如し。
とはいえ、地理を把握しているのは相手も同じ、街の衛兵隊は彼の行く先を阻むように現れると、僅かに迷いを生じさせた少年を一斉に取り囲んだ。
いかな風といえど周囲が壁では吹き抜ける事も出来ず止めた足で踏鞴を踏んだ。
「そこまでだコソ泥!大人しくしろ!」
叫ぶ衛兵に目を向けると灰色の鉄鎧が陽に反射して輝いた。駆け回る事を想定して置いてきた自身の装備があればと少年は思ったが後悔は一瞬、すぐさま拳を振り上げて飛び掛かった。
顔を狙われた衛兵は腕を交差させて防御の姿勢を取るが衝撃は襲って来ず。疑問に思い籠手の隙間から窺い見ると少年は目の前で着地して衛兵の腰から剣を抜き取り後退していた。
「き、貴様!」
剣を奪われた衛兵が前に出るが鷹の飛ぶ平地に目を瞑って躍り出る兎、涼しい顔をして籠手の隙間に剣を差し込んで衛兵の腕の腱を切断した少年はそのまま脇を走り抜けて再び人波へと紛れ込んだ。
痛みに叫びを上げる衛兵に仲間が駆け寄り大事を確かめる中、衛兵の中の一人が興味深そうな表情で少年の背を眼で追っていた。
「彼が…キテオンか」
キテオン、キテオン・イオラ、それが風となり人波を泳ぐ少年の名だ。
その名前を口の中で転がしながら、渋面をした老練の男はゆっくりとその場を跡にした。
「ようやく追い詰めたぞ!」
文字通りに出口の無い狭い路地の奥まった部分にキテオンは追いやられ窮地を迎えていた。先程奪った剣は逃げる際に捨ててあり、素手で目の前を覆う程にいる衛兵を相手にするのは不可能だと思われた。
「へっ、だからって諦められるかよ!」
衛兵に向かって走る。執った行動はただそれだけの事だが衛兵隊は正気では無いと驚き構えるのが遅れた。それはキテオンにとって何よりもの好機を作りだした。
重装歩兵でも無い衛兵隊は盾を持たない、その為、剣を持つ為の利き手にばかり注意が行きがちで片方の手は遊ばせている状態にある。
キテオンは目の前にいる衛兵が腰の剣を右手で抜こうとしているのを見て、右の腕を掴み自身から見て左へ勢いを付けた。ただせさえ半身が右に傾いている状態で勢いを付けられたものだから衛兵は転んでしまい、その転んだ衛兵を足場代わりに踏みつけて跳躍し細路地に面している家の窓に手を掛けて屋上へと登った。
「よしっ、これで――――」
揺れた。
唐突に視界が揺れた。
いや、揺れたのは自分なのか分からなかった。もしかしたら世界が揺れてそれに自分は取り残されているのではと思えた。それほどまでに唐突で、理解が出来ない揺れがキテオンを襲った。
「なん…だ。これ」
逃げおおせると思った矢先、自身の不調で足取りがおぼつかなくなりその場に座り込んだ。立ち上がる気力はあるというのに、自分が真っ直ぐに立つ方法を忘れたかの様に倒れてしまう。
『…なんだ。これは』
何処かで声がした。渋く、青年の若さがありながらも壮年の剣士の様に迷いを切り裂く声だ。しかし頭の中で続く不思議な揺れは切り裂かれない、成程この声がその犯人かとキテオンは苛立った。
「どこに居やがる…出て、きやがれ」
『そう急かすな…どうにも、現界が始まった様だな』
キテオンの目の前、何も無い平な屋上の中心に見た事も無い円が広がった。金銭をやり取りする者が使用する数字という物に似た文字が何百も刻まれ、それが円を描いて輝いている。
そして、その輝きの中心に何者かが現れる。
まるで粉が集まるみたいに、「パンだってあんな創られ方はしない」と後にキテオンは語る。実際には粒子が、世界を構成する粒子が集合し、一つの身体を創り上げていく。
「は…?」
思わず漏らした疑問詞はキテオンの物、褐色、肌は褐色にして髪は白。その眼は空を駆ける猛禽類の如き鋭さを持ち、傷だらけの身体を僅かに隠す黒のボディスーツを身に纏っている。生まれたての赤ん坊の様に純粋な表情をしているその男は、輝きが収まると無感情なその瞳を閉じて、ゆっくりと双眸を開いた。
剣、その眼を見て連想した言葉はその一つだった。人の眼から剣を連想するなんておかしな話だとキテオンは思ったが、その時の彼はただ剣が目の前に人の形を持って現れたのだと思った。
「何者だ…あんた」
周囲を段々と衛兵隊が取り囲む中で、キテオンは興味に負けて尋ねた。
そして男は、褐色の中にある艶やかな唇を開いた。
「私は衛宮、衛宮士郎だ」
キテオンことギデオン・ジュラ君。別名ゴリラ、別名分別のある筋肉。最新の環境では白白2の4コストで使用可能な割に防御面と支援の面、ならびに攻撃にも参加できる有能なキャラクターとして有名です。
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