とある無力の幻想郷~紅魔館の佐天さん~   作:王・オブ・王

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32,異変は終わるが?

 永遠亭の内部、大きく広い廊下にていくつものナイフと弾幕が飛び交う。咲夜が空中でくるくると回転しながら床に足をついてさらにナイフを数本投げてみたが、それもすべて“矢”にて落とされてしまう。咲夜の背後にスキマを開いて現れる八雲紫がさらに弾幕を周囲に配置して放たれる矢を防いだ。

 咲夜と紫の二人が、赤色と青色を半分づつに配色した服を着る女性と対峙している。

 

「姫様の元に人間一人を送るなんて無謀なことをするわね」

 

 女性が笑って言うが、紫も反対に笑う。

 

「良く言うわね。とんだ勘違い女が」

「あら、どういうわけかも言わずに、突然そんな風に言うなんてさぞかし友達が居ないのでしょうね」

 

 二人がキッと睨み合うも、すぐにお互い笑みを浮かべて『オホホホホ』と笑い出した。それを見ながら咲夜はこの陰湿な雰囲気漂う空間を一刻も早く出たいと思いながら、自分と紫を残して先に行った霊夢のことを思う。大体にしてなんでなんの関わり合いもない自分と紫を置いて行ったのか……。

 

「メイド、さっさとスペルカードを使って倒しなさい」

「なんで私が……」

 

 大概苦労人だが、せめてもの反抗として言うことは聞かないことにした。

 

「でも、姫様はあれでも弾幕勝負ならそれなりにやるのよ?」

 

 なんで姫様相手に上からなんだろうと、咲夜は疑問を浮かべる。確実にその姫様とやらより目の前の女がよほど強いというように、女は自分でそう言った。だがなんとなくだが咲夜は感じた、目の前の女がレミリアと同じく、弾幕勝負よりも実戦でこそ真の力を発揮する側だと……。

 

「先に言ったあの人間は平気かしら?」

「あらなにを心配してるのかしら、心配するべきはその姫様とやらじゃない?」

 

 紫は笑って女に言う。

 

「霊夢を倒したないなら、聖人ぐらい連れてくるのね」

 

 紫が大量の弾幕を展開し、女も弓に矢をつがえて引く。咲夜はここにいては危険な気がして二人から距離を取ることにした。これで決着が着かないにしろ結果はほとんど変わることは無いだろうし、だからこそ咲夜はその場から距離を取ってとりあえず幻想郷でもトップクラスに力を持つであろう八雲紫と、その紫とまともにやりあえずだけの力を持つ“八意永琳”の戦いを見守ることとした。

 

 

 

 佐天涙子は、走っていた。

 鈴仙・優曇華院・イナバとの戦いに決着をつけた涙子は、ボロボロのメイド服をまとったまま元気な体で走り永遠亭の前、戦闘後の場所に着く。そしてそこで見たのは信じられない光景であった。自称とはいえ幻想郷最速を言えるだけの自信と幻想郷でも上位の部類に入る烏天狗が―――。

 

「ヒャッハー! さすが幻想郷の幼女! しかも1000年クラスの幼女!」

「や、やめろー! 私をなんだと思ってんだぁ! 変態ぃ、誰かぁ、誰かぁ!」

 

 ―――変態行為に及んでいた。

 正直、射命丸文という妖怪のことはわかっていたつもりだったが、ボコボコにされたウサ耳幼女をローアングルから連射撮影するようなド変態だとは思っていなかった故に、ドン引きだ。どう反応して良いかわからない涙子だったが止めなければと思い一歩出てみるも、涙子の服の袖を掴むものが居た。

 

「ち、チルノ……」

「あんなんでもあたいの友達なのよ、両方ね」

 

 チルノがあまりにも真剣な眼で涙子の眼を見る。その意志を見て涙子が頷くと、チルノが薄らと笑い涙子は走って永遠亭の中へと入っていく。どちらにせよ文を止めようとすれば今度は涙子が犠牲になる、ならば文を止められるのは自分だけだと、チルノは文のそばへと寄る。

 

「あ、文!」

「おやチルノさん、なんでしょう!」

「この変態天狗!」

 

 射命丸文が振り返った瞬間、チルノはすかさず延髄蹴りを打つも、自称幻想郷最速によっていつの間にやら避けられ、いつの間にやら背後に射命丸。その間にとっとと逃げるてゐを見て、チルノはボロボロの体で戦闘を終えたというのに綺麗な文と対峙する。

 

「勝ったら一つだけ、言うこと聞いてあげるのよさ」

「ホントですか!? 手加減しませんよぉ!」

 

 眼にハートマークを浮かべながら射命丸文は欲望のために戦うことを決めた。もう一つ、ここで新たな戦いが幕を開ける。

 

 

 

 チルノの貞操をかけた戦いが始まった頃、涙子はようやく八雲紫と八意永琳の戦闘していた場所へと辿りついたのだが、すでに戦闘は終了していて八意永琳と八雲紫は二人して弾幕も弓も構えることなく話をしている。涙子としてはなにがなんだか、という感じで先ほどまで胸の大きな赤と青の女性が敵だったとしかわからない。

 

「つまり、月からの使者は来ないと?」

「そう、この幻想郷は表の世界の月からの干渉も一切遮断する博麗大結界に覆われた閉鎖空間……とりあえず向こうからの干渉は最近で言えば一切ないわ、そこの佐天涙子という例外以外ね」

「えっ、突然私ですか!?」

「そうよ、こっちから向こうに干渉できなくなって向こうからこっちへの干渉も無くなったって言うのに貴女だけはこちらの世界を行き来して、なんなんだかか」

 

 妖怪賢者もお手上げという風にため息をつく。

 涙子がその後話を聞いたことをまとめるならば『かぐや姫とその従者が月から来るお迎えを拒否するために月と地上を騙すだめに偽物の月を作る必要があった』ということだ。たぶん色々と隠されてもいるのだろうけれど重要なのは今、そこではない。

 霊夢が一人でそのかぐや姫を襲いに行ったということである。もう戦闘の必要がない。ならば霊夢を止めに行かなければと、涙子、咲夜、紫、永琳の四人がかぐや姫こと輝夜の部屋へと向かった。

 

 ―――のだけれど……。

 

「まったく、手間かけさせないでよね」

「え、えいりーん! 早く来なさい! この暴力巫女が!」

「うるさいわね!」

 

 涙子の心配は杞憂だった。まったく傷を体に受けずに、霊夢はクールに言うと後ろ髪を軽く払う。やはりと涙子は生唾を飲んだ、あまりにも最強、あまりにも孤高、それでいてあまりにも無感情。いや、怒ったり笑ったりする霊夢の姿を見たことが無いわけがないのだが、戦闘状態において彼女の焦ったような感情を見たことがない。

 それほどの、戦闘センス。戦うために生まれたような存在。失礼ながら佐天涙子はそんなことを考えた。

 

「大丈夫ですか姫様、とりあえず貴女はうちの姫様の頭の上から足を退けなさい。これ以上パーになったらどうしてくれるの」

「ねぇ永琳、私ってパーなの?」

 

 そういう姫様こと輝夜に、永琳はにっこりと笑顔を見せるのみ。

 とりあえずそんな楽しそうな二人を置いといて、涙子は霊夢をジッと見てみる。霊夢はいつも通り、相も変わらない様子でお祓い棒で肩を叩きながら紫の隣のスキマに腰を下ろす。足を組んでダルそうにしている霊夢を見ていると本当に巫女かどうか疑いたくもなる。

 

「あら、本気の霊夢をみたことが無いのね貴女」

「えっ本気の霊夢さんですか?」

 

 紫の言葉に、涙子は疑問を言葉にする。本気の霊夢、いつも訓練してくれている霊夢は本気じゃないのだろうか? 手加減ができない巫女ではないということだろうか? つまり、手加減をした上で霊夢の強さはあれ、ということだろうか?

 

「佐天涙子、弾幕勝負はなんでできたか知っているかしら?」

「あぁ、確か妖怪と人間が戦っても条件を限りなく同じにするように、尚且つ殺し合いに発展しないように、でしたか?」

「その通り、良く勉強しているわね」

 

 そう言って紫は涙子の頭をなでる、一瞬ビクッと体を震わせるが撫でられればなんとなくだが暖かい気持ちになる。姉は居ないがいたらもしくはこんな感じなのかもしれないと思えないでもない。だがつい最近自分を殺そうとした相手になんでこんな気持ちを抱くんだろうと涙子は思った。

 それにしても、紫はなにを言いたいんだろうと疑問に思う。

 

「だけどね、それの一つの理由としては先代巫女があまりにも強かったからなのよ」

「強かった?」

「そう、強すぎて異変解決の時に妖怪を九分九厘殺してしまうから……だからこそ弾幕勝負を作った。けれど今回の巫女である霊夢は先代以上の逸材だから、弾幕勝負でも圧倒的な強さを誇っているのよ。まさに最強、私が求めた博麗の巫女」

 

 そういう紫を見て、本当に霊夢が最強なのだと理解できた。

 

「なに勝手にあんたが求めたものになってんのよ、あたしはあたし……先代なんかとは、違う」 

 

 霊夢は少しばかり暗い影を顔に差して言うが、それがどういうことか佐天涙子にはわからなかった。

 

「ともかく、霊夢さんがめちゃめちゃ強いのはわかりました」

「そうね、人間が相手をすれば下手をすれば死にかねないしね」

「(霊夢さん、超手加減してくれたんですね! ありがとうございます!)」

 

 とりあえずそんな衝撃の真実を話され、涙子は何度か頷く。そして涙子は次に八意永琳と“蓬莱山輝夜”の方を見るが、そこには輝夜に事情を説明している永琳がいた。先ほど紫に受けた話より少しばかり難しい話だが、内容はあまり間違っていないように思える。

 ともかく、これで今回の異変は終了、だろう。

 

「あんたたち! この異変はまだ終了ではないわよ!」

 

 そう言いだしたのは蓬莱山輝夜。

 

「月を戻すも戻さないも私たちの自由、これであんたたちは私をどうにもできなくなったってわけ!」

「あんたまだそんなこと言ってんの? 本気で殺すわよ?」

「まままま、待ちなさいよこの暴力巫女! ただあんたたちにお願いがあって!」

 

「……お願い?」

 

 つい、涙子は聞いてしまった。

 

「そう、そう! ある女を退治して欲しいのよ、行ってくれたらその時点で月は返すわ!」

 

 なんでこんなに焦っているんだろうというぐらい焦っているけれど『そんなに霊夢さんが怖いのだろうか』と涙子は疑問に思いながらも、トラウマである霊夢との弾幕勝負を思い出す。弾幕を避けられたと思ったら死ぬほど弾幕を撃たれ、挙句に接近戦でボコボコにされる。よくよく霊夢が最強と言う意味を理解しはじめる涙子。

 まぁなんだかんだで誰かしら行かなくてはならないのならと、涙子は手を上げた。

 

「私、行きます」

 

 

 

 と、いうことで涙子は現在竹林の中をバイク(フェンリル)で駆け抜けている。つまりは異変も終了したということで、なんとも呆気ない終わり方だった。

 ちなみに永遠亭を出たときにチルノと射命丸文が居なかったので心配した涙子だが、八雲紫曰く『あの変態ロリコン天狗だってそこまでしない』ということだが本当にそうだろうか? まぁいざとなれば八雲紫あたりが“滅ぼす”かもしれないし、文だって命は惜しいだろう。

 とりあえず隣と飛んでいる咲夜と共に、涙子は輝夜に指定された場所へと向かっていく。

 

「本当に退治するの?」

「するわけないじゃないですか、事情説明して倒したってことにしてもらいます。それで輝夜さんも満足でしょうし……ってまだ満月あそこですか」

「夜が止まっていたのだから当然よ、まったく長い一夜ね」

 

 二人でため息半分に笑いながら、目的地の竹藪を抜けた開けた場所へと出た。その開けた場所の中心に立っている少女を確認して涙子はフェンリルから降りると軽く走ってその少女の近くへと寄る。

 白い髪、赤いリボン、白いシャツに赤いオーバーオール。そんな少女らしい少女は振り返ると涙子を見て指を向けた。歩み寄るのを止める涙子は、愛想笑いを浮かべて少女にことと次第を説明することにした。咲夜も隣に降りるのでとりあえず、“敵意”を向けられていようととりあえず話をする。

 

「あのですね、私たちは輝夜さんから貴女を退治するように―――」

「涙子!」

 

 咲夜の声が聞こえた瞬間、涙子は条件反射で横に跳ぶ。

 

「なっ!?」

 

 先に居た場所に炎が上がり、少女の手にも炎が宿っているのを見て涙子は悟る。少女が炎を撃ったのだと、そして少女は自分に敵意を向けていて、弾幕勝負をする気なのだと……。だがここで話をする気を放棄する気も無いと、涙子はとりあえず言葉を投げかけることにした。

 

「ま、待ってください私たちは!」

「輝夜の使いだろ、わかってるんだよ!」

 

 ふたたの少女の手から炎が放たれ、涙子はその攻撃を跳んで避けるがいいかげん面倒になってくる。それほどまでに早く適格な炎での射撃。咲夜も少女からの攻撃を避けるので手一杯という様子であり、強敵なのは明白だ。それこそ霊夢に任せればよかった敵であろう。

 

「くっ、厄介な能力っ!」

「能力? お前わかってて言ってるならそうとう性格悪いな。まぁ良いよ、輝夜が使い程度にあたしのことを教えるとは思えないからな」

 

 笑う少女が両腕に炎を纏わせながら立っている。

 

藤原妹紅(ふじわらのもこう)、『老いる事も死ぬ事も無い程度の能力』だ」

 

 異常、まさにそういうにふさわしいことだと涙子は冷や汗を流した。どちらにしろ殺す気なんて無いけれど老いもせず死にもしないなんて、あまりにも辛い。そしてそこまで考えてふと涙子は疑問に思った。

 ―――なら、今出している炎とはなんなのか?

 

「見せてやるよ、“原石”の力をさ!」

 

 慧音が言っていた、そして自分が探していて、学園都市が求めていた“原石”が、今目の前に存在し、立っていた。自分が憧れ、魔術師は目の前のような存在に抵抗するために魔術を手に入れる。そんな大きな存在が目の前にいる。涙子は心底震えた。

 

 

 これが原石、藤原妹紅との初めての出会い―――。

 

 

 

 

 




あとがき↓  ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。















今回は軽く異変終了、どれだけ霊夢が強かったか……まぁもっと詳しく書いても良かったんですがあまり映える戦闘をかける気がしなかったという、逃げ!
とりあえず佐天さんの今回のラスボスは鈴仙……と見せかけて妹紅!
なんと原石設定! というのもほら、程度の能力と違って炎の方は……って感じに独自設定!
つまり妹紅は結構出張るキャラクターになります。そしてチルノの運命やいかに!

次回、佐天さんのあの能力が! お楽しみくださればまさに僥倖!


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