とある無力の幻想郷~紅魔館の佐天さん~   作:王・オブ・王

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49,平和な日々

 翌日、今年オープンしたということで人もにぎわうレジャー施設へとやってきた佐天たち。

 もちろん昨日話した『プール』がメインのため、更衣室から出てくる涙子と紫の二人。

 なぜ二人だけかというと、この施設に入っている店で水着を買ったからだ。

 

 紫と涙子の二人分、思ったより痛い出費だが目を輝かせてる隣の紫を見れば別に良いと思った。

 

 二人ともビキニだが涙子の方はというとパレオがついたものだ。

 周囲からの視線を感じるのはやはり紫がいるからだろうと考える涙子だが、彼女の鍛え鮮鋭されながらも女性らしさを帯びた体も十分注目の的となっている。

 まぁそれに気づかないのが涙子らしいのだが……紫自分は赤いビキニを不思議そうに見ていて、それに気づいた涙子がどうしたのかと思う。

 

「いやね、たしかに水着もプールも知識にはあったのだけれど自分が着たりするのは別で……おかしなとこないかしら? というよりトップスって言うのかしら、これ後ろリングだけってだいぶ露出度高いわね」

 

 自宅に居る時はいつもラフな格好じゃないかと思うが、水着はやはりそれよりも露出度が高いし沢山の人に見られるからか、少し恥ずかしそうだ。

 トップス正面の間、胸の間にあるリングに指を突っ込んで引っ張りたいというセクハラ力マックスの願望を押さえながら涙子は笑う。

 

「似合ってますし、紫さんはスタイル抜群なんですから自信もってくださいよ」

「そ、そうかしら……?」

 

 恥ずかしそうにしている紫の手を持つと、涙子はとりあえずいつものメンツと合流することにした。

 少し歩けばいつものメンバー+婚后光子たちは見つかるわけで、涙子は軽く手を上げて全員に笑顔を浮かべる。

 紫がとっさに手を振り払ったが涙子は気にしない。

 

「お待たせしましたー」

「良くってよ!それにしても八雲さんもお久しぶりですわね!」

「まぁ、あれから数日だけれど、今日はありがとう」

 

 婚后光子と紫が軽く挨拶を交わす。

 紫と初対面である泡浮万彬と湾内絹保の二人が軽く挨拶を交わして婚后光子が紫と隣に並ぶ。

 

「さ、さすが佐天さんのお友達ですわね!」

 

 紫のプロポーションに動揺する光子、そしてキョトンとする紫を驚愕した表情で見る涙子以外の面々。

 そしてそんな中、最初に口を開いたのは絹保だった。

 

「いいな」

 

 バッ、と絹保の方を見る面々。

 ともかく“やくもゆかりさんじゅうななさい”の凄まじいプロポーションに気後れしながらも涙子はパレオを外して流れるプールへと入ろうとしたが、美琴が驚いたような表情で涙子を見る。

 その眼になんらかの違和感を感じた涙子が体を両手で押さえた。

 

「さ、佐天さんは一体どんな生活を!?」

「え?」

「牛乳はやっぱり!?」

「ムサシノ牛乳ですよねー」

 

 初春と美琴と黒子が顔を合わせて『それかぁ!』と言っているが涙子にはわけがわからなかった。

 仕方がないので、三人を放って涙子は紫の浮き輪に掴まることにした……浮き輪をしている理由は楽だからとかそういうことではない、ただ金槌なのだ。

 まぁなにはともあれ、今は平和な日々が愛おしい。

 

「佐天さん、初春さんたちはどうしたの?」

 

 先ほどからあまり喋っていない春上衿衣がそう言うが、涙子は浮き輪にしがみついて流されながら言う。

 

「さぁー紫さんのプロポーションにあこがれたとか?」

「貴女も大概よね」

「へ?」

「なんでも……」

 

 紫が浮き輪にはまりながらそう言うので、涙子は不思議そうな表情で衿衣の方を見る。

 衿衣の方はと言うと、意味が分かったのか苦笑しながら涙子を見るのみ。

 わけがわからない涙子は流れるプールとは別の場所でボールで遊んでいる光子と美琴と初春を見て、ふと疑問を浮かべた。

 

「あれ、白井さんは?」

「ここでしてよ」

「いつの間に!?」

 

 気づけば近くを流れている黒子に驚く。

 真っ先に美琴の方に行くと思っていたからだ。

 

「あれ、どうしたんです?」

「私もたまには愛に生きるのではなく、友愛に生きたいと思うことがありましてよ」

 

 なんだか不気味に笑う白井黒子を白い目で見る涙子と紫の二人。

 

「な、なんですのその眼は?」

「い、良いと思うの」

「春上さんの白い眼も意外と効きますのよ?」

 

「まぁ、なにはともあれなんて水着着て来てんですか白井さん?」

 

 マイクロビキニと呼ばれる水着を着ている黒子に、涙子が問う。

 

「あら、佐天さんのような方こそ胸を張って着るべきでなくって?」

「嫌ですよ恥ずかしい」

「す、ストレートに来ますのね」

 

 さすがに胸に来たのか黒子がダメージを受けたような表情をする。

 

「お姉さまを悩殺、と思ったのですけれどお姉さまは佐天さんの胸ばかり」

「はぁ、私の胸なんか見るわけないでしょう、白井さんと違って御坂さんは普通の人ですし」

「ど、毒舌ね」

 

 なんだか最近は、涙子も黒子の扱いになれてきたのかこんな感じであった。

 そんな涙子にも普通についてきている黒子も黒子なのだが、それにしても涙子の体系は黒子や衿衣と同級生と言うにはかけ離れている。

 近くにいる紫のせいで見劣りはするが、正直数か月前までランドセルを背負っていたとは思えない。

 

「佐天さん、スライダー行きますわよ!」

「お、名指しですかー」

「では私たちも」

「行きますよ」

 

 光子の声に答えてそちらに行く涙子。

 そしてそんな光子と涙子に合流して行く万彬と絹保の二人。

 残されたのは流れる紫と衿衣と黒子の三人、そこで飾利と美琴の二人も合流する。

 

「もう仲良くなるなんて、さすが涙子ね」

「いやもう、ホントその一言」

「佐天さんったらすぐ女の子に手を出すんですから」

「その言い方は語弊を生むのー」

 

 だが、否定できないと五人揃って頷いた。

 

「だって八雲さんもだいぶ佐天さんに甘くなってますし、向ける視線も優しいですよね」

「なっ! そんなわけないわよ!」

 

 紫がそう言うが泳げないので浮き輪から出ることもなく文句を言うのみだ。

 いや、実際そうだと第三者の眼から見てわかるのだから紫の涙子への心の許し方は尋常じゃないのだろう。

 正直、紫も幻想郷の心配事さえなかったら当分涙子の家にいても良いと思えるぐらいなのだが……。

 

「さすが佐天さんよね」

「相手が社会人でも容赦なしに落としますからね」

「私はお姉さま一筋でしてよー!」

「鬱陶しい!」

「ふふふっ、プールなら電撃は―――へぶっ!」

「拳は使えるのよ!」

 

 プールに浮かぶ黒子を放って、紫たちは流れる。

 

「そういえば佐天さんはずっと片目を閉じているけど大丈夫なのかしら?」

「慣れっていうかあの子、集中すれば両目閉じててもなんとかなるわよ」

「なにそれすごい」

 

 さらっと言った紫の冗談だったのだが、美琴が疑問を持たずに信じてしまうあたり大概だなと思うのだった。

 その後も珍しく、涙子も年頃の少女らしくプールで遊び時間を過ごす。

 まぁ多少トラブルもあったが……。

 

「だから、やめろって言ってんでしょうが黒子ぉぉ!」

 

 鈍い音と共に飛んだ黒子が涙子のビキニをついつい剥ぎ取るような形になり地面に落ち、起き上がる。

 

「あ、あのですね佐天さんこれは……」

「きゃあぁぁぁっ!」

「おぶぅっ!?」

 

 初めて涙子の拳を腹に受けた黒子は、この攻撃を受けることもあるスキルアウトや犯罪者を若干だが、ほんの少しだが、同情した。

 それほどの威力の拳を受けた後、黒子が紫や初春に酷い扱いを受けたりもしたがそれも楽しい思い出である。

 ともかく、涙子は久しぶりにおもいっきりはしゃいで遊んで、気持ちのいい疲れに身を委ねていた。

 

 

 

 夕方、みんなと別れて紫と二人で歩く涙子。

 そんなとき突然、紫が涙子の腕を引いた。

 驚きながらも、涙子はとりあえず理由を聞くこととする。

 

「どうしました?」

「あのね、あの花火を見た場所に行かない?」

「ん、お任せあれ」

 

 紫と共に、涙子は家とは違う方向へと歩いていく。

 目的地は言うまでもなく、件の花火を見たあの高台である。

 この時間帯だと学園都市を飛ぶ飛行船が見やすいだろうと涙子は想像して、喜ぶ紫の顔を楽しみにした。

 

 

 そしてそこへと着くと、やはり紫は嬉しそうに飛行船を見る。

 自分たちの住む学区だけでも一望できる丘、見晴らしは最高に良いし涙子としても恋人なんてできたら来たい場所の一つ。

 ちなみに涙子の中での恋人は男をイメージしている。決して彼女ではない、彼氏である。

 そこらへんは涙子のために覚えておいてほしい。

 

「ねぇ涙子、今日はすごく楽しかったわ」

「そうですねー友達も増えたでしょ?」

「そうね、向こうじゃ友達らしい友達なんて少なかったから、ここじゃ新鮮よねー」

 

 幻想郷の賢者として君臨していた彼女と友達になろうなどという者は、そういないだろう。

 当然と言えば当然なのだからしかたがないのだが、理屈では割り切れないところが紫にもあるから、だからこそ彼女は純粋な友達というものをやけにうれしく思う。

 この世界では彼女の肩書など一部にしか意味をなさない。

 ただふつうでいられる。

 

「でも私は、幻想郷が大事なのよ」

 

 振り返って笑う紫に、若干ながらも見惚れる涙子。

 

「だから、もう帰らないと……」

「そんな突然ッ!?」

「突然ってことはないでしょう、境界を操るだけの力は戻ったわ……この世界と幻想郷と、その間にある結界もなんとかするだけの力がね」

 

 なにを言っているのか、涙子にはわからなかった。

 だけれど感覚的になんとなくだが言いたいことがわからないでもない。

 きっと、涙子もわかっている。

 

「ありがとう、楽しかったわ」

「私も楽しかったです」

 

 笑顔を向けてくる紫の背後に開く『スキマ』は、いつも見ていた色とわずかに違う気がするがそれがこちらと向こうを渡るときの何かの違いなのだろうと納得した。

 ともかくだ、涙子も笑顔で送り出さなければいけないと笑顔を浮かべる。

 そんな涙子の笑顔を見て紫は頷く。

 

「貴女の笑顔、好きよ」

「私も紫さんの笑顔は好きですよ」

「ま、また貴女はそうやって反撃するっ」

「反撃?」

 

 わけがわからないという涙子だが、紫は夕日のせいか僅かに赤くなった表情のままスキマへと入った。

 

「またね、涙子!」

「はい、また会いましょう紫さん」

 

 お互いが笑顔を浮かべたまま、スキマが閉じる。

 周囲に人々がいることなく、その場で一人でいて少しばかり……ではなくだいぶ寂しくなる涙子はどうしようかとベンチに座った。

 もう、家に帰っても誰もいないだろう。

 

 別れる時はもっと感動的になると思っていたから、少し呆気なかったなと涙子は苦笑する。

 

 ―――さ、もう少ししたら帰ろうかな。

 

 

 

 その後、もう少ししてから帰ることにした。

 涙子が自分の住んでるアパート型の寮の階段を上がっていくと、自分の部屋の前に誰かがいるのがわかる。

 いや、誰かというのも涙子の視力からしたらわかっているのだが、正直驚いていて半信半疑だからこそ誰かなのだ。

 そして近づくと、本当に思っていた人物がそこにはいた。

 

「姫神さん……?」

「ん、待ってた」

 

 そこにいたのは姫神秋沙。つい最近、涙子が紫や当麻、ステイルと協力して助けた少女だ。

 確かに紫からも『近々会いたいと言っていた』的な話は聞いたけれど、どうにも突然というか、涙子にとってはタイミングが良すぎた。

 正直、一人でいるのはさびしかったから良い。

 

「佐天さん、誰ですかその人?」

「ひぃっ!?」

 

 背後からの声にらしくない声を上げて秋沙の方まで下がる涙子。

 そこに立っていたのは重福省帆。

 そして丁度階段を駆け上ってきたのは姉御と呼ばれる女子高生だった。

 実は名前をもう知っている涙子だが、姉御と呼ばれるような女性なんて彼女ぐらいだろうから姉御としか呼ばない。

 

「なんだよ、久しぶりに会いに来たらまた女連れかよ!」

「どどど、どうしたんですか!」

「前に借りは返せって言っただろ、晩飯一緒しようと思ってな……まぁ二人きりのつもりだったけど」

「え、なんだって? もう一回!」

 

 巷で噂の難聴系主人公、とかではない。

 あえて聞いたのだが、姉御が顔を真っ赤にしてプルプル震えだしたのでそれ以降は聞くのをやめておくことにした。

 まぁ涙子としてもそんな嗜虐趣味はないというものである。

 だが問題としては言葉が聞こえておりながらも、姉御の真意までを理解できていないところだった。

 

「でも食材足りませんね」

「でも鍋の食材大量購入してきたから心配いらねぇよ」

「なんで真夏に鍋!?」

「タイムセールのチラシみて買ってきたからな」

 

 そういって笑う姉御。

 思ったよりも家庭的な一面を垣間見て若干見直しながらも涙子は、結構周囲のレベルが高いことに気づきながらドアを開けることにした。

 だが困った、秋沙の話を聞くことはできないだろうと思いながらも三人を引き連れて中へと入る。

 人当りが良いというか、人を引っ張っていく姉御がいるせいか秋沙の方もつつがなく自己紹介を終えたようだ。

 

 自称魔法少女は完全にネタだと思われているようだが、ある意味安心した。

 

 冷房をつけて、涙子は鍋を用意するとテーブルの上へと置く。

 お椀やらを用意してミニコンロの火をつけると出来上がるのを待つ。

 

「いやぁ、久しぶりの鍋だ!」

「楽しみです、姉御さんもありがとうございます」

「お肉楽しみ」

「良いってことよ!」

 

 姉御は笑って楽しそうに待つ。

 仲良さげな三人を見て笑みを浮かべる涙子を見て、三人も笑う。

 それに少し驚いて『どうした?』という表情を浮かべた涙子。

 

「いや、元気なさそうだったからさ」

「そうですね、やっぱり元気な佐天さんが私たちも好きです」

「うん、あまり出会ってから時間は経ってないけど、元気そうな姿が一番……」

 

 三者三様言葉は違えど、三人とも涙子を案じていたのは確かなようで、涙子は嬉しくなった。

 確かに紫が帰れたといううれしさもあったが、なによりも紫がいなくなった寂しさは大きい。

 だからこそ、こうして騒がしいのが嬉しかった。

 

「みんな、ありがとう!」

 

 今度は三者三様違う反応、というわけでもなく全員が涙子から顔を逸らす。

 

「えぇっ!? 私なんかしましたぁッ!?」

 

 そういうが、誰も反応をしてくれないので涙子はついついため息をついた。

 不幸、ではないのだがなんとも言えない感覚に陥りながら鍋を開いて中の様子を見る。

 しっかりとできているのを確認してそれぞれのお椀に入れたころには、三人も復活済みであった。

 

「さて、食べましょうか」

 

 四人で手を合わせて同じ言葉を口に出した。

 少なからず、涙子は現在不幸ではないだろう。

 向こうに行けば、また紫とも会える。

 

 それを楽しみにして、涙子は笑う。

 

 ―――平和な日々が、続きますように!

 

 

 




あとがき↓  ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。















いやはや、更新遅れて申し訳ありません!
小説家になろうの方にずいぶんと気を取られてしまって(汗
来月からはしっかりとこちらの方に全力込めて当たっていきます、妹達編にもなりますし
では、次回もお楽しみいただければまさに僥倖ォッ!

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