木山先生が泣き疲れて寝てから私は帰ることにして、家に着いた時はもう12時を超えそうな時間だった。
紫さんからは匂いをかがれて『なんだか女の匂いがするわね?』と言われたけれど、まぁなぁなぁにして済ました……どうしたんだろう?
まぁそれは良いとしても、とりあえず紫さんと一緒に寝たという衝撃の展開。
いや、寝たと言っても起きたら紫さんがベッドから落ちたのか私の布団に居たってだけなんだけどね、アハハ。
昼前に私は、
初春はすでに春上さんへと枝先絆理ちゃんのことを伝えに行ったらしく、すでに居なかったけれど私は上機嫌だ。
子供たちを起こせるというところで子供たちをさらわれた木山先生、けれどもしかしたらテレスティーナさんとMARの力を使えばファーストサンプルは見つかるかもしれないし、助けることもできるかもしれない。
昨晩、私は『可能ならば、プログラムのデータをMARへと持って行って力を貸すっていうのもありなんじゃないですか?』とは助言した……それをするかはわからないけれど、そうすればさらに子供たちが起きるのも早くなるはずだ。
正直、私は現在舞い上がっている。
悲しんでいる木山先生だけれど、もしかしたら喜ぶ結果になるかもしれない。
「お茶どうぞ♪」
「あら佐天さん、ご機嫌ね?」
「そりゃそうですよ、ポルターガイスト事件解決までの糸口が見えてきたわけですから! しかも木山先生も喜べるハッピーエンドが! これでみんなで遊びに行けますよ♪」
「そうね、最近貴方たち変だったけど……元通りって感じ?」
いたずらっぽく私を見て言う固法先輩。
「あはは、お騒がせしました、初春にはしっかり謝っておきます」
「佐天さん、貴女はもぉ」
「お説教は聞きませーん、はい白井さん」
「ん、ありがとうですの……相変わらずおいしい」
「ちゃんと茶葉で淹れてますからねー」
「経費で落とした甲斐があるわー」
固法先輩の言葉に、私も白井さんも御坂さんも笑う。
そんな時だった、私に電話がかかってきたのは……。
「あれ、木山先生からだ」
「えっ!?」
全員が声を揃えて言ったことにより、私は驚きながら電話の通話ボタンを押す。
『佐天くんっ、奴は……テレスティーナはっ、私たちを騙していたっ』
「ど、どういうことですか!」
『これ以上は、彼女に聞いてくれ』
「ちょっ、木山さん!」
「どうしましたの?」
「白井さん、初春をっ!」
私はこれ以上ないぐらいに焦っていた。
まさか、そんなっ……こんなことって!
それから、白井さんと御坂さんと、紫さんにも協力してもらって、初春を探し出してもらい、見つけた初春を私たちは177支部へと連れてくると集合する。
泣いている初春を座らせて話を聞くことにすると、初春は泣きながらも説明をしていく。
初春が木山先生を説得して資料をMARに持って行ってくれた。
正直、私にとってはとっても嬉しいことだった、けれどっ……。
「テレスティーナ・木原、本当にそう言ったんですの?」
初春は泣きながら頷く。
喧嘩中だったけれど、それを意識できないぐらいに狼狽している初春は私が背中を撫でているのを気にしない。
「それで、木山先生は!?」
「わ、わがりませんっ……」
両手で顔を覆いながら言う初春に、私はどうしていいかわからなかった。
抱きしめるのが正解なのか、ここでなにをするのが正解なのか……今の私と初春の状況でなにをしてあげるのが正解なのかっ。
「落ち着いて初春、大丈夫だから……ね?」
そう言うが、落ち着くことは無い。
「あったわ! テレスティーナ・木原・ライフライン……木原幻生の血縁、孫!?」
「なんですって!?」
「この間の木原幻生の論文から、当時の職員データを探ったわ」
「ということはテレスティーナは幻生の研究助士をしていたと?」
「そういうことになるわね、ちょっと待って……はぁっ!?」
驚く固法先輩、そっちも見に行きたいが私は初春から離れることなんて、できない!
「テレスティーナが能力体結晶実験の最初の被験者!?」
「な、なんてゲスなんですか木原幻生ってのはァッ!」
そう叫ぶと、隣の初春が顔を上げて再び勢いよく泣き出す。
「ど、どうじようっ、わだしっ、うぅっぁっ……」
「な、泣かないの初春!」
「だっでぇっ、はるうえさんっ、えださきさんたちがぁっ……」
白井さんがゆっくりと私たちの方に歩いてくる。
初春が白井さんの方を顔を上げて向いた瞬間、白井さんは私が止めるより早く初春の頬を打った。
「えっ……?」
「いつまでそうやって泣いているつもりですの?」
「しらぃさん?」
泣いていた初春も驚きで止まったらしい。
「白井さん!」
「佐天さんはまた自分一人で悪者になるつもりでしょうけどそうはいきませんわよっ」
「え、佐天さん……?」
「いや初春、これはっ」
「初春、佐天さんが言っていたことの九分九厘は私が思っていたことです、佐天さんは勘が良いから私と初春の、
声を押し殺したように言う白井さんに、初春は表情を変えて白井さんの横を通り固法先輩の方へと行く。
固法先輩に交代してもらい、初春はいつもの初春へと戻りPCの操作を固法先輩より凄まじいスピードでこなしていく。
そちらに集中している初春にはわからないだろうけれど、初春の頬を打った右手をギュッと押さえている白井さんの前に立ち、私はその頭を軽く撫でる。
「なんですの?」
「まぁまぁ」
「あれ、御坂さんは?」
……ッ、まさかっ!?
「白井さんと初春と固法先輩はそのまま続けてください、紫さんもそのままで! 私は私でやることがあるので失礼しますよ!」
すぐに私は走り出して177支部を飛び出す。
あぁもう御坂さん、世話かけさせないでくださいよぉぉぉぉッ!
本当に一人でなんでも抱え込む人ですね!
ただ走る、走って走って、走り続けてついたのは先日訪れたMARの施設。
そして見たのは、ひどいありさまのその場所と、倒れた御坂さんとパワードスーツらしきものを装備した……。
「テレスティーナ・木原ァァァァァァッ!!」
私が叫ぶと、前に見た表情とは全く違う、イラついたような表情をしたテレスティーナだった。
響く音は間違いなくキャパシティダウンだ。
それで理解できる、なにもかも、こいつがやったこと……キャパシティダウンを使い、スキルアウトの人たちを利用した。
―――そして、御坂さんをこんな風にして木山先生や初春を裏切ったこいつを、私は……私はァッ!!
「殺すッ!」
「アァっ!? ふざけたこと言ってんじゃねぇぞレベル0のクソガキィ!」
走りながら私は眼帯を外してポケットに入れると、左腕に意識を集中させる。
「妖魔結界、血呪封印、解除」
押し殺すように言いながら、私はテレスティーナへと走る。
笑っているテレスティーナは私の攻撃を受ける気だろうけど、そんなパワードスーツでッ!
「“龍”―――解放」
私は“こちら”ではじめて妖怪の力を使った。
気を左の拳へと集めて、私は思い切りテレスティーナの胴体を殴る。
「ハアァッ!」
パワードスーツを纏ったテレスティーナが少しばかり吹き飛ぶ。
「づぁぁっ!」
だけれど、これだけで終わらせる気はない……私はテレスティーナを許す気なんて毛頭無いんだから!
走り出した私を見て、テレスティーナは手に持ったグレネードを打つけれど、私は妖怪の血を解放することで上がった身体能力で避ける。
避ける必要もないのは、たぶんだけど調性が甘かったんだろう。
「おい!」
テレスティーナの声に一体のパワードスーツが現れるけれど、そんなのが今の私の相手になるか!
私は力一杯に地を蹴り跳ぶと、パワードスーツの横腹を蹴って倒す。
「テメェっ、レベル0じゃねぇのかよ!」
「レベル0でも、色々とあったのよ!」
私が気を体中に回してから再びテレスティーナへと走り、むき出しの頭部を狙って蹴りをくりだす。
だけれど、私はこの時、完全に油断していた。
「効くなぁ?」
「ッ!?」
テレスティーナはロッドにて私の蹴りを受け止める。
けれど、そんなロッドで!
「電撃って奴だよ、テメェみてぇなレベル0には丁度良いしなぁ」
瞬間、そのロッドから電撃が流れて私を地面へと落とす。
「がっ……うぁっ……」
「おいおいどうしちゃった、佐天すぁ~ん?」
優勢になったテレスティーナ……完全にしてやられた。
「私っ、はぁ」
「おいおい立てるのかよぉ、じゃあもう一発!」
勢いよく振り下ろされるロッドだけれど、私には当たらない!
「あ、どこ行った?」
「ここだぁっ!」
跳んだ私に気づかなかったテレスティーナの前に着地した私は左腕に精一杯の力を込める。
この一撃、殺す! ……待て、殺す? 私は、殺そうとしてる……目の前の人間を?
「がっ」
拳は真っ直ぐテレスティーナの顔面に直撃したけれど、その一撃はテレスティーナを壊すことは無い。
明らかな力不足は……私の封印が再び発動したことを意味する。
なんで、殺すことを恐れたから?
「なんで、こんなタイミングで……がはぁっ!?」
テレスティーナに殴り飛ばされた私は吹き飛んでから地面を転がった。
これっ、キツぃっ……。
「テメェ、やってくれたじゃねぇか、良いなァ……新しいおもちゃにしてやるよ」
どこかへと連絡するテレスティーナ。
私は意識を保ちながらも、体に異常がないかを冷静に判断する。
近づいてくるのは量産型のパワードスーツ、それでも今の私に勝つことはできないだろうから、なんとか立ち上がると御坂さんの方へと急いで、気絶している御坂さんをなんとか運ぼうとした。
それでも、パワードスーツの方がよほど早い。
「ご、めんっ……御坂さんっ、木山先生っ」
「お待ちなさい!」
そんな時、凛とした声が響く。
「その方をこの私、婚后光子の知人だと知っていての無礼ですか?」
ともかく、私が助かったと思うまでそれほど時間はかからなかった。
それにしても、封印が再開するまでの時間が短すぎると思うんだよねぇ……。
それからは婚后さんがパワードスーツと研究者を倒して、私に手を貸してくれて二人で撤退。
病院へと行き、カエル顔のお医者さんに治療を任せて私も応急処置をしてもらったというわけだ。
あの人に任せれば大概の怪我もなんとかなる、よって私もすぐに動けるようになって御坂さんの病室で、寝ている御坂さんのベッドの近くで椅子に座る。
「お姉さま!」
「御坂さん!」
そんな大声を出して、入ってきたのは白井さんと初春の二人だった。
「なっ、佐天さんも怪我してるじゃないですかぁ!」
「なにをしていますのっ!」
「いやぁ、御坂さんを助けるときにちょっと」
頭の傷が開いたらしく相変わらず額に包帯を巻くことになった挙句、ところどころ包帯が巻いてある私に大声で迫る二人。
まぁしょうがないんだけど、病院ではお静かにね?
だけれど、遅れて入ってきた紫さんを見て、正直私もしっかり治療してもらえば良かったかなと思う。
「紫さん……」
「心配っ、させるんじゃないわよっ」
明らかに怒っている紫さんを見て、私は頭を押さえた。
相変わらず、他人に心配ばかりかけてしまう……。
「御坂さん!?」
「お姉さま!」
そんなときに御坂さんが目を覚ました。
「私、一体……?」
「佐天さんと婚后光子が、助けたと聞きましたわ」
「そう、佐天さんと婚后さんが……佐天さんその怪我っ」
「いや、大丈夫ですから」
それほど痛みもないのは確かだし、一番キツかったのはスタンロッドの方だったしねぇ。
「ッ、あの女っ!」
御坂さんは突然動き出して立ち上がったが、白井さんに抑えられる。
「どいて黒子、こんなところで呑気に寝てる場合じゃない……! 早く、春上さんたちを助けないとっ!」
「ですからそれはっ」
「私が勝手に研究所に忍び込んで頭に来て、せっかく見つけた子供たちを……テレスティーナにっ」
罪悪感と後悔に苛まれている御坂さん、私だってそれを言えば同じだ。
木山先生に『MARに行け』と言ったのは私で、それを後押しした初春。
私にだって責任の一旦は間違いなくある。
「すべての責任は私にあるの……だから、私があの女を止める。どきなさい黒子」
白井さんを押して行こうとする御坂さん。
初春も、白井さんも同じような顔をしていることで気づいた。
気づけば……私は、御坂さんの前に立っていた。
「佐天、さん……?」
「御坂さんの眼には今、なにが見えていますか?」
私の片目でも見えるみんなが、御坂さんには見えてない。
「なにって、佐天さんだけど……っ」
気づいたようで、御坂さんは表情を変えた。
振り返って白井さんと初春を見る御坂さんの表情を想像するのはたやすい。
「私……ごめん、私、見えなくなってた……また、みんなに迷惑かけて」
「迷惑上等です」
「え?」
「友達なんだから迷惑ぐらいかけて当然です、心配するぐらいなら一緒に苦労したいです、それが……友達だと思うんですよ」
私は、小悪魔さんに言われたことを思い出して言う。
頼られるということが、どれだけ大事かわかっている、わかっているつもりだけれど私も今回は失敗した部分がある。
だからこそ御坂さんにそう言って……。
「そうですよ、私たちもいるんですから!」
「はいですの」
「……うん、ありがとう」
御坂さんが俯いてそういう。
これで一件落着かな、と思っているとそんな時、紫さんが私の肩をたたく。
「謝りなさい、初春に」
「へっ?」
「当然でしょう、ひどいこと言ったんでしょ?」
「ちょ、八雲さん! 悪いのは私で!」
初春がそういうけれど、そうだなとは思う。
「ごめんね、初春」
「へ、い、いえ私こそ佐天さんに嫌な態度取って!」
「他には、誰か何か言うことあるんじゃない?」
なんか年上っぽく仕切ってる紫さんに全員たじたじながらも、って感じだ。
白井さんも初春を叩いたことを謝って、色々といざこざを解決させたって感じ……なんだけど。
「私には、なにかありませんの?」
婚后さんの言葉に、御坂さんが笑みを浮かべる。
「ありがとう、婚后さん」
「べべべっ、別に構いませんけど!」
なんか面倒くさい人だなぁ、おもしろいけど。
とりあえず全員話がまとまったところで動き始めることにした。
まずはアンチスキルへの援護要請だ。
177支部に全員で戻って初春はテレスティーナのことを調べ、白井さんはアンチスキルとの通信をしている。
固法先輩と紫さんはどこに行ったのか、ともかく御坂さんは今のうちに体力を回復してもらってるし……。
「だから、テレスティーナ・木原が違法な行為をしていることは明らか!」
『あいつの組織が怪しいのはこっちもわかってるじゃん!』
「お願いします黄泉川先生!」
『お前相変わらずどんな事件にもいるのな!』
「限界を超えるんでしょ! 子供たちが危険なんですよ!」
『たくっ、待ってろ!』
それから十分もしないで、アンチスキルから監視衛星のデータが届いた。
御坂さんがいつも通りの服装へと着替え、白井さんを含めた私たち三人はモニターを見る。
「MARのトレーラーは都市高速の五号線、18学区第三インターチェンジを通過したところです! 五号線って確か17学区につながってる道路よね」
「17学区?」
「どうしてあんなところに……」
「木原幻生が所有していた、私設の研究所があります」
なるほどね……。
ん、このトレーラーの後ろに走ってるの?
「ちょっと初春、後ろの青いスポーツカー拡大できる?」
「え、はい……」
拡大されたそれを見て、私は片手で頭を押さえた。
……木山先生ったら。
「たく、一人で行っちゃうなんて、背負い込んでるんじゃないわよ!」
「お姉さま、それは突っ込み待ちで?」
「案外似たものどうしなんじゃないですか?」
「佐天さんが言いますの!?」
「で、わらひはなにをふればいいんれふろ?」
なぜだかおにぎりを食べながらやってきた婚后さん。
「まだいたんですの?」
「んっ!?」
喉におにぎりをつまらせる婚后さんに、エプロンをかけた固法先輩が近づいて飲み物を渡す……ってテーブルの上に沢山のおにぎりと味噌汁。
ついでに言うと紫さんもエプロンをつけていて、手伝ってくれたんですねー。
「腹が減っては戦はできぬ、しっかり食べなさい!」
「はい!」
全員で返事をして食事を食べる。
私も同じく食事をしながら味噌汁を持ってきてくれた紫さんを見て、自然と口元が綻ぶ。
「似合いますね、可愛いですよ」
「なにをっ……」
そっぽを向かれた……あれ、ダメだった?
さて、なにはともあれ時は目の前まで迫ってるわけで、全員が決戦へ向かう準備をする。
固法先輩が赤い革ジャンを着て、私は相棒こと金属バットを振るい、御坂さんがコインを軽く弾く。
「さて、行きますか!」
御坂さんの一言で、私たちは頷いた。
あとがき↓ ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。
さて、佐天さん力解放!
あまり役に立たなかったのはご愛嬌、機械相手になんとかできるもんじゃない
ということですが次回はもうちょっと活躍しますからな……無双ものじゃないからこんなぐらいで良いのかもしれませんが
とりあえず、次回でポルターガイスト編も終了です、お楽しみくださればまさに僥倖!