ファミレスを出てから、私たち四人は固法先輩の家を訪ねることにした。もちろん固法先輩の家を知っているのは白井さんのみで、寮に着いてからは御坂さんが戦闘で、固法先輩とそのお友達が住んでいる部屋のインターホンを鳴らす。
鳴らして、少しして出てきたのは知らない長い髪の女性。やっぱり固法先輩の友達ってだけあって……大きい、なにがとは言わないけど。
「はーい、どちらさま?」
「ああ、あの……」
もしかして御坂さん、固法先輩が出てくるとしか思ってなかった?
……仕方ない、ここは佐天さんの出番ですかな!
「申し訳ございません、私固法先輩に良くして頂いている佐天涙子と言います。固法先輩はいらっしゃいますか?」
紅魔館で教えられたことを思い出して、ゆっくりと笑い、一礼する。
「あ、あぁ! 美偉の後輩? ごめんね、今アイツでかけてるの」
「なるほど、では……黒妻綿流、ご存じですか?」
知っている可能性は無くは無い。だからこそ私はそう聞いた。
「……上がって行って」
そう言われて、私は社交性たっぷりの笑顔で『はい』と答えて肩の力を抜く。こうなってしまえばこちらのものだ、必要以上に礼儀正しく必要はない、でもあくまでも無礼なことはしないようにしないとね。
そう思い、後ろを見ると、三人ともびっくりした顔をしてた、なんで?
「佐天さん、何者ですの?」
「えぇっ!?」
私、そんな変ですか?
部屋に上げてもらいテーブルに着く私たち四人。
固法先輩の同居人こと
そろそろ、話を始めるってことですか……。
「黒妻が戻ってきたのね?」
お茶を飲んでいた初春が驚いたのか咳き込むので、私は背中を軽く叩く。
「まさか、生きてたとはねぇ」
「黒妻のことご存じなんですか!?」
「まぁまぁ御坂さん、黒妻さんと固法先輩のことを聞くのが先じゃないですか?」
そう言って御坂さんをなだめると、御坂さんはそっと椅子に座る。
「ちょっと待って、その前にそっちの話を聞かせて?」
まぁ、そうですね。とりあえず話すのは白井さんに任せることにした。この状況で一番達観していて尚且つことと次第を荒立てようとせずにいる白井さんは実に頼もしい。
そして話し出す白井さん、最近の『能力者狩り事件』の犯人を見てから少しおかしくなった固法先輩と、能力者狩り事件の犯人のアジトへと向かっていた時に黒妻に会ったこと……。
「そっか、通りでね……」
「あの、それで、固法先輩はどおして黒妻を知ってたんですか、ひょっとして前に黒妻を捕まえたことがあるとか?」
そうじゃない、固法先輩の様子を見ていればわかるけれど、あれはそう言う目じゃなかった。
「違う違う、美偉はね、昔ビッグスパイダーのメンバーだったの」
笑いながら言う柳迫さん、そっか、固法先輩は昔ビッグスパイダーのメンバーで……あぁ~若干予想はしてたんだけど実際聞くと……。
『え~!?』
まぁ、御坂さんと初春が驚くのもわかる。けどほんと白井さんったら今回ばかりはずいぶん大人しい、嵐の前の静けさとは大きく違うけど、なんだろう。本当に固法先輩とこの中で一番長い付き合いのせいかな、わかてたって表情だ。
正直、心の中で驚いている私よりよっぽど落ちついてる。
初春と御坂さんが信じられないような表情で聞く。
「先輩はジャッジメントですよ!? それがどうして―――」
「ああ見えて、昔はやんちゃだったのよ」
「やんちゃって!」
「人様の過去をどうこう言うつもりはありませんけれど、仮にも固法先輩はレベル3の能力者、寄り道ならいくらでもあったでしょうに」
確かにその通りだ、私や浜面さんのようにレベル0では無いんだからやりかたなんて山ほどある。
「なんでよりにもよって無……スキルアウトなんかと?」
いや、今『無能力者の集団』とか言おうとしたでしょ、そんなに気を遣わなくても良いのに。
「貴女には無い? 能力の壁にぶつかったこと、それが中々乗り越えられず、暗い気持ちを持て余したこと」
しょっちゅう、というより現在進行形ですよ。初春ったら心配した顔で私のこと見てるし。
「あの頃の美偉は、どこにいても居場所が無いって感じだった。そんな時……輝いて見える人たちと出会った……」
なるほど、それがビッグスパイダー……。
「スキルアウトって言っても、連中はただ気の置けない仲間たちと馬鹿やってただけ……そりゃ、最初は私も心配したわ。“わざわざ自分が、能力者だってこと隠してまでいる場所なの?”って、でも……“ビッグスパイダーは、私が私で居られる場所”美偉は、そう言ってたわ」
「居場所……か」
初春の方を見ると、初春は笑ってくれた。私の居場所も今じゃずいぶん増えた。初春の傍と幻想郷そのもの、この学園都市で居場所ができるっていうのは、やっぱり嬉しいことだなって思いますよ。
「疎外感、自分探し……学園都市に居ると必ずかかる麻疹みたいなものに、あの時の美偉も掛かってたのかも」
「でも麻疹に掛かるのは一度だけです」
「……お姉様」
はっきりと、御坂さんは言った。やっぱり固法先輩がもう一度“向こう”に行ってしまいそうなのが嫌なんだろうなと思う。まぁ御坂さんにはわからないことだ。
これは別に馬鹿にするだとか嫉妬するだとかいう意味じゃなくて、御坂さんはレベル5である時代があまりにも長すぎた。いやレベル5になるのが早すぎたと言った方が早いんだろうと思う。
確かに自分の限界を突破できるほどの“努力”をした御坂さんは凄い、でも確実にその中に才能が皆無かと言ったらウソだ。才能が無ければ限界の突破なんてできるはずがないんだから、だからこそ御坂さんには……
帰り際、私たちは道を歩いていた。柳迫さんからは『また来てね』なんて言われたけれど、行くことなんてあるかどうか……高校生の中に中学生とかさすがにレベル高すぎ。
あれ、でも幻想郷って年上ってレベルじゃない人たちが大量に居た気がする。
まぁ、どうでも良いけれど。
「わからない……」
御坂さんが立ち止って、私たちもそれに合わせて立ち止まる。
「お姉様?」
「固法先輩がスキルアウトだったのもショックだけど、だからってなんで
「ですからそれは」
「昔は昔じゃない! 今は先輩、
「割り切れませんよ、過去は簡単に割り切れない……」
私は、口を出すことにした。これ以上はさすがに御坂さんでもあまりにも残酷な物言いだ。
「過去の自分があって今の自分がある。それにその過去が大事で特別で、取り戻したいとも心の中で思っているなら、割り切るなんて簡単にはできなしい、割り切る必要なんてない……そして私たちの理想の固法先輩を押し付ける理由も、私たちにはないし……って」
やば、なんか出過ぎたこと言い過ぎた。
「やっぱり……やっぱりわかんないよ」
そりゃ、わかりませんよ。私だって幻想郷での出来事があったからこそ今の言葉が出てきたんだし……。
フランも妹紅だってそうだったはず、過去は簡単にはわりきれない。だからこそフランは外への憧れを抱いていて、だからこそ妹紅は蓬莱山輝夜との殺し合いをやめられなかった。過去は一生ついて回るものなんだもの……割り切ることは、難しい。
その後、私はすぐに柳迫さんの元に戻って固法先輩が出かけたことを聞いてすぐに第10学区へと走った。ビッグスパイダーのアジトがある学区であり、柳迫先輩の話では固法先輩の思い出の場所。一時期は良く行っていたらしいその場所を見つけて、私はすぐにその廃ビルを上って屋上へと上がる。
だけどそこには、すでに御坂さんと固法先輩の二人がいた。
「佐天さん!?」
「なんで、ここに?」
「し、心配したからに決まってるでしょうっ! ハァッ、ハァッ……」
とりあえず、まだ重要な話はしていないようだった。
「……固法先輩、明日の一斉摘発のこと、黒妻に知らせに来たんですか?」
一斉摘発、なるほど……急いで正解だったってわけだ。
「ここは、固法先輩がいるところじゃないと思います!」
反論もできないほど、正しい答えだった。でも人間の心はそういう風にはできていない。
「そうね……ここは私の居場所じゃない、でもそれを私に教えてくれたのは黒妻なの……」
そりゃそうだろうと思う、黒妻さんはそういう人だ。あの人は誰よりも仲間を大事にする人だって、出会って間もない私にもわかる。そして固法先輩は昔の話を始めた、ここで黒妻さんに『ここはお前の名前を刻む場所じゃないと思う』と教えられたこと、彼が偽黒妻を名乗る蛇谷を助けに行ったこと、罠に嵌った黒妻さんが爆発に巻き込まれたこと、そして蛇谷も固法先輩もビッグスパイダーの仲間たちも悲しんだことも……。そうして黒妻さんは死んだと思われた。
「そして、今の私がいる」
「でも、だからって、先輩は
御坂さん、私はそれでも間違ってるって思ってないよ。
「あぁ、間違ってるよな」
私たち三人が振り返ると、そこには黒妻さんが居た。
この人はそう言うと思っていた、だってこの人は今の固法さんを護ろうとしているから……だからこそ黒妻さんはビッグスパイダーの名前がおおやけになる前に能力者狩りをしていたビッグスパイダーのメンバーを倒していたんだと、思う。
黒妻さんは話出す。死んだと思われた爆発事件の後、病院に居た黒妻さんは退院と共に施設に送られて出てきたのは半年前。
「この景色も、もう二度と見ることは無いと思ってたんだけどな。お前にも、合わない方が良いと思ってた……」
ここで口をはさむわけにもいかず、私は御坂さんと二人で固法先輩と黒妻さんを見ていることとする。
「会えばまた―――」
「また、一人で乗り込むつもりですか、あの時みたいに」
「ビッグスパイダーを作ったのは俺だ、だから潰すのも俺……アンチスキルじゃない」
固法先輩が、黒妻さんの腕を掴む。
「行かないでっ、貴方はいつもそう! 自分勝手に人を思いやって、自分勝手に行動して! 貴方がそんなだから、私はっ―――」
「お前だってそうじゃねぇか、だからここに来てるんだろ? じゃ、良いからもう帰れ、ほら佐天たちもさっきから困ってるじゃねぇか」
そりゃ困る、さすがにそんな二人の深い所まで話に突っ込む気は無い。
「じゃあな、今いるところを大事にしろよ」
今、固法先輩が自分で居られる場所……。
「私も行きます。もう、あんな思いをしたくないんです」
「いい加減にしろよ美偉、昔と今じゃ違うだろう」
なんとなくだけれど、固法先輩と黒妻さんの関係は、私と上条さんに似ている気がした。別に私は上条さんに恋心を抱いているわけでも無いけれど、それでもなんとなくだけれど似てる気がした。
「昔とか今とか関係ありません! 居場所が変わっても関係ありません!」
これは……きっと気持ちの問題だ。
それから黒妻さんはなにを言うわけでも無く、去っていく。
私たちもそれから何かを言うわけでもなく別れて自分たちの今の居場所へと帰るしかない。
夜、食事をしながら私は考えてみる。
そしてすぐにこの前に教えてもらったメールアドレスにメールを送ることにした。
私は、なにを言われようと今回ばかりは妥協する気は無い。
だからこそ私は私の全力をもって最高のハッピーエンドを目指す。
「ねぇ涙子、これ食べないなら食べて良いのかな!?」
「ダメ!」
とりあえず今は私の部屋で大量に作った晩御飯をバクバクと食べていきとうとう私の食事にも手を出そうとしているインデックスを止めることにした。
うん、小萌先生ったらインデックスをずっと住まわせていられるなんて尊敬します。食事代はとてもじゃないけど持たないなと思うんだよ私は……。
明日で、終わらせる……。頼んだよ、相棒……。
◇◇◇◇◇◇
その翌日、黒妻綿流はビッグスパイダーの拠点の一つに来ていた。前回涙子たちが居た拠点は今頃一斉摘発に会っていることだろうけれど、ここはまだ平気なようだった。
その拠点の門番をやっていた人間を殴り飛ばし、中に入ると奥に座っている蛇谷を睨む。
「やれぇっ!」
蛇谷の言葉に、一斉に動き出すスキルアウトたちだが、誰も一発も黒妻綿流に攻撃を当てられるわけがない。だがそれでも増援こと味方はやってくるわけで、黒妻綿流の背後で“彼女”はスキルアウトを倒す。
全員がダウンした中で、黒妻が溜息をついて彼女を見る。
「佐天、お前なにしてんだよ。それになんでここがわかった?」
「まぁまぁ、無能力者として今回のことは無能力者か……ビッグスパイダーの中でつけてほしいんですよ、それと私にもスキルアウトの友達が居るので」
だからこそ、佐天涙子は黒妻綿流を味方する。多分一人で十分だとは思っていたけれど今出る必要があったのだ。
◇◇◇◇◇◇
私は黒妻さんの隣で軽く手をスナップして手の動きを慣らす。
早く決めなきゃだけど、それでもこれには役者が足りない。私は要らないかもしれないけれど、今回ばかりは私自身がこの事件に首を突っ込むと決めた、私が私の望むハッピーエンドのために、なんとしても今回は首を突っ込む。
「やめろ蛇谷、俺たちには勝てない」
「確かにあんたも、そこのガキも強ぇ、けどッ、そんなのは能力者と同じだ! 数と武器には敵いっこねぇんだ!」
「待ちなさい!」
ようやく来た……これで役者はそろったってわけだよね。黒妻先輩が驚いたように振り返る。
「美偉!?」
私も振り返るとそこには、赤い革ジャンを来た固法先輩がいた。なるほど、それが制服ですか、私も今ジャケット着てますけどそういう革ジャンも良いかも……。革ジャン佐天さん爆誕、胸熱だなぁ。
なんて余裕を言っていると話の流れに置いて行かれそう。
「カッコいいじゃねぇか」
「カッコいいじゃないですか」
私と黒妻さんが同じことを言うけれど、今まで私と黒妻さんが見ていた固法先輩は違う。黒妻さんは今初めて
その顔に笑みを浮かべる固法先輩、私と黒妻さんも同じだ。
「こ、固法さん!?」
「蛇谷君、貴方ずいぶん下種な男に成り下がったわね。数に物を言わせて、そのうえ武器?」
「ッ……うるせぇ! 俺たちを裏切って
蛇谷の叫びと共に、手下たちが銃を構えるけれど、拳銃すべてに見覚えのある金属矢が刺さる。
……来るよね、そりゃ。
「今度は、直接体内にお見舞いしましょうか?」
さすが、強すぎですよ白井さん。
「だ、だが俺たちにはアレが!」
「アレってどれでしょうね?」
私が笑って言うと、一緒に来た御坂さんが溜息をつく。
「あの機械に刺さってた金属バットって佐天さん?」
「そりゃ私の相棒ですから」
「片目なんだから無理しないでくださいまし!」
眼帯装備の私、というより私が眼帯つけてるの忘れてませんよね? 誰がとは言いませんが……。
「固法先輩の邪魔になると思ったもので」
「あの佐天さん、私たちは?」
「関係の無い人たちは今回、手は出さないでいただきます。今回ばかりは手を出したらたとえ御坂さんだろうと本当に怒りますからね?」
私が満面の笑みで言うと、御坂さんは眼を逸らして頷く。
「や、やれぇっ! やっちまえ!」
「固法先輩、これって“風紀委員への協力”にあたりますよね?」
「……フフッ、そうね協力にあたるわね」
「よし、暴れますよ黒妻さん!」
私を見て笑う黒妻さん。これで下準備は完了だ。
「ハハッ、良いぜ佐天、無能力者のケツは!」
「無能力者が拭う!」
「じゃあ美偉、ビッグスパイダーのツケは!」
「ビッグスパイダーが払う!」
私と黒妻さんがまず走り出す。とりあえず、ナイフを突き出す人の腕を取ると同時に身をかがめて背中を向けたままその人の懐に入り、地を蹴ると同時に背中でその体に衝撃を与える。
美鈴さん直伝の“
いや、肘打ちと言っても八極拳の“頂肘”と言った方が正しいかも、腕を上に曲げるわけだしね。
わざわざナイフも使わずって戦い方、久しぶりだ。
「この、くそがきっ!」
拳銃を私に向けるけれど、この距離なら素人が撃つより私の方が早い。地面を蹴って前に跳ねながら真っ直ぐ拳をその体に突き立てる。またまた美鈴さん直伝の“
さすがに鳩尾に入れば、体をくの字に曲げて倒れる。
美鈴さんに習った、といってもどちらかというと食らって覚えたのばっかだからあまり完璧な型でも無ければそんなに詳しくわかるわけでもないし、正直純粋な拳で戦うのならば、我流が一番だ。
私もずいぶん世紀末な思考になったなぁ。
「よっと!」
すぐに殴りかかってきた相手の拳を避けて、その胸に掌底を撃つ。倒れ込んだ相手を見ずにすぐに次の相手を蹴り倒すと、黒妻さんと固法さんもだいぶ倒したみたいで、仲睦まじい二人を見て私は若干ながらもこの
戦いに参加したことを後悔しかけた……それでも私自身が作戦には必要不可欠だった。
最後に残ったのは、蛇谷。
「さて、どうするよ?」
「へ、へへ……これで勝ったつもりかよ……これを見ろォッ!」
蛇谷が革ジャンを開いて見せてきたのは……ッ。
「ダイナマイト!? い、いつの時代の方ですの!?」
白井さん、なんか、違う。
「これ以上近づいてみろ! みんなドカーンだっ!」
確かに白井さんが言いたいこともわかる気がするよ。蛇谷はライターを片手に笑うけど、その顔には汗が流れる。白井さんは今すぐにでも止めようとするけど御坂さんがそれを制してくれた。
―――少しわかってくれたのかな?
黒妻さんが蛇谷に近づいていく。
「ど、どうしたっ、ビビったか!」
「あぁ~あ、めんどくせぇ」
黒妻さんは革ジャンを脱いだ。……大きな蜘蛛の、入れ墨。
「く、来るなよ! ダイナマイトだぞ!」
「蛇谷、昔は楽しかったよなぁ……」
歩き出す黒妻さん。
「来るな、来るなって!」
「みんなでつるんで、バカやって……それがどうしちまった?」
「く、くる、な……」
立ち止る黒妻さんが、即座に拳を蛇谷の腹部に打ち付ける。叫びと共に、すさまじい衝撃と共に、蛇谷の腹についたダイナマイトがバラバラと落ちた。
自分を殺すだけの度胸は、たぶん蛇谷には無かった。
「どうしちまったよ、蛇谷……」
地面に膝をつく蛇谷に、黒妻さんは何をするでもない。
「しょ、しょうがなかった……俺たちの居場所はここしかねぇっ! ビッグスパイダーをまとめるにはっ、黒妻が必要だったんだッ!」
胸ポケットに腕を入れようとしている蛇谷を見て、私は叫ばずにはいられなかった。
「やめろ蛇谷ぃっ!」
「ッ……!?」
「ダメ、それをやったら……ダメだよ」
私の声が聞こえているのか、届いているのか……蛇谷は胸ポケットから出した大きなナイフを放り投げて立ち上がる。
そして蛇谷が拳を構えるのに合わせて、黒妻さんも拳を構えた。
「あんたが、あんたが俺なんかを助けるからぁッ!!」
「仲間助けるのは当然だろうが蛇谷ぃッ!!」
お互いの拳が、お互いの頬にぶつかる。けれど蛇谷は吹き飛ばされて地面に倒れる。
「蛇谷、居場所っていうのは、自分が自分で居られる場所を言うんだよ……」
倒れている蛇谷が、腕で顔を覆って嗚咽を上げながらすすり泣くまで……時間は掛からなかった。
それからアンチスキルが来て、ビッグスパイダーのメンバーが次々と護送車へと入れられていく。蛇谷も、もちろん連れて行かれたけれど、今度は自分の居場所を自分の力で見つけるか作るかするだろうと思う。
だって、あそこで止まれたんだもんね……やりなおすことだってできるし、黒妻さんとだって一緒にやっていける。
そしてアンチスキルがビッグスパイダーのメンバーを捕まえている間に、黒妻さんと固法さんが話をしていて私と御坂さんと白井さんはそれを見守る……さすがにあそこに出張ることはできない。
「そういや佐天」
と思ったら巻き込まれた!?
「お前やってくれたな、これで俺は協力者って立場になったから最後のは御咎めなしじゃねぇか」
「黒妻さんは何も悪いことやってないんですから、当然ですよ」
「ありがとう佐天さん、貴女のおかげで先輩もすぐ出てこられるでしょうし」
そう、私の目的はこれだ。協力者が二人いたということになれば、アンチスキルと言えどあまり強くも言えないだろうとは思う、まぁ今回以外のバレてる事件は暴行容疑だろうけれど一応人助けだし長いこと施設に入れられることもないはず……。
ついでに私がジャケットにナイフを入れてこなかった理由もアンチスキルにバレればさすがに不味いからだ。
でも暴行傷害の容疑すべては拭えない。だからこそ一度は手錠をかけなきゃならない。
「ほら美偉、やれ」
「……黒妻綿流、貴方を暴行傷害の容疑で逮捕します」
手錠をかけられた黒妻さんは、笑う。
「似合ってるぜ」
「ん、あぁ……」
「でもよ、その革ジャン……さすがに胸キツくないか?」
固法先輩が顔を赤らめる。
「そりゃぁ、まぁ毎日あれ飲んでましたから!」
「ん、あぁ」
二人して笑う。
『やっぱり牛乳は、ムサシノ牛乳!』
二人の声が重なり、そして二人が楽しそうに笑った。
それってあれですよねぇ、ムサシノ牛乳のCMの奴。
私が少し下がると、隣の御坂さんと白井さんが不思議そうにする。
「やっぱり胸のことを話しても」
「不思議といやらしくない」
「あぁ、確かにね」
三人同時に頷く。
「そう言えば佐天さんはムサシノ牛乳飲んでますの?」
「え、はいもちろんですよ」
「あぁ、やっぱり」
なんですか御坂さんに白井さん、私の胸見ないで下さいよ。まったく……。
「おぉ~い、佐天ちゃぁ~ん?」
「げっ、黄泉川先生!?」
「げっ、はないんじゃないか?」
私の肩に手を回してくる黄泉川先生に、正直逃げたい気持ちで一杯です。
「さすがにここまで関わる事件が多いとなぁ、
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ黄泉川先生!」
「黒妻と一緒に少し車で話を聞くじゃん!」
ちょっ、待って! ふ―――不幸だぁッ!
あとがき↓ ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。
今回は長くなりましたがどうにか終わりました!
やはり戦闘を前に出すよりも話を前に出してしまうのは、下手に出しゃばらせるわけにもいかないから……いやでも、普通に出しゃばってましたな。しかして佐天さんお手柄ということで、黒妻さん、刑期短いですよ。ということで再登場もあるかも?
そしてこれが終わり次回からはまた新たな事件が発生!
さらに、あのキャラクターが登場!
では、次回もお楽しみいただければまさに僥倖!