とある無力の幻想郷~紅魔館の佐天さん~   作:王・オブ・王

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2,紅魔館

 私、佐天涙子は森を抜けて、紅の館へとやって来ていた。

 その名も紅魔館、悪魔が住むと言われている館でその不気味な雰囲気から人里の人々から恐れられている。

 そういう私も前まではかなりビビリながらここに来ててたっけ。

 私は寝ている門番の横を抜けて門を通り庭を通り、館の中に―――。

 

「お邪魔しま~す!」

 

 入れば迎えてくれるのはもちろん銀髪の瀟洒なメイドさんこと十六夜咲夜さんである。

 彼女の後を着いていき二階のテラスへと出れば、そこには明るい空の下日傘の下紅茶を優雅に飲む“幼女”ことこの紅魔館の主“レミリア・スカーレット”がいた。

 カリスマ溢れる笑みを浮かべながら、彼女は私に向かって微笑んだ。

 目の前の吸血鬼や刃物メイドさん、この人たちにも幻想郷に来てからの“二ヶ月”ですっかり慣れてしまった。

 

「レミリア様どうも!」

 

「来たわね涙子、貴女ぐらいよ私を様と読んでくれるのは」

 

「私たちも呼びますよ」

 

「お前たちは従者だもの」

 

 なんだか格調高き吸血鬼がこうなると佐天さんもさすがに同情しますよ。

 まぁ同情で『様』をつけているわけじゃない。仮にも彼女は私の『修行』に協力してくれているし、バイト先であるこの紅魔館の主でもあるのだから付けざるをえない。

 魔理沙さんとか霊夢さんとかチルノちゃんは『レミリアはレミリアでよくね?』と言うけれどさすがに……480歳以上年上なわけだしね。

 一年前まで小学生だった私がそんな吸血鬼に馴れ馴れしくするなんて。

 

「美鈴はまた居眠りね、まったく……涙子、悪いけど美鈴を起こしに行ってくれる? ついでに寝起きに相手してもらいなさい」

 

 咲夜さんの言葉に頷いて、私は降りることにした。

 さすがに二階から飛び降りるような真似はまだできないから、階段をせいぜい10段飛ばしで降りるぐらい。

 一階へとつくとそのまま私は門へと向かわず曲がる。

 すれ違う“妖精メイド”たちと軽く挨拶を交わしながら私は一室に入った。

 

 

 

 はい! 着替え完了! これが伝説の佐天さんスーパーチャイナモードなのだ~!

 と言ってもツッコンでくれる初春も居ない。まぁこれはこれでここ二ヶ月で随分馴れてしまった。悲しいことに……。

 とりあえず私は走って館を出ると庭を抜けて門から出ると先ほどから寝ている門番こと紅 美鈴(ホン メイリン)さんに声をかけます。

 ちなみに私の服とほぼ変わらない感じなのはこの服を用意してくれたのが美鈴さんだからで……なんてどうでもいいか。

 

「起きてくださいよ美鈴さん!」

 

「ん……ふぁ~、あぁ! おはよう、涙子」

 

「とりあえず、隙有り!」

 

 私は美鈴さん直伝の拳を放つが軽く受け流されてしまう。

 うぅ、最近強くなってきたと思ったんだけどやっぱり近距離なら咲夜さんとか霊夢さんより強いや。

 

「こら、勝手にはじめちゃいけませんよ。それでも涙子では私に一撃当てるのも難しいけど」

 

「あははっ、でもそう言ってられるのも今のうちだけですよ!」

 

 美鈴さんが軽く足で地を蹴って離れると、拳を構えた。

 毎日の一回以上の日課と言っていい美鈴さんとの手合わせ、もれなく70連敗中の私だけど、最近は中々持つようになってきたと思う。

 学園都市に帰ってもへんのスキルアウトには負けないつもり。

 魔理沙さんが言った意味、最初は良くわからなかったけど今ならわかる。

 努力をしても才能が関わってくるもので、死ぬほど努力しても努力する方面によっては何も変わらない。だからこそ学園都市で言うスキルアウトって人たちは減らない。

 同じように私もこのまま続けて実が出ないより当面の身の安全の確保、そして少しでも誰かを守れるようにと修行を本気でやることにした。

 

「いい拳です!」

 

 美鈴さんの言葉、私の鋭くなった拳は呆気なく受け流されちゃったけど、ここで終わるほど単純じゃない。

 こんなので終わってたら二ヶ月は無駄な時間になっちゃうから……。

 私は腕を素早く引くと、片足を上げてそのまま頭より高く持っていき美鈴さんの顎を狙う。

 

「おっといい足です。成長しましたね」

 

 そう言って褒めてくれる美鈴さん。

 こう言ってもらえると自分がしっかり成長してるのだと、強くなっているのだと実感できて嬉しい。

 学園都市じゃ『まったく成長がない……』って感じだったしね!

 

 

 

 二ヶ月前幻想郷にやってきて、霊夢さんの家からここ紅魔館へ。

 来たときはレミリア様に睨まれてその威圧感に結構ビビったりしてたけど、いざ話してみると良い人だと思うし、子供っぽいところもある。

 レミリア様のことはともかく、霊夢さんと魔理沙さんとチルノちゃんがレミリア様に頼んでくれたおかげでここで鍛えてくれることになったわけだし、ついでにバイトも始めさせてくれたわけだし、感謝してもしきれない。

 チルノちゃんの家で暮らしているから大ちゃんにも結構お世話になってるし、どこかで恩返ししようとバイト代もまだ使ってない……いや、使うところがない。

 なにかみんなにあげたいんだけどなぁ。まぁないのだから仕方がないのだけど、とりあえず私的にはなにかアクセでも買ってあげたところなんだけど……。

 

 

 

「ほら隙だらけですよ!」

 

「え、ひゃっ!」

 

 考え事をしたせいで美鈴さんにあっさり拳をつきつけられる。

 寸止め出来る人で本当に助かった。助かりました。これで霊夢さんあたりだったらもれなく顔面にパンチ&鼻血流し放題になってたところですた。

 いやぁ、弾幕だって私も初心者の初心者。

 普通の妖精や妖怪以上ではあるけど、約二ヶ月特訓していた割には普通である。

 まぁチルノちゃんや大ちゃんに勝てるわけがないんだけどねぇ。

 

「やっぱり涙子は“接近戦”の才能があると思うわ」

 

「才能、ですか」

 

 あまりその言葉は好きじゃない。あると言われれば嬉しいけれど、あまり好きじゃない言葉だ。

 今では学園都市のことが良くわかる。多く分かる。今なら別の視点で学園都市を見れる。

 すごく運のいいことだって、レミリア様は言ってた。二つの視点で物事を見れるのはそう経験できることじゃないって、やっぱりわからないけど。

 

「美鈴、ご苦労さま」

 

「おや咲夜さん」

 

 現れたメイド長こと咲夜さんに美鈴さんは軽く手を上げて挨拶。

 咲夜さんもおだやかな表情をしているが、ここで寝ていれば間違いなく美鈴さんの頭にはナイフが刺さることになる。別に痛いだけだろうけれど。

 

「涙子、パチュリーさまが呼んでたわ」

 

「あっ、はい!」

 

 これから弾幕を教えてもらうというわけだ。

 もしかしたら幻想郷からこのまま出られないなんて可能性も無きにしもあらず。と霊夢さんは言っていた。

 そうなればかなり困る。困るというかもう落ち込むだろうけれど、その時のために、それに帰る前に自分の身を守るためにも今の私には紅魔館のみんなが必要。

 

 とりあえず、私は美鈴さんとの修行用の服からメイド服に着替えて走った。

 駆け足でパチュリーさまの部屋へと向かう最中、レミリア様が向こうに見える。

 ついでに横にはイタズラ対象!

 

「ち~る~の~!」

 

 名前を呼びながら、その背後から思いっきりスカートをまくった。

 ほぉ、今日はドロワじゃなくしましま……良いね!

 バサァっとまくれ上がったスカート、きっと今頃チルノちゃんったら真っ赤な顔を……おぉ、赤い赤い。

 

「さ、さ、さ……」

 

 なんか知らないけどレミリア様はため息をついて大ちゃんまで真っ赤な顔で鼻を押さえている。

 振り返ったちるのちゃんは真っ赤な顔のまま自分のスカートを押さえて、片手を私に向けた。

 

「佐天の馬鹿!」

 

「うわっ、あぶない!」

 

 チルノちゃんの手から放たれた無数の氷の弾幕をここ最近で覚えた飛んだり跳ねたりな避け方で避ける。

 そこらの妖精やらとは桁違いの弾幕の数だけど避けるぶんにはなんの問題もない。

 少し弾幕を避けていると、チルノちゃんは息を荒くしながらやっぱり赤い顔で私を睨む。

 

「馬鹿佐天!」

 

 そう言うチルノちゃんだが私はそんな“馴れた”状況に軽く笑う。

 レミリア様が肩をすくめ、大ちゃんが鼻を押さえて片膝を地面についている。

 まったくもってからかい甲斐があるなぁ~、と思う。

 少しばかり初春の顔が見たくなってきた。

 

 

 

 そのままレミリア様と、私に『よくやった!』という顔をしてくる大ちゃんと、少し怒っているチルノちゃんの三人と一緒に図書館へとやってきた。

 大きな図書館は紅魔館の自慢の一つであり、私の“サボリ場所の一つ”でもある。まぁ咲夜さんに見つかってげんこつを入れられるんだけど。

 巨大な図書館に並ぶ数々の本、そして机に座って本を読んでいる引きこもり少女こと『動かない図書館』さん。

 

「涙子じゃない、またサボリ?」

 

「ちょ!」

 

 動かない図書館ことパチュリー・ノーレッジさんの言葉に、私が焦ったが本人はまったく気づいていない。

 そして私の後ろのレミリア様を見てようやく気づいたのか少しだけだが私を見て息をつく。

 ため息をつきたいのは私ですけどね?

 

「いいことを聞いたわ涙子、今度からはさぼれると思わないことね」

 

 うぅ、新しいサボリ場所探そう。

 とりあえずパチュリーさんのそばに歩く私。

 今日はなんですか? なんて聞かなくてもわかってる。

 この日をずっと楽しみにしていたのですから!

 

「今日は貴女についてわかったことを話すわ」

 

「はい!」

 

 いつもは弾幕勝負での戦い方や弾幕を大量に展開するときのことなどを押してくれるんだけど、今日はここ二ヶ月の資料を元に私の“才能”の分析結果を出してくれるらしい。

 まぁだからレミリア様やチルノちゃんや大ちゃんがここに着ているわけだけど……あっ、咲夜さんと美鈴さんも来た。

 

「お待たせしました~」

 

 本の整理を終えたパチュリーさんの使い魔こと“小悪魔”さんも来たようで。

 これで紅魔館の主なメンバーは揃った。

 パチュリーさんが手元の資料を見ながら……何も言わない。

 あれ? なんてみんなで少し混乱してみたが、すぐに理解できた。

 

「おうパチュリー、遅れて悪い」

 

「まったく、面倒ね」

 

 魔理沙さんと霊夢さんも来てくれて、これでようやく私のために色々してくれた人たちが集まったということ。

 つまりこれにて発表。

 あぁ、なんか能力判定よりも緊張する。みんながいるっていうのもあるんだろうけど、緊張する!

 私はスカートの裾をぎゅっと握ってパチュリーさんの言葉を待つ。

 

「涙子、貴女には……」

 

 ゴクリ、と喉が鳴ってしまう。

 一目私に目を配ると、パチュリーさんは手元の資料を読む。

 

「正直、弾幕の才能はないわ」

 

「……へ?」

 

 えっ、今なんと? なになに『なにか特殊な力が』的な展開じゃないんですか!?

 ほらほら、霊夢さんが『うっわぁ~』って目で見てきてますし! やだ、これが天才との差!? その視線が痛い!!

 こんなっ、不幸だぁっ!!

 

「る、涙子……」

 

 レミリア様ですら同情しているのがわかる。

 これは、どうしましょうね。ほんと。

 魔理沙さんも私の肩に手を置くなんて、どこまで同情されるの私ったら。

 

「待ちなさい、まだ弾幕の才能がないって言っただけよ。私が色々調べたんだからそれだけなわけないでしょう」

 

 マジですかパチュリーさん!?

 

「涙子はどちらかというと接近戦を鍛えたりしたほうが賢明ね、弾幕は今以上はあまり期待しないで……あと能力は正直ピンと来ないから、まだ能力が発現する可能性はわからないわ。とりあえず涙子、貴女には格闘術やらの“才能”がある……」

 

 才能があるなんて言われたのはじめてですよパチュリーさん!

 いやぁ、この私にもようやく運が巡ってきましたかぁ、世界中の不幸のみなさんごめんね!

 チルノや大ちゃんも嬉しそうにしてくれてるし、魔理沙さんも親指を立てた手を向けてくれる。

 

「貴方は向こうの世界で“無能力”ってことでコンプレックスを抱いてたみたいだけど、安心しなさい。“そこ”でなんと言われようと、貴女には才能があるわ」

 

 珍しく饒舌なそんなパチュリーさんを見て、私は感動するというより笑ってしまった。

 なんて不器用な人なんだろう。素直に『落ち込むな』って言えば良いのに、ただ紅魔館の人は美鈴さんと小悪魔さん以外みんなこんな感じだろう。

 霊夢さんだってたぶんそうだ。まったくこの幻想郷は素直じゃない人が多い。

 だけど、こんな幻想郷が私は大好きだ。

 

「まだ帰れるまで時間があるんだから、幻想郷にいる間はここにいなさい涙子」

 

 そう言ったのはレミリア様で、カリスマ一杯の不敵な笑みを浮かべるがそれもすぐにチルノの笑いにかき消されてしまう。

 

「ハハッ、似合わないわねレミリア。素直に数少ない友達だから仲良くしてって言いなさ」

 

「チルノ、それ以上は禁句よ」

 

 何を言っているか聞こえなかったけど、チルノが咲夜さんに後頭部にナイフを突きつけられてる。

 

「オーケーよ咲夜、さいきょーのあたいは無限に再生を繰り返すけど、痛いのは嫌なのよね」

 

「それ妖精が最強になっちゃうよチルノちゃん」

 

 大ちゃんの言うとおり、妖怪に勝てる妖精はチルノぐらいなんだから……。

 というよりなんでチルノはナイフ突き立てられてるの?

 

「と、とりあえず佐天!」

 

 レミリア様に呼ばれてそちらを見ると、顔をどことなく赤くしている。

 

「貴女はバイトとは言え紅魔館のメイドなんだから私たちが責任もってきっちり面倒を見るから……安心なさい!」

 

 へ?

 

「お嬢様があんなこと言うなんて珍しいですね」

 

 美鈴さんがそう言っているが、ほんとに私もびっくりしている。

 事実、今言葉が出ない。なんていうか、レミリア様がそんなことを言うなんて絶対に思わなかったから……。

 だから、なんとか私は笑顔を向ける。

 

「うん、これからもよろしくお願いします。レミリア様」

 

 あっ、図書館から出て行っちゃった……。

 それをはじめとして、咲夜さんと美鈴さんも出ていき、小悪魔さんも仕事に戻る。

 それぞれが仕事に着くと、パチュリーさんとチルノと大ちゃんと私だけになった。

 まだ話すことでもあるのかな? 資料を見ている。

 

「いきましょう佐天さん」

 

 えっ、もう行くの?

 私はびっくりしてそっちを見ていると、チルノが笑う。

 パチュリーさんの方は私たちの方を見ることなく資料を見ていた。

 

「パチェは佐天のために資料を読んでるだけね―――おぶっ!」

 

 飛んできた分厚い本がチルノの後頭部にぶつかる。

 投げたのはもちろんパチュリーさんで、後頭部に思いっきり分厚い本を投げられたチルノにかけよる大ちゃん。

 後頭部を押さえながら立ち上がったチルノが肩をすくめてため息をついた。

 

「素直じゃないねパチェは、まぁいいや、とりあえず行こうか大ちゃん」

 

「うん、それじゃ佐天さん頑張ってください!」

 

「わかった。じゃあまたね、晩御飯期待してるよ~♪」

 

 チルノと大ちゃんに手を振って、私は図書館に残る。

 さて! とりあえずここで一休みするとしましょ!

 ……え、咲夜さんどうしたんですか? えっ、いや、さぼろうなんて、えっ……助けて! 助けてパチュリーさん! 無視しないでぇ!

 もぉぉぉぉっ! 上げて落とすなんてぇ!

 

 学園都市のこともあるけれど、今はこの大好きな幻想郷で大好きな人たちといる。

 だから大丈夫だよって、伝えたい。

 

「涙子、次の訓練相手は私だから、全力で弾幕を避けなさい」

 

 えっ、私怨入ってますよね? ね?

 さ、殺人ドール!?

 わぁぁぁっ!! 不幸だぁぁっ!!

 

 

 

 

 

 




あとがき

とりあえず二ヶ月ほど飛ばしましたが、また書く事もあると思うでござるよ。
次回は佐天さんに大いなる分岐点が!
ということで、次回お楽しみにしていただければまさに僥倖!


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