とある無力の幻想郷~紅魔館の佐天さん~   作:王・オブ・王

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37,武装無能力集団<スキルアウト>

 もはや廃墟のような場所で、私こと涙子と御坂さんと白井さんの三人は口をアホみたいに開けていた。

 それも全部、先ほどからいる革ジャンの男の人と固法先輩のせいじゃん……。

 

「久しぶりだな、美偉」

「先輩……なんで、なんでなんの連絡もくれなかったんです! 私、てっきり……」

 

 ただならぬ関係の二人だってことは私でも察しが付く、いやもう御坂さんと白井さんにも察しはついているんだろうけれど、それにしても固法先輩がこんな柄の悪そうな人と知り合い以上の関係だったとは驚きでした。

 男の人は固法先輩の腕についた腕章を見る。その視線に気づいた固法先輩がその腕章を隠すようにすると、笑って男の人は固法先輩の横を抜けて歩いていく。

 

「安心しろ、すぐに消えるさ」

「先輩……!」

 

 振り返って声をかける固法先輩だけど、やはり追いかけるまではしなかった。仕方ないので私は溜息を付いてからその男の人を追うことにする。三人が私に声をかけようとするけど私は軽く謝るようなジェスチャーをしてその男の人を追う。

 私を追ってこないのは……予想通りだ。

 

 たぶんだけれどあの二人は少しばかり体に異常をきたしていた。理由としてはなにかあったんだろうけれどそれも全部あの男の人に聞けば良い、のかな?

 

「少し、お待ちいただけますか?」

 

 私は駆け足で男の人に追いつくと、そう声をかけた。

 

「どうした、ここらへんはお嬢ちゃんのような子が来る場所じゃないぞ」

 

 男の人はそう言って笑うと、また手に持った牛乳を傾けて飲む。

 正直、目の前の男の人が相当強いということはわかるけれど、おかしな感覚だった。負ける気はしないのだけれど勝てる気もしない。やりあうのは相当不毛で、そしてやりあう理由は無い。

 固法先輩との関係はともかくとしても聞きたいことは山ほどあるので私は警戒を解く。

 

「失礼しました、私は佐天涙子。貴方の“知人”である固法美偉さんの後輩にあたります」

 

 できる限り、冷静を保ちながら、棘が立たないようにそう言った。

 すると男の人は、なにがおかしいのか笑い出す。正直拍子抜けというより、また私は唖然とさせられた。

 

「はははっ、そんな礼儀正しくできるお嬢ちゃんが……さっきみたいなギラギラした眼をできると思うとやっぱり学園都市っていうのは侮れないな。俺にはそんな畏まらなくていいぞ、ところでお嬢ちゃんはさっきの風紀委員(ジャッジメント)のお嬢ちゃんたちの友達でもあるのか?」

「はい、私はレベル0で風紀委員(ジャッジメント)でもありませんが……じゃなくて、ないですけど」

 

 とりあえず私は少し軽い敬語を使うことにする。

 

「レベル0でそれってのはさすがに無茶がある気もするが、ほんとなんだろな。奇遇にも俺もレベル0だ」

「私にとっては貴方がレベル0って言う方が信じられませんよ、私なんかよりよっぽど覇気があるじゃないですか」

「覇気、ねぇ……ただのスキルアウト、なんだがなぁ」

「私だって、ただの女子中学生ですよ」

 

 そう言って私と男の人は笑いあうと、話す場所を変えることにした。

 

 

 

 ともかく、私と彼はお互いがまともに話し合いを行える場所として公園のベンチなんていうものを選択したわけだ。さすがに年中ファミレスってのも私の金銭的にヤバいし、そもそも夏場なら今の時間外にいてもそれほど問題も無いように思えるし、丁度良いか……。

 私と彼は少し間を開けてベンチに座り、彼はムサシノ牛乳を、私はコーヒーを飲む。

 

「とりあえず俺の自己紹介をしておく、俺は黒妻綿流(くろづまわたる)ただのスキルアウトだ」

「へぇ……って黒妻綿流!? それってビッグスパイダーの!」

「それは昔の話さ」

 

 昔の話?

 でも今日ビッグスパイダーのボス黒妻綿流の話を聞いたばかりで……たぶん調べたのは初春だし初春の情報網にそんな遅れがあるとも思えない。だったらどちらかの黒妻綿流が偽物、でもその問が出た時点でどちらが偽物かという答えは簡単に出た。

 目の前の黒妻綿流は本物の黒妻綿流だ。

 

「事情は、聞いても答えてくれはしませんよね?」

「まぁな……これは俺たちの事情でもあるからな、できれば能力者にも出張ってほしくはねぇんだ……美偉にもな」

 

 少しばかり、固法先輩を特別視しているような言い方だった。関わっても良いと思っていないことは無いはずだ、固法先輩はきっと今黒妻綿流を名乗っている人を知っているような気がする。

 

「あ~あ、私ももっと早く生まれてれば、ビッグスパイダーとか入れたんでしょうけど、黒妻さんの舎弟とかで」

「ハハハッ、確かに佐天が入ったらビッグスパイダーも昔のまま居られたのかもな」

 

 懐かしむようにそう言う。

 

「でも、結局変わりたく無くても時間と共に変わるのが人間だろ、どんなに経っても変わらないでいようと思って変わらないのは“形”だけだ」

「そうですね……言いたいことはわかっても、その意味まではわかりませんけど」

「そういう風に喋ってるんだよ」

 

 立ち上がる黒妻さん、たぶんだけれど固法先輩が関わっている。間違いない。

 

「学園都市で言われるスキルアウトは、碌な人間の集まりじゃないとされてます」

「……そうだな、それでもそいつらは自分たちを武装無能力集団(スキルアウト)って名乗ってる」

 

 言いたいことが、たぶんまったく間違えずに言える。私はこの人にどこか親近感を覚えていた。

 

「だけどその中にも、筋を通す奴らだっているってこと……俺は知ってる」

 

 私も知っている。いや、学園都市に入学当初こそ『スキルアウト』っていう集団をバカにしていたし蔑んでもいた。

 だけれど今は知っているんだ『能力開発』で挫折して、なにもかも投げ捨てたくなる気持ちや、新たな世界に踏み込んでみたくなる気持ち。それにスキルアウトのみんながみんな、悪い人じゃないってこと、だから私はスキルアウトと一括りに言うことはあっても、出会った人を決してスキルアウトというフィルタを通して見ないようにはしている。

 目の前の人はスキルアウトだったからこそ、スキルアウトのことがわかるはずだ。

 

「能力者狩りをしている無能力者をどうにかすんのは無能力者だ。自分のケツは自分で拭く」

 

 そう言って去っていく黒妻さんを見送って、私は缶コーヒーを一気飲みして空き缶をゴミ箱に投げて入れる。

 ブラックコーヒーを飲めてしまうのは、紅魔館に居たせいかな。

 

 

 

 私はとある目的地を目指して歩くけれど、生憎目的地と黒妻さんと別れた場所は結構離れていて私は結構な走りをしたこともありずいぶん疲れていた。

 バスを使えば良かったんだけど待つ時間が惜しいぐらい私は早くそこに行きたい気持ちなんだからしょうがない。そもそもバス代だってタダじゃ無いんだし、無理に乗る必要はない。

 走るのをやめて歩いていると息切れもずいぶん収まってきたことだしまた走り出そうとした、その瞬間―――。

 

 前から歩いてくるのは、巫女さん……だと?

 

 突然、正面から歩いてきた巫女さん相手に私は唖然としているとその巫女さんは何事もないかのように私の横を通り過ぎて……。

 やけに甘くて美味しそうな匂いがした直後、私の左目から痛みを感じた。

 

「ガッ!?」

 

 私は激痛に膝をついてしまう。

 

「なっ……に?」

 

 さっきの巫女服がやったなら魔術師か能力者か……あとは魔法使いぐらいしか候補も無いだろうけれど……。

 あれ、治った?

 痛みが消えて立ち上がると私は振り返ってさっきの巫女服を探してみるがもう見えなくなっていた、どれぐらい痛みがあったのか覚えてもいないけれどまだ少しだけ余韻で痛む。

 

「ま、とりあえず向かいますか」

「なにが向かう、なのかな?」

 

 そんな声に私は振り返る。

 

「あ、インデックス」

「あ、インデックス、じゃないんだよ! 今日お見舞いにいったら居ないし、どうなってるのかなぁるいこ!」

「それはまぁ、色々ありまして」

 

「とうまと同じぐらいボロボロだったはずの涙子がこんな早く退院できるはずがないんだよ! これは魔術師の仕業だよ!」

 

 いやはや、どちらかというと魔法使いの仕業と言いますか……まぁともかく私はインデックスに怒られながらもとりあえず話を逸らす方法を探す。

 

「そう言えばどうしてこんなところに?」

「お買いものに行ってたんだよ、小萌と!」

「小萌先生と……?」

 

「はい、そういうわけなんですよ佐天ちゃん」

 

 久しぶりに聞いた声に私は驚きながらそちらを見ると、そこにはちまっとした先生。つまりは小萌先生が居たわけで……。

 

「こんなに心配をかけておきながらインデックスちゃんに一言もかけないなんて……佐天ちゃんは上条ちゃんと同じぐらいバカですね」

「あの、すいません」

 

 私はぐうの音も出せずに謝るぐらいしか無かった。

 

 

 

 とりあえず私は小萌先生とインデックスの荷物持ちをやらされて、そのまま小萌先生の家へと案内される。

 今日は焼肉、なんて運がいいんだろう。佐天さんもテンションを上げずにいられないこの香ばしい匂い……なんて思っていると、私が肉を取ろうとした瞬間―――消えた?

 

「るいこ食べないの?」

 

 口に、入っている……だと?

 

「佐天ちゃん、さっさと食べないとインデックスちゃんが全部駆逐しますよ?」

「は、はい!」

 

 私は忘れていた。焼肉が戦争であると……幻想郷で焼肉を食べた記憶は無い。

 さぁ、私たちの戦争を始めましょう!

 

 

 

 結果、私は惨敗だった。インデックスの食における瞬発力は異常……というより若干焼けてない気がする肉でも行くのは流石に負けるわ。小萌先生はそれとなくとっていくし……でも小萌先生がお腹一杯になったあたりに私も結構食べれたりしたんだけど、とりあえず決めたことはインデックスと食事する時はみんなで食べるようなものはしないってことだ。

 食事を終えてから、お腹が一杯になって寝てしまったインデックスに毛布をかけると周囲を見渡す。

 

 部屋の畳は直っていて、魔方陣はしっかりと消してあるけれど天井ばかりはどうにもならなかったのかブルーシートで覆われていた。

 

「すみません、小萌先生」

「なんのことですかー?」

「その、天井のこととか……」

 

 私は心底申し訳なく思い座ったまま頭を下げる。

 

「先生は、上条ちゃんや佐天ちゃんのことを良く知っています」

「え?」

「上条ちゃんとは入学当初からの付き合いですから、多少のやんちゃはしても人様に迷惑かけることをしません」

 

 それは、私も僅かながらしか一緒にいなかったけれど知っている。あの人はそういう人だ。

 

「それに佐天ちゃんとはずいぶん会うことも多かったし一緒にいることも少なくは無かったと思います。だからわかります。上条ちゃんと佐天ちゃんはどこか似ているんですよ」

「……はい」

 

 あの人みたく我武者羅に誰かを救うなんてことはできないけれど、それでもそう言われるのは悪い気がしなかった。私としては上条さんと黒妻さんが似ているとも思えないからこそ、私はその二人の似ていないところが似ているのかもしれないと思った。

 とりあえず私が今言えるのは、小萌先生はやっぱり『私の先生でもある』ということだ。

 

 その日は、小萌先生の家に泊まらせてもらい三人して布団で寝た。

 一人暮らしの身としては少し暖か過ぎた気がしないでもないな、なんて……。

 

 

 

 翌日―――私は朝早くに自宅に帰ってからシャワーを浴びて、髪を乾かして、バスタオル一枚のまま今日はどうするかなんて、深く考える必要はそれほど無い。今日は昨日の事件の続き、偽黒妻綿流の正体を暴くこととそれに通じているであろう固法先輩を探す。ついでに付け加えるなら黒妻さんとの関係を聞いてみたりしないなぁ、なんて。

 まぁ昨日打ったメールの返信が来ないあたり、やっぱ白井さんと初春に頼るしかないよね。

 

「ふぅ、ん? 電話来てるし」

 

 携帯端末をいじると、直後に目の前に誰かが現れた。

 

「ち、違いますの、これは何度も電話しても出ない佐天さんがっ」

「ひっ!」

 

 私らしくない声を出して、私は白井さんの頬を打ってしまった。ごめんなさい。でも、悪いのは白井さんだからね? だよ、ね……?

 

 

 

 私のビンタを受けた直後、外にテレポートした白井さん。

 バスタオル一枚の姿から着替え終えると、玄関から今度はしっかりと白井さんを迎え入れてお茶を出す。とりあえず当初の目的通り白井さんと接触できたのは嬉しいけど……私の体感時間的には一ヶ月以上初春と会ってないんだよね。

 白井さんの赤く腫れた頬に水で濡らしたハンカチを当てる。

 

「ひゃん!」

「ごめんなさい」

「ま、まぁ……わたくしも悪かったので仕方がありませんの」

 

 確かに、人が電話に出なかったからってテレポートなんて、私が居留守使ったり白井さんから逃げたりするように見えるかなぁ?

 

「ともかく、わたくしが佐天さんに聞きたいのはあの方との話はいかがでしたの?」

「得るものはありましたが事件解決には役に立たないと思いますし……これはレベル0の問題でもあります」

「能力者狩りが起きた時点でこれはレベル0だけの問題ではありませんことよ」

 

 確かに、正論だった。けれど私や黒妻さんの感情はそれとは違う。

 

「それにお姉様も友達の婚后光子、さんも能力者狩りに会っています。だからこそお姉様はなにがなんでもこの事件を解決しようとするでしょうし『スキルアウトは碌でもない人間の集まり』という印象を変えることは無いでしょう」

 

 つまり私がレベル0だけで話をつけるには御坂さんを説得する道しかないと、そういうことだ。

 

「友達が傷つけられればそうもなりますし、構いませんよ」

「……昨日は少し配慮が足らなかったと、お姉様は反省していましたわ」

「別に良いのに、そのうちレベル5になる予定なんで」

「それはわたくしを追い越してから、ですわね」

 

 二人で冗談を言い合って笑う。

 ともかく、昼前にはファミレスに集合するのが予定らしく、その後私と白井さんはジョナGへと向かうこととなった。先に二人で入って雑談をしていると、すぐに御坂さんと……初春が来た。

 いや、初春からしたら大したことない、二日ぶりぐらいだし大したことじゃないんだろうけど、やっぱり私としては親友としばらく会っていないというのに変わりは無い。

 

「初春ー!」

「佐天さん、スカートはダメですよ!」

 

 もう警戒されているのか、つまらん!

 

「あはは、ともかく佐天さん退院おめでとう」

「あっ、そうだったおめでとうございます!」

 

 御坂さんと初春からの言葉に私は素直に『ありがとう』とだけ言って軽くメニューを注文する。私と向かい合っている白井さんの隣に初春が座って私の隣に御坂さんが座った。

 今日四人がここに集まった理由は一つだけだ。

 固法先輩のこと、それだけだ……。

 

「固法先輩と黒妻綿流が知り合い! ほんとですかそれ!?」

「まぁ本当なんだなこれが、昨日黒妻さんからも裏は取ったから間違いない」

「ていうかまた佐天さんは危険なことして!」

 

 少しばかり怒る初春だけど、私は軽く諭して話を続ける。

 

「それでですね、私としては固法先輩に直接ことと次第を聞きたいんです」

「でも固法先輩は電話にもメールにも出ませんし……」

「なら、直接足を運んだ方が良さげですわね」

「足を運ぶってどこに?」

 

「それはもちろん固法先輩の家ですわ」

 

 白井さん、良いこと言いますね。

 

「……今から? 来たばっかなのに?」

「もちろん今からですわ」

「と決まれば、行きますか!」

 

 私が立ち上がって言うと、初春が眼を細める。

 

「ど、どうしたの?」

「少しバストサイズアップしました?」

「やめてよ、ていうかなんでわかんのよ」

 

 佐天さん正直、ゾッとしましたよ初春?

 ていうかあれだね、たぶん幻想郷に一ヶ月以上いたのが来てるね。やっぱり!

 まぁなにはともあれこの調子ならわからないよね、成長も……。

 

 さてさて、これも身から出た錆って奴かな? なんか違う気もするけど。

 

 ともかくこの事件を解決しなきゃならないもんね。

 事情はみんなで聞くけど……解決するのは私の役目だから。

 

 

 

 




あとがき↓  ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。















なかなか長い、スキルアウト編。次回は固法先輩の過去話を聞くことになります。なんていう予告をしてみたり!
そして今回ですがとんでもないのとすれ違いましたがなんで症状が“激痛”だったのか、なんてものもその内明かされることとなるでしょうな!
久しぶりの初春の出番もなんか愉快なことになってしまい申し訳ない。ていうかこの初春すごい怒られそうで怖い。おもに初春ファンに(

とりあえず、次回もお楽しみいただければまさに僥倖!

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