私は誰か、まぁ佐天涙子なんですけど、藤原妹紅さんを蓬莱山輝夜さんから助けて、すぐに私は気を失って今しがたようやく目を覚ましたんだけど……。
目を覚ました時、私の視界に映ったのは信じられないぐらい優しい顔をした咲夜さんだった。まぁ普段から厳しそうな顔をしているわけでもないんだけど、なんだろういつもと違う感じの優しい表情の咲夜さん。そんな咲夜さんは私が目を覚ましたことに気づくと同時に驚いてビクッ、とする。可愛いところあるじゃないですかぁ。
「お、起きたのね涙子」
「後頭部の柔らかい感触、たまりませんね~」
「おっさんみたいなこと言うのな」
ごもっともですと、最後に聞こえた声の方を見る。そこには藤原妹紅さんが居た。
私は咲夜さんに膝枕をされている状況から上体を起こして自分の現在の状態を確認する。左目にも問題が無ければ体もほとんど傷はない感じで、妹紅さんとの戦闘の疲れはまだ残ってるものの動く時はそれほど違和感も感じないかな? 周囲を見てみればそこが博麗神社ってことがわかって、今は敷かれた御座の上。考えることもなくわかるのは幻想郷名物こと“宴会”が開かれているってことで、異変の最後はこれって聞いたからそれほど驚くことも無い。
「とりあえず、ありがとな」
そう言って笑う妹紅さん。その隣の“緑色の髪で角がある”慧音さんも嬉しそうに笑ってる。
「慧音さんも妹紅さんも、良かったです」
「あぁ、あたしのことは妹紅って呼び捨てで良い」
「じゃあ私のことも呼び捨てで」
佐天だろうが涙子だろうがどっちでも良いけどとりあえず呼び捨てで呼んでもらえた方が良い。
そう言えば幻想郷って、それほど年齢での上下関係は無いみたい、地位は別にして……それに比べると学園都市、やっぱり学生だらけってこともあって上下関係は面倒だなぁ。でも御坂さんとも上条さんとも仲良くできてたし、案外私ってどっちでも変わんない?
機会があったら御坂さんに呼び捨てで読んでもらおう、うんそうしよう!
「佐天はさ、半妖なんだっけ?」
「まぁ一応は……人としても生きれるみたいなんですけどね」
「できれば私は人として生きてほしいけど?」
どこから現れたのかレミリア様がワイングラス片手にそう言う……って今、夜なんですか、あまり時間経ってない?
レミリア様が持っているあまりにデカいそのワイングラスに私は『どこのデカ長ですか!?』とツッコミを入れたいけどここは我慢、偉いぞ私。それにしても咲夜さんにしろレミリア様にしろ私が完全な半妖になるのをそこまで防ぎたいんですかね? 完全な半妖っておもしろいな、なんか
良いと思うんですけど、強くなれるし……。
「まぁそこの吸血鬼のお嬢様が言いたいことも良くわかるよ。どうせ人間として生きれるなら普通に生きて普通に死んだ方が良い」
「う~ん、そういうもんなんですかね?」
「そういうものだぞ佐天、子供たちと過ごしていると実感するよ」
慧音さんもそう言う。私だってまったくわからないわけじゃない、さっき妹紅を説得する時だってこのまま私が半妖になって寿命が延びて、いつか初春たちを見送って私だけ生きて行くなんてゾッとすることを想像できた。というより人間じゃないこと確定したら、もれなくあっちの世界で生きていけるかも怪しいところだよね……。
それでも、妹紅を説得するにはあれしかなかったし、私だって本心からの言葉だった。
「うぅ~ん」
「まぁまだまだわからないだろうな、佐天は」
そう言って軽く笑う妹紅相手に私は、やっぱり年上で人生経験も豊富なんだなぁと実感する。とりあえず少しばかり睨んでくる咲夜さんはやっぱり『力を使うな』ということを無視したのを怒ってるんだと思う。
「咲夜、大概過保護よね」
「お嬢様にはお負けしますわ」
なんだか黒い笑顔を浮かべて何かを言っている咲夜さんに、レミリア様がわずかに冷や汗を流してる。なんの話してるんだろ?
なんて、とりあえず宴会を楽しもうとこの時ぐらいしか手を出せないお酒に手を伸ばしたら……上空から私の目の前に何かが降ってきてもれなく私が取ろうとした酒は吹き飛ぶ。
「さささ、さてぇぇん!」
親方! 空から女の子が! ってチルノ!?
「どうしたの!?」
良く見るとチルノは白と水色のずいぶんふりふりした衣装で……ゴシックロリータっていうんだっけ? まぁそんな衣装で私に抱き着いてくる。最後に見た時のクールでカッコいいチルノはどこに行ったのか、半べそをかきながら抱き着くチルノの頭を撫でる。
とりあえず珍しいものが見れたと、笑いたいところだけれどこの状態だと私が勘違いされかねない。いやされないよね、たぶん……だよね?
黒い羽が空から一枚降ってきて、それと共に地上に降り立つ黒い羽をもった……
「さ、佐天さんがチルノさんをっ……こ、このロリコン!」
「アンタには言われたくない!」
射命丸さんからかけられた言葉を全力で否定して、とりあえず私は深呼吸。チルノは私の後ろに隠れて射命丸さんをチラチラ見てる。
「文が勝負に勝ったから言うことを聞くって約束で、それで……」
とりあえずチルノが言ったのを要約すると……勝負に勝った射命丸さんがチルノに『この服に着替えてください!』と言ってチルノが着替えたら猛スピードで写真を撮りはじめて、それから突然鼻血を出して倒れた射命丸さん、それを恐れたチルノはこっちに逃げてきた。曰く射命丸さんの眼が血走ってて怖かったらしい……。
「なるほど、つまり射命丸さんは帰って」
「酷い! 悔しい……でもっ!」
「なにが“でも”なの!? 恐いっ!」
正直恐怖しました。
「とりあえず私はチルノさんを好きにするっていう権利があるんです、よっ!」
そう言って私の方に走ろうとする射命丸さんの顔を掴む者が一人。
「おい天狗、チルノ相手にそんなことするなんざ……烏天狗も落ちたな?」
「あれ、どなたですか~」
「藤原妹紅、不老不死やってる」
「ははは、さすがチルノさん……愉快な友達を持ちなようですねぇ」
妹紅が射命丸さんの顔にアイアンクローをかまして、なんか二人して睨み合ってる。ていうか妹紅と友達だったんだね、さすがチルノ、そこに痺れるよ……。
とりあえずその二人が弾幕勝負を始めるみたいだからチルノを慧音さんに渡して私は場を離れることにした。お酒はゆっくり飲みたいもんね……酔うと記憶無くなるけど。
「あっ」
「あっ」
静かな方に行くと、ウサギ耳の少女……じゃわかりにくいか、鈴仙と会って二人して同じ反応をしてしまった。どちらともなく軽く笑うと御座に座ってお互いで御酌をしてから器をかるくぶつけて一口……うん、嫌いじゃない。とりあえずお互い戦闘した時の印象しかないからなぁ……。
「お疲れ様、姫様を倒したのは巫女みたいだけど藤原妹紅を倒すなんてね」
「ん、でも倒したっていうのとは少し違う気がするんだよねぇ」
「それでも十分じゃない、結局倒したのはあんたなんだし……」
「佐天で良いよ」
「じゃあ私も鈴仙で」
心の中ではもうそう呼ばせてもらってますけどね、とりあえず私は頷く。
「で、なんだったのよアレ」
まぁ言いたいのは私が“鬼”を解放した時の話。
「とりあえず何秒か先の未来がわずかに見えるんだ」
「ふぅん、戦いながらなんてどうやって見えてるの?」
「なんか次に動く場所にぼわぁ、て変な感じに……うぅん、表現するの難しいなぁ」
無理して言う必要は無い、かなぁ。今後なにがあるかもわからないし手の内をさらすのもあれだし、でも上手く伝えるのは難しいなぁ。向こうに帰って止める人がいなかったらバシバシ力を使っちゃいそうかも……。
「あぁ~とりあえずあの鬼巫女に“死なない程度に痛めつけられた”し姫様のわがままも当分やみそうかなぁ、これからは人里に堂々と薬売りにも行くみたいだけど」
「じゃあ人里で会うかもね、私も結構買い出しに行くし」
「へぇ、今度案内してもらおうかな、顔も聞きそうだし」
そう言って笑う鈴仙、私も笑って『隅々まで案内するよ』と返事を返す。
「まぁ、涙子に頼むのは正解よ。この娘ったらチルノと同じで誰の心でも開いちゃう子だから」
突然現れた八雲紫さんが突然そんなことを言うものだから、私はびっくりした。正直なんだか妙に八雲紫さんが馴れ馴れしい……いや、悪い意味じゃないんだけどなんでこうも好意的なのかがわからない。そもそもなんで私のことをここまで過剰評価しているのやら。
「あら、過剰評価じゃないわよ?」
「わひゃっ、なんで心の中を!」
センスで口元を押さえながら笑う八雲紫さんに、私はペースを乱されまくりで……。鈴仙の方は唖然としていてなにがなんだかという表情、まぁそんな表情をしたいのは私の方なんだけどぉ。
「八雲紫さんはなんでここに?」
「なんでフルネームなのかしら……あぁ、そっか、紫で良いわよ涙子?」
なんだかミステリアスな雰囲気のまま笑う紫さんに、私は愛想笑い。とりあえず信用しようにもあまりに素材が無さすぎる。チルノがなにか言ってくれたって考えてもいいのかな?
まぁとりあえずこれからはもう少し友好的で良いってこともわかったし安心。
「頑張りなさい涙子、これから大変でしょうけど」
意味深な表情でそういうと、紫さんはスキマの中へと入っていく。どういうことだろ? まさかまた異変、いや正直大変なことなら山ほどあるよね。射命丸さんの魔の手からチルノを守ったり、あとはレミリア様のお供だったり、他にも小悪魔さんの仕事のお手伝いとか……。
学園都市に帰ったら上条さんに会う必要もあるだろうし、ていうかそれ以外にも怪我のこととかも……。
「大変なことだらけじゃんっ!」
「あ~、なんかすんごい似たような感覚」
苦笑する鈴仙、私は頭を抱える以外にすることはない。
「あらあら、鈴仙ったらすっかり仲良くなったのね」
そう言いながら現れたのは青と赤の服を着た……えっと……。
「師匠、そんなんじゃありませんよ」
「フフッ、そうかしら? 佐天涙子さん、私は八意永琳、会うのは一応二回目ということになるのかしら?」
「はい、そうですね。これで二回目です。まぁ一回目は会話らしい会話もできませんでしたけど」
八意さんはおしとやかな大人の女の人って表情で笑うと私の前に腰を下ろす。
「そうね、ちょっとした勘違いでとんでもない異変を起こしてしまったわ」
「……ありますよ、勘違いなんて誰にでも」
そう、誰にだってある。
「博麗の巫女にもお礼を言っておかないとね」
「あぁ別に言わなくてもいいんじゃないですか? そんなもんですよ、霊夢さんって……」
当然のように異変を解決して、当然のように強敵を倒す。可愛い顔してる癖に毒舌で冷徹、どこまでも最強なのにも関わらずそれも鼻につかない、私にとって霊夢さんは目指すべきの一つの形だ。あそこまで自分の仕事に忠実に、じゃないにしろ強くはなりたい。確実に強くはなってると思うし純粋な“殺し合い”ならまだ隠し玉だってあるし……って殺し合いのこと平然と考えちゃう辺り私もずいぶんキテるなぁ。
なんだか、私って幻想郷側とも学園都市側とも違う気が……。
「……佐天!」
「へ?」
私が意識を戻すと、鈴仙が私の肩をゆすっていた。ボォッ、としてたからかなあまりパッとしないなぁ。ていうかいつの間にか霊夢さんまでいるし、今しがた考えてたばっかなのに『噂をすれば影』って奴かな?
「酔った?」
「涙子が酔ったらもっとタチが悪いわよ、それは保障するわ」
そう言いながら現れたパチュリーさん……って!
「紅魔館から、出れたんですか?」
「私が紅魔館に封印されてるとでも思った? バカなの?」
すごいジト目で私を見るパチュリーさんに、苦笑いで返す。小悪魔さんが少し心配してくれているのか、鈴仙とは反対方向の私の隣に座って私のことを心配そうに見る。さすが私の天使、可愛くて優しいとかどこまで完璧!
「ていうか私、特に具合悪くも無いっていうか」
「なによ、心配させて」
「ほら、こんなに元気。ってあれ……?」
勢いよく立ち上がってみるもののすぐに体勢を崩しかけるのを小悪魔さんに受け止めてもらう。おぅ、柔らかいバストでございますね、佐天さんもグラっときますよ。さすが悪魔っ娘。
……いやいや、私ったらキャラ変わってるから、なんだろう。
「やっぱり疲れてるんですね」
さすがにあれだけの時間じゃ寝てもしょうがなかったってことかなぁ。
「部屋、使っても良いわよ」
そう言ってやってきたのは意外にも霊夢さん、私はどうすれば良いのかとパチュリーさんと小悪魔さんに目配せをしてみるけど、二人は意外そうに口を開けている。やっぱり私にとっても意外なぐらいだから他の人からしたら相当とんでもないんだろうなぁ。
「い、意外ですね」
「なぁにが意外なのよ、とりあえず今回の異変解決の立役者なんだし構わないわよ……まぁ紅魔館からお金は巻き上げさせてもらうけどね。朝御飯付きで格安よ」
「いや、やっぱり良いです。フェンリルで帰ります」
「ダメです、何かあったらどうするんですか! 私のポケットマネーからでも出します!」
小悪魔さん、なんていう天使ッ! でも一応、私もお給料もらってるんですよ?
そんな時、レミリア様がやってきて軽く笑う。
「いや、紅魔館から出すわよ。さすがにうちの大事な戦力を減らすわけにもいかないしね」
「殊勝なことを言うわね、悪魔のくせに……じゃあ値段の話だけど」
「あんまり調子乗ったこと言うと一銭も出さないからね」
弾幕勝負の腕はわからないけど、金銭面でのレミリア様の有利さが半端ないことを理解できた。というより霊夢さんの金銭面での状況があまりに酷いのかな? 異変解決で報奨金とかでないのかな……いや、出るわけないか。
さて、レミリア様と霊夢さんの話も終わったとこで、霊夢さんが私の方にやってくる。
「さて、案内するわよ」
私、幻想郷に来て初めての友達の家にお泊りです。まぁたぶん布団に入ったらすぐ眠れそうだし丁度良いかな、妹紅と射命丸さんが弾幕打ち合って花火みたいになってるけどみんな楽しそうに見てるし、これを見れただけでも妹紅と戦った甲斐はあるってもんで……。
異変を解決できたからこそできたこと、そんなこともあるんだなぁと佐天さんは自分で自分を褒めてみたり?
ともかく、これで私も一つ大きくなったと信じたい。
それが学園都市でもきっと役に立つように……頑張ろう!
あとがき↓ ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。
はい、永夜異変終了!
まぁ最後は若干急ぎ足でしたが、そろそろ学園都市を入れないと状況を忘れてしまうかも! というか佐天さんが色々忘れてしまいそうで怖いですね、はい。
実は学園都市編も近づいているので、これからも応援していただければ!
では、次回もお楽しみくださればまさに僥倖!