久しぶりにトラブルの予感をヒシヒシと感じていた。
日にちにすれば“あの事件”からそれほど経っていないが、ゆっくりできる日が間にあったということは確かで、今までのスケジュールからすればゆっくりできた方だろう。
ともかく、眠っていた少女をベンチに移動させて体を揺らしてすぐに起こすと、服などに汚れもないことを確認して“下劣”なことが起きたと可能性は低いことに安堵する。
そして、涙子はしっかりと少女を見てゴクリを息を飲んだ。
黒と白のゴシックロリータ。流れるような金髪。棒付きのキャンディを口にくわえている。
「……あざと」
「佐天さん! わかりますわ!」
「おいこら」
同意する黒子。美琴がジト目で二人を見るが初春も頷いた。
そして美琴を除いた三人が少女を見て深く頷く。
「萌え萌えですね」
「いやほんと、いたずらされなくて良かったですね」
「いやぁ、最近は歪んだ性癖をおもちの方も少なくはないですから」
「白井さん、ツッコミ待ちですか?」
三人だけで話がどんどん進んでいく……ダメな方向に。
美琴の額からバリバリと電気が出始めたのに気付いて涙子と初春がすばやく真面目な表情に戻ると、その二人を見てから黒子もハッとして少女の方をキリッとした表情で見た。
涙子はそっとしゃがんで
「私はね、涙子って言うの。あなたは? お名前言える?」
ニコっと笑顔を向けて言う。
すると少女はくわえていた飴の棒を手で掴んで口から離す。
「フェブリ」
「お~」
三人が歓声を上げる。
「フェブリちゃんか~。じゃあフェブリちゃん、なにか知ってることあったら教えてくれないかな?」
「みさかみこと?」
「へ?」
全員が素っ頓狂な声を上げる。
さすがの涙子もこれは予想外というか、その名前のせいで余計にきな臭くなってきたことを感じた。
よくわからない少女が唯一知っていたことが“
「あたし?」
「……じ、実は知り合いだったりしません?」
「なんで願望なんですの」
トラブルがゴメンだから、とは口が裂けても言えない。
「心当たりはないけど……」
「親戚とか従妹とか?」
「腹違いの妹がいらしたりは?」
「ないわよまったく」
黒子の言葉に苦笑する美琴の心情を察して涙子は苦笑を浮かべた。
「いやもう一杯一杯で」
「ちょ、佐天さん!」
「おっと」
ついつい口を滑らした涙子だが気にしている者もいない。
ホッとする美琴と涙子。そしてハッとする黒子。
「ハッ! ままままさかお姉さま自身の子供!? なんということですの私というものがありなが」
そこで美琴のチョップが炸裂する。わりと力強めで。
そのチョップを受けた黒子が痛そうにしているが、見ないふりをしておく。
「あたしが御坂美琴よ。どうして私のこと知ってるのかな?」
涙子を見習ってしゃがみ込んで目線を合わせて、聞く……のだが。
フェブリはベンチを降りると美琴から離れて涙子へとかけよりその後ろに移動。
隠れるように美琴を見る。
「むぅ~……」
挙句、睨まれる。
美琴の後ろで笑う黒子、初春が納得したようにうなずく。
「やっぱり子供にはわかっちゃうんでしょうかね。誰が安全で誰が危険かって」
「ええ……!」
ショックを受けた顔をしてから、美琴は笑う。
フフフと笑いつつ、ポケットから何かを取り出す。
「私にはこれがある!」
「指人形?」
「ジュースの景品ですわ。当たるのに何本飲むのに付き合わされたことか……」
「律儀に飲むんだから偉いですね二人共」
そんなことを言っていると、美琴は指人形の中にヘアピンを仕込む。
なるほど、と思っていると美琴は手の平をフェブリの顔の前に出して、その手の平に乗せたゲコ太を動かす。正確には中に仕込んだヘアピンを動かす。
起き上がったゲコ太がくるくると回転しつつ、起き上がった。
フェブリは目を輝かせてそれを見つめる
「あ~御坂さん、それやるとですね……」
なんとなく先の展開を理解するが……。
「やぁ、僕ゲコ太!」
「おぉ」
まるで声優のように声を変える美琴に感嘆の声を上げる涙子。
「僕、教えて欲しいことがあるん」
瞬間、バッと音がしそうな速度で手が出た。無論、フェブリのだ。
そして美琴が唖然としている間にフェブリはそのままゲコ太を持って離れていく。
「……ああぁ!!? 封入確率24分の1! 私のピンクゲコ太がぁぁ!!」
「もう、指人形の一つや二つではしたなく叫ばないでくださいませ」
溜息をつきつつ、黒子は
その場から消えて一瞬でフェブリを連れて戻ってくる。
不思議そうにするフェブリの前で美琴は笑みを浮かべた。
「こーらフェブリちゃん、勝手に持って行っちゃダメで」
またも美琴が言葉を言い終えるより先に動き出す。
そして向かう場所は……。
「あらら」
「すっかり安全地帯扱いですわね」
初春と黒子が笑う。
フェブリは涙子のズボンを掴みつつ足の裏に隠れた。
苦笑する涙子だが、美琴は愕然とするのみ。彼女を哀れに思いつつ、涙子はフェブリの方を見る。
「ねぇ、そのゲコ太のお人形は“美琴お姉さん”の」
「美琴って呼んだ!? ねぇ今!」
そしてまた、涙子の台詞も途中で間に挟まれる。
しかも件の本人である御坂美琴に、だ。
確かに名前呼びなんてしたことはないけれど状況を見ろ、とジト目で見ると美琴は気まずそうに視線を逸らした。
「お姉さままで誑しこむ気ですの!? ねぇ佐天さん!?」
「おい白井、黙ってて」
「ええ~」
涙子からの扱いの差に愕然とする黒子。
ともかく、涙子はフェブリの方を見て指人形を返してやれと言おうとした……。
そう、したのだが。
「うぅ~」
瞳をウルウルさせながら、涙子を見上げるフェブリ。
あまりの眩しさに顔をしかめつつ、美琴の方を見る。
「み、御坂さん……」
「ううっ……」
落ち込む美琴、そして黒子はため息をつく。
その後、美偉に『迷子・行方不明者』についての情報を黒子が求めて連絡をつけた。
確認後に折り返しの電話をすると言って十数分ほどしてから電話がかかってきた時には、すでにフェブリは涙子の背中で寝息を立てている。
そして美偉からの連絡でも『その情報も無ければアンチスキルも時間的に担当者とは連絡がつかない』という情報がもたらされたわけだが……。
状況が状況だと、涙子は頷く。
「じゃあ今日は私が預かりますよ。ほらもう寝ちゃってるし……弟たちの世話で子供の扱いは慣れてますから」
「弟たち、ですか? 佐天さんって二人姉弟じゃ」
「あ、ああ~、ほら弟の友達とかさ、ね!」
とてもじゃないが寺子屋の教師をやっていて子供の扱いは慣れてますとは言えない。
まぁフェブリほどの子供ではないのだが、やんちゃ坊主の相手をしていたから問題もないだろうとの考えだ。
携帯端末から美偉の声が聞こえる。
『それじゃあ申し訳ないんだけど、一晩だけお願いできる?』
「お任せあれ!」
と言ってから、一つ思いつく。
「あ、でもやっぱうち狭いし一人だと大変かもしれないなぁ……ってことで初春、協力してくんない?」
「あ、はい!」
笑みを浮かべる初春。
なぜ初春を誘ったから察して、美琴と黒子は優しげに笑みを浮かべた。
そして同時に、黒子は思う。
「これで八雲さんがまだいたらもれなく修羅場でしたわね!」
「え、ああ~……確かに」
二人は苦笑して肩をすくめた。
そして初春と涙子の二人が部屋へと入る。
一瞬だけ寂しそうな笑みを浮かべる初春を見つつ、涙子は苦笑を浮かべた。
初春がハッとしてから空いている二段ベッドの下段に布団をしくと涙子はフェブリを腰掛けさせる。その過程で目を覚ましたのか、フェブリがゆっくりと目を開いた。
目が合うと、涙子は笑みを浮かべる。
「おはよう」
「……ペロペロ」
「佐天さんを見て開幕ペロペロ!? この幼女!?」
「初春?」
「ハッ、す、すみません!」
「まったく……てかペロペロってこれ?」
そっと飴を出すと、フェブリが両手でその飴を持って口に入れた。
すぐさま笑顔になるフェブリを見て苦笑する涙子。
そうしていると、誰かのお腹が鳴る音がした。
「……ご飯食べる?」
「私じゃありませんよ佐天さん!」
「わかってるって、ほらフェブリ、御飯にしよっか」
「ん?」
良くわかっていないフェブリを見て首をかしげる涙子と初春。
そしてその直後、もう一度お腹が鳴る音がして、それは間違いなくフェブリであるとわかると、二人して笑みを浮かべた。
とりあえずフェブリをベッドからおろして“美琴お姉さんからもらった”ゲコ太人形で遊ばせておくと、涙子と初春が頷く。
「さて、やりますか!」
「佐天さんのお手並み拝見ですね!」
「ほう、本業にそれを言うとは」
「本業?」
「なんでもない」
口を滑らせたと思いつつ苦笑する涙子。
フェブリが飽きるまでに食事を作ろうと、涙子は頷く。
幸い食材もたんまりと買ってきたしなにを作るでも問題はないだろう。
「さて、達人技をご覧にいれましょうか!」
「おおー!」
だが少しばかり気になることがないわけでもない。
やはり未だに引っかかる部分は多い。
美琴の名前を知っていたことではない。美琴の名前しか知らないことだ。
つい最近、
学園都市の闇。それに呑まれ食われることの恐怖を、思い出す。
それは木山春生のことだったり
涙子は少しばかりそれらを思い出しつつ、素早く調理を済ましていく。
―――さて、どうしたもんかな。
あとがき↓ ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。
いやほんと、すみません
なんやかんや一年ぶりよね。いくない
かまちーが鬼のような速度で執筆する一方、アニメはやらない。おのれ魔術師
とりあえずもうちょっと早いペースで更新していかないきゃ終わるものも終わらんて
フェブリ編頑張るぞ~(根拠はないけど)
ともかくこれからも応援よろしくっす!