とある無力の幻想郷~紅魔館の佐天さん~   作:王・オブ・王

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17,不幸<日常>

 すっかり日が暮れてしまった道を走って、私は小萌先生の自宅へと向かった。

 二階への階段を登ってから扉をノックすると、何度か声がしてまるで小学生のような女性が出てくる。

 これで二十は過ぎてると言うんだから詐欺も良いところだと思う。

 

「佐天ちゃんでしたか」

 

 覚えていただいていたようでなによりなんですが、今はそこじゃない。

 

「上条さんはどうしてますか?」

 

 あの人の携帯端末が壊れているのはわかっているので、電話なんてできない。

 だからこそ今頼れるのは小萌先生だけなのだ。

 

「上条ちゃんはインデックスちゃんと一緒に銭湯へと向かいましたよ」

 

 銭湯、ここら辺では一つしかないはずだ。

 だけれどここら辺と行ってもそこそこ離れている。

 とりあえず私は小萌先生に一礼してから走ることにした。

 初春と白井さんと御坂さんの追求を振り切ってようやくのこと小萌先生のもとへと到達して見つかった上条さんとインデックスの手がかり、ここで無駄にするわけにはいかない!

 走りながら、私はジャケットの中を確認する。サバイバルナイフが一本とバタフライナイフが一本、それと左手持つ、投擲に使えるナイフが三本。これ以上のナイフの消費は笑えない。ならば私ができるのは接近戦だけ。

 上条さんならステイルは倒せるけど、神裂相手じゃ相性が悪すぎるのことを早く上条さんに神裂のことを伝えないと!

 

 走って走って、たどり着いた場所は大きな道路の交差点。

 そこで私が見たのは、体中に怪我をしたまま倒れている上条さんだった。

 私は人だかりを抜けて上条さんの側に寄って手首に手を当てて脈を確認。

 ―――脈はある。大丈夫!

 急いで上条さんを背負うって……重いっ!

 けどそんなこと言ってる暇もないから、走る。

 AIMバーストとの戦いのこともあって体が悲鳴を上げるけれどそれを無視して走った。

 

 

 

 上条さんを背負ったまま走って、小萌先生のアパートの前まで来たけれど、足が重い。

 階段を一段一段踏みしめるけれど、体中が悲鳴を上げているのが良くわかる。

 まったく勘弁してよね。

 階段を登りきってから、私は小萌先生の部屋の前まで来て、その扉を蹴る。

 両腕が使えないんだからしょうがない。

 

「はいはい、って佐天ちゃんと―――上条ちゃん!?」

 

「は、早く入れてくださいっ!」

 

 そう言うと小萌先生はドアを大きく開いてくれる。

 私は重い足でなんとか歩いて上条さんを小萌先生の布団の上に寝かせてから、横に倒れこむ。

 足が痛くてしょうがないけど、とりあえずは上条さんだ。

 

「もぉ、家は病院じゃないんですよ?」

 

 少し焦りながらもそう言って、小萌先生は上条さんの応急処置のために救急箱を出す。

 私はとりあえず体を引きずって壁に背中を預ける。

 こりゃぁ足が疲労骨折してても無理ないわ……。

 

「佐天ちゃんは大丈夫です?」

 

「あっ、はい……ごめんなさい」

 

 小萌先生はなんで謝る? という表情をしながら上条さんに応急処置をしていく。

 

「小萌先生の生徒じゃないのに色々と」

 

「学園都市の学生はみ~んな私の生徒です」

 

 そんな言葉に、私は少し安心できる。

 ふと、意識が飛びかけるけれど寸でのところでなんとか意識を保つ。

 玄関から音がすることで、インデックスが帰ってきたのがわかった。

 私はだいぶ痛みが引いた足で立ち上がってから帰ってきたインデックスの方へと歩く。

 

「ただいま、ってとうま!?」

 

 驚愕と共に上条さんのそばへと駆け寄ろうとするインデックスを止める。

 

「今応急処置してるから、ね?」

 

 なだめるように言うと、インデックスは頷いて近くに座る。

 上条さんは体中に痣と切り傷を作っていて、見ているだけで痛々しい。

 不安そうな表情で上条さんを見守るインデックスは『自分のせいだ』と言わんばかりの表情。

 上条さんはインデックスを救いたいと思ってるんだから―――それは違う。

 

「どうしたの?」

 

「道路の真ん中にね、倒れてたんだ」

 

 たぶん相手は神裂、私の報告が遅れたのが一番悪い。

 また私は誰も助けられなかった。なんの役にも立たない……。

 拳を握りしめて、自分への怒りを押さえる。

 

「くそっ……」

 

 なにもできなかった。また私は何もできなかったんだ。

 結局はただの役立たずで、私は紅魔館に行ってもまるで成長していない。

 もっと早く上条さんの元へと着いていたら、上条さんを助けることができたんじゃないか?

 そんな風に思って、私は唇を噛む。

 

「すみません、今日は帰ります」

 

「佐天ちゃん、もう夜は遅いですよ?」

 

 確かに完全下校時刻はとっくに過ぎているし、外もまっくらだ。

 それでも今日は帰って一人で色々考えていたい。

 だから私はここで頭を下げて、一人で帰ることとした。

 小萌先生の静止の言葉なんて聞かずに私は夜の道を走って自分の住んでる寮の部屋まで付く。

 扉を閉めて、私はそのままベッドへと倒れ込んだ。

 

 今日、AIMバーストとの戦いでも役に立たなければ、上条さんの役にも立たなかった。

 これなら居てもいなくても変わりない。私はなんのために力を手に入れたんだろう?

 理由なんて決まってる。大事な人を、この手の届く範囲の人たちを守りたいからだ。でもそれもできずに、私はこうしてのうのうと元気でいる。三日も呑気に眠っていた。

 なにが正解で、何が失敗なんだろう……。

 考えても私にはわかるわけがなかった。

 

 晩御飯を食べる気力もなく、眼帯とジャケットを放り投げて私は私服のままベッドに入った。

 すぐに眠気は襲ってきて、すぐに私の意識は闇に沈む。

 

 

 

 

 

 朝、起きて急いで時計を見てみれば時刻は午後12時―――ってヤバ! 完全に遅刻じゃん!

 急いでシャツとハーフパンツを脱いで制服に着替えようと思った直前で、気づいた。

 いや夏休み中だよね、今……。

 私はしょうがないからそのままシャワーを浴びてから着替えてテレビを付けて御飯を作る。

 上条さんが起きているかどうか気になるところだけれど、とりあえずしっかり準備をしていかなければ“いざ”という時が危険だ。

 だからこそジャケットの中のナイフの数を確認して、しっかりと着込んで外に出る。暑いけど、いたしかたない。

 

「さぁて、とりあえず小萌先生のところかな」

 

 昨日と違って状況の整理もできて、心も落ち着いた。

 しっかりと上条さんに謝ろう。

 私は軽い駆け足で小萌先生の家へと向かうことにした……。

 

 

 

「えっ、上条さんがまだ起きない!?」

 

 私はついつい小萌先生宅の前で大声を出してしまった。

 小萌先生は『しーっ』と人差し指を口に当てる。まぁ確かに教師が一生徒を自宅で寝かせているなんて、知られて良いことじゃないとは思う。

 それにしても、上条さんが起きないっていうのは不味い。

 でも私にできるのは上条さんが起きるのを待つことだけだ。

 

「佐天ちゃん、自分のことあまり責めちゃだめですよ?」

 

「え?」

 

 小萌先生は、小さな体で私のことを励ましてくれているのだと、思う。

 

「そうだよるいこ、それよりもありがとう。とうまを背負ってここまで……」

 

 いつの間にやら小萌先生の後ろにいたインデックスも私にそう言う。

 そう言ってもらえるのが嬉しいような、でもどこか惨めな気もして、私は今できる笑顔で精一杯に頷いた。

 少しだけおじゃまして、上条さんの様子を見てから私はすぐに小萌先生の家を出ることにする。

 

 結局、行き場もなく道を歩いていく。

 とりあえずセブンスミストにでも行って……。

 行ってもどうしようもないんだろうなぁ~。

 

「見つけましたのよ佐天さん!」

 

 背後からの衝撃に後ろを見れば、そこには白井さん。

 背中に抱きついてくる白井さんは御坂さん相手の時のような優しいというかいやらしい感じは一切なく『逃がさない』ということだけを思っているとわかる。

 なぁんか白井さんって最近妙に絡んでくるなぁ~とか思っても、私が悪いんだと思う。うん。

 

「今日という今日は逃しませんわよ、事情やら貴女のことやらをなんやかんや色々と教えていただきますのよぉぉぉっ!」

 

 大声を上げながら私の背後にくっついている白井さん、そのせいで周りからの視線が痛いけれど今はそんなことを言っている状況じゃない。

 

「ちょっ! 白井さん、勘弁してくださいよぉっ!」

 

「いいえ、のらりくらりと私をかわしてきたぶん私に付き合ってもらいますのよ!」

 

「こら白井さん!」

 

 そんな時、私に救世主が現れた。

 ほかでもない、その巨大なおっぱいを持つのは私の知っている中で二人だけ、しかももう一人と違ってきっちりとした服装をしてるぶんよほどいい。

 現れた救世主は固法美偉先輩。もう一人のおっぱいは露出魔痴女だから、やっぱり固法先輩素敵です!

 

「そんな、素敵だなんて佐天さんったら」

 

 固法先輩は頬を赤らめてよそを向くけど、ついつい口に出しちゃっていたみたいだ。

 まぁ赤くなったのは褒められたのが気恥ずかしいだけだと思うけど。

 とりあえず力を緩めた白井さんを力技で引き剥がすことに成功する。

 

「佐天さん、色々つもる話もあるのだけれど今から私たち風紀委員(ジャッジメント)の仕事なのよ」

 

 なんだ、少し気分転換に付き合ってもらおうと思ったんだけど……でも白井さんに聞かれたら少し面倒なことになる。

 やはりここは大人しく帰ろう。

 

「わかりました、では私はこれで」

 

 踵を返して帰ろうと思った瞬間、私の腕ががっしりと掴まれる。

 

「え?」

 

 右腕を掴む固法先輩と、左腕を掴む白井さん。

 笑顔の二人に私は愛想笑いを浮かべることしかできない。

 

「え?」

 

「私たちこれから―――」

 

風紀委員(ジャッジメント)の仕事がありますの―――」

 

 いやそれは私には関係ないし……。

 

「わ、わかりました、私はこれで」

 

 二人から逃げようと思ったが失敗。

 回り込まれたとか以前に、離してくれない。

 

「私たちこれから―――」

 

風紀委員(ジャッジメント)の仕事がありますの―――」

 

 なにこのロールプレイングゲームの村人、同じ会話しかしないじゃん!

 くっそぉ~、不幸だぁっ!

 

 

 

 結局、私はなんの関係もない風紀委員(ジャッジメント)の仕事を手伝っていた。

 さすがに今日は一つというわけにもいかないようで、街の見回りで見つけたトラブル、猫探しやら不良の溜まり場になるような場所、あとゲームセンターとかを見て回って、夕方になったら休憩。

 貴重な一日がこんな風になるなんて……。

 まぁあのまま返事をしなければたぶん、固法先輩の透視能力(クレアボイアンス)でもれなく脅迫されていたに違いない。

 

「佐天さんはコーラで良かったんですの?」

 

「ああ、ありがとうございます」

 

 本当に疲れた、白井さんにドリンクバーから持ってきてもらったコーラを飲んで背もたれに思い切りよりかかる。

 猫探しに関しては異常に走らされるし、ていうか基本的に走らされたり、跳んだりさせられたり。

 なるほど体力勝負ですかと……ていうか透視能力(クレアボイアンス)空間移動(テレポート)があれば大概の事件が余裕だと思うんだけど。

 

「今日はありがとう佐天さん、貴女のおかげでだいぶ楽になったわ」

 

 固法先輩の言葉に、私は苦笑で返す。

 私もだいぶ楽になりましたとは言えない。

 

「それはそれとして、佐天さん?」

 

 白井さんの顔が少しばかりこわばる。

 やだなぁ、来るとは思ってたけどさ。

 使ったことに関しては謝る以外に道が残されていない。

 

「貴女は本当に何者ですの? とても無能力者とは思えないのですけれど……」

 

「正真正銘のレベル0ですよ、私は……」

 

 そう言うがどこかふに落ちなさそうな白井さん。

 だから私はわかりやすいようにやんわりとそのふを落とそうとしてみる。

 

「みんなは能力という才能がある。それと違って私は格闘、近接戦闘に才能があっただけです」

 

 平凡で凡人な私が能力以外で強くなるためにはそれしか手がなかった。

 

「それだけであそこまでできますの?」

 

 できている。ただ師匠とその周辺の人が異常だったけれど、確かに私はただ鍛えただけだ。

 確かに左腕もこの眼帯で隠している左目も“人間”のものではないけれど身体能力もなにも変わっていない。

 私は私で、ただ前よりも踏み出す勇気をもっただけ。

 

「あそこまでできても、私は弱いままです」

 

「でも私を助けて、スキルアウト相手にあそこまで」

 

 固法先輩の言いたいこともわかる。

 自分で言うのもアレだけれど、強能力者(レベル3)相手にあそこまでの立ち回りができる人間は少ない。

 けれどあの“程度”の攻撃一つに当たるほどやわな鍛え方を私はしていなかっただけ。

 なんたって、霊夢さんと魔理沙さんとチルノと大ちゃん、その面々からの攻撃を避ける訓練だてしたんだから。

 

「本当に私はただ“喧嘩がうまい”だけの中学生ですよ」

 

 笑っていうと、白井さんと固法先輩は少し迷ったような顔をしたあと、頷いてくれた。

 そう、鍛えたことよりも私が変わっている原因は幻想郷での生活で世界観が変わったこと、それと踏み出す勇気を得たこと。

 ただそれだけだ。

 

「さて、気分転換にデザートでも!」

 

 私が言うと白井さんと固法先輩も笑顔でメニューを一緒に見る。

 とりあえず固法先輩にはおごってもらおう、白井さんに色々漏らしたしね!

 うん、先輩なんだから当然だよね! さぁて、デラックスジャンボストロベリーサンデーといきましょう!

 ―――少しだけ、私は元気になった気がした。

 

 

 

 だけど私の気分は、自宅に帰ってからまた沈むことになる。

 携帯端末からかかってくる電話のせいだ。

 知らない番号だけれど、とりあえず出てみることにした。

 

「もしもし」

 

『佐天ちゃんです? 小萌です』

 

「小萌先生!?」

 

 少し驚いたけれど、誰から電話番号聞いたんだろう?

 

幻想御手(レベルアッパー)を使った皆さんに緊急ですが明日特別講習です。他の方にも電話は行っているでしょうけれど佐天ちゃんとはこれからも連絡する機会も増えることもあるから電話番号を聞いておいたというわけです』

 

 なるほど納得、でも幻想御手(レベルアッパー)使用者を集めるってことはつまりお説教とかそんな感じ?

 小萌先生は内容について話すつもりはないようで、とりあえずこれで連絡を取り合うのが楽になったってわけだ。

 とりあえずアケミたちも一緒になるだろうし連絡しとこう。

 

「わかりました、じゃあまた明日」

 

『ちなみに講習場所はポストに入ってると思うです。上条ちゃんが目を覚ましたらまた電話しますね』

 

「はい、ありがとうございます!」

 

『では、おやすみなさい』

 

 通話が切れて、私は携帯端末に充電器をつないでとりあえず晩御飯を作ることにした。

 右手で軽く食材を切っていくけど、私も刃物の扱い上手くなったなぁと思う。

 咲夜さんと美鈴さんに教えてもらったナイフ術と格闘術を組み合わせた我流、結構対人戦には役に立つんだけどどうにもAIMバーストのような相手には使えない。

 やっぱり遠距離攻撃、あの能力が欲しくなるけれどそれも今は叶わない。

 

「はぁ……頑張れ私!」

 

 自分で自分を励ましてから、ついつい肉じゃがのじゃがいもが千切りになっていたことに気づく。

 今日の肉じゃがはじゃがいもが溶けてなんだかわからない肉料理になってしまった。小皿に乗せて一口味見してみれば、案外いけるしこれはいつか紅魔館で作ろうと頷く。

 明日のことを思うと若干気が重いけれど、補修が終わったあとに存分に遊んでやろうと思う。

 肉じゃがもどきをよそってお米を茶碗によそおうと炊飯器を開けて、ため息が出た。

 

「やばっ、お米炊くの忘れてた」

 

 ―――はぁ、不幸だっ。

 

 

 

 

 




あとがき↓  ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。















まぁ、なんで上記のような説明を入れましたかというと、なんだかこの口調が気持ち悪いということもあってでござったww
しょうがないしょうがない。とりあえずこの口調を変えるつもりは……無いと言われれば無い。
ということであとがきでござるな!
今回の話は『繋ぎ』だったので若干ながら短くなっているでござるよ。

次回は特別講習、お楽しみにしていただければまさに僥倖にて候!


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