とある無力の幻想郷~紅魔館の佐天さん~   作:王・オブ・王

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55,自分の意思

 翌日、私は朝からミーちゃんを探していたものの、昼を過ぎても見つかることは無かった。

 探してる時に見つからないってパターン、物欲センサー働いちゃってんのかなぁ。

 

 やっぱり見つからないし、朝から走ってることもあり疲れた。

 仕方がないので、遭遇率が高まるようにとミーちゃんと良く行く喫茶店に入り、カウンター席でアイスコーヒーを頼み、走ったせいで上がっている息を整える。

 私に『命をかけられますか?』と聞いた意味の真意はわからないけれど、私を頼ろうとしてくれた。

 

 ―――どうして私は昨日、それに気づかなかった……!

 

「あの、佐天さん?」

「え、あ……重福さん、どうしたんですか?」

「いえ、御坂美琴さんとここに入るのを数日前に見たので」

 

 それって間違いなくミーちゃんだよね、ていうか見てたなら話しかけてくれて良かったのに。

 

「ん、今度は一緒に来ようよ、誘うから」

「そ、そうですか……!」

 

 静かな声音だけれど嬉しそうにしている重福さん。

 ともかく私としても色々と考えてみるけれど、ミーちゃんと重福さんって合うかなぁ?

 

「そん時はあたいも一緒なんだよなぁ?」

「姉御さんも一緒に決まってるでしょ」

 

 そう答えるとカウンターを挟んで向かいにいる姉御さんも嬉しそうに笑う。

 そんな二人を見ているとこっちまで嬉しくなってくるってもんだよね。

 

 私もそろそろ浜面さんに遠慮せずに前みたいにミーちゃんの捜索でも頼もうかな?

 いや、もうちょっとしてからでも問題無いかな。

 私は運ばれてきたアイスコーヒーを一気飲み。

 

「ってことで私はこれで失礼! また今度連絡します!」

 

「あ、佐天さん……!」

「おい佐天!」

 

 二人の私と別れるのを惜しむ声を聞きながら私は店を出る。

 くぅ~私って愛されてる!

 

 まぁそんなことはともかくとして、と佐天は現状の目的を思い出しますって感じ!

 

 

 

 走って走って、そろそろ夕方と呼ぶにふさわしくない空模様になろうとした。

 私が聞き込みをしながら走っていると、一人の男の人を見つける。

 

「すみません、常盤台中学の制服を着た茶色の短髪の子、見かけませんでした!?」

「あ、あぁそれなら大きなギターケースを背負ってそこの路地裏に入って行ったよ、男の人と」

「あ、ありがとうございます!」

 

 ミーちゃんは世間知らずだからなにかの事件に巻き込まれているかもしれない!

 それでなくともなにかあるかもしんないのに、私がこんなとこでもたもたしているわけにもいかない。

 早く、早くしなきゃ!

 私は入り組んだ路地裏に足を踏み入れるのだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 路地裏を足音が響く。

 佐天涙子がミーちゃんと呼ぶミサカこと10031号は走りながら白い髪の少年にマシンガンを撃つがそれはすべて少年に当たる紙一重で方向を変える。

 なぜかはわからない、だが少年は笑いながらミサカを追いかけ歩く。

 

「反射?」

「普段はそう設定してあンだけどォ、それはオレの本質とはちょっと違ェンだよなァ」

 

 瞬間、少年が横にあったビンが入ったかごを蹴るとそのかごからビンがミサイルのように飛び出す。

 そしてそれがミサカへと迫った瞬間、彼女の体が勢いよく横に転がる。

 いや、正確には誰かに転がされたと言った方が正しいだろう。

 そしてそのミサカと共に転がった者はすぐにミサカを立たせる。

 

 ミサカは眼を見開いて驚愕を表情に表す。

 

「さ、てん?」

 

 その視線の先にいるのは黒い長髪の少女。

 

「はい、佐天さんですとも!」

 

 にこやかに笑うと、少女はすぐに表情を引き締めてミサカをかばうように前に立つ。

 状況はまったくわかっていないであろう涙子は、それでもミサカの前に立って当然のように拳を構える。

 少年が涙子とミサカの二人を見て立ち止まった。

 

「どうして、佐天……貴方は関係ないはずで―――」

「関係ないわけないでしょ! 友達が怪我をさせられそうになってて、今さっきの攻撃が当たってたら死んでたかもしれない、そんなことは私が許さない!」

 

「あァン、愉快で楽しィ青春は終わったンですかァ?」

 

 少年が後頭部を掻きながら聞く。

 

「見られちまったけど、こういう時は口封じが妥当だよなァ」

 

 そういう少年を見て、佐天涙子は舌打ちを打つ。

 ミサカの手にある銃を見れば前までどういう状況だったかわかる。

 だが少年は銃を持っている相手がいても、相手が二人になっても笑っていられる余裕があった。

 

 ―――能力者……? ならなんでミーちゃんと、いやそもそもミーちゃんが銃を持って撃っている時点でおかしい。なら目の前の人は一体、喧嘩になったとか因縁をつけられたとかいう理由じゃないのはわかる。じゃあ……計画されている? この人とミーちゃんが戦うことが?

 

「いくぜェ?」

「ッ!」

 

 涙子がジャケットの内側のナイフを投げる。

 少年の肩に当たると思った瞬間、そのナイフが一瞬で自分の方へと向き真っ直ぐと自身へと向かってくる。

 だがそれをなんとか避けるとミサカの手を取り走り出す。

 

「たく、なんなのあの能力!」

「反射、のようですとミサカは情報提供をします」

「ありがと、なら逃げるのが正解かなぁ」

「逃げるということは、できません」

 

 ―――なら、倒すしかないか!

 

 状況を理解しながらも、なんとしてもミサカを救い出すために涙子は足を止めてミサカの手から銃を奪い取る。

 驚いているミサカだったが、それに構っている余裕もないので涙子はすぐに銃を構えた。

 セーフティーはすでに解除済み、ならあとはトリガーを引くだけだと少年に銃口を合わせる。

 

「あァン、学習能力がねェ中坊だなァ」

「どうも!」

 

 涙子は銃口を少年の足元に向けるとトリガーを引く。

 銃弾が少年の足元にまき散らされ、目隠し程度の煙を上げる。

 

「逃げるよ!」

「そうはいかねェよなァ?」

 

 涙子が振り向いた瞬間、前から聞こえた声、すぐそちらに顔を向けると目の前に少年がいた。

 とても運動ができるようには見えない、テレポーターかなにかかとも思うが銃弾を反射する能力があるのにそれはない。

 多重能力(デュアルスキル)でもない、ならなんだろう?

 目の前の少年を見上げている涙子の顔のすぐそばに顔を寄せて、少年は笑う。

 

「くひっ、俺の能力がなンだかわかンねェって顔してンなァ」

「ッ!」

 

 涙子がすぐに拳を握りしめるも、それよりも早く少年が涙子の腹に手を当てる方が早い。

 瞬間、衝撃と共に後ろのミサカもろとも吹き飛び転がる涙子。

 痛みに耐えながら起き上ってミサカも立たせる。

 

「正解はァ、ベクトル操作……俺の触れたモノの運動量・熱量・光・電気量とか、そのベクトル(向き)を操作するってわけだ」

「んな、ズルじゃん」

 

 悪態をつく涙子。

 

「ズルゥ? はァッ! テメェ誰に向かってンなこと言ってンだァ……?」

 

 少年が徐々に近づいてくるも、涙子もミサカの手を取って痛みを無視して逃げる。

 

「この学園都市第一位のレベル5、一方通行(アクセラレータ)に言ってンじゃねェだろうなァ?」

「い、ちい……?」

「よろしくゥ、あはぎゃはっ!」

 

 角を曲がって一方通行の視界から外れたのを確認してさらに速度を上げる涙子。

 だがそんな時、涙子はふいに体の力が抜けるのを感じ、次の瞬間には倒れこんでいた。

 

 ―――な、にが?

 

 なにもおかしいことはない。

 二日前と先日の夜にかけてフレンダや麦野との戦いがあり、広い研究所内を走って挙句にレベル5との戦闘、緩和されているとはいえ十メートルを超える高さからの落下。

 その後も帰って休むが翌日には寝た時間を考えればまったく吊り合っていない睡眠、今日はミサカを探すために走り続けた。

 この状況で倒れてしまうのは、普通のことだった。

 

 全身の力が抜けたがすぐに戻り、涙子は立ち上がるが瞬間、強い電撃が体を奔り痺れに体の言うことが聞かなくなる。

 

「なっ……に、をっ……」

 

 電撃を打ったのはミサカであり、ミサカはそっとしゃがむと涙子を抱えて少し先へと走りそこでおろして、近くにあったブルーシートを寝かせた涙子の足元からかける。

 痺れで体が動けないものの、涙子は気力と根性でなんとか腕を動かしてミサカの服を掴む。

 首を左右に振って必至でアピールする。

 

「舌が動かないのは、ごめんなさいとミサカは素直に謝ります」

 

 素直でなかったミサカが、素直になった。

 

「命をかけて守るという言葉に嘘は無かった。それはとてもうれしいことですとミサカは表現しがたい気持ちに戸惑っています」

 

 ―――行くな! 行くな! 行かないで! ミーちゃんッ!!

 

 だがそれが言葉になることはない。痺れた舌がそれを許さない。

 一方通行の足音はまだ遠いが確実に近づいてきているのは確かだ。

 

「佐天、貴女と過ごす時間はミサカにとってかけがえのないものでした。もしこの単価18万円のタンパクと薬品だけの人形に心があるとすれば、それをくれたのは佐天です」

 

 ―――やだ、そんなことは聞きたくない! 聞いてないよ!

 

「だから最後に、ミサカはミサカの“心”に従って、巻き込んでしまった貴女を助けるために戦います」

 

 涙子が涙を浮かべながら首を左右に振ろうとするが、ミサカはそんな涙子の目元の涙を親指で拭い、手をそっとブルーシートの中に入れる。

 

「では佐天、さようなら」

 

 ブルーシートで佐天の体を完全に隠すと、ミサカは立ち上がって道を戻る。

 視界の先にいるのは一方通行で、ミサカは銃を拾うとそれを撃つ。

 すぐに反射してきた弾丸がミサカの頭を掠りサーモゴーグルを弾き飛ばすが倒れることなく一方通行を見据える。

 

「あァン、お友達は逃げたンですかァ!? 薄情だねェ、俺が慰めてやっても良いぜェ、あぎゃははっ!」

 

 笑う一方通行の言葉など届いていないという風に、ミサカはその表情を変えることなく銃を撃つ。

 だがそれが当たるわけもなく、弾丸はミサカの右肩を撃ち抜く。

 

「ッあぁ!」

「人形のくせに一丁前に自棄にでもなってンのかァ?」

 

 銃を撃つことができないことを悟り、ミサカは銃を投げるがそれもバラバラに砕かれておしまい。

 ミサカは走り出すと左足で一方通行を蹴ろうとするも、ぶつかった瞬間に足は曲がってはいけない方向に曲がる。

 うつぶせに倒れこむミサカ。

 

 近づいてくる死。

 一方通行が真後ろにいるのは理解している。

 

「さて問題です、人間の血を逆流させたらどうなるでしょうかァ?」

 

 答えは破裂、血が逆流すれば弁につまって内側から破裂する。

 血流が逆流するスピードにもよるが、死体は見れたものではないだろう。

 この死は予定されていた。

 

 ミサカという20000人の少女の中、10031号だけが、唯一、命令でも、使命でも、製造理由でもなんでも無く、ただ純粋に、彼女が自らの意思で向かっていく死だった。

 ここまでのミサカの中、唯一死を恐れ、唯一生を望んだ少女。

 

 自らの右肩の風穴に突き入れられる指。

 その痛覚は苦痛を伴い、彼女に最後の痛みを与える。

 

 そして最後にミサカは、笑みを浮かべ『ありがとう』と呟いた。

 

 

 

 その呟きは、9969人の少女たちの心にはしっかりと届いていた。

 




あとがき↓  ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。















はい来たァ!しゅーりょー(意味深)
次回どうなることか、どうなることか!
ともかく、佐天さんと一方通行のはじめての出会い、最悪ですな
まぁこれからどうなっていくか、どう妹達編で絡んでいくのか!

お楽しみいただければまさに僥倖!

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