謎の至高Xオルタ   作:えっちゃんの羊羹

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12話です。
感想、誤字報告ありがとうございます。

指輪の話回収です。

うちのえっちゃんは知識こそあれど頭でっかちの残念美少女です。

微修正しました。


12話 希望と肉と血

 Xオルタの部屋は狭い。

 ナザリック第九階層スウィートルームにあるギルドメンバーの個室は本来家のほどの広さを持つ。それに対し、Xオルタの部屋は学生寮の一室といった形に改装してある。

 その結果生まれた大量のデッドスペースはナザリックの匠、タブラ・スマラグティナの協力により悪の組織の秘密倉庫と化していた。

 

 本棚がスライドして、裏にポッカリと開いた穴が現れる。

 内部にはXオルタが唯一手掛けたゴーレムとして「ヴォロイドK6-X4」、通称黒騎士くんがいる。戦闘能力こそ無いものの掃除、洗濯、コピー、翻訳、修理、メンテナンス、通信機能といった一家に一台欲しいタイプの便利な存在だ。

 

「やぁ、黒騎士くん」

 

 呼び掛ける言葉に意味はない。ピーという機械音が続くが、ただのゴーレムである以上、会話ができるようには作られていなかった。

 そのままXオルタは奥へと進み、大量に積まれた生物系のアイテムから、3つほど手に取る。どのアイテムも放置による劣化はないはずだが念のため確認する。

 

「ひゃうっ!」

 

 3つ目をチェックしている途中で微かな悲鳴が上がる。それだけ脇によけて残りの2つを袋に入れた。

 

 そのまま、雑多なアイテムが置かれている棚を覗く。装飾過多な鍵や、ハガキよりも小さい様々なサイズの紙片、オーパーツのような形状をしたものも多い。それらをいくつか纏めて別の袋に入れて、倉庫を後にする。

 本棚の裏から出てきたXオルタは2つの袋とブヨブヨとした歪な塊を持っていた。

 もう直ぐ約束の時間だ。丸2日以上放置していた机の上の袋と歪な塊を持ち替えてモモンガの自室、今は改装して執務室になっている、に向かった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「モモンガさん、入ってもいいですか?」

「どうぞ、準備はできてます」

 

 机を挟んで2つの席が向かい合っている。迷いなく奥の席に座るXオルタの行動にモモンガはある種の慣れを感じた。

 

「あれ、袋増えてません?」

「はい、こっちの2つはさっき用意しました」

 

 一瞬だけモモンガの頭に地雷が増えたというフレーズがよぎる。ため息をつきながら続ける。

 

「はぁ、まずは前回と同じやつから説明してください」

「了解です。これですが……」

 

 袋を逆さまにして中身を机にぶちまける。金属音が響くとともに10を超える同じ意匠の指輪が出てきた。

 

「シューティング・スター、14個です」

「うわぁ」

 

 呆れか、驚きか、納得か、それらが綯い交ぜになった感情でモモンガは声を漏らす。しかし、Xオルタはそのような感情には興味ないようで、そのまま話を続ける。

 

「全部で42回分。ギルメンの全員に使って余裕があるように集めました。どのように使うかはわかりませんが、役に立つはずです」

 

 対する言葉が思いつかないモモンガは頷くことで肯定を示す。

 

「でも、今はまだあっても意味がないというか、どう使うべきかわからないので宝物殿に預けておきたいと思います」

 

 そう言ってXオルタは机に散らばる指輪を袋に詰めなおし、脇に置く。

 

「残りの2つは何が入っているんですか?」

「えっと端的に言えば……メタアイテムかな。それとモモンガさん専用アイテムセット、です。まずはメタアイテムの方から出します、ね」

 

 今度は量が多いのかひっくり返したりせずに少しずつ並べていく。その中にはモモンガにも見覚えのあるアイテムがいくつかあった。

 

「これらは運営がシステム面で使おうとしたり、変なパッチ当ててできた、ユグドラシルの設定と噛み合ってないアイテムです」

「成る程、道理で見覚えがあるわけだ。これとかヴァルキュリアの失墜の時のやつですね」

「はい、バグ対策か何かだったと思います。こっちのは期間限定クエストに再挑戦するためのチケットで、これはコラボイベントのクエスト条件のアイテム、です」

 

 モモンガはオーパーツの様な何かを手に取り、Xオルタは紙片や鍵を示す。

 

「これらはユグドラシル本来の世界観から外れています。ユグドラシルの9つのワールド以外に行くアイテムもあります。そういうの使ったら異世界転移とか出来ないかなぁ、って思って取っておいたものです。これ、使ってリアルに行って仲間を説得して一緒にこっちにこれたりしたらいいなぁ、とか……」

 

 驚愕、そして呆れ。しかし、無理と否定はできない。だが、無茶とは言える。

 

「……運の要素大きすぎません?」

「……はい、おっしゃる通りでございます。でも、がんばれば……チャンスはあるかなぁ、とか……」

「取り敢えずこれは要検証ということで。下手に使ってしまったらどうしようもないですし、召喚したモンスターとかこの世界の協力者を用意して試してみましょう。下手にワールドエネミーとか出てきたらシャレにならないしナザリックで試すわけにもいかない」

「そうです、ね。ただ、1つの可能性として確保しておきたかったので……」

 

 無茶ではあるが確かに微かな可能性は示された。もう一度アインズ・ウール・ゴウンの仲間たちが集まれるチャンスに手が届くかもしれない。それはこれからの行動の活力となる。

 

「じゃあ、最後の俺専用っていうのは何ですか?オルタさんに何かもらうの怖いんですが……ノートの事もあったし……」

「ノートが問題なのは認めますが酷くないですか……。まあ、今回のは凄いです、よ。泣いて感謝するといい、です」

 

 自信満々にXオルタが取り出した袋の中身を見て、さすがのモモンガも堪えた。ブヨブヨとしたピンク色の塊。所々黒くて長い毛の塊が混ざっているのがさらに気持ち悪さを倍増させていた。

 

「うわぁ、本当に涙が出そうな見た目してますね。アンデッドは泣けませんが」

「ふぅー、よく見てください、ね。これです。凄いですよ、このバイオマスクを被るとモモンガさんの顔が人のものになります」

「……はぁ?」

 

 ブヨブヨを広げていく行動に理解が及ばないモモンガに、Xオルタが続ける。

 

「この生体マスク、伝説級で、その中でも下位なので、ゲーム的には大した効果を持っていません。しかし、ある特別な効果があります。例えば、ボイスチェンジャー効果を持っていたり、アイテム自身が食事効果を受けられたりします。さらに、このアイテムは装備していても相手のデータに出てこない、装備隠蔽効果を持っています。変化した見た目は隠せませんが、それは問題ない、と思います」

 

 モモンガはようやくXオルタの言う「凄さ」を理解する。

 

「つまり、これをつけると俺も食事できるってことですか?」

「かもしれないですけど、ね」

 

 僅かにトーンが下がるが、モモンガは食事に対する期待に胸が膨らんで行く。

 

「ちなみに、こっちのは腕から胴体用のバイオグローブです」

「成る程、人間に化けやすくなるってことですね。でも、何でいちいち名前変わるんですか、バイオとか生体とか?」

「正式名称がモモンガフェイスとモモンガハンドなんです。専用アイテムとして作るまでは生体とかバイオとか適当だったので」

「名前がひどい……でも凄いですね。ありがとうございます。明日の朝食、早速これを試してみますね」

 

 2つのアイテムを受け取り、モモンガは朗らかにアイテムボックスにしまい込む。

 

「私の準備しておいた物はこれで全部です。後はリアルのハウツー本とか各種専門書を図書館にない物を選んで自室に置いてありますがその程度です、ね」

「了解です。じゃあ、俺も少し相談したいことがあるのですが――」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 その夜、アルベドは愛に狂っていた。

 

「モモンガさまぁあ!」

 

 転移してからの3日で作った抱き枕を抱きしめながら叫び、そのままの体勢で寝返りを打つ。キングサイズを超えるような大型ベッドはどれほど転がり回っても落ちることはないだろう。しかし、そんな愛に溺れているアルベドにも悩みがある。

 

「あぁ、モモンガさまぁ……」

 

 モモンガともう1人の主人についてだ。

 Xオルタは自身にモモンガを愛することを認めた者の1人だ。タブラとXオルタが話し合い、モモンガを愛しても良いと設定してくれたはずだ。

 

「……なぜ、邪魔をなさるのでしょうか?……」

 

 しかし、今の彼女の行動は真逆に位置する。事ある毎にモモンガと2人で部屋にこもったり、出歩いたりして自身にチャンスが回ってこない。

 

 愛することを認め、愛する機会を与えてくれない。

 

 この感情を与えてくれて、自身の愛する相手を支え続けてくれたことには深く感謝している。他のモモンガを捨てていった40人よりも遥かに強く忠誠を誓っている。実際に今、至高の42人の中で優先順位をつけるならモモンガの次の第2位、己の造物主であるタブラ・スマラグティナよりも上位につけるだろう。

 これは愛と忠誠の板挟みということになるのだろうか。

 Xオルタは愛しい人を目の前で奪われていくアルベドを見ようとしてこのような感情を植え付けたのか? 嫉妬で自身の目が曇っていくことが自覚できる。何をするべきなのか? モモンガを愛し続けてもいいのか? アルベドにはわからない。

 しかし、アルベドの悩みは纏まる前に霧散することになる。

 

「アルベド様、Xオルタ様がいらっしゃいました」

 

 部屋の外からメイドの声が聞こえた。

 即座に了承の声をあげ、部屋を出る。自分より一回り小さい、しかし上に立つ少女の前で礼を尽くす。

 

「アルベドにこれを渡そうと思って」

 

 ブヨブヨとしたピンク色の塊が差し出される。

 

「これは……」

「名前はモモンガパンツ、どうするべきかはアルベドに任せる。モモンガさんの為のものだからしっかり、ね」

 

 愛しい人の名前を聞きアルベドの心に震えが走る。そのまま立ち去って行くXオルタが最後に一言呟いた。

 

「アルベドの気持ち、届くと、いいね」

 

 アルベドは最敬礼して自室に戻る。受け取ったものを広げて気がついた。中心部分にのみ穴が開きくの字状にになる。ちょうど核の中心、穴の反対側に突起があった。まるで剝ぎ取られた皮のようだがしっかり生きているのがわかった。これならばもしかしたら、モモンガとの愛を育めるかもしれない。

 

 アルベドがその確信を得たのは翌日モモンガが朝食を食べているのを目撃した時だった。

 




えっちゃんの野望の達成手段。
ザルすぎます。

アルベドのえっちゃんに対する感情。
ドロドロしてました。

ヒロインになれないならヒロインをプロデュースすればいい。

アルベドはやっぱヒドイン。

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