あれから家に帰ってすぐにダウンして、起きた時には時刻はすでに昼過ぎで、私は体を伸ばしてボロボロになった服を脱いで洗濯機に入れると、すぐにシャワーだけを浴びて体を清める。
タンスに入っているきっちりと畳まれた服に袖を通して軽く整えると、いつものジャケットを着て外へと出かけることにした。
冷蔵庫の中も最近補充してないせいでスッカラカンともなれば今は御飯を作るのもダルいし外食しかない。
そう思いながら歩いていると御坂さんと上条さんの二人がいるのに気付いた。
あれ、もしかしてあの上条さんって御坂さんと初対面かな?
私は軽く駆けて二人の元へと行く。
「どうも、御坂さんと上条さん」
「あっ佐天さん」
「え、佐天さん?」
上条さんが先に気づいて私に片腕を上げる。
それに合わせて私も片手をあげて答えて、上条さんの一声で私に気づいた御坂さんは少し怒ったような表情をしてから、私のことを手で呼ぶ。
仕方がないのでベンチに座っている二人に近づくと、御坂さんが立ち上がって私の頭を軽く小突く。
「あ痛!」
「もう、あんまり無茶しないでよ……」
心底心配したというのは、その雰囲気で伝わってきたので私もさすがにそこでふざけられるほど神経は図太くない。
「ごめん、御坂さん」
「はい、これでこの話はおしまい! なんでこいつと顔見知りなのかとか聞きたいことも山ほどあるけど、とりあえず佐天さんも飲めば?」
「ありが……ってなんですかこの量の缶ジュースは」
「聞いてくれよ佐天さん、自販機を蹴ってこれを出したんですよ彼女!」
うわぁ、なにやってんっすか御坂さん。妹さんに笑われますよ?
まぁなにはともあれ、私も一つもらうことにした。
とりあえずヤシの木サイダーが妥当、今日はわけわかんない味にチャレンジする気分じゃないんでね。
「お姉さまー!」
「げっ」
ついついそんな風に口に出してそっちを見ると、全力疾走してくるテレポーターが一人。
「自販機の警報を聞きつけて駆けつけてみればこんなところに―――」
立ち止まった白井さんが、突如顔を押さえて苦しみだす。
まぁ私にはなんとなくわかる気がした。ベンチに座る御坂さんと上条さんの前にたった今通りかかりましたっていう感じの私を見れば、この二人が先にいたことは明白。
ならば、おのずと白井さんの中にはいつぞや私が電話で言ったことが駆け巡っている。
うん、良いことした!
「そんなっ……! まさかっ……! ほんとに……! 殿方と逢瀬をぉぉぉ!」
「ちょっと待てぇぇぇッ!」
泣き出す白井さんにツッコむ御坂さん、やっぱこれを見ないと日常って感じしないなー。
なんて思っていると突如、白井さんが消えて上条さんの前に現れるとその手を握って笑みを浮かべる。
私はてっきり白井さんは男性アレルギーなのかと思っていたけどそうでもないらしい。
「はじめまして殿方、わたくしお姉さまの露払いである唯一無二のパートナー白井黒子と申しますの、お姉さまのお知り合いのようですので社交辞令としてご挨拶して差し上げますの」
「は、はぁ」
戸惑うよねそりゃ。
たぶん白井さんが現在上条さんを品定め中だろう、大体『パッとしない殿方ですわねぇ、こんなのがお姉さまと……?』とか思っているに違いない。
まぁ大ちゃんぐらいクレイジーになると上条さんの頭がもうないとみたね。
明らかに動揺している上条さんを見て、白井さんが笑う。
「あらあら、この程度でドキマギしているようでは浮気性の危険がありましてよー!」
白井さんが御坂さんにそういうと、御坂さんはおもしろいぐらい顔を真っ赤にする。
私は危険なにおいがしてきたのでとりあえず白井さんから一歩離れておく。
「あ、あんたはぁ……このヘンテコが、私の彼氏に見えんのかぁっ!」
御坂さんの電撃が白井さんへと落ちようとするけれどすぐに上条さんの手を放してテレポートした白井さん。
けれど白井さんは得意のテレポートで近くの街頭の上に立つ。
「ですわよねぇ、おかしいと思いましたの」
そう言って笑う白井さんに怒鳴る御坂さん。
その間、白井さんはというと何か考え込むような表情で御坂さんと上条さんを見ている。たぶんだけど御坂さんのことを考えて今回は引くつもりなんだろう、なんだかんだでそこまでイッちゃってる人じゃないしねぇ。
上条さんは人畜無害そうな感じしてるし、納得。
「ちょっと黒子聞いてんの!?」
騒ぐ御坂さんを優しい表情で見る白井さん。
「しかたありません、今日のところは失礼いたしますが、くれぐれも過ちを犯されませんよう、お姉さま?」
「な、なに言ってんのよぉ!」
瞬間、白井さんはテレポートでその場から消える。
「リアルでお姉さまなんて呼び方するんだな、さすが常盤台中学」
「あいつのは特別よ」
「確かに」
「え、そうなの?」
そう言って御坂さんと二人で頷く。
一拍おいて、御坂さんが穏やかな表情を浮かべると背中を伸ばす。
「あぁもう、ほんとなにしに来たんだか!」
「お姉さま?」
そんな声が聞こえると、御坂さんの様子が一転して変わる。
私も聞き覚えのあるそんな声に振り返って『お姉さま』と言った張本人を見た。
「またっ、て! あれ、ビリビリがもう一人?」
「外見のことでしたら、遺伝子レベルで同質なので当然です。と、ミサカは答えます」
「え、遺伝子?」
「姉妹みたいですよ」
「ソックリだな!」
上条さんのツッコミに同意せざるを得ない。
いや似てるまでは良いんだけどなにも髪型まで同じにしなくても良いじゃないとは思うよね、ほんと。
「先ほど同質の力を確認して見に来たのですが、現場には壊れた自販機。大量のジュースを持つあなたたち」
え、私も入ってる?
「まさかお姉さまが窃盗の片棒をかつぐとは、私は佐天に対しての認識を改めます」
「私!? いや犯人この二人だから!」
「上条さんを売るんですか佐天さん! っていうか主犯はお前のねえちゃん! 俺は傍観者だぞ!」
上条さんが言い訳をする。かつ丼食べますか?
「ミサカの能力で自販機表面を計測した結果、最も新しい指紋は貴方でしたが」
じゃあやっぱり私容疑者じゃないじゃないですか、やだー!
「嘘、そんなことまでわかんの!?」
「嘘です」
「嘘かよ?! お前の妹一体どういう教育受けてん……だ?」
御坂さんの様子が明らかに普通じゃない。
ゆっくり歩くと、御坂さんはミーちゃんの肩を掴む。
「あんた一体……ッ!」
そんな声に、私と上条さんが異変を感じて少しばかり驚く。
私たちに気づいてか、御坂さんは苦虫をかみつぶしたような表情のまま聞く。
「どうしてこんなところでブラブラしてんのよ?」
「研修中です」
瞬間、また御坂さんの雰囲気が変わる。
「研修って、
「
御坂さんがミーちゃんの腕を引く。
「しかし、御坂にも佐天のおごりで喫茶店に行くというスケジュールが」
「私もち!?」
「さすが佐天さんだぜ」
「なにが!?」
正直、上条さんがボケに回ると私のツッコミじゃスピードが追い付きませんので勘弁してください。
「良いから! ……来なさい」
御坂さんの低い声に、連れて行かれるミーちゃん。
なんだか口を挟んではいけない雰囲気だったので私もそれ以上関わるのをあきらめて上条さんの座るベンチに腰掛ける。
でも、御坂さんがあそこまで……。
「複雑なご家庭……なのかな?」
「どうでしょうね、すくなからず私たちレベルの複雑な状況も珍しいでしょうけど」
「あっはは……言えてる」
金銭的な意味で私と上条さんは同じく頭を抱えるのだった。
とりあえず上条さんとは別れて、私は昼御飯を食べに行こうと思ったのだけれど、さまよっている内にミーちゃんを思い出す。
どうせお昼ご飯を食べるならミーちゃんと一緒に喫茶店とかに行こうかなと思い、私は走って御坂さんが居た方向へと歩く。
少し歩くとミーちゃんは見つかり、近づいて肩を叩く。
「よっ、ミーちゃん!」
「……佐天ですか」
なんだか、落ち込んでる?
こうしてミーちゃんが感情剥き出しなんてこと、無かったように思えたけど、初めてみた。
「さ、行こうか!」
「?」
ミーちゃんが不思議そうな表情を浮かべるから、ついつい笑ってしまう。
「どこに行くのですか、とミサカは佐天に警戒しながら聞きます」
「えー、ていうか喫茶店だよ、私のおごりで行くんでしょ?」
「良いのですか?」
少しだけ、意外そうな表情をするミーちゃんに私は頷く。
さすがに落ち込んでる子を放っておけるほど私も薄情じゃないし、さてさて行こうか!
それにしても、なんだか思ったより疲れてないなぁ。
私はミーちゃんといつもの喫茶店に入った。
「また来たのかよ」
相変わらず可愛い制服を着た姉御さんが複雑そうな表情をしてるけど、まぁしょうがないね。
私とミーちゃんが席に座ると、見知った顔が少し離れた席に座っているのが見えた。
あれはたぶん、姉御さんの舎弟の人だね、うん。
とりあえず食べ物と飲み物を頼んでから、待ってみる。ミーちゃんがさびしそうな表情をしてるから、そこから先を待つ。
話してくれるのを、待つしかないけど……どうしたもんかなぁ。
「佐天」
「ん、どうしたの?」
「佐天の妄想を思い出しました」
「も、妄想って……」
本当のことなんだけどなぁ、シスター助けたのは事実だし……。
その事件に関しては魔術も関わってるし、詳しい話もできないから問題ありなんだけどねぇ。
「佐天は出会って間もない友人のために、本当に命をかけられますか? とミサカは一応聞いておきます」
「ん、それが友達で私を頼ってくれてるなら、私が必要なら……私は死にもの狂いで頑張るよ」
「……そう、ですか」
―――どうしたんだろう?
結局、ミーちゃんはなにがなんだか話すことなく、帰った。
私としても前よりミーちゃんが私相手に感情を出してくれるようになったのは良いんだけど、どうにもそれがマイナスすぎる。
私に対するマイナスじゃない、別のことに関してのマイナス感情。
そんなことがわかるにも関わらず、私がミーちゃんに関われないのはなにも知らないからだ。
ミーちゃんの家も知らなければ、御坂さんとの事情も知らない、そもそもなんで頭にサーモゴーグルをつけてるのかもわからない。
「はぁ、ダメだなぁ……私まで落ち込んできた!」
「どうしたんですの?」
「ぬおっ、ししし、白井さん!?」
あまりに驚いてキョドりまくってしまった私だけれども、すぐに冷静になる。
「どうなさいました?」
「私は見つけて声をかけただけですの、佐天さんどうしましたの?」
「いや、別になんてことないんですけど……あぁ、一つあることとすれば白井さんがなんであの時、上条さんを放っておいたのかななんて」
私がそういうと、白井さんから怒気のようなものがふつふつとわきあがるのを感じた。
あれ、これは地雷踏んじゃいました? 踏み抜いちゃいました?
「お姉さまだけでなく佐天さんもたぶらかそうなどと、あの類人猿許すまじ!」
「べ、別にそんな悪い人じゃないよー……なんて?」
そう言うと、御坂さんと上条さんを発見したときのように頭を押さえる白井さん。
私なんかしましたか?
「なんということですの、佐天さんはすでにあの類人猿に騙されてしまっているのですわっ!」
「ファ!?」
「人畜無害そうな顔をしていながらなんと卑劣な!
「暴れん坊ですか!」
「晴らせぬ恨み」
「仕事人!? らしいっちゃらしいけど!」
そういうと、白井さんが止まる。
突然の暴走の終了に私はなにがなんだかと困惑しながら白井さんを見た。
すると白井さんはなんだか笑っていて……。
「ええ、その方が佐天さんらしいですわね」
「は……あぁ、こりゃ一本取られましたね……」
白井さんの演技、正直マジすぎて焦りました。
「佐天さんには驚かされたりしてばかりですから、たまにはこうしてからかってみるのもおもしろいですの」
「ひどいですよ白井さん」
「でも落ち込んでる顔は、佐天さんには似合いませんから」
そっと微笑んでそういう白井さんを見れば、初春と親友である理由もなんとなく見えてくる。
そんな優しい友達に、私はどうやって仕返ししようと考えるもあまり出てこない。
出てくるってもくだらないことばかりでどうにも白井さんのド肝を抜くようなのは出てこなかった。
「まぁ、白井さんの良心はしっかり伝わりましたよ。それに白井さんも元気になったみたいで佐天さんは満足ですよ」
「なっ、気づいてましたの!?」
お、意外と効いた。
「ていうか気づかれてないと思いましたか、バレバレでしたよ白井さんが落ち込んでるのぐらい」
「うぅー白井黒子一生の不覚ですわ!」
一生って、気が早いなぁ。
「ハッ、そろそろ帰らなくては!」
「大変ですね、お嬢様は……死んでもゴメンです」
私は軽口をたたいてから踵を返して帰路へと足を進める。
そこでふと気づいて立ち止まり、私は体を横に向けて顔を白井さんの方へと向けた。
「ありがとうね、愛してるぞー黒子!」
瞬間、白井さんがポカンとした表情をする。
うん! 佐天さんとしてはその顔が見れただけで十分ですとも、ともかく今度ミーちゃんに会った時に色々と聞かないとだなぁ。
遠慮して事情を聞かないなんて私らしくないもんね、私らしく……ド派手に頭ツッコんでやろうじゃありませんか!
―――明日にでも、会えればいいけど。
あとがき↓ ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。
さてさて、今回はこんなんで一話使って次回は翌日になりどうなるか!
まったく終わるまでが長い、思ったより長い。本当に長いよこの作品、そして学芸都市の件どうしよう
まぁそんな先のプロット考えてないとこの話なんて放っておくのが一番でござる
では、次回もお楽しみいただければまさに僥倖!ついでに感想くれたらもっと僥倖!
・数日前
拙者「かまちーの作品がアニメ化?マジ?」
友人「そうだよ」
拙者「禁書三期!?」パァ
友人「ねーよwwww」
拙者「……」