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短いです。
やっとガゼフです。
「おお、モモンガ様。実はこの村に馬に乗った戦士風のもの達が近づいているそうで」
村長がモモンガの元に走り寄ってきた。
「なるほど……」
待ちに待った知らせに感情を抑えながらモモンガは答えた。隣のXオルタはつい先ほど来た周囲のシモベからの連絡以来ずっと脱力したままだ。
「任せてください。村長殿の家に生き残りの村人を至急集めてください。村長殿はわたしとともに広場に。オルタさんは影で控えていてください」
戸惑うXオルタはあえて置いていく。彼女には村長との会談内容をまだ全ては聞かせきっていないため、確実にボロが出るとわかっている。また、今はこの世界の住人とあまり会話させたくない理由があった。
「ご安心を。今回だけは特別にただでお助けしますよ」
村長は腹をくくったのか、苦笑する。
一方、Xオルタはナザリックに戻ったらモモンガを問い詰める決意を固めつつ、ルプスレギナと共に村長の家の屋根の上から観察する事にした。
それほどの時を置かず、王国戦士団が現れた。武装の統一性の無さにモモンガは違和感を覚えたがまずは相手の出方を図る。
「私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ」
やはり、と言う思いがモモンガの胸に去来する。ストロガノフなんて美味しそうな名前の人間がいるわけがない。そのまま、言葉が続いていく。
「この近辺を荒らし回っている帝国の騎士達を討伐するために王のご命令を受け、村々を回っているものである」
背後で村人のざわめきが聞こえる。若干高い位置、おそらく屋根の上からの声も聞こえて来てモモンガは眉をしかめる。
「王国戦士長……」
「目の前にいる人物が本当にその……?」
村長のつぶやきにモモンガは問い掛けるが、予想通り明確な答えは帰ってこない。ガゼフの方は村長に向き直り、話を進める。
「この村の村長だな。横にいるのは一体誰なのか教えてもらいたい」
「それには及びません。はじめまして、王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウンのモモンガ。この村が騎士に襲われていたのを見て助けに来た魔法詠唱者です」
それに対するガゼフの行動は異常だったといえるだろう。
「この村を救っていただき、感謝の言葉もない」
王国戦士長という要職に就く、おそらくは特権階級の人物が怪しさの塊としか言いようのない不審人物に頭を下げ、敬意と謝意を示す。この行動は周囲で見ている人間にガゼフの人柄を雄弁に語ってのけた。
そのまま会話を続ける二人を見ながら、Xオルタは自身が二人に混ざれない理由を考える。
まず思いつくのは名前を勘違いしていたから
ありえなくはないだろうが理由としては弱い。その程度で会談の場から追い払われるだろうか?
他の理由を考えているうちに1人の騎兵が広場に乱入してくるのが見えた。騎兵は大声で緊急事態を告げた。
「戦士長!周囲に複数の人影。村を囲むような形で接近しつつあります!」
ついに来たという思いと同時に、兵士の口元を見てなぜ自分が混ざれないのか理解する。
口の動きが違う。それはつまりプレイヤー情報を持つもの、さらに読唇ができたり、日本語を知っていたらXオルタの口の動きからプレイヤ―だと気が付くかもしれない。モモンガにとっては口の形がほぼ動かないので問題にならないが、Xオルタなら大きな問題となってもおかしくない。
口を覆うなりできるのならまだしも、口を隠せる服装をしていない今はしゃべることは避けるべきだろう。Xオルタは不愉快な気持ちを押し殺し、納得した。モモンガに文句を言うことは変わらないだろうが。
そこまでの思考をめぐらして、モモンガを見ると家の影からガゼフとともに敵を観察して話し合っている。
Xオルタにも二種類の天使が確認できた。しかし、この場に限り、興味は二人の会話にあった。
「ああ、いや、変わった仮面だと思ってな。これであのモンスターを支配するとは……特別に優れた魔法のアイテム……と考えてもいいのかね?」
「そうですね。非常に希少価値の高いアイテムです。もはや決して手にすることが出来ない特別な、ね」
モモンガのあまりにも悲しい言葉にXオルタは一つの決意をした。
モモンガにこれ以上の嫉妬する者たちのマスクを手に入れさせない。確かに、もう二度と手に入らなくなっているかもしれないが、きっと、もらえる立場じゃなくしてやろう。それは固い、とても固い誓いとなった。
「了解しました。村人は必ず守りましょう。我ら、アインズ・ウール・ゴウンの名にかけて」
Xオルタの無駄な決意を他所に、モモンガはガゼフとかっこいいやり取りをしていた。
◇◆◇
ガゼフは馬を駆り、そのまま天使たちの包囲網に向かっていく。
「行くぞぉお!奴らの腸を食い散らかしてやれぇえ!」
「おおおおおおおおおお‼‼」
矢を放ち、防がれる。魔法によって馬から降ろされる。天使の群れが殺到する。
「――遅い」
周辺諸国最強とまで言われるガゼフにしてみればあまりに遅すぎる。次々と天使を切り裂き消滅させていく。
「……魔法っていうのは何でもありか、畜生が」
先ほど以上の天使が目前に集結している。魔法詠唱者もさらに増えている中、内心で罵倒を浴びせ掛け、人数の確認をすます。もはや村の周囲に包囲網はない。
「ではモモンガ殿。頼んだぞ……」
部下とともに突撃を仕掛ける。部下が戻り敵の手が割れる今、この瞬間こそが最大のチャンスだ。ガゼフは目の前の天使たちには目もくれず、指揮官に向け一直線に駆ける。
「邪魔だぁあああああ‼」
とびかかる天使たちに向けて、武技を放ち、先に進む。
<六光連斬>
6の斬撃が周囲の天使を切りつける。
<即応反射>
切りかかる天使をすり抜けるようにかわし、切り捨てる。
<流水加速>
流れるようなうごきで向かってきた天使を切り飛ばす。
繰り返す。倒しても、倒しても、再び召喚される天使たちに対し、幾度も大技を繰り出し切り捨てる。部下たちもすでに敗北を悟っている。
<六光連斬>で敵を蹴散らし、<即応反射>で体勢を立て直す。繰り返し武技を使い続けることによって剣を持つ手も震えている。
「かはぁっ!」
30を超える数の衝撃を受け、地を転がる。
「狩りも最終段階だ。獣を休ませるな。天使たちの手を止めさせずに交互に攻撃させろ」
一撃一殺が出来なくなってきた。部下も倒れ、自身の余力もない。魔法の衝撃波がガゼフを打ち据える。視界が大きく揺れ、地面が立ち上がったように感じた。
「とどめだ。ただし1体でやらせるな。数体で確実にとどめを刺せ」
死ぬ。
しかし、この結末を受け入れてはならない。
自分を罠にはめるためだけに無辜の民に手を出すような輩に殺されるのは許せない。
そして、助けられなかった自分たちにも我慢がならない。
雄たけびとともに立ち上がる。
「俺は王国戦士長!この国を愛し、守護する者!この国を汚す貴様らに負けるわけにいくかああああ‼」
村の事はモモンガがどうにかしてくれるだろう。今はここで敵を少しでも多く倒す。
ただ、それだけだ。
「……無駄な努力を。あまりにも愚か。私たちはお前を殺した後で、生き残っている村人を殺す。お前のしたことは少しの時間を稼ぎ、恐怖を感じる時間を長引かせただけに過ぎない」
冷ややかな声を投げかける敵の指揮官にモモンガの事を思い浮かべながらガゼフはかすかな笑い声とともに答える。
「くっ、くく……くく」
「……何が可笑しい」
「あの村には……俺より強い人がいるぞ。お前たち全員でも勝てるかどうかしれない……。そんな……はぁ……そんな人が守っている村人を殺すなぞ、不可能なこと……」
「……王国最強の戦士であるお前よりも?そんなはったりが通用すると思うのか?愚か極まりないな」
ガゼフは死を覚悟して薄ら笑いを浮かべながら思った。アインズ・ウール・ゴウンのモモンガ、そう名乗った男に出会い敵の指揮官がどのような顔をするか想像して。
――そろそろ交代だな。
ガゼフの視界が変わる。草原から土間を思わせる素朴な住居。
「ここは……」
「ここはモモンガ様が魔法で防御を張られた倉庫です」
「モモンガ殿の姿は見えないようだが……」
「いえ、先ほどまでここにいらっしゃったのですが、戦士長さまと入れ替わるように姿が掻き消えまして」
村長から事情を聴き起ったことを理解して体から力を抜く。もう問題ないだろう。そのまま意識を失った。
◇◆◇
一方、草原にはガゼフたちと入れ替わり二つの人影が立つ。その片方、魔力系魔法詠唱者の姿をした男が明らかに場違いな声を出し、それにフルプレートの鎧の女が答える。
「あれ、オルタさんは?」
「離れた場所におられたので転移の対象に含まれなかったのかと」
屋根から屋根へと移動しながら、ずっと戦いを眺めていたXオルタが突如視界に現れたモモンガを見つけてつぶやく。
「置いて、行かれた?」
一応ストロガノフ呼びのフラグはかすかに立てていたので許してください。
後、ストロガノフはたしかロシアの人名です。
モモンガさんは知らなさそうな知識です。
口元問題はえっちゃん(と作者)の邪推が入っています。
えっちゃんは置き去り属性?的なものがあると思う。
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