とある無力の幻想郷~紅魔館の佐天さん~   作:王・オブ・王

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24,魔術

 私、佐天涙子は小悪魔さんとの話のあと何食わぬ顔でパーティーに参加して、パチュリーさんと途中で出た。

 とりあえずパチュリーさんは私を図書館に連れてきて、いくつかの本を出してきたようだ。

 日本語、英語、どれも読めないことはないと思う。

 こう見えて英語は柵川の一年生の方じゃトップクラスにできる方だ。メル友にイギリスのジーンズ売りの人がいるから英語は自然と覚えた。

 ということで英語の本を読めることは読める。

 

「この手の本は山ほどあるのよ。ほら、魔術って昔からあるものだしね」

 

 そう言っていくつかの魔術の本と別に、なにか本を用意する。

 

「学園都市で超能力を開発してるって意味がようやくわかったわ。人工的に“原石”を作り出そうなんて考えたものね……」

 

 パチュリーさんは超能力を知っていた? というより“原石”ってなんなんだろう。

 

「そもそも魔術は“超能力者”のように才能無いものが才能あるものと同じようになるために作られたもの、魔法の方が使い勝手もいいけれどその代わり魔術なら詠唱や物の配置などをしっかりしていれば素人でも使える」

 

 それは知ってる。小萌先生がインデックス、いや自動書記(ヨハネのペン)に教えられて使っていた。

 でも話によれば学園都市で能力開発を受けている人間は魔術を使えない。

 もう少し早く魔術に出会いたかったなとか思ったし、覚えている。

 

「そう言えば馬鹿女の作ったって言ってましたけど、イギリス清教のトップをパチュリーさんは知ってるんですか?」

 

「現在イギリス清教がどうなってるか知らないんだけどね、ただまぁことの発端はローマ正教で、あれの世界支配を逃れるために作ったんだけど、あいにく私は当時のトップである人間が嫌いだったのよ」

 

 そう言うとパチュリーさんは話の軸がブレたのに気づいた。

 

「オホン、で魔術はその気になれば涙子にも使うことができるわ。ただ準備ということを考えれば涙子の場合殴ったりしたほうが早そうだけど」

 

「それが私が“戦った”魔術師は炎の魔術で近づけなかったと言いますか、魔女狩りの王(イノケンティウス)なんてものを使う奴で」

 

「戦ったの!? 魔女狩りの王(イノケンティウス)を使うほどの魔術師と!?」

 

「ふぇっ!? は、はい!」

 

 突然大声を出すパチュリーさんに私は驚きながら頷く。

 喘息で倒れないか心配だけど、まぁ大丈夫そうなので安心半分、あと驚き半分だ。

 

「良く生きてたわね」

 

 その言葉に私は少しばかり表情を曇らせてしまった。

 すぐに笑顔になってパチュリーさんの顔を見れば、気づいていないようで安心。

 とりあえず私は上条さんのことを少しだけ話すことにした。

 すべての異能を打ち消す右手の話を……。

 

「いや、もう驚いたとかいうレベルじゃないわ。聖ジョージの竜の息吹(ドラゴン・ブレス)まで打ち消すなんて本当に超能力なの? 原石とも言い難いわ……」

 

 そんなに凄いものなのかなって気持ちもするけど、冷静に考えれば凄まじい。

 確かに物理的なことは防げないけれど、異能であれば全て打ち消せるというのは異常だ。

 私の、幻想御手で手に入れた力だって簡単に打ち消されると思うし……。

 

「確かに、そう聞くととんでもないかも」

 

「でしょ、で魔術を能力者が使えないっていうのは本当かどうか気になるところなのだけれど」

 

「試してみます? まだやったこと無いんです」

 

 そんな私の言葉に、パチュリーさんは頷いて一冊の本を開いた。

 

「単純な風力操作の魔術でも試してみましょうか」

 

 パチュリーさんは立ち上がるとチョークをもって図書館の床に魔法陣を書いていく。

 私は良くわからないのでそれを見ていることしかできずに、ただ促されるままに完成した魔法陣の上に立つ。

 魔法陣の中に刻まれた六芒星に六つ物を置くと、パチュリーさんは魔法陣から出て本を開く。

 

「涙子、私に続きなさい」

 

「は、はい!」

 

 これで魔術を行使することができれば、上条さんを助けることはできなかったけれどほかの人を助けることができる。

 インデックスだって、ほかの人たちだってこれから守ることができるんだ。

 だから私は気を引き締めて、集中する。

 

「風を操る様を想像するのよ。そうね、私の帽子を吹き飛ばすぐらいの気持ちで……じゃあ私の詠唱を復唱して」

 

「はい」

 

 私は目をつむってパチュリーさんの声に耳を済まし、復唱していく。

 

「世界を構築する五大元素の一つ、大いなる自然の力風よ。我が身を守りてその身にて―――飛ばせ!」

 

 瞬間、風が巻き起こりパチュリーさんの帽子が吹き飛ぶ。

 すぐに風は無くなり、あたりの飛び散ったものも静かに地面に落ちる。

 私は心底震えた、私は扱うことができたんだ。魔術をっ……。

 

「やっ、げほっ!」

 

 あれ、咳がっ……あれ、血?

 

「る、涙子!?」

 

 パチュリーさん……なるほど、これが魔術を能力開発した学生が使えない原因。

 これは凄い副作用ですねほんと。

 さすがにキツいっ。

 

「がはっ」

 

 ぼたぼたと血が流れ落ちて、私の右腕や頭からも血が流れる。

 一度魔術を行使しただけでこれってのは、さすがに不0味い……ッ。

 やば、意識がっ。

 

「涙子っ!」

 

 またか、また私はっ……ッ。

 

 

 

 

 

 ふと起きれば、見慣れた天井。もう何回目よこの件……。

 私は状態を起こして痛みにのたうちまわりそうになる。

 横を見ればパチュリーさんが座っていて私を驚いた表情で見ている。

 

「あぁ、おはようございま―――」

 

「涙子ッ!」

 

 そんな声に、外でドタバタと音がして扉が開く。

 まただよこの展開、まぁ嫌いじゃないんだけど……今回は結構キツイ。

 みんな心配しているような表情で、魔理沙さんと霊夢さんもやって来た。

 あぁ、まったくまたいろんな人に迷惑かけて、私はほんと。

 

「無事みたいだから良かったわね、でも二時間ぐらいで起きるなんて驚きよ」

 

 霊夢さんがそう言って溜息をつく。

 

「ああ~、ごめんみんな、心配かけちゃって」

 

 そう言って笑う涙子に、全員が驚いた表情をする。

 

「魔術を使って倒れるなんてホント情けな―――」

 

 瞬間、パァンと音がした。

 みんなの方を向いていた顔が別の方を向いて、頬に痛みがヒリヒリと伝わってくる。

 私が私の頬を叩いた誰かの方を見ると、そこには小悪魔さんが立っていた。

 全員驚いているように見える。

 

「誰のせいでも無いことまで自分のせいにするなんて……どうかしてます」

 

「なっ、なにをっ!」

 

「涙子さんを庇ったというその方も、きっと今と同じことを言いますよ」

 

 小悪魔さんに何がわかるって言うんだ。

 いつもいつも他人に迷惑をかけてばかりで何も返せない私の気持ちがっ!

 

「先ほど話していたときにいずれこうなるとは思いましたがさすがに早い。これは私の個人的な意見です、貴女は……正直、気持ち悪い」

 

 今まで私が見たことのないような目をして、私を見たあとに小悪魔さんは部屋を出て行った。

 唖然としていた。

 私も、紅魔館のみんなも、霊夢さんも魔理沙さんもチルノも大ちゃんも、いつのまにかいるルーミアちゃんもだ。

 誰も小悪魔さんが怒って、あんなことを言うなんて思わなかったから……。

 

「でも、小悪魔の言いたいことがわからないわけじゃない私も」

 

 そう言ったのは霊夢さん、全員そちらを見る。

 私は小悪魔さんが言っている意味がわからなかった。

 ただ……なんで? という気持ちだけだ。

 

「ここは“普通”なら理不尽にパチュリーを責めるか、誰のせいにもしないかの二択しかないはずよ。それをよりにもよって自分のせいにする? 普通の人間なら自分のせいではないって思うものよ。確かにそれは……気持ち悪いわ」

 

「気持ち悪いって……」

 

 さすがに私だって花の女子中学生だ。そんな何度も気持ち悪い気持ち悪いって言われても……。

 

「ちょっと霊夢、涙子のことをそんな言うなんて許さないよ」

 

 フランが怒るけれど、霊夢さんはいつも通りのクールな表情。

 何者も恐れないその態度を私はこんな状況だけど羨ましく思う。

 彼女は腕を組んで壁に寄りかかりながら私を見る。

 

「私はただ小悪魔の言いたいことがわかるって言ってんの……大したもんよ佐天が何か抱えてるってわかってて、それに今のを身内として言えるっていうのはね。少し侮ってたわ」

 

 なにがどういうことか私には理解できないけど……。

 

「何も叩くこと―――」

 

「あるわよ、あの子にとってはそれだけのことなのよ。いえここの連中全員にとってもそういうことだけれど、悪魔だからかしらね小悪魔の感受性は異常よ。だからこそ佐天を叩いた……理解できたら謝ってきなさい、そしたら理由を話してくれるんじゃない?」

 

 そう言うと霊夢さんは部屋を出て行った。

 魔理沙さんは後頭部を掻いて『相変わらずなに言ってんのかわかんない時あるよな』とか言って部屋を出る。

 なんだか良くわからないけれど、私は叩かれるだけのことがあったらしい。

 難しい顔をしているレミリア様が軽く『お大事にな』と言って出て行くと、咲夜さんや美鈴さん、大ちゃんとルーミアちゃんたちも一言だけ言って去っていく。

 なんだか帰ってきたばかりなのに重苦しい空気になっちゃったなぁ。

 

「なんだかなぁ……」

 

 魔術を使っただけでこんな大事になるとは思いもしなかった。

 パチュリーさんとフランとチルノの三人を見ると、まだ心配そうに私を見ている。

 

「大丈夫ですよ。ただもう少し実験したいんです……魔術の規模によってこの副作用のダメージは大きくなるのか、とか」

 

「なっ、涙子! 魔術の中でも基礎もいいものでそこまでの副作用なのよ!?」

 

 正気か、と言わんばかりに声を張り上げるパチュリーさんだけど、私は正気だ。

 異能を手に入れなければこの先、上条さんや御坂さんたちを助けるためにならないのは確実。

 御坂さんや上条さんのように私は異能を手に入れる才能に恵まれなかった。なら私はここで、死ぬ気で“努力”してでも異能の力を手に入れなきゃならないんだ。

 だから私はパチュリーさんをしっかり見据えて言う。

 

「お願いしますパチュリーさん、レミリア様たちにも私がしっかり許可をとりますから、手伝ってください」

 

 頭を下げる。沈黙が続くけれど私はただ待つ。

 

「まぁ、イイんじゃない?」

 

 最初にそう言ったのはチルノだった。

 フランですら喋らずにいたのに、先にチルノは言葉を口にする。

 それは何者をも恐れずどんな空気も読めないチルノだからできること。

 

「死ぬ気で頑張るっていうのはあたいも嫌いじゃないわ、ただそこで……いや、ここから先はあたいが言うべきじゃないってね」

 

 チルノはそう言うと踵を返す。

 

「ただあたいは協力してやるだけの価値が今の涙子にはあるって言ってるのよさ、それだけのしんねんは並大抵の覚悟じゃ持てないからね。特に苦痛を味わったあとなんかは」

 

 部屋を出ていくチルノ。

 頭が良くないチルノだからこそ他人の言葉を決して理屈や建前なのではなく、感覚や相手の心を読み取ることで理解する。

 たった今チルノは私の本心をわかってくれたんだと思う。

 この手で誰かを守りたい。なんで小悪魔さんが私を怒ったのかはわからないけれど、私の純粋な気持ちは誰かを守りたい、しいてはこの紅魔館のみんなを守るだけの力がほしい……。

 

「なにがいけなかったんだろう」

 

「あたしにはわからない」

 

 フランがそう言いながらベッドで上体を起こしていた私の足の上に乗る。

 だよね、私にもぜんぜんわかんないよ。

 仕方がないので私はこの話をやめて今までのことについておさらいをした。

 つまりは私がいない間の幻想郷についての話。

 

 私がいない間の約半年で、幻想郷では異変が起きていたらしい。

 春に冬が終わらない異変があり、そこでは色々と大変なことがあったらしく、幻想郷の大御所がでばってきたとかいう話も……なんとレミリア様500歳よりもよっぽど年上の方々がいたようで、無礼な口をきくと殺されるそうなのであまり余計なことはいわないことにする。

 それにしても、其の人たちに教えてもらえれば私もかなり強くなったり……なわけないか。

 だったら御坂さんに色々教えてもらった時点でパワーアップできてるって。

 さて、治りしだい魔術の実験を……って先に小悪魔さんと霊夢さんの言ってたこと考えないとなぁ。

 

 

 

 




あとがき↓  ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。















とりあえず今回もずいぶん短くなってしまったでござるが、こんな感じでござる。
わけがわからないとなる方たちもいらっしゃると思うでござるが、とりあえず次回色々とということで!
ちなみに小悪魔がなんかすごい出張るでござるよ、これからもね! いやはや最近、ハーメルンの小説を読んでて小悪魔ものでいいものが(

まぁここまでしっかり予定通りって感じでござるな、佐天さん暗黒期から脱出まではもう少しかかるんじゃ。
ということで、次回もまたお楽しみいただければまさに僥倖!


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