まぁ姫神さんと改めましての自己紹介して、紫さんとインデックスに食事と財布の中身を貪られた私と上条さんは、頭を抱えていた。
ちなみに現在上条さんの家なのだけれど、すっかり食べ疲れたのか眠っているインデックス。
紫さんは姫神さんと二人でテレビゲームをしている。
問題はそちらではないのだ、その二人は楽しそうなので放っておくとしても私と上条さんの家計のエンゲル指数がどんどんと上がっていくことは問題だ。
うちは金髪アンテナ騎士王でも飼っているいるのかと……いやそんなことはない、なぜ私たちはこうなったか……。
まさか紫さんがあんなに食べるとは思わなかっただけに佐天さんは焦っているわけですよ。
一番困っているのは上条さんだろうけど、いつもインデックスの面倒を見てるんだし……。
「よし佐天さん、マネーカードを集めよう」
「マネーカードって?」
「あぁ!」
いや、そんな流れを作ってる場合ではないんですよ。
「いや、青ピと土御門……俺の友達から聞いたんだけど最近人気のない場所とか監視カメラの死角になる場所とかにばら撒かれてるらしいんだよ、現金が入ったカード」
「なんかきな臭いですねー、ていうかスキルアウトの縄張りに入って事件なんてこともあるでしょう」
「まぁあるんだけど……安くても2000円、高いと50000円なんていう大金も入ってるらしいぞ!」
「行きますか!」
これから紫さんに毎日をお腹いっぱいに過ごしてもらうためならその程度の労力はおしみませんとも。
私たちはこうして立ち上がった。
お互いの利害の一致……なのだが。
「涙子、勘違いしているようだから言っておくけど、今日はたまたまよ? いつもはあんなに食べないんだからね? 知ってるでしょうけど」
―――いや、もともと紫さんは結構食べますよねぇ?
と、思いながらも私は頷いて、考える。
「ちょっ、佐天さん! 同志じゃないのかよ!」
「まぁそうなんだけど、ちょっと引っかかるんですよねぇ」
とりあえず私はベッドに腰掛ける。
「マネーカード拾ったらあげますから」
「助かる! ……って俺、中学生に恵んでもらってるんじゃね?」
「まぁ私たちがインデックスのパートナーなわけですしね?」
そう言ってから私は、寝ているインデックスの頬を撫でた。
くすぐったそうにするインデックスを見ていると、自然と笑みが零れてくるのは、あの上条さんが必至で守ろうとしたこの子が今こうして幸せそうでいるからだ。
別に今の上条さんが嫌いなわけではない、優しいところや芯はまったく変わっていないからね。
とりあえずそうしていると、紫さんが突如ホットパンツから出てる私の足をつねった。
「痛い、なんでっ!?」
「別に」
フイッ、とよそをむいてしまった紫さんに私は本当にどうしたのだろうと思ってインデックスの頬から手を離そうとしたその時。
「あむっ!」
ガブリ―――と音がした。
「痛い痛い痛い!」
「大丈夫か佐天さん!」
「この顎強い! 顎が強い!」
インデックスに噛みつかれている手が抜けるのは、それから三分ほどしてからで、その時には私の手は涎まみれで歯型がガッツリついていた。
なんでここまで不幸なのか!
私はとりあえず、お手洗いを借りながらそう思った。
それから私は紫さんを上条さんの家に残して移動をする。
まぁ姫神さんと楽しそうにゲームやってたし良いでしょう、とりあえず私はいつも通りの動きやすい服装で軽く小走りをして病院へとやってきた。
早い話がお見舞いって奴ですよ、とりあえず目的の病室を聞いてそこへと向かう。
ノックをすると『どうぞ』という声が聞こえて、私は部屋へと入る
「お邪魔しまーす」
「佐天さんなのー」
中にいたのは春上さんで、それに枝先絆理ちゃんも一緒にいた。
ベッドで寝ている枝先さんと、椅子に座っている春上さん。
「どうも、昨日ぶり」
「うん、えっとさ、佐天さん?」
「それで良いよ」
遠慮がちに呼ぶ枝先さんに私は笑顔で答える。
「じゃあ佐天さん……ありがとう」
笑顔で行ってくれる枝先さんから、感謝しているという気概があふれ出てるのを感じた。
そういう笑顔や言葉を見たり聞いたりすると、私たちがしたことは無駄じゃなかったんだなって本当にうれしく思う。
幻想郷で異変を解決した後の宴会とは、また別の喜びを感じる。
なにかを達成するということの最大の喜びはここだ……誰かのためになって、誰かを助けることができるから、そのためなら私は自分の身すらおしむ必要はないって、そう思う。
「佐天さんかっこよかったの」
「私も見たかったなぁ」
「無能力者として頑張りましたよ佐天さんは、あの勇士に惚れても良いんですよー」
私はふざけながらそう言って胸を張る。
下手に謙遜してもあまり場が盛り上がるとも思えないししょうがないね。
そして私はそこで数十分話をしてから、病院を出た。
枝先さんと春上さんの元気な顔が見れれば佐天さんは満足ですよっと。
それから私は帰ろうと足を進めているとふと目に留まることがあった。
一人、女の子……って言ってもたぶん私より年上の高校生ぐらいの人が薄暗い路地裏へと歩いて行ったのが見えて、私はなんとなく着いて行くことにする。
気配を消しながら、私は青い制服を着た女の人を追いながら、そっと携帯で写真を撮った。
それから、すぐに初春に写真をつけてメールを送る。
間もなく帰ってきたメール。
『その制服は長点上機学園のものですね。ていうかなにやってんですか?』
そんなメールが返ってくるがとりあえず『なんとなく可愛い制服だと思ったから』とだけ答えておいた。
なるほど、名前ぐらいは聞くよね長点上機学園……学園都市でも五本の指に入る名門校で能力至上主義で
でもあの人には高位の能力者特有の空気を感じない気がする。
私がそのままその生徒をつけていると、路地裏につまれた酒瓶の下になにかを置いて、そのまま去っていく。
「なんだろ?」
私は軽く駆けて素早くそれを取る。
それは茶色い封筒で、その中身を見れば入っていたのは……。
「マネーカード?」
なるほど、上条さんの言っていたマネーカードっていうのはこれのことか、なら話は早い。
私はその人を追いかけることにした。
気配を消しながら、かと言って距離を空け過ぎず詰め過ぎず、とりあえず私なりに全力をもってしてその人を付けていくと、ついたのは廃ビル。
高位の能力者であればどうなるかわからないと、若干なりとも覚悟をしてその人をつけていく。
階段を上った先にいたのは青い髪の、さきほどの女の人だった。
「なるほど、ここが根城というわけですか」
私がそういうと、ゆったりと女の人は振り返り、私を視界に入れる。
年齢は上条さんよりも上の17か18歳くらいだとは思うけれど、幻想郷のことを思い出すとわけがわからなくなってくる。
とりあえず私は戦う気がないことをアピールして両手を一度上げて、すぐにポケットから先ほどのマネーカードを取り出す。
「これ、貴女が配っているものですよね?」
「……まさか着けられていたなんて思わなかったわ」
「巷で噂になっているみたいですよ……これ、どうしたんですか?」
私がそう言っても女性は答えない。
「なら質問を変えましょう、どうしてマネーカードを人通りの少ない場所や監視カメラの死角などに隠さなければならなかったのか?」
「学園都市の思い通りにならないよう、死角をなくす必要があった」
女性がぼそりとつぶやいた言葉を、私は完全に聞き取ることはできなかった。
なんだか疲れてそうなその表情を見ると木山先生を思い出すけれど、連想ゲームのようにアウレオルスを思い出して一概に信用することはできないという判断に落ち着く。
なにはともあれ……。
「とりあえず、詳しい話をお聞かせ願いますか?」
「それは無理よ」
「力づくというのは、わたくしの性分ではありません……」
礼儀を正してそういうけれど、女性はなにも答えない。
「それは無理ね」
「……能力者ですか?それでも私が貴女を倒すことぐらい」
「
―――なっ、なにそのチート能力ッ!
心の中で動揺して、心臓がバクバク動くけれど私はあくまでも外見で冷静さを保つ。
ここで油断を生むようでは目の前の相手には一瞬で殺されかねない、なら私はどうすれば良い?
「さぁ、始まりよ」
女性が部屋の電気を落とし、部屋を真っ暗にする。
こうなってしまっては仕方ないだろうと、私は眼帯を外す。
別に“鬼”を解放する必要はなく、これだけで眼帯に隠れていた方の眼は良く周囲が見える。
海賊が眼帯をつけている理由はこれだよね、暗い場所で良く見えるように……まぁそんなことはどうでも良いか。
「っ!?」
私の紅い片目を見たせいか、動揺した姿が見えた。
走ったのか私の目の前にいる女性の手は私の首を掴もうとしてた……だけどそうはいかない。
私はすぐにその手を首を横にして避けると、バクテンして背後に下がり内ポケットからナイフを一本出して構えた。
そして紅い眼にてようやくその種を理解する。
「なるほど、種は見破れましたよ」
私はナイフをくるくると回してから内ポケットにしまった。
諦めたような表情をした女性はゆっくりと歩いて電気をつける。
「まさか、見破られるとは思わなかったわ」
「あれですか、麻酔とかついてるんですか?」
「えぇ、麻酔針……好きにしなさい、なにが聞きたいの?」
そんな言葉に、私はいくつか候補を思い浮かべる。
「ともかく、目的はなんですか?」
「学園都市に死角をなくすこと……監視カメラや人の眼の死角を無くす」
「それによって得られる利益は?」
「……」
「突然だんまりですね」
「見逃してはくれないかしら?」
この状況でも冷静でいる目の前の女性に、私はどうしていいかわからないものの仕方がないとため息をつく。
とりあえずこの人を信用するに足る情報がない。
私はレミリア様みたいにがっつり未来が見えるわけでもないから……。
「私は佐天涙子です」
「布束砥信よ」
お互いが自己紹介してから、無言……。
話題の一つでも振ってくれればいいのにと思いながら、私は口を開く。
「見逃す件については私はただの一般人なのでどうこう言う立場でないのはわかってるんですけど……スキルアウトにそのせいで絡まれる人もいるんですよ?」
「わかったわ、貴女のような物好きがいないとも言えないものね、あと二日もしたらやめるわ」
「悠長な、そのあいだにスキルアウトの縄張りに入った一般人は」
まぁ確かに、全員が全員悪い人たちではないんだけども……。
「危ないものは危ないですよ」
「……
「冷静ですね、劣勢なのに」
「yes……貴女は私に危害を加える様子はないもの」
お見通しってわけかぁ、佐天さんも生憎か弱そうな女性を殴り倒せるほどじゃないんですよ。
「わかりました、降参するのはこっちになるとは」
両手を上げて参ったというポーズを見せてから、眼帯を付け直す。
特にそれから私が何かを話すわけでもなく、布束さんが何かを話すわけでもなく、私はその流れのまま建物を出た。
あまりに淡泊だけれど、あの人とはまた出会うことがある気がする。
しょうがないし、買い物でもして帰るかなぁ。
買い物をして帰ると、もう紫さんは帰ってきていてテレビを見ている。
私が『ただいま』と言うと紫さんは微笑みながら『おかえり』と返してくれた。
とりあえず食事を作ることにし、私はエプロンをつけて髪を束ねてからまな板を出す。
「ふふ~ん♪」
鼻唄を奏でながら料理をする私の横に、突然紫さんが現れた。
「どうしました?」
「いいえ、なんだかその姿も見慣れたわ」
クスクスと笑って言う紫さん。
そんな風に言われると、私も同じように笑ってしまうのは仕方ないと思うんだよね、最初来たときはあんな敵意のこもった眼で見られてたのに今じゃこんなに仲が良いんだもんね。
だからこそ、私はこの現状をとても嬉しく思えたし楽しく思える。
上条さんたちがいて、御坂さんたちがいて、紫さんがいて初春がいるこの学園都市……。
学園都市の裏側に触れた私だけれど……こんな平和な学園都市が、私は好き。
そんな学園都市を、きっとこれからも好きになって行くんだなって……。
◇◇◇◇◇
「―――次実験を開始します……準備はよろしいですか?」
「あァ、夜中にこんなのと二人だってのになァ、サービスの一つもねェのかァ?」
「言葉の意味を理解しかねます。お茶でも淹れましょうか? とミサ―――」
「あァ~めンどくせェ……冗談もきかねぇよなぁ心も無い人形じゃ……さっさとはじめようぜェ!」
「はい、
「能書き垂れてる暇があンならさっさとはじめようぜェ、俺が最強になるための計画をよォ! あはぎゃはッ!」
白髪の青年は笑い声を上げながら、その紅の瞳で対象を見据えた―――。
あとがき↓ ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。
はい、とうとう妹達編……なんですが、時系列的に次の巻に入るまでまだ日にちが余っている
このまま数日過ごさせるのはもったいないので、なんかいいネタとか無いでございますかなー(チラッ
とりあえずネタが思い浮かぶまで書けない状態でして(汗
何かあれば是非、ということで次回もお楽しみいただければまさに僥倖!
PS,ちゃんとその後は大丈夫でございますよ?