とある無力の幻想郷~紅魔館の佐天さん~   作:王・オブ・王

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19,十万三千冊<インデックス>

 あの特別講習から二日、七月二十七日。

 今日もまた私は小萌先生の家にて上条さんの様子を見に来た。私の責任なんだから当然だと思う。

 お昼時、私は小萌先生に台所を借りて食事を作る。

 あまり散らかすわけにもいかないしここはパンとか軽いものにしようと、まな板の上でパンを切る。

 ハムやらチーズやらレタスやらをはさんで結構な量を作っていると、インデックスの声がした。

 

「上条さん!?」

 

 私が急いで居間の方を覗くと、上体を起こした上条さんがそこには居た。

 

「さ、佐天さん、あれから無事だったのか、良かったぁ」

 

 この人はっ、自分のことより他人のこと心配なんてしなくて良いのに!

 それよりも謝らないと、私がもっと早く上条さんに神裂のことを伝えておけばって言わなきゃいけない。

 

「その」

 

「神裂と戦ったんだって、佐天さん?」

 

 そんな言葉に、私は少し驚いて頷く。

 

「いやぁ佐天さんでも勝てなかったなら上条さんが勝てるわけもねぇか~」

 

 そう言って笑いながら後頭部を掻く上条さん。

 私の言いたいことがわかってるのかな?

 まぁどちらにしろ、この人は優しいってことだけはわかる。

 

「だから気にすんな、事情があったんだろ佐天さんも」

 

「あははっ……」

 

 その優しさがちょっとばかし苦しい気持ちもあるけど、嬉しかった。

 

「じゃあとりあえずお昼作っちゃいますね! 沢山食べてください♪」

 

 私が台所に戻ると居間の方から声が聞こえてくる。

 インデックスも色々考えてたみたいで、上条さんに色々と話をしていた。

 ヨハネのペンだっけ? あれのことに関しても色々とあるみたいであまり突っ込んで欲しくないらしい。

 とりあえずサンドイッチを沢山作って居間へと持って行く。

 

「病み上がりに大丈夫ですか?」

 

「あぁ、全然平気だぜ! エプロン姿の佐天さんを見て上条さん大満足……」

 

 なにいってんですか、ほらぁインデックスも怒ってるし。

 ほんと鈍感な人って……はぁ~。

 とりあえずテーブルを出してそこにお皿を置いた所で、玄関から音が聞こえた。

 

「はぁ~い! 小萌かな?」

 

 インデックスが嬉しそうに言う。

 短い間にずいぶんなついたみたいだ。

 玄関の外から小萌先生の『あれ、家の前でなにやってるんです?』なんて小萌先生の声が聞こえて、私はすぐにジャケットを上から着る。

 いつでもエモノを抜けるように準備するが、最初に扉を開くのは小萌先生。

 

「上条ちゃん、佐天ちゃん、なんだか知らないけどお客さんみたいです!」

 

 そう言って扉を開く小萌先生。

 インデックスが私より前、玄関の廊下に出てしまったことを焦るけれどもう遅い。

 見覚えのある二人がそこに立っていて、大男ステイル・マグヌスは不敵に笑う。

 立ち上がる上条さん。

 

「テメェら、今更なにしに!」

 

「ふぅん、その体じゃ簡単に逃げ出すこともできないみたいだね」

 

 私の方はエプロンつけっぱなしの上からジャケットなんてわけのわからない格好だ。

 上条さんは顔をしかめる。多分私も無意識に同じような表情をしているに違いない。

 なるほど、上条さんをエサにしてインデックスを安全かつ確実に保護するってこと、くっ!

 

「帰って! お願いだから、私ならどこにでも行くから! 私なら、なんでもするから!」

 

 インデックスに駆け寄る上条さん―――ってそんな怪我でっ!

 私はインデックスと上条さんの前に立つ。

 神裂は能力が無くなったことを知らないはずだからこそ、神裂に手を向ける。

 

「お願いだからとうまとるいこを傷つけないでっ!」

 

 ステイルが、僅かに眼を細める。

 

「っ、リミットまで残り12時間と38分、逃げ出さないかどうか足枷の効果をみてみたかったんだけど予想以上だったね」

 

 足枷?

 

「そのおもちゃを取り上げられたくなかったら、もう逃亡の可能性は捨てた方が良い、わかるね?」

 

 出て行くステイル・マグヌスと神裂。

 私たちは若干ながら警戒心を緩めて構えも解く。

 リミットって何なのかまったくわからない。

 

「大丈夫だよ、私が取引すれば……とうまとるいこの日常はこれ以上壊させない、これ以上は絶対に踏み込ませないから平、気―――」

 

 意識を失って倒れるインデックス。

 上条さんはそんなインデックスを抱えて先ほど自分が寝ていた布団へと運ぶ。

 私はその二人を見ていることしかできない。なんだかんだ言って男の人ほど力があるわけでもない。

 無力なこの手で、一体どれぐらいのものが救えるんだろうか……。

 

「佐天ちゃん」

 

「はい?」

 

 小萌先生からの声に驚きながらそちらを見ると、小萌先生は微笑む。

 

「先生は何かあれば相談に乗るです」

 

「……どうも」

 

 嬉しさ半分、顔に出てたってことで少しばかり反省。

 さてさて、とりあえず上条さんに聞かなきゃいけないことも沢山あるからこそ、上条さんの隣りに立つ。

 しゃがんだままインデックスを見ている上条さんの表情は心配と言わんばかりだ。

 それと、何かを悩んでいる。

 

「上条さん、病み上がりですが少し買い物に行きませんか?」

 

「え?」

 

 何言ってるのでしょうか? と言わんばかりの顔をしている。

 だから事情を話してもらうためにここから離れようって言ってるんですよ、言わせんな恥ずかしい。

 

「察しが悪いですね上条ちゃん、女の子から買い物のお誘いなんてデートに決まってるじゃないですか!」

 

 小萌先生もなに言ってんですか。

 

「インデックスちゃんのことは任せて、息抜きもたまには必要です!」

 

「あっいやね佐天さん、上条さんも非常にその言葉は嬉しいんですけど、そのこの状況で」

 

 私は上条さんへと寄って耳元でボソボソと話す。

 

「良いから……それにリミットのことを小萌先生の前で聞いていいんですか?」

 

 そう言ってからようやく現状を理解したのか、頷く。

 魔術師たちもまだ私たちやインデックスに手を出すことはないようなので問題ないはず。

 じゃなきゃ絶対にあの場で私たちを逃がすはずがないから……。

 私と上条さんの二人で小萌先生のアパートから出て、歩きながら話をする。

 病み上がりに悪いから、近場の喫茶店に入ることにした。

 

 包帯を巻いてる上条さんと眼帯をつけてる私、中々どうして目立つ。

 席に案内してもらってすぐに飲み物を頼む。

 

「えっと、俺はコーヒーで……」

 

「私はカフェ・オレで」

 

 店員さんはたった二つの商品を業務的に確認するとすぐに席から離れていく。

 そして私は上条さんの方に視線を向けた。

 私が聞きたいことはいくつかあるけれど、一番聞きたいのはインデックスのことだ。

 

「リミットってなんですか?」

 

 そう聞くと、上条さんは少しバツの悪い表情をする。

 

「俺がもっと早く起きてれば良かったんだけど、実はインデックスを追ってる魔術師っていうのがインデックスと同じイギリス清教の奴らだったんだ」

 

「どういうことですか?」

 

 場合と状況によってはこの問題はもっと大きいものになる。

 上条さんの話によると、インデックスが持っている10万3000冊の本っていうのは、完全記憶能力によってということで、その完全記憶能力とはどういうわけか脳の中が一杯一杯になるほど沢山あるらしくきっかり一年で魔道書の記憶以外の記憶を消さなければ、インデックスは“死ぬ”らしい。

 けれどそんなことはありえるの、かな?

 都市伝説ハンターこと私は、都市伝説を調べているうちに特殊なことを知る機会も度々ある。

 サヴァン症候群……。知的障害のある人がまれになる症状、その中には完全記憶能力というのもあるけれど、それによって死に至ったとかいう話は私も聞いたことがない。

 

「それ、本当ですか?」

 

「ああ、神裂が言ってたんだ。とても嘘ついてるようには見えなかった」

 

 それは本当のことなのか、なんて聞く必要も無い。

 上条さんの眼を信じるならば……でも上条さんも神裂も、ステイル・マグヌスも全員納得したの?

 なんで記憶のしすぎで死ぬなんて、まさかこの人たち―――馬、いやそんなことはないはず。

 とりあえず私はこの可能性がわからないからこそ、席を立った。

 

「私は少し調べてくることがあるので、インデックスのことお願いします。お金は置いときますね」

 

「えっ、ちょっと佐天さん!?」

 

 私は上条さんの声も聞かずに走って店を出た。

 こういう時、いや頭や脳関連であればあの人に聞けば間違いないはずだ。

 あそこまでの執念をひきずってずっとやってきたんだからそういうことにも詳しいはず。

 そして私は、二時間ほどしてそこにいた。

 

「やぁ、来てくれるなんて嬉しいね」

 

 私の目の前で、ガラス越しにそう言うのは木山先生。

 ネットで調べるなんかよりこの人の方がよっぽど信頼できる。

 今回に限っては『勘違いでした』なんかじゃ済まされないことなんだから当然だ。

 私は木山先生に真面目な表情で一礼してから言う。

 

「聞きたいことがあるんです」

 

「ん、なんだい? 私に答えられることなら答えようじゃないか」

 

 少しだけ微笑みながらそう言う木山先生に私は頷く。

 

「記憶のしすぎで人が死ぬということは……ありえますか?」

 

 いたって真面目に、私はそう聞いた。

 向かいに座っている木山先生は笑う。

 

「いたって面白いことを言うな、君は……」

 

 そして答えが今出される……。

 

 

 

 

 

 私はひたすら走っていた。

 けれど、結局目的は達成できない、しかたがないと私は小萌先生の家へと戻った。

 ノックは必要ないと聞いたからこそ、私はそのまま扉を開けて入る。

 ―――私は運がいいのか悪いのか……。

 

「佐天さん、今神裂から」

 

 良いです上条さん、私は今すぐその“馬鹿”に言わなきゃならないことがある。

 私は上条さんに手を向けると、上条さんは察したのか私に受話器を渡してきた。

 

「もしもし」

 

『神裂火織です、貴女がまた敵となるのは厄介なのですが……』

 

 敵? 私が敵に回るって……違う。私はただインデックスの味方なだけだ。

 

「上条さんから聞いたよ、インデックスのこと」

 

『なら話は早いんじゃないですか?』

 

 当然というようにそう言う神裂。

 私はその愚かさに歯ぎしりをして、拳を握りしめて声を最大限押さえて言う。

 残酷だが現実だ。

 

「人間の脳は140年分溜めきれるようにできてる。人間の脳は記憶というのは一つの場所に入ってるわけでもない」

 

『なにを、言ってるのですか?』

 

「脳医学上ありえないんですよそんなものは、人間はどんなに記憶が溜め込まれても死ぬことなんてありえない。そんなことも調べずに誰かの言ってたことを鵜呑みにしてたんだよ貴女達は! このッ、ド素人がッ!!」

 

 怒りをこらえきれずに私はそう叫んでいた。

 向こうから、動揺したような言葉にならない声が聞こえてくる。

 私が嘘を言ってないことがわかっているからこそ、だと思う。

 

「嘘をついてたのは貴女達の上司、教会がインデックスが一年周期で記憶を消さないと死ぬっていう小細工をしてインデックスが裏切らないようにした。今すぐこっちに来てください! ステイル・マグヌス連れてね!」

 

 そう言って電話を切る。

 あの二人の顔面を思いっきり殴ってやりたいけれど、そんなことより今はインデックスのことだ。

 この苦しんでいるのはなんのせいなのか、なんて考えても仕方ないことばかりだけどとりあえず今はあの二人を呼ぶ所から始めなければならない。

 インデックスの体に細工がしてあるとすれば、どこ?

 

「人の目の届かないような場所、だな」

 

「……ッ」

 

 へ、変なことを考えちゃったよ。

 いやその可能性は少ない。絶対ない、というか個人的に寝てる相手の了承なしに体中を調べるなんていうのは……。

 上条さんは右手の包帯を外していき、バッと外して笑みを浮かべた。

 

「俺たち二人でヒーローになってやろうぜ、佐天さん!」

 

 私にもなれるかな?

 いや、『なってやろうぜ』と上条さんは言ってるんだ。

 なれるかじゃない、なると言う上条さんの確証のない言葉。

 私はとりあえずインデックスの体に細工がありそうな場所を頭に浮かべていく。

 

「まだ上条さんが触れてない部分」

 

 背負ったりしてきたんだから、上条さんの触れてない部分なんて……。

 

「どこ見てるんですか」

 

「えっ!? いやいや、上条さんは別にっ!」

 

 動揺しすぎですよ。ていうかなんか私も顔熱くなってきた。

 あぁもう、大事な場所でなんでこんなことやってるんだか!

 とりあえず深呼吸をしてから私はもう一度考える。

 上条さんが口の中を覗く……なるほど、その発想は無かった。

 

「ん?」

 

 何か見つかったの!?

 

「佐天さん、見てくれ」

 

 言われて私はインデックスの口の中を見る。

 確かにそこには細工と思しき謎の印のようなものがあった。

 これが本当にそうだとしたら……。

 いや、本物だろうがそうじゃなかろうが、今は上条さんに破壊してもらうしか道はないんだ。

 私は黙って上条さんを見て頷く。これが終わればすべて平和に終われる。

 

「佐天さん、これを終わらせる前に、こんな時だけど言いたいことがあるんだ……」

 

「なんですか?」

 

 少し驚きながら私は上条さんの方を見る。

 私は突然両肩に手を置かれてビクッとしてしまう。

 上条さんは私を真っ直ぐ見ながら、口を開いた。

 

「好きだ。これが終わったら付き合ってくれ」

 

 ……ふぇ?

 

「いや、突然なにをと思うかもしれないけど本当だ。佐天さんと一緒にインデックスを救おうと誓う前から俺は佐天さんに惹かれてた、だけど今は本当に好きだ。真っ直ぐなその気持ちでインデックスを救うために全力な佐天さん、今の驚いてる佐天さん、俺は本気で―――」

 

 ……いやいやいや、えっ? ほ、本気っ……。

 背後で、扉が開くような音が聞こえた。

 

「―――佐天さんが好きだ!」

 

 そう言った上条さんが私の方を見て少し驚いたような表情をする。

 けど私は落ち着く訳もなく返事をした。

 

「ごめんなさい!」

 

 私の返事に上条さんは燃え尽きたような表情をする。

 いや、見ているのは私の後ろ?

 その視線を辿って後ろを見れば、そこには神裂とステイル・マグヌスの二人。

 

「クッ、ククククッ、無様だなっ」

 

「う、うるせぇよ!」

 

「その、ごめんなさい」

 

「謝んじゃねえ、余計惨めだ!」

 

 笑うステイル・マグヌスと謝る神裂を怒鳴って、上条さんはため息をついて私の肩から手を離す。

 落ち込んでる上条さんを見て、私はまだ言えていない言葉をつけたすことにした。

 魔術師たちがいるから恥ずかしいけどしかたない。

 

「あの上条さん、私はただ付き合うのがまだ無理ってだけですよ」

 

「え?」

 

「その、私はまだ誰かと付き合うとかいう気はないし好きな人もいないから……」

 

 あぁもう恥ずかしいなぁ! なんで私がこんなめにっ、不幸だっ……いや、不幸ではないけど。

 

「と、友達からはじめてっ、私を惚れさせてみてください! まだ出会って間もないんですから、上条さんが言ってくれたらデートだってしますし、だから上条さんのその、その、その気持ちはまだ終わってもいないというか、そのっ……」

 

 うわぁっ! 顔絶対赤い、ああもうっ、こんなことになったのも全部インデックスのせいだ!

 今度ご飯作ってあげる予定があったら唐揚げ一つ少なくしてやるから!

 上条さんは嬉しそうな顔してるし……。

 

「おう、俺頑張るからな佐天さん!」

 

 返事をしても多分どうにもぐだぐだになるだろうから、私は黙って頷いた。

 本当に上条さんは好きだけれど、恋人にとかいう感情じゃないのは確かだ。

 けれどこれからも上条さんやインデックスも私の友達だ。上条さんとの関係は変わるかもしれないけれど、二人と一緒にというのはこれからも変わりない。

 だから、私は頷く。

 

「まったく、インデックスが苦しんでいるのに呑気なものだね。で、結局インデックスを助ける術はあるのかい?」

 

 ステイル・マグヌスも希望を抱いているのだろう。

 だからこそ、声が僅かにはずんでいる。

 上条さんが頷く。

 

「さぁ、やってやろうぜ!」

 

 私は両の頬を叩いてからキリッと表情を引き締める。

 上条さんがインデックスの口の中に手を入れて、それに触れた。

 瞬間、吹き飛ばされた上条さんに押される形で私も倒れる。

 

「なに!?」

 

 私は声を出してインデックスの方を見た。

 インデックスは黒いもやもやをまといながら起き上がる。

 その両の眼には六芒星の模様が浮かび上がり、衝撃波が部屋をぐちゃぐちゃにした。

 私と上条さんはすぐに起き上がり、後ろの神裂とステイル・マグヌスは驚いた表情のままだ。

 

「警告、第三章第二節、第一から第三までの全結界の貫通を確認。再生準備、失敗。自動再生は不可能。現状十三万三千冊の書庫の保護のため、侵入者の迎撃を優先します。書庫内の十万三千冊の魔道書による、結界を貫通した魔術の逆算、失敗。該当する魔術は発見できず」

 

 上条さんと私は起き上がってなにが起こるともわからないその状況に構えた。

 始まる。

 なにが?

 

 簡単なこと―――決戦だ。

 

 

 

 




あとがき↓  ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。















これもはや上やん病ならぬ佐天病じゃね? とか思ったお主! 悪くないでござる。
決戦かと思ったがそんなことはなかったぜ!
さてさて、今回は色々あったでござるが、どうなるか!?
上条さんの記憶の運命やいかに! って感じでござるな、まぁ色々今回はあった。
結構急ぎ足でござるが、次回こそは決戦!

まぁそろそろ幻想郷の話も絡むでござるからこれから乞うご期待!

では、お楽しみいただけたらまさに僥倖で候!
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