謎の至高Xオルタ   作:えっちゃんの羊羹

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20話です。

かなり遅れましたが少し長めになっています。

あと、最初の方を少しづつ読みやすくしようと手を加えていってます。


20話 感情

 決着は一瞬だった。

 モモンガが相手をする気力を完全になくしたため予定していた実地での戦闘の実験すらせずに<漆黒のオーラⅠ>でケリをつけたのだ。モモンガとしてはちゃんとした戦士の仲間が見ている前で侍ハムスターごときと激戦を繰り広げるようなことは恥ずかしかったというのもある。

 ハムスターが恐怖でひっくり返って命乞いをしているのを見て、モモンガはため息とともに口を開く。

 

「我々はアインズ・ウール・ゴウンという。お前はこれから我々に仕えることができるか?」

「あ、ありがとうでござるよ! 命を助けてくれたこの恩、絶対の忠誠でお返しするでござる!」

 

 見た目と噛み合わない口調にげんなりしつつモモンガは応じた。

 

「ああ、それと家族や部下がいるようなら連れてこい。面通しを済ませておきたい」

「それがしはずっと1人で生きてきたでござる。家族や部下はいないでござるよ」

 

 意外にも重い返答にモモンガは驚き、僅かに憐憫の目を向ける。期待外れな相手ではあるが慣れてくると可愛げも感じてくる。これもタブラ・スマラグティナの言っていたギャップ萌えの一種だろうかなどと考えながら呼びかけた。

 

「じゃあ、ハムスケは私たちの後ろからついてくるように。オルタさん戻りますよ……どうしました?」

「あ、えっと、帰りこれに乗りたいなって思って。歩くの面倒なので」

「なるほど、いいんじゃないですか。従えたって感じがしますから」

 

 そう言った後2人は森の賢王に向き直る。

 

「ところで殿、ハムスケとは誰でござるか?」

 

 最後まで気が抜けることを言うハムスターに今度はその場に居た4人がため息をついた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 空が赤くなり始めた頃、森から出てきた2人を見て待ち構えて居た面々が落ち着きなく話しかけて来る。

 

 

「無傷とは……良かった。無事だったんですね!」

「いや、エックスさんはどこです⁈」

「モモンさんよぉ。あんた後ろに何連れてんだ? 仲間を人質にでも取られたのか?」

「いや、違いますよ。おい、来るんだ」

 

 若干イラっときたモモンガはルクルットの言葉を流して森の賢王を呼び出す。

 背後の森から巨大なハムスターが現れ、その上に乗っているXオルタから声がかかる。

 

「あっ、もう着きました? ただいま、です」

「そうだな、エックスもそろそろ降りたほうがいいだろう。それでですね、これが森の賢王です。先程ねじ伏せて支配下におきました」

「まさに殿のおっしゃる通りでござる。この森の賢王ハムスケ、殿達につかえ、共に道を歩む所存。皆様にはご迷惑をおかけしたりはせぬでござるよ!」

 

 ハムスケこと森の賢王はモモンガたちに従っていることを宣言した。モモンガからして見れば適当な大型モンスターを捕まえて森の賢王と名乗らせていると思われるのが不安だったので周囲を見渡して表情を確かめる。

 

「……これが森の賢王! 凄い!」

「こうしているだけでも強大な力を感じるのである!」

「これだけの偉業を成し遂げるとは、こいつは参った」

 

 予想外に漆黒の剣のメンバーやンフィーレアからの反応は高く、モモンガは逆の意味で戸惑う。

 ジャンガリアンハムスターが大きくなっただけだろ。

 内心でそう呟いてから周囲に問いかける。

 

「……皆さんはこの魔獣の瞳を可愛らしいと思いませんか?」

 

 モモンガは周囲に並ぶ目がハムスケのものよりも丸くなったような錯覚に陥った。そこまで驚くことだろうか?

 

「モ、モモンさん! 貴方はこの魔獣の瞳が可愛らしいと言うのですか! ニニャはどう思う?」

「……深みある叡智を感じさせるものです。どう余裕の態度でも私には可愛らしいとは思えません」

「…………オ、エックスとナーベはどう思う?」

 

 最後に自分に近い価値観をしているだろう2人にモモンガは呆然としながら尋ねた。

 

「私は瞳よりモコモコしてるのがいい、です」

「強さは別として力を感じさせる瞳ですね」

 

 話がズレてないかと思い一度、森の賢王の瞳を覗き込み叡智などカケラも感じられないことを確認する。とりあえず美的感覚の違いについての問題を無視することにした。

 

「……とりあえずこいつは村の外に繋げておいて今は戻りましょう。いいですか?」

 

 モモンガが呼び掛けると漆黒の剣とンフィーレアは我に返り3人と1匹の前を歩いて村に戻っていった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 村に着き、彼らはそれぞれのチームが泊まる空き家に入る。モモンガ達もXオルタが下見をしていた家に居る。ナーベラルだけはモモンガの指示によって村に滞在しているルプスレギナの元に不可視化などを利用して訪れていた。

 

「おおっと、ナーちゃん。どうしたんすか? 何か用事でも?」

「ええ、モモンガ様から互いの情報を報告し合うようにとの事よ。それが済んだら世間話でもして寛いで来るようにとも言われたわ」

 

 そのままナーベラルはルプスレギナと向かい合うようにして座る。

 

「そうっすか。私の方は特に変わったことは無いっすよ。あ、いえ、1つあるっすね。今日、至高のお二方がこの村にお越しになられたっす。これ以上に重要なことは無いっすよ」

 

 ルプスレギナの言葉にナーベラルは完全に納得し、深く頷いた。

 

「その通りね。至高のお方々のこと以上に重要なことは無いものね」

「次はナーちゃんの番っすよ。お二方のそばに仕えているんすから色々あるっすよね」

 

 期待の色が濃くでているルプスレギナの言葉を聞いてナーベラルは自慢気に話し始める。

 

「そうね、ルプー今日あったことを話すだけでも一晩じゃもの足りないのだけれど……。かいつまんで話すわ」

 

 そう言うとナーベラルは今日のモモンガとXオルタの様子を盛りに盛って話し始めた。余計な美辞麗句が散りばめられ、大冒険活劇になってはいるがルプスレギナも特に気にした様子はない。

 

「とりあえずはこんなところかしら。言葉では言い表せないことが多すぎて残念だわ」

「おおー、羨ましいっす。私も見たかったっすね」

「あら、明日この村を出るときにモモンガ様が従えた魔獣については目にすることができると思うわよ。それにもしかしたらそれに騎乗なさるXオルタ様のお姿も拝見できるかもしれないわ」

「それは楽しみっすね。夜が明けるのが待ち遠しいっすよ」

 

 そのまま2人の話は他のプレアデス達のことに移っていく。

 

「そういえばユリ姉とエンちゃんが仕事が少ないみたいでナーちゃんのこと羨ましがっていたっすよ」

「あら、そう。なら、シズはどうなのかしら? あの子もナザリックから出てないけれど……」

「シズちゃんはるし☆ふぁー様のお造りになったトラップの調査でナザリック中を飛び回ってるっすからね。多分ナーちゃんの次に忙しいっすよ」

「そうなの、あの子も重要な仕事を任されているのね。後は……」

「ソーちゃんについては外の任務っすからね。私達には細かいことはわからないっす」

 

 お互いの近況を話し合い、満喫したところで既に夜半を過ぎていることに気がついたナーベラルが席を立った。

 

「私はそろそろお二方のそばに戻るわ。ルプーはどうするの?」

「私はこのままアルベド様に報告しとくっす。ナーちゃんの分も伝えておくっすね」

「じゃあ、頼んだわよ、ルプー」

 

 ナーベラルがいなくなった部屋でルプスレギナはメッセージを送る。

 

『ルプスレギナ・ベータ、何かしら?』

「モモンガ様とXオルタ様が私に任された村にお越しになられたので報告っす」

 

 ルプスレギナにはメッセージの向こう側でアルベドが姿勢を正したのがはっきりとわかった。

 

『詳しく説明しなさい。詳しく、ね』

「了解っす。まず、お二方は冒険者としての仕事でここに来たっす。そのままアウラ様に誘導させた魔獣を従えるために森に入ったっす」

『そう、それで森の中で何が起こったか、貴方は知っているのかしら?』

 

 アルベドの食いつきがいいことにルプスレギナは満足してさらに続ける。

 

「もちろん、ナーちゃんにしっかり聞いておいたっすからね。森でその魔獣にと相対したモモンガ様がその魔獣を一瞬にして従えたらしいっす。あまりの早業にナーちゃんは立ち尽くすしかなかったって言ってたっす」

『流石はモモンガ様ね。でも実際にどんなことをなさったのかしら? 見てみたかったわ』

 

 賛同の意を示しながらルプスレギナは続ける。

 

「その後Xオルタ様がその魔獣に乗って森から戻ってこられたそうっす。先導するモモンガ様と魔獣に乗ったXオルタ様のお姿はまるで一枚の絵の様に素晴らしかったそうっすよ」

『……は? なんて?』

 

 アルベドの声が1オクターブ下がった。ルプスレギナは若干怯みながら捲し立てる。

 

「え、えっともう一度言うっすね。モモンガ様が騎乗するXオルタ様の先導をなさってその時のお二方のお姿は素晴らしかったってナーちゃんが言ってたっす! あ、後Xオルタ様は明日村から出るときにもその魔獣に乗るかもしれないらしいっす!」

『…………』

 

 急に黙り込んだアルベドにルプスレギナは戸惑い呼び掛ける。

 

「あ、あの、アルベド様? どうしたっすか?」

『……まさか、そういうことなの?モモンガ様がXオルタ様の為にわざわざ魔獣を捕まえて贈り物にしたということ……つまり、Xオルタ様がモモンガ様を狙っていたのではなくて……逆ということ? そ、そんなぁ……』

「あれ? 切れちゃったっす。まあ、いうこと伝えたしもういいっすよね』

 

 ルプスレギナは自分に言い聞かせる様に独り呟いた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「モモンガさん、この家って私が村に隠れてモモンガさんの合図を待っている最中に死んだ人の家なんですって」

「え?」

 

 唐突なXオルタの言葉にモモンガは不意を打たれ声を上げた。

 

「いきなりなんですか?」

「いや、私はここに住んでいた人間を見捨てたってことです。その時はなんとも思わなかったくせに今更申し訳ないと思ってしまっている」

 

 自嘲気味に答えたXオルタの言葉にモモンガはなだめるように応じた。

 

「仕方ないと思いますよ。だって俺たち異形じゃないですか。確かに元人間だからそういうことを気にしちゃいますが……、それでも気になるならこれから気をつけてればいいんですよ」

 

 一息ついてからモモンガはさらに続けた。

 

「だって俺たち異形になって1ヶ月経ってないんですよ。言ってみれば異形種0歳です。問題くらい起きます。大事なのはこれから、その事を忘れないようにしてギルメンの皆に胸を張れるように頑張ればいいんです」

「そういうもの、ですか?」

「そういうものです。……それに、人が死ぬことに関しては私も注意しないと仲間に怒られそうですしね」

 

 2人で小さな笑いを漏らし安心したような雰囲気で寛ぎはじめた。

 落ち着いてきた様子のXオルタがアイテムボックスからあん饅を取り出し半分に割る。

 

「なんか暗いところでひそひそ話して修学旅行みたい、ですね。どうぞ、あん饅です」

「お、ありがとうございます。……これ回復効果付いてないですよね?」

「ないですよぅ。ただのあん饅です」

「良かった。オルタさんの∞シリーズは回復ついてて食えなかったので……。それにしても修学旅行、ですか。だとするとナーベラルが巡回してくる先生、ですか?」

「おお、怖いです。ナーベ先生に見つからないようにお菓子を食べきらないと」

 

 2人で本来冒険者としてもう1人いる筈の相手の話をすると、噂をすれば影と言うべきか家の外に気配がした。

 

「ナーベ先生の襲来ですよ。モモンガさんはあん饅食べきれますか?」

「バレちゃまずいんですか⁉︎ ちょっと奥で食べてくるので時間稼いでください」

 

 そのままモモンガが席を立ち玄関から見えない位置に隠れたらXオルタがナーベラルを迎え入れた。

 

「どうだった? ルプスレギナと色々話せた?」

「はい、村の事や他の姉妹のことを聞くことができました」

「へぇ、じゃあプレアデス達の様子とか私にも教えて、ね」

「はい、畏まりました」

 

 モモンガは食べ終えたのか少し急いで戻って会話に加わる。こうして眠らない異形達の夜はあけていった。

 




アルベドの勘違いが加速する。

そろそろ二巻も後半ですね。

オリ展開が徐々に多くなるのとかでペースが少し落ちています。すいません。

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