とある無力の幻想郷~紅魔館の佐天さん~   作:王・オブ・王

60 / 63
59,勉強会

 退院した日の夜。

 彼女、佐天涙子の元に届いたメール。

 それを頭を押さえつつ読むとOKの返事をあっさりと御坂美琴と白井黒子に返す。

 

 返ってきた文面から嬉しさの伝わるメールに苦笑しつつも、少しばかり動かしにくい体を動かした。

 準備らしい準備はそれほどする必要はないだろう。

 

 翌日の勉強会(鍋パーティー)には支障はないだろう。

 とりあえず土鍋を持っている友達がいたはずだから連絡してもらおうと涙子は携帯端末にて連絡を入れる。

 本気で黒子の持っているようなインカム型の端末を買おうかと思って来た。

 

「見に行ってみるかな……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日―――つまりは勉強会(仮)が行われる日、佐天涙子は両足で歩く。

 回復力が異常と言われるが上条当麻ならそのぐらいやってみせるだろう。

 

 そして佐天涙子もまた同じく……。

 友達から受け取った土鍋の入った紙袋を片手に歩く涙子。

 土鍋まで求めているわけではないだろうけれど、どうせやるならしっかりとやりたい

 

 普通に歩いて数分だろうけれど、いつもより歩みが遅いのは仕方がないことだ。

 

 さんさんと降り注ぐ日光、額の汗を拭うと涙子は近くのファミレスへと入った。

 

 エアコンで調整された涼しい空気を浴びながら店に入ると、すでに他の客が案内されようとしている。

 少し混雑しているなと思いつつ案内されようとしている客と眼が合い、固まった。

 目の前の二人組も固まっている。

 

 ―――まさか、ここを戦場にはしないよね……?

 

 すると、金髪の少女と長身の女性の二人の内、金髪の少女が涙子を指差して大声を上げる。

 

「な、なぁんでぇっ!?」

「うっさいわねフレンダ!」

「いやまあ、気持ちはわかるけど……」

 

「お知り合いでしたらご一緒しますか?」

 

「いや、私たちは、いやいやその……ご迷惑に」

「しばらく待つことになりますが……」

「あー……」

 

 涙子が困ったようにチラッと女性の方を見る。

 金髪ことフレンダが『ムムム』と威嚇してくるが後頭部を掻きつつ麦野を見た。

 すると溜息をついて、フレンダの頭を掴む。

 

「ふぇ?」

「行くわよフレンダ……あとぉ、佐天?」

 

 ―――うわー。名前覚えられてるよぉ。

 

「あはは、ありがとうございますぅ」

 

 とりあえず、涙子は二人についていって席へと座る。

 なにがなんだか、フレンダには睨まれ女性の方にはただ見られていた。

 睨まれているように見えるが元々目つきが悪いだけだ。

 

「えっと」

 

 ピッと音が鳴って店員がやってくる。

 

「ドリンクバー三つ」

「かしこまりました。ドリンクバーあちらでお取りください」

 

 そのまま店員が去っていくと、涙子は話すタイミングを失ったことに気づく。

 どこから話しをしようかと悩んでいるとさらに彼女が口を開いた。

 フレンダの方を見つつだ。

 

「フレンダ、あたしはいつもの……佐天は?」

「え、それじゃ紅茶」

 

「え、私!?」

 

「良いから行って来いフレンダ」

「はい!」

 

 フレンダが飲み物を汲みに行くのを見て、涙子は苦笑する。

 とりあえず次こそ何かを言おうと思っていると先に話を始めるのは彼女の方だった。

 眼を細めて、ひじをテーブルに置いて顎をつく。

 

「あたしは麦野……麦野沈利、第四位だ」

「え、はい……第四位……ええー、第四位かぁ、御坂さん無しだったらマジで死んでた」

 

「あんま驚かないんだな」

「まぁ」

 

「お・ま・た・せ・ええ!」

 

 

 そう言って大声で飲み物三つを持ってきたフレンダ。

 笑う涙子と、苛立つような表情の彼女。

 

「うっせぇんだよフレンダ!」

「ひぅっ! お、おこらないでよ麦野ぉっ」

「まぁまぁ、ありがとうフレンダ」

「うん!」

 

 涙子のお礼に嬉しそうに頷くフレンダ。

 一体どういう環境でいたら飲み物持ってきてお礼を言ったらこんな嬉しそうな笑顔で頷くようになるのだろう。

 悲しい思いになりながらも、涙子は頷く。優しくしてあげようと、頷く。

 

「ってなに呼び捨てに……調子乗ってるってわけよ!」

「違うって……えっと、どこから」

「まったく、レベル5となんか知らない能力者相手に私良くやったよね麦野!」

 

 プンプン怒りながら腕を組みつつ涙子の隣に座るフレンダ。

 不機嫌そうな“麦野”が怖いのだろう。

 

「はぁ? こいつレベル0だぞ」

「あ、やっぱ知ってます?」

「……ええぇえぇっ!? レベル0!? け、結局どこの組織のもん!?」

 

 腕を構えるフレンダだが涙子は笑う。

 

「いえ、普通の中学生」

「嘘つけぇ!」

「いや嘘じゃなさそうだけど……てか話が進まねぇんだよ黙ってろフレンダッ!」

「ひぅぅっ!」

 

「もぉ、可哀想じゃないですかそんなにガン飛ばさないであげてください!」

「テメェも甘やかすんじゃねぇよっ……たく」

 

 舌打ちをする麦野、フレンダの方を見ると涙子に感涙していた。

 本当にかわいそうな人だと同情しつつ、持ってきてもらった紅茶を飲む。

 とりあえず言うことを、思い出せない。

 

「なんの話してましたっけ?」

「ああ、第四位って知って驚かないんだなって話だ」

「ていうかその怪我なんなわけ? 麦野相手にして生きてた奴の怪我じゃないと思うわけよ」

 

「あはは、先一昨日に第一位とドンパチやったもんで」

 

 そんな言葉に、唖然とする麦野とフレンダの二人。

 怒ったような麦野の表情しか見ていない涙子的には新鮮なものが見れたなと思う。

 だが、フレンダが先に言葉を発する。

 

「なんで生きてんの!?」

「いや、ほぼ死んでるようなもんですよ怪我を考えれば……それに私一人の力とは言えませんし」

「いやそれでもよ!」

 

「くっあっはははははっ……おもしれぇじゃねぇか佐天っ!」

 

「麦野さんのお気に召したようであればなによりですけど」

 

 楽しそうに笑う麦野、一応声を押さえているのは店に迷惑がかからないようにだろう。

 一方のフレンダは笑うわけでもなく唖然として涙子を指差していた。

 むかつくのでその手を払う。

 

「あーおもしれぇ、あれか、絶対能力進化計画(レベル6シフト)……だろ?」

「はい、それを止めるために……まぁ結果的にはオーライですけど」

 

「最高じゃねぇか、お前……あー気に入った」

「麦野が!?」

「お前はあたしをなんだと思ってんだ。ケータイ出せケータイ」

 

「良いですけどなんで?」

 

 出した携帯、麦野は涙子の隣のフレンダをどけてそこに座ると番号を登録。

 電話をかけてすぐに切ると、満足そうに頷く。

 なにが楽しいのかと思いつつ、涙子はボロボロの自分の身体を見る。

 

「なーんかおもしろいことあったら呼ばせてもらうにゃーん」

「……いやいやいや」

「いやって拒否権はねぇんだぞ涙子ぉ?」

 

「待って待って、フレンダがいるじゃないですか! 友達大事!」

「佐天っ!」

 

 なぜか感動しているフレンダ。

 

「フレンダだけじゃおもしろくないこともあるしなぁ」

「麦野ぉ」

「そういやフルネーム教えてなかったか……第四位原子崩し(メルトダウナー)の麦野沈利、登録しとけよ?」

 

「……まぁ、交友関係が増えるのは良いんですけど」

「交友って感じじゃないわけよ」

「それは確かに」

「新しいおもちゃゲットってなぁ」

 

 楽しそうなので変なことは言わない。

 触らぬ神に祟りなし。とりあえずフレンダと目を合わせるがなんだかさっきと違う。

 視線の種類が、違う……。

 

 ―――いや、仲間じゃないから。ああでも……。

 

「フレンダも交換しよっか」

「結局、佐天もこの私の魅力にメロメロになったってわけよ!」

 

「じゃあいいや」

「うそうそするするしよ!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 それから30分もしないうちに、涙子はファミレスを出て自宅へと向かうことにした。

 初春飾利が先に着いてしまったとの連絡も来ている。

 戻ると、飾利が扉の前で待っており、片手を上げると困ったように溜息をついた。

 

「佐天さん、怪我してるのに出歩かないでくださいよ!」

「悪いね初春、鍋パーティーと言われれば土鍋欲しいじゃん?」

「土鍋!?」

 

「ってことで、ここにある」

 

「本格的ですね……まぁ良いですけど、お持ちしますよ」

「玄関前だよ?」

「まぁそうですけど」

 

 とりあえず土鍋を渡して、涙子は鍵を開く。

 家に入ると暑いと思いつつ中に入り、エアコンをつける。

 冷気に息をつきつつ、床に座り込む涙子。

 

「あ゛ー疲れたー!」

「佐天さんは……でもま、私が準備しますか!」

「ありがと初春ーさすが私の嫁ー」

 

「嫁は佐天さんですよ」

「いや、そこはツッコミ入れてよ」

 

 とりあえず、今やるべきことは一通り終わったと思いたいところであるが……。

 やはり飾利だけにやらせるわけにもいかないともう一度立ち上がる。

 台所に行くと棚の上にあるカセットコンロを出した。

 

「あれ、佐天さん身長伸びました?」

「……そうかな?」

「そうですよ」

 

 あまり実感はないが、そうなのだろう。

 幻想郷で数ヶ月過ごしたりもあるのだ、それも当然、成長が止まるわけでもない。

 ここ最近の密度を考えると、幻想郷に暫く行っていないように感じる。

 

 久しぶりに主であるレミリア。

 先輩である咲夜や美鈴。

 友人であるフランや先生であるパチュリー。

 そして天使の小悪魔も気になる。

 

 紫も帰って永夜異変を終えた後どうしているか気になるし、あちらに行きたい気持ちもあった。

 

「んー」

「悩み事ですか?」

「まぁ、ちょっとね」

 

「佐天さんは全然相談してくれませんからね……正直、御坂さんもですけど抱え込んじゃうのは佐天さんも一緒じゃないですか」

「あはは、痛いとこつくなぁ……いやね、家にいつ帰ろうかなーって」

 

 嘘は言っていない。

 OK、セーフ、問題無い。

 

「……ああ、そういうことですか、いつでも良いんじゃないですか?」

「えー初春が寂しがってくれなくてかなしーぞーお姉さんはー!」

 

 そう言って抱き着くと、初春飾利が顔を赤くして涙子の顔を押す。

 対して本気で抱き着いているわけでもないのであっさりと押し返される涙子。

 だが本気でいつ行けるのかわからないと不安になる。この先ずっといけないかもしれないし、行けても数年後だったら?

 

 ―――ああもう、変なこと考えるのはやめやめ!

 

「そういえば春上さんは?」

「あ、よ、用事があるようでしばらくしたら来るって」

 

「そっか……じゃあとりあえず、準備準備!」

 

 

 

 それからしばらくして、美琴と黒子がやってきた。

 なぜだか黒子がボロボロだがそこを察することぐらいはできる。むしろあんまり聞きたくない。

 真っ黒の黒子と美琴を居間に案内すると、土鍋を出す。

 

「じゃーん!」

「おおー土鍋だぁ!」

 

 眼を輝かせて喜ぶ美琴。

 

「友達から借りて来ました! だしの用意もばっちりですよ!」

 

 そう言って涙子が昆布を出す。

 

「こんな真夏に鍋パーティーするのって私たちぐらいよね!」

「お姉さま、鍋パーティーではなくてあくまでも勉強会ですわよ?」

「あ、そっかそっか」

 

 呆れたようにそう言う黒子に、美琴は苦笑する。

 二人は“勉強会”で来ているのだから当然、そう言うことになった。

 勉強なんてするわけないが、そもそも勉強する必要が無いぐらい優秀な面々だ。

 

 初春飾利が先ほど涙子と洗い直した器を持ってくる。

 

「でも暑い時に暑いものを食べるのは体に良いですからね」

「みなさんどんな具材を持ってきたんですの?」

 

 その言葉と共に動き出す美琴。

 後ろのバックを漁って買って来たものを出す……が。

 

「えっと良くわかんなかったんだけど……お肉売り場の人がおすすめだっていうからとりあえず買って来た」

 

 とかなんとか言って取り出したのは木箱。

 涙子は少しだけ眼がくすむ、圧倒的な戦力差。絶対的壁、うらやましい。凄まじくうらやましい。

 これがレベルの差かとちょっと落ち込みそうになるも、その木箱を見て涎が出てくる。

 

「は、箱の中から牛肉がっ!」

「すっごい霜降りですぅ!」

 

「え、おかしかった?」

「いやぁ、初めて見たんで……はっ」

 

 とりあえず食べるのは後で、すぐに食べれるのだ。

 そう思いながら、とりあえず落ち着く。

 止まれ涎。

 

「初春はなに持ってきた?」

「わ、私は野菜を一杯買ってきました。夏野菜を中心に」

「ヘルシーな感じだね」

 

 涙子は場所提供、一応だし提供。

 美琴も野菜を買ってきていなかったので嬉しそうだ。

 うんうんと満足しつつ、涙子が黒子の方を見れば、謎のガッツポーズをしていた。

 

 ―――こわい。

 

「乙女は食事にも美を追い求めるもの! この分では私の用意した食材が脚光を浴びてしまいそうですの!」

 

「じゃあ出さないで良いです」

「佐天さん冷たぁっ!?」

「あと贖罪してください、色々」

「色々ってなんですのぉ!?」

 

 とりあえずいじったので満足する涙子。

 ちょっと楽しくなってきた。

 

「で、なんです?」

「ぐぬぬ……ま、まぁ良いですわ。オッホン!」

 

 咳払いをして、黒子が話を始める。

 

「最初は迷いましたわ、ペットショップで丸々太ったねずみを手にした時はどうなることかと……」

 

 ドン引きする面々、なにを買って来たのかと心配になっていく。

 まあ場合によっては入れなければ良いのだが、とりあえず答えを待つ。

 そしてその高そうな紙袋を持ち上げた。

 

「でもぉっ! その直後ひらめいたんですの! これぞお姉さまにふさわしい食材と!」

「あんた何買って来たのよ!」

「白井さん、闇鍋じゃないんですよ!」

 

「その食材とはァッ! てぃやっ!」ダンッ

 

「……すっぽん?」

 

 黒子以外の三人の声が一つになった。

 おかれたパックにはすっぽんの文字、そして甲羅と内蔵らしきものとその他もろもろ。

 まぁ確かに美容には間違いなく良いのだろう。

 ちなみに幻想郷でも食べたことはあった。

 

「プルップルのコラーゲンはお姉さまの瑞々しい肌をより美しく磨き上げるに違いありませんの!」

 

 まぁ調理の仕方もわかる。というよりそれをそのまま鍋に入れることができる。

 さばくことまで見てやった涙子にとってはどうということはない。のだが……まだ黒子はなにかをやっている。

 

「そしてこれッ!」

「な、なに?」

 

 用意されたのはグラスに入った赤い液体。

 

「すっぽんの生き血ですの!」

「い゛っ!?」

「りんごジュースで割って飲みやすくなっておりますのよ♪ さグイっと一息に!」

 

 相変わらず二人の空間を作っている。

 涙子はこんぶを鍋に入れて飾利へと話かけることにした。

 

「私飲んだことあるけどおいしいですよ。私の場合もジュースで割って」

「へぇ、こんな身近に食べたことある人いてびっくりです」

 

「これを飲めば精力ギンギン! いえ、元気一杯間違いなしですわ♪」

 

 声にならない声を上げて顔をしかめる美琴。

 涙子の肩を初春飾利が掴む。

 

「どうだったんですか?」

「ま、まぁそんなことも、あった気がぁ……」

「ぬっはぁっ!」

 

 顔を赤くしながらそう言う涙子を見て、倒れる初春飾利。

 少し不気味に思いながらも、涙子は初春飾利の方から眼を逸らした。

 ツインテールをにょろにょろ動かしつつ、黒子が美琴へと近づいていく。

 

「体がカッカして眠れなくなる可能性が無きにしも非ずですがっ、そんな時は私が添い寝および、あい」

 

 瞬間、涙子が黒子の頭を掴みグイっと回す。

 ゴキッと音がして黒子が倒れる。

 見事にすっぽんの血の入ったグラスは真っ直ぐテーブルに置かれた。

 

「さて、どんどん入れましょう♪」

 

「佐天さん最近白井さん相手に容赦ないですね」

「素敵だわ佐天さん!」

 

 

 

 そして、数十分後。

 沢山食べつつもまだまだ食材はある。間違いなく太るルートだが動けばどうということはない。

 そうしてるとインターホンが鳴る。

 春上衿衣が遅れて参戦。

 

「送れてごめんなのー」

「待ってたよー食べながら!」

「先生にちょっと相談があったの」

「食材沢山とっちゃいますよ!」

 

 飾利がどんどんと食材を器に入れていく。

 

「んー……春上さんは何か買ってきてくれた?」

「うどんを買って来たの」

「おお、しめにぴったりだね!」

 

 概ね全員の食材はバラバラになり、丁度良いといった具合だ。

 なにはともあれ“勉強会”は大成功と言えるだろう。

 怪我もこれで早く治ってくれれば言うことなんて何もない。

 

 

「さぁ、どんどん食材入れちゃいましょー! 食べるぞぉー!」

 

 

 問題はやはり……体重およびウエストである。

 

 

 




あとがき↓  ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。















投下完了!

やったね佐天さん、パイプが増えたよ!
忘れがちですので一応言うと……眼帯してるよ!
色々と考えてはあるんですが、とりあえずアニメ本編での話開始!
本編より上条さんが軽傷の代わりに佐天さん重傷

ってことでではまた次回お会いしましょう!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。