私が起きた時は、色々と騒動もおさまったらしく……っていうか外というかベンチというか、私の後頭部の柔らかな感触は間違いなく太ももというやつであり、私の視界の先に紫さんの顔があるということはこの太ももは紫さんのものだろう。
起きた私を見て、少しだけ微笑んでくれる紫さんを見ると、信用してくれたのかなーなんて思って起き上がる。
「ありがとうございます」
「別に構わないよ……借りがあるもの」
紫さんが少し顔を赤くしながらそういうので、私はとりあえず紫さんの良心に甘えることとして頭を押さえると、額に包帯が巻かれているのがわかってさらに言えば両目が使えることもわかる。
眼帯を私に渡してくれる紫さん、それを受け取ってから眼帯を付けて、すぐに周囲を確認。
御坂さんと白井さんがこちらへ歩いてくるので驚いた表情をしている。
「佐天さん貴女!?」
「あ、春上さんと初春は!?」
「なっ、佐天さん、自分の心配をしてくださいまし!」
そんなものはどうでも良いから!
「あっち」
紫さんが指差す方向を見て、初春が救急車の前にいるのがわかった。
「私、病院まで付き合ってきます!」
「待ちなさい私も行くわよ」
私たち二人が初春の方へと行くことにすれば、白井さんが私の腕を掴む。
「佐天さん!」
「ほら、寮監さんが怒りますよ~?」
「むぅ」
頬を膨らます白井さんに『ごめんなさい』と言ってから私は紫さんと共に救急車の方に行き、初春と合流する。
そりゃ初春は第一声に『佐天さん、死んだんじゃ!?』とか言うものだから、私はとりあえず『トリックだよ』と答えてから救急車に乗ることにした。
眠っているというか気絶しているような春上さんを見て、私はそっとその頬を撫でてみる。
少し、冷たい……。
その後は、病院で春上さんと私の頭の怪我を含めて救命救急24時ことリアルゲコ太のお医者さんに診てもらった。
結果は大したことはなく、私の場合は頭を揺さぶられた時に脳震盪状態だったらしくそれで無理して歩いた結果ああなったらしい。
春上さんの症状については良くわからなったらしいけど、その後はタクシーで初春の寮に春上さんを送った。
で、近くのスーパーで春上さんにお土産としてスイカを一玉買って、部屋につくなり春上さんは着替えてからすぐに寝て、私は紫さんと初春とで一休み。
「二人とも、ごめんなさい」
「別にあんたのせいじゃないんだし、あんたのルームメイトは私の大事な友達候補だからね」
「……なんだか今日は、佐天さんにお世話になりっぱなしでした」
「いつもでしょ~?」
むぅ、と頬を膨らませる初春。なんだか白井さんを彷彿させる。
「でも春上さん、ビックリだよね。地震のこと全部覚えてないなんて」
「えぇ、病院の先生が仰ってた通り軽いショック状態なんだと思いますけど……」
私はその時、紫さんが目を細めたのを見逃さなかった。
それから、私と紫さんは帰るために部屋から出る。
紫さんは相変わらずの祭りで買った大荷物を持ってる……全部食べ物だけど。
「とんだ花火大会になっちゃったけど、みんな無事でよかったね。じゃ、しっかり春上さんの面倒見るんだゾ!」
「任せといてください」
自信満々と言いたげな初春を見て、私は少し口元が綻ぶ。
「あ、八雲さん、佐天さん……ありがとうございました」
私と紫さんは笑って頷くと、帰路を行くこにした。
その後は、あまりお金を使いたく無い佐天さんはタクシーではなく歩きで帰ることにするんだけどね。
特になにかあるわけでもなく、リンゴ飴を舐めながら歩く紫さんと、私は歩いて帰宅する。
「あぁ~疲れた~」
「怪我してるんだから、気をつけなさい」
「了解れす」
とりあえず、私は起き上がって、着替えることにした。
すぐに着替えた私は紫さんが持って帰ってきた大量の食料の中から私のぶんのやきそばを出して割り箸を割ってすする。
やっぱり屋台の味っていうのは良いなぁ!!
決してすごくおいしいわけでも無いのだけれど、それでも屋台独特の味は嫌いじゃない。
「ん、おいしいわね」
紫さんもやきそばをすするけれど、その横にはあと広島風お好み焼きと普通のお好み焼きとたこ焼きと唐揚げとじゃがバターとがある。
どれだけ食べる気なんでしょうなんていうことは聞かない。
まぁとりあえず、今日はこれで平和におしまいということで……。
「そう言えば佐天、あの春上って子のことだけど」
―――と、いうわけにはいかないようです。
「春上さんがどうしたんですか?」
「あの子、たぶんあの地震と何か関係があるわよ……勘だけど」
「勘で変なこと言わないでくださいよ」
「そう、貴女も気になってるように思えたけど……?」
図星ですよ、そうです気になってます。
不可思議な挙動を春上さんが見せてから起きたポルターガイストは、春上さんの周辺でしか起きていない。
それに、昼間に調べてみた都市伝説で第九学区での地震の回数の多さは半端じゃなかったと書いてあったし、前に春上さんが住んでいた場所は第九学区、これを偶然と片付けられるほどの要素を私は持っていない。
でも、なんで春上さんを中心に起きるんだろう?
よし、こういう時こそ固法先輩に頼ろう!
ということで、翌日なわけですよ!
紫さんは家にこもることにしたらしいので、とりあえずここに来た。
そうです、
いや、ドアを開くと同時に私を見つけてなんだか嫌そうな顔をする白井さん。
「酷いですねー白井さん」
「おほほ佐天さん、貴女怪我人のくせになにをしようとしてやがりますのでしょうか?」
「いやぁ、色々とお役に立てたらと」
「心配する方の身にもなってくださる?」
「あはは、白井さんみたいな人に心配されるなんて私も幸せだなー」
軽く、白井さんをあしらってみる。
苦笑する御坂さんに気づいて私が『どうも』と言うと御坂さんは片手をあげて返してくれた。
ともかく、白井さんはいまだに怒っているようだけれど、まぁまぁ。
「ところで、固法先輩は?」
「現在、寝ていますわ」
「なんでまた」
「まぁ色々とあったのですわ、色々と……」
どこかを見る白井さんを見る限り理由の一旦が白井さんにあるのは明らかだ。
たとえばだけれど、昨日電話している最中にポルターガイスト的なことが起きて連絡を返せなかったとかねぇ。
まぁなにはともあれ固法先輩が寝ているなら話は早い。
「白井さん、なにか情報掴んだんでしょ~?」
「……教えませんわよ?」
「御坂さんばっかりズルいです、私も同じ部外者なのに」
「そ、その言い方こそズルいのではありませんこと?」
いえいえ、これが正しいんだと私は思いますよ?
「ほら、ゲロっちまった方が良いぜ~?」
「あぁもうわかりましたわよ!」
あきらめたという風な白井さんに、私は笑って『ありがとうございます』と言う。
それから白井さんが説明してくれたのは固法先輩が昨晩見つけたポルターガイスト事件とAIM拡散力場との関係。
そもそも、この事件のポルターガイストの正体はRSPK症候群というものらしく、それはトラウマやストレスにより心理的に不安定となった子供が引き起こすと言われてる超常現象。能力者が一時的に制御を失い、自分の能力を無自覚に暴走させる状態や現象を言うらしい、ちなみに 個々の現象は様々と……。
通常は同時多発を起こすようなことはないんだけど、AIM拡散力場に“人為的な干渉”があった場合は起こる確率もある……。
「なるほど、AIM拡散力場に人為的な……」
木山先生が思い浮かぶなぁ、元気にしてるかな……今度会いに行ってみよう。
それよりも現状だ。
「で、白井さんは春上さんに疑惑を持ってると」
「あはは、そんなことあるわけないのに、黒子ったらねぇ!」
「しょ、職業病ですの」
―――いや、それはたぶん正解だ。
「ここまでの統計をソフトを使ってPCでまとめたのを端末に移したんですけど……19学区がポルターガイスト事件の多さで言うとダントツトップだったんです」
「で、それがどうしたの……」
「なるほど、春上さんが前までいた場所が……第19学区ですわ」
きな臭くなってきましたね、これは……。
「さ、佐天さんまで疑ってるの!? 春上さんは初春さんの友達で、あんなにおとなしい子なんだよ!?」
まぁ、そこなんだよね……でも、紫さんが怪しいと言っていた以上、ちゃんと清算するまで私としては納得がいかないというものでして、いやはや佐天さんもすっかり疑い深くなったというか、なんというか……。
あぁ、こういう時は『白黒つけたい』と表現するのが正解かぁ。
「ごめん、もうちょっと考えさせて」
悩んでいる様子の御坂さん、確かに昨日遊んだ春上さんのデータをハッキングする役割は御坂さんなわけだから私が何を言うこともできない。
白井さんが首を横に振るのを見て、私は頷いて立ち上がることにした。
そうしてから、固法先輩がソファから起き上がったのが見える。
「あら、佐天さんどうしたの?」
「いえいえ、ごみ箱の何リットルもあるムサシノ牛乳にドン引きしてるだけです」
「あ、あはは~」
固法先輩って良く食べて良く飲んで良く寝て……結果があの胸か!?
「よし佐天さん、やりましょ!」
「ん、良いんですか?」
思ったより早い、早すぎる。
「えぇ、はっきりさせましょう」
やっぱりやきもきするのはゴメンって性格ですか、うん、そういう素直なのが一番ですよ。人気も出ますよ!
霊夢さんみたいにひねくれちゃダメですからね!
私たちはパソコンを前に三人で画面を見る。
御坂さんがハックしたそのデータの中から春上さんを見つけて、すぐに表示した。
やっぱりこういうのは気が引けるって言っている御坂さんだけど、白井さんがすぐに『白黒つけますの』という言葉で後押しをする。
表示されたデータを白井さんが読み上げていく。
「えっと、能力は
「でもレベル2ってことは、まだほとんど実用の域に無い。良かった! 春上さんはポルターガイストとは関係なし、やっぱ私たちの取り越し苦労だったんだ!」
「御坂さんっ!」
押し殺した声で私は画面を指差す。
画面に映し出された文字に記されたものは、私たちに真実を告げていた。
―――特定波長下においては、例外的にレベル以上の能力を発揮する場合がある。
「これって……」
クソッ、最悪だっ!
「少し、考えましょうか」
「そうですね……白井さん、買い物お願いできますか?」
「佐天さん、なでナチュラルに私をパシろうと?」
「いえ、固法先輩がメモを取ってるので」
私の眼が正しければ色々とメニューを書いている。
「OH……」
じゃ、よろしく!
固法先輩がレシートの裏に書いたメニューを見て頷くと、それを白井さんに渡す。
「あの、固法先輩、わたくしは」
「昨晩」
「行ってまいります!」
すぐに消える白井さん、まぁ五分もせずに帰ってくるだろうし今は良いとしましょう。
「そう言えば初春来ませんね?」
「佐天さん、初春さん今日は非番よ?」
「えっ、聞いてない」
「春上さんと出かけたのかしらね?」
寂しいので電話してみることにした。
すぐに電話に出た初春は、息が荒くなにかよからぬことをしているのではないかと疑いたくもなる。
「今どこ~?」
『今は自然公園ですっ!』
「春上さんと二人で?」
『ひぃっ、は、はいっ!』
「ずるーい、なんで誘ってくれなかったのよ、大体非番だって聞いてないし!」
『ふぃっ、す、すいません! たまにはマイナス、はぁっイオンをっ、吸うのも良いかなって、ひぃぜぇっ!』
……なんかあったなぁ、女の子が息荒くするやつ、坂道上って。
「ていうか吸いすぎじゃない? 息、荒いよ?」
『そんなことっ、ぜぇはぁっ、ないです、よっ!』
「まぁ良いや、またねー」
とりあえず電話を切ることにした。
「遊びに来たのにフラれちゃったぁ」
「ここは遊びに来る場所じゃないし……っていうかそれが目的だったのね、先輩寂しいなー」
「あぁいや、固法先輩にももちろん会いたかったな~……なんて?」
「あらほんと!?」
嬉しそうにする固法先輩を見ると、まぁそれでも良いかなーなんて……。
「なにを口説いてますの佐天さん?」
さすが白井さん、早い!
「口説いてませんよ」
「いえ、どっからどう見ても……いえ、なんでもないですの、とりあえず頼まれたものと私たちの分の飲み物ですわ」
「どうもです」
私は缶ジュースを受け取ってプルタブを空けると一口飲んでから御坂さんと白井さんと軽く雑談。
まぁなんの他愛もない女子中学生らしい話なわけで、あれがあれでおいしいとか、
まぁそうして駄弁りながら、今後のことを私を含めて三人と考えている。
春上さんのこと、とかだ……そんな時。
「第二十一学区、自然公園……で、大規模なポルターガイスト発生!?」
「ッ、自然公園って、初春たちが居る場所じゃないですか!」
クソッ、こんなことになるなんてっ!
とりあえず、その後は病院に被害者は運ばれたって話を聞いて初春が運ばれた病院に私たちは向かうことにした。
病院につくと沢山の負傷者たちの中に初春は居て、比較的怪我もしてなさそうで安心しながら私たちは近づくと、初春も私たちに気づいて立ち上がった。
「大丈夫、怪我はそれだけ?」
「はい、膝を擦りむいただけです」
私たちは安心して一息つく。
「良かったぁ」
「心配したんですのよ、まったく」
「それにしても、二回もポルターガイストに会うなんて思いませんでしたよ」
そこで私は気づく。
「春上さんは、一緒じゃないの?」
「先に搬送されたんでたぶんどこかに……大丈夫怪我はありません、ただ気を失っちゃって」
御坂さんと白井さんが、なにか疑ってる顔をしてる。
「でも怪我なくて良かったね」
「初春―――」
白井さんがなにを言おうとしているのかなんて、わかりきったことだった。
だからこそ私はその言葉を遮るように言葉を口に出す。
「あのさ、ポルターガイストの直前に春上さんになにかなかった?異変っていうか、ちょっと変わったこととかさ」
「え?」
「つまりはこの間の花火大会の時みたいな、なにか変わった挙動が無かったかって」
「佐天さ―――」
「どうかな、初春?」
私を止めようとする白井さんだけれど、ここは私の役目ってものでしょ。
関わったんだからこれぐらいさせてもらわないとねー。
「あの、一体なんの」
「調べたら、春上さんはレベル2でもちょっと変わったテレパスなんだよね。もしあの時と同じなんだかおかしな挙動が見られるなら―――」
「なんで、なんでそんなこと調べたんですか……?」
「“なんで”って、もちろんそれは当然のことだよ……」
私がはっきり言うと、初春は私のことをいつもと違う視線で見る。
スカートめくりをした時よりも、よっぽど怒っているというか、不信感を抱いているというか……。
「まさか佐天さん、春上さんのこと疑ってるんですか?」
「そういうことじゃないんだけどね」
「じゃあ、どういうことですか? 酷いです佐天さん……春上さんは転校してきたばかりで、不安で、私たちを頼りにしててっ……それなのにッ!」
私に今にも掴みかかりそうな初春。
「ちょっと落ち着こうよ、ね!?」
意外にも、初春を止めたのは御坂さんだった。
「そ、そうですわ初春、佐天さんは別に―――」
「テレパスは、AIM拡散力場の干渉者になる場合が無くはないわ」
振り返ったそこにいたのは、昨日のMARの女の人だった。
「テレスティーナさん?」
白井さんの知り合いらしいけれど、まぁ
なんだか、部下らしい人に指示してるから偉い人なんだろうな、とは思うね。
「でも、それには少なくともレベル4以上の実力が必要だし、よほど希少な能力と言わざるをえない……レベル2にその可能性はほとんど無いと思うけど?」
安心したように息をつく初春。
「念のためちゃんと検査した方が良いのかもね、お友達の名前?」
「春上衿衣さんです」
白井さんが答えるより早く、私が答える。
「ッ佐天さん!」
怒ってるけどこれに関してはしょうがないね、いやまぁ、キツいけど……。
「被災者を一人、本部の研究所に送る。表に車を一台回して」
「あの!」
「潔白を証明するためだと思いなさい。大丈夫、ウチには専門のスタッフが揃ってるから、それと……病院はお静かに」
最後に音符でも付きそうな感じで言うテレスティーナさんに初春はうつむく。
まぁ研究所に行くという方針なようで私たちも車に乗せてもらうわけだけど、もちろん初春は私の隣に座ることなんてもちろん無く、私の隣には白井さんが座っていた。
仕方ないねー。
「佐天さん、貴女はっ」
「ん?」
「私が言うと、初春となにかあるとわかってましたわね?」
そりゃ初春のことはわかってますとも、春上さんのことを調べたってことは間違いなく疑ってるってことですからね、初春もそりゃ怒りますよ。
ただ現状況を鑑みても明らかに溝ができるとしたら私と初春との間が理想的だった。
「貴女はっ」
「白井さん、大きな声は出さないでください?」
「佐天さん……もぉ、本当に困った方なんですから」
ため息をつきながらそういう白井さんに小さく『ごめんなさい』と耳打ちしてから私はいつも通りふるまう。
しかたがないってことだって割り切るしかないんだし……。
まぁ、初春と私ならすぐに仲直り……いやぁ、今回は難しいかもなぁ。
なにはともあれ、春上さんのことを白黒はっきりつけないとね!
あとがき↓ ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。
よし、早く更新できた!
ということでキングでござるよ、まぁなにはともあれ、若干話の展開が変わりましたなー
これからポルターガイスト事件はどうなっていくのやらって感じで
では、次回もお楽しみくださればまさに僥倖!