あれからざっと二週間が過ぎた。
使用したい魔術も決定してそれを使って……まぁなんやかんやあって二週間なわけです!
私、佐天涙子は今日もいつもどおり館の掃除をしていた。
「佐天さん、こんにちは」
一人で掃除をしていれば現れたのは大ちゃん。大ちゃんは軽く私に手を振る。
「こんにちは大ちゃん」
相変わらず“普段”は普通におしとやかで大人しい女の子なんだけど……。
チルノが関わるとほんとに性格が変わるというか人が変わるというか、全然違う感じに、とりあえずガチ。
危険度で言えば白井さんの上を行くこんな恐ろしい妖精さんも私の友達。
「今日もチルノちゃんったら紫さんのお願い聞いて図書館に行ってて……ふふふっ、どうましょう……ふふふふっ」
怖い! こここ、怖い怖い!
「そそそそっか! 私掃除の続きあるからまた!」
「あれれ、もう終わってるんじゃないですか?」
ギクッ、まさか見られていた?
だけどまさか掃除している間ずっと見られていたとか?
「佐天さんはいつも最後にここを掃除してますからね」
あっちゃ~。
こうなったら私がなんとか逃げ出す術は、無い。
ならどうしましょうか、佐天さんとしてはこの状態の大ちゃんには関わり合いたくないんだけれど……。
逃げる? 逃げれば完全に殺られる!
これは逃げられない、だったら仕方ない。行こうか大ちゃん……。
私は大ちゃんと共にレミリア様のところに行くことにした、死なばもろともですよ。
いや、たぶん死ぬまではならないと思うけど。
レミリア様の部屋にて、私と大ちゃんとレミリア様の三人でテーブルを囲んでお茶をしている。
メイドとして同じ席に着くのはどうなのかなぁ? と思うけどまぁ良いみたい。
今現在、静かに咲夜さんがレミリア様の後ろに立っているけれどその前に座っているレミリア様の紅茶を持つ手は震えている。
全然カリスマありませんよレミリア様、咲夜さんもなんか冷や汗かいてるし。
「だ、大妖精はどうしたの?」
あ、聞いちゃいます?
「チルノちゃんが最近紫さんのお願いですぐに紅魔館に行っちゃうんですよ、私はチルノちゃんの仕事をお手伝いするって言ってもチルノちゃんったら『こんな面倒な仕事大ちゃんも付き合う必要ないよ』なんてかっこいいこと言って私を気遣うんです。チルノちゃん可愛いマジ天使、でもチルノちゃんったら昔からの馴染みだからって紫さんのお願いを聞いて夜遅くまで図書館で本を読みあさって私はお家で一人晩御飯を作ってまってるなんてどこの夫婦ですか! やだチルノちゃんと私が夫婦なんて嬉しい。あぁ話が逸れましたね大体にして私とチルノちゃんと言ったらセット、二人の名前は枕ことば、なのになんで私とチルノちゃんが引き離されてるんですかねぇ? 八雲紫がなんだか知りませんけど今なら私なんでも殺れちゃう気がするんです。でもしません、チルノちゃん友達がいなくなったら悲しむもんね。ということで私は今少しでもチルノちゃんのそばに居ようとこの紅魔館へとやってきているわけです。まぁレミリアさんたちもいるし退屈しませんけどチルノちゃんの姿が見えないのが唯一の苦痛ですね。それと……」
こ、怖い。ていうかまだ喋ってるし。
レミリア様なんか震えてるし咲夜さんは……おのれ逃げたな。
この状況下で大ちゃんをどうにかできる人間、いや妖怪、いや神様なんているんだろうか?
多分並の神様なら大ちゃんの威圧感にやられる気がする。
なぁんて考えてたら外から一迅の風と共に開かれた窓から誰かが入ってきた。
「あやや、これはこれは面白いことになっていますね」
これはこれは『文々。新聞』の記者兼編集長である“射命丸文”さん。
彼女は度々訪れる新聞記者。
結構鬱陶しいのがポイントで霊夢さんやレミリア様から結構信頼度は薄い。
ちなみに烏天狗なので幻想郷でも強い部類に入るとかなんとか……。
「天狗、なにもないわよ?」
「いえいえ、今日は佐天さんにお願いがありまして」
「私ですか?」
いつもレミリア様や咲夜さんばかりを取材している射命丸さんにしては珍しいと私は少し驚いた。
レミリア様も驚いているのかキョトンとした表情をする。
大ちゃんはいまだにブツブツと言ってるので怖いからとりあえず放置。
下手に関わると私の命があぶない。
「そろそろ佐天さんの取材もしないとなぁ、と思いましてですね! 前回は取材しようと思った矢先に消えてしまいましたし」
まぁ確かに……と私は頷く。
でも今現在としては私は紅魔館の使いなわけだから、レミリア様に聞かなきゃ。
「でレミリアさん、どうでしょうか私に佐天さんを取材させては?」
射命丸さんの提案に、レミリア様は少し悩むような表情を浮かべる。
咲夜さんも帰ってきて射命丸さんは笑みを浮かべると咲夜さんの方にも向かう。
「どう思います咲夜さん?」
「……別によろしいかと」
その言葉に、レミリア様は渋々といった様子で頷く。
「どうせなら紅魔館の新メンバーを幻想郷に知らせておく必要があるだろう、良いぞ」
そう言われた直後、射命丸さんは私の眼前に近づく。
「顔が、っ近いです!」
グッとよってくる射命丸さんを押しのけて私は立ち上がる。
なにこの烏天狗、と思いながらも漫画とか貸してもらっているのであまり文句は言わないでおく。
結局しばらくは射命丸さんが情熱大陸みたいなことをするらしい。
夜はお互い家があるので普通に帰るらしく、結局取材と言っても私についてくるだけだって……。
ついてくるだけ―――なんだけど?
「買い物まで一緒に来るんですか?」
「もちろん、なんたって密着取材ですからね! 紅魔館の食料なども気になりますし」
なんかプライベートが吹っ飛んできそうで怖い。
とりあえずいつもどおりで良いってことだし私は今現在射命丸さんを隣に人里への道を歩いている。
なんだかんだでしばらく歩いてもう近くまできている。
射命丸さんが飛んで連れてってくれればいいのに『普段の姿を取材したいんです!』なんてことを言うせいであるくことになった。
「それにしても佐天さんは不思議な方ですよね、能力も無ければ魔法も使えず弾幕もほとんど撃てないに等しいのに紅魔館の一員になれるなんて」
「別に紅魔館のみなさんは悪い人たちじゃありませんから、お互い歩み寄る気があるんですからある程度仲良くなるのは苦労しませんよ。信頼されるのは並の事じゃないと思いますけど」
そんな言葉に射命丸さんはふぅん、と何度か頷く。
紅魔館のみんなは比較的に排他的とは言い難い性格ばかり、確かに人あたりの良い方じゃないから少し相手が警戒するけど怖い人じゃない。
ただ下手に気に入られると……フランが怖いかも。
でも確かにチルノとか霊夢さんとか魔理沙さんとかも最初は結構警戒が強いみたいなイメージ持ってたみたいだけど、あれチルノって馴染みじゃ、ん?
「あぁ佐天さん、私には敬語は使わなくて良いですよ。そのほうがやりやすいでしょう」
突然の射命丸さんの言葉に少し私は驚いた。
別に敬語がだいぶ慣れちゃってるしやりにくいとかは無いんだけど、そのほうがフレンドリーかな?
「じゃあそうさせてもらおっかな」
「はい♪」
なんだか元気な人だなぁ、と思う。
まぁ嫌いじゃないけれどチルノとかフランとかレミリア様とかのパンチラを狙うのはどうにかしたほうがいいと思う。
咲夜さんは鉄壁のスカート故に一回も撮れたことがないって射命丸さんは言ってたけど。
そういえば美鈴さんってあんなスリットすごい服着てるけどどうなってるんだろう?
「そういえば佐天さんは霊夢さんや魔理沙さんとも仲がいいんでしたよね?」
「うん、幻想郷に来てから良くしてもらってるし」
「いやぁ大したものですよ、魔理沙さんはともかくあの霊夢さんが一人の人間にここまで肩入れするのは珍しい」
そう言いながらメモ帳のページをめくっていく文さん。
結構良い人たちな気がしないでもないんだけど、どうなんだろう?
チルノも確かに『コミュ障』って話をしてた気が……。
「佐天に、追いついたわよ」
そう言って現れたのはチルノ。
「どうして?」
「あたいも人里に用があって、本の方は一旦中断ってわけね」
なるほど、佐天さん的には大ちゃんがどうなってるのか気になるけど、聞くのはやめとこう。
とりあえずチルノは私の隣に降りると氷の六枚羽をハタハタと震わせる。
射命丸さんは妙にテンションが上がっていた。たぶんロリが現れたからだと思う。
「チ、ル、ノ~!」
私は迷わず隣にいたチルノのスカートをめくる。
ほぉほぉ、今日は水色一色のリボン付きと……これはこれはその道の人はかなり―――。
「ヒャッハー!」
射命丸さんはここぞとばかりにチルノの両足の間に頭を滑り込ませて連続でシャッターを切る。
これはヤバイ、迷わず通報決定だよ。
チルノはスカートを押さえた後に射命丸さんの頭を踏んで私を真っ赤なな顔で睨む。
ふむ、やはり久しぶりともなるとたまらないねぇ……私は射命丸さんと違ってロリコンじゃねぇから!
「さささ、佐天! またやったわね、今度という今度は許さないわよ!」
ふふふっ、可愛いやつよのぉ。
純粋無垢ってほんと癒される、スカートめくられただけでこれとは初春並に楽しいわ。
大ちゃんに知られたら殺されかねないけど。
「幼女に踏まれるというのもこれはこれで」
変態新聞記者、酷く汚い射命丸はぶつぶつと言ってるので放置。
私はチルノの頭を軽く撫でてから人里の方にあるくのを再開した。
「こ、こら佐天! いいかげんにしないとあたいの堪忍袋のなんとかが!」
堪忍袋の緒ね、それ。
最近はチルノにしてやられたりしてばっかだからたまには反撃ぐらい許して欲しい。
私だってやられてばかりじゃないってことを見せないとね!
とりあえず買い物行かないと。
後ろで騒いでるチルノと射命丸さんを置いて私は人里の方へと歩くのだった。
私は人里に着くとすぐに第一の目的地へと向かった。
そこは私の知り合いというか、初めて人里に来たときに色々と教えてくれた人のお家なわけなんだけどね。
その人の家が見えてすぐ、私は走って彼女の家の前に立って扉を開ける。
「慧音さん~」
玄関で声を上げると、奥からどたばたと音がして“
人里の寺子屋で先生をやっていて妖怪たちから里を守ったりもしているとかなんとか……。
まぁなにはともあれ優しいお姉さんって感じかな?
「おお、久しぶりだな佐天!」
慧音さんは軽い笑顔で迎えてくれる。
「チルノから話は聞いてたんですけどどうにも来るのが遅くなってしまって」
「いや気にするな、とりあえず上がってくれ……後ろの二人も」
そう言われて私が振り返ると、そこには射命丸さんとチルノの二人がたっていた。
先ほどのことをまだ怒ってるのかチルノは少し不機嫌そうな顔をしている。やっぱ初春思い出すんだよねぇ。
射命丸さんの方は『お気遣いなく』と言いながらメモ帳片手にペンを走らせる。
何を書いているのやら……。
「じゃあ、お邪魔します」
「慧音、邪魔するわよ」
私とチルノが二人で言うと、射命丸さんはメモ帳に文字を書き終えたのか軽く慧音さんに会釈。
そして肩からかけているポーチから小さな紙を取り出すとそれを慧音さんに渡した。
あれは……名刺?
「こういうものです、以後お見知りおきを」
「ああ、天狗がわざわざ」
慧音さんは不思議な天狗こと射命丸さんに訝しげな表情をしながら会釈を返す。
私たちは慧音さんに連れられて居間に入って四角い机を囲むように座る。
慧音さんはすぐに居なくなって数分して帰ってきた時にはおぼんにお茶を四つ乗せていた。
その四つを四人が座る前にそれぞれ置いたところでようやく慧音さんは座る。
「話というのはまぁ大したことじゃないんだが、お前に提案があってな」
「私にですか?」
「紅魔館の連中にはすでに話を通してあるんだがうちの寺子屋で授業をしてみる気はないか?」
へ……あたしが? 授業?
「えぇ!?」
「いやいや断ってくれてもいいんだが、最近手が空いてなくてな少しだけで良いんだ。お前は向こうでは結構な学び舎に通っていたらしいじゃないか、だから少しだけ子供達の相手をして欲しいんだ。ついでに私も教え方なんかを見ておきたいなと」
「私じゃなくてもっと適任が」
「子供とすぐ仲良くなれそうなお前だから頼んでるんだ」
いやはやそんな風に見てもらっているのは光栄なんですけど、私だって中学一年生でつい最近まで小学生だったわけで……ってずいぶん昔に感じるなぁ~。
なんて言ってる場合じゃない!
弟もいるし確かに子供の扱いは慣れてはいるんだけど、さすがに大人数の子供たちを相手にするとまでは……。
「いや、他の者も考えたんだが適任が居ないんだ」
そう言われると、私だって力になりたい。
紅魔館に話を通してあるって言ってるし確かに私が頷くだけで良いんだろうけど……。
少しばかり考える時間が欲し……。
「その話引き受けましょう!」
ちょっ、射命丸さんなにやってんの!?
「いやはやこれは取材のしがいがある! うちの新聞に佐天さんのコーナーを毎日載せても良いぐらいですよ!」
「いや私まだ考えてるから!?」
「こんなチャンス滅多にありません!」
まぁ確かに言われてみればって感じもする。
こうしてみて初めて気づくこともあるかもしれないし、悪いことじゃないのかな……。
でもやっぱり自分が先生をやるなんて少し抵抗がある。
「我が文々。新聞のために頑張ってください!」
「おい天狗」
そう言ってみたものの、少し考えて私は頷くことにした。
たしかにこんな機会そうあるものじゃないし、人助けにもなる。
慧音さんの助けになるならやっても良いって思えるしね。
「分かりました引き受けます、少し不安ですけど」
「本当か! 助かるよ」
そう言って笑みを浮かべる慧音さん。
子供達の相手ってそんなに大変なのかなぁ?
寺子屋に通うような子供達ばっかだしきっとやんちゃな子なんて……はぁ、私に舵取りができるのか。
少し不安になりながらも頷いた私は話が終わったのかと立ち上がろうとする。
けれど慧音さんがまだ口を開いた。
「あと一つだけ話がある、こちらは佐天のためというのもおかしいが実のある話だ」
そんな言葉に私は立ち止まらずにいられなかった。
私に実のある話って?
「この件で紅魔館に話をしに行った時に学園都市、というやつの話を聞いた。佐天が本来いた場所だ」
別に話されて困ることでもないので頷く。
それがどうしたのか、と私は座りなおしてお茶を一口飲んだ。
射命丸さんは新しいネタを今か今かと待っている状態。
「“原石”を人工的に作る科学都市と言ったが、この幻想郷にも原石がいる。能力ではなくはっきりとした原石を持つ“人間”がな」
……え?
私は脳を揺さぶられた気分だった。
憧れの超能力者、開発で生まれた者ももちろん私にとっては憧れだったけれど、本当に憧れた超能力者がいる?
その人に会えれば何かが変わるかも知れない……。
どういう人なんだろう、やっぱり普通の人と変わらない感じなのかな?
「原石って、その話は本当なんですか?」
突然射命丸さんが放った言葉に私はそちらを見る。
私は見たことがない真面目な表情で慧音さんを見ているが彼女は頷く。
それを見て驚いた射命丸さんはメモ帳に素早く何かをメモしていった。
原石とは、それほどのものだということがわかる。
学園都市で開発された超能力者とどう違うのかはわからないけれど、一度で良いから会ってみたかった。
「どこに、どこにいるんですか!?」
「待て佐天、明日まで待ってくれ、どこにいるか私もわからないから今日中に探して帰ってくる」
そんな言葉に、私は無言で頷いた。
一刻も早く会いたい、私はいつあちらに返されるわからないし……。
とりあえず明日まで幻想郷に祈るか私にはできないってことで、今日はとりあえず慧音さんのお家をお暇することになった。
慧音さんの家から出て買い物に向かう道中、私の服のすそを誰かが引っ張った。
誰かってそんなことするのはチルノしかいないんだけど……
「焦ることはないんじゃない? あんたは目の前のチャンスをつかむことを考えて“もし帰ってしまったら”なんて暗いことを考えるのはやめなさい。いつもみたいにバカみたく元気じゃないとあたいも調子狂うって」
そう言って笑うチルノは先ほどスカートをめくられたことを忘れているようで……。
元気づけてくれているチルノに私は笑い返した。
横の射命丸さんは私たちを見て意味深そうに頷く。
なんだか気恥ずかしくなってきたので私はチルノのスカートをめくった。
何人かの通行人がチルノのパンツを見る。
「またやってくれたわね佐天!」
チルノがしっかりパンツを履いてるか確認しただけだって。
射命丸さんはさすが“自称幻想郷最速”というべきかすばやくチルノの下にもぐりこんで名人もびっくりのカメラのボタン連射を行っていた。
騒ぎになっているうちに私は少しばかり気恥ずかしい気持ちを抑えるために両の頬を軽く叩いた。
せっかく手に入れたチャンスなんだから、絶対役に立ててみせる!
私の戦いは始まったばかりだ!
あとがき↓ ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。
キング先生の次回作をご期待ください!
なぁんて感じで、終わったでござるな。
いやまだまだ続くでござるが、次回はまだ終わらないこの続きの日!
翌日になるまではまだかかるでござるな、さてさて幻想郷の“原石”とは誰なのか!?
学園都市やらの影が薄くなってきたので危ないと考えている拙者でござるがどうにも学園都市の話ができない。申し訳程度に出てきた原石でござるがまぁ今は予定通りに進んでいる感じでつかまつる。
それにしても今回はギャグやらなんやら入り混じり、最近は拙者らしい話がかけてないのでここらでギャグ要員追加、射命丸文でござるがまぁ気にすることはないでござる。
次回もお楽しみいただければまさに僥倖!
PS,
フェブリちゃん可愛いよ。