感想指摘ありがとうございます。
書いていると変なところが重くなる。
前回と比べてシリアス気味のはず
バレアレ薬品店でハムスケを担いだモモンガを出迎えたのは見覚えのない呆然とした老婆だった。
「……いやはや森の賢王を従えたとは聞いたがまさか背負って来るとは思いもよらんかったわい……」
モモンガは自身の状況を客観的に説明されたことで一気に流れていない筈の血の気が引いた。羞恥心などでは表せない感情だ。すぐに精神安定化が働くが僅かに遅かった。先に冷静さを取り戻し口を開いたのは老婆の方だった
「う、うむ。まずは自己紹介からじゃな。わしはリィジー・バレアレと言うんだがお主はモモンさんじゃの。お主の仲間も中にいるので寛いでいってくれんかね?」
極めて友好的なリィジーの様子にモモンガは自身の失敗を感じた。Xオルタは捕まったわけではない、むしろ手柄を立てた側のようだ。
「……その前に1つ、騒ぎになっていたようですが具体的に何が起きていたのか説明していただいてもよろしいでしょうか?」
「ふむ、そうじゃな。実はわしらの店に入った強盗をお主の仲間が取り押さえてくれたのじゃよ。それが街中で騒ぎになっておってな」
リィジーは奥へ案内しながらにこやかにモモンガに大まかな説明をする。
「わしはちょうど家を出ていての、騒ぎを聞いて戻って来たんで詳しい話は」
奥へ入るとXオルタと漆黒の剣が待っていた。こちらに気がついたXオルタが手を振って来るがコップは口から離れない。
「ああ、モモンさん登録お疲れ様です。強盗の件はもうご存知のようですね。では、私達は討伐報酬の申請をしておくのでモモンさんは明日の朝に組合で受け取ってください」
ペテルがそう言って漆黒の剣のメンバーがモモンガと入れ違いになる形で部屋を出て行った。残ったモモンガ達にンフィーレアが声をかける。
「今回は本当にありがとうございました。カルネ村でのことも戻って来てからのことも皆さんがいなかったら大変なことになっていました」
そういいながら追加報酬を渡すと同時にもう1つのアイテムをモモンガに手渡した。赤いポーションだ。
「これ、お返しします。おばあちゃんとも相談したんですけど僕たちが持っているべきじゃないだろうって思うんです」
「……わしは惜しいと思うんじゃがな。まあ、仕方なかろう」
清々しい顔をしたンフィーレアと苦笑いしながら言ったリィジーの顔を見て最も戸惑ったのはモモンガだ。このポーションは現地の有能なエンジニアとしてこの2人を引き入れるための餌だったのにここで返されてはコネクションが一気に貧弱になってしまう。
当たり前のことだがビジネスの世界では恩義だの感情のみで繋がったコネクションより契約書や物の取引を通して繋がったコネクションの方が強固だ。ここでポーションを返却されることは契約を一旦白紙にすることになりそうなると3日間しかない薄い関係になってしまう。さらに悪いことにモモンガからバレアレ薬品店に接触する理由がなくなるのだ。
焦った声でモモンガは言った。
「ま、待ってください。そのポーションはもうあなた方のものでしょう。それに相応に高価な筈です。こんなついでみたいな形で渡されても困ります」
「ついでなんかじゃないですよ」
「そうじゃの。おぬしの仲間が居なければ孫の命は無かったじゃろう。この子の命の値段と考えればずっと安いわい」
モモンガはこの流れで
「いいえ、結構です。返されても困ります」
などと言えるほど無神経では無かった。代案を考えようと気分を落ち着けて周囲に目をやる。
Xオルタがナーベラルに水の味だとかミネラルについて説教をしていた。あまりの能天気さにイラつくがナーベラルが交渉の場から離れてXオルタの話に集中している事が重要なので一応感謝しておこうと思った。とりあえず黙っているのもまずいので受け取る。
「……そういうことなら仕方ないですね。ひとまずこれは受け取りましょう……」
そう言ってモモンガは席に着きンフィーレアが注いできた果実水に口をつけてから尋ねた。
「ところで何があったのかについてンフィーレアさんから伺ってもよろしいでしょうか?」
Xオルタとンフィーレアの間で視線を行き来させながら肩をすくめて言った。これは抜けてそうなXオルタから聞くよりはンフィーレアから聞いた方が正確な話を聞けるだろうから、というのを示すジェスチャーだ。
実際にモモンガが真面目な話をしている間中、Xオルタがペロロンチーノの香水などと言った間抜けそうな演説をナーベラルにしていた事がそのジェスチャーの説得力に拍車をかけていた。
納得してくれたらしいンフィーレアが話し始めた。
「薬草の庫入れを手伝ってもらった後母屋に向かった時に起きたんです。そこに怪しい女が待ち構えていて襲いかかろうとしたのでエックスさんが一瞬でやっつけたんです」
「待ち構えていたのですか? 空き巣を見つけたとかではなく?」
バレアレ薬品店がエ・ランテルでは特に繁盛していることはこの短い期間でもわかったしちょうどリィジーもいなかったということで空き巣が入っていたのならわかる。しかし、待ち構えていたという事は事件に計画性があったという事を示す。
「それについてはペテルさんもおっしゃっていたのですがどうも狙いが僕だったかもしれないとのことです。詳細は尋問が済んだら詰め所から連絡が来るそうです」
「かなり遅くなりそうじゃがな。相手はオリハルコン級すら手に掛けた冒険者殺しじゃ。余罪が多すぎて尋問も一朝一夕にはいかんじゃろう」
2人の顔からは命が助かった事と街から凶悪な犯罪者がいなくなった事に対する安心感が見て取れる。しかし、モモンガとしてはそんな楽観的な考え方はできなかった。
「……それはまずいですね」
「どういうことじゃ?」
「相手がその1人だけとは思えないって事です。ンフィーレアさんを狙った目的はわかりませんが既に個人でできることの範囲を超えています。だとすると襲撃者は何らかの組織の構成員の可能性が高く、もう一度ンフィーレアさんを狙うかもしれない」
「ンフィーレアを狙った理由がわからんことには何とも言えんが……確かに厄介じゃな」
わからないといってもリィジーには理由に思い当たる節があるようだが、ンフィーレアには自覚がないようで戸惑った様子だ。リィジーはンフィーレアに狙われる理由を悟られないようにぼかしながら前のめりになって話を急かす。その孫を守ろうとする様子がモモンガには自分のために死んだ母の姿とかすかに重なる。モモンガの場合は母と子で彼らは祖母と孫、しかも活発なリィジーとモモンガの母は全然違うタイプの女性だというのに。
守られている自覚があまりないンフィーレアにただ頼ることしかできなかったかつての自分が重なるのだろうか。
僅かに残る人間性がモモンガの策を最後の一要素として完成させた。彼らを守れる策をとる。
「でしょうね。そこで相談なのですがこのポーションの研究やってみませんか?」
「いきなりどういうつもりじゃ? ふざけておるのか」
モモンガの提案にリィジーが怒気のこもった言葉で返す。孫の命の安全についての話の途中で全く関係の無い、しかも自身のプライドに直結する事を言われたのだ。当然の怒りだろう。その一方でモモンガは極めて冷静に応じる。
「いいえ、ンフィーレアさんの護衛を我々で買って出ようという提案です。敵の背後に何らかの組織があるとしたら襲撃は続くでしょうから」
ここにきてンフィーレアの表情が一気に硬くなる。自身の置かれた状況に気がついたようだ。その変化を気にも止めずにモモンガは話を続けた。
「さらに今の話で相手は銀級冒険者4人以上の護衛がいるのに堂々と襲ってきた事になります。今回はたまたま銅級なのに圧倒的な力を持つエックスがいたから無事でした。それに相手がオリハルコン級すら越えるのならば身の安全を守るなら街最高のミスリル級冒険者を全て雇うぐらいしなければならないかもしれない」
「そこまではわかっておる。さすがにミスリル全てとまでは思わんがの。それがどうしてポーションに繋がるのじゃ?」
リィジーの疑問に答えるべくモモンガは言う。
「それはこのポーションが極めて貴重なものだからです。もしこれをもったンフィーレアさんが襲われでもしたら私達はなんとしてでも救い出さなければならないことになるでしょう」
「言いたいことはわかったがそれでお主になんの益がある? それがわからん」
相変わらずリィジーの警戒心は強くモモンガは行き詰まる。もともとノートに書いてあったから引き込むだけのつもりがどんなアイテムでも使えると言うことで絶対に必要になったのだ。彼なら異世界転移系となるメタアイテムを使えるかもしれないのだ。しかし、それを伝えるにはまだ早すぎるだろう。
「そのポーションを返された事が心苦しかった、ではダメでしょうか?」
「釣りあっとらんじゃろ」
「でしょうね」
リィジーのダメ出しにモモンガはため息交じりで応じる。
「仕方ないですね。本心を言いましょう。少し自分語りになりますが勘弁してください」
そういうとモモンガは姿勢を正すと意を決したように語り始めた。
「ンフィーレアさんには既に言ったのですが私は散り散りになった仲間を探すために冒険者になりました。そのポーションも元を辿れば仲間の物とも言えます」
ギルドの仲間のために用意しておいたものだから嘘ではない。
「しかし、私にはそのポーションのルーツがわかりません。それを探す手伝いをお願いしたい。あなた方に頼む研究はその一助になるかもしれないので」
「ふむ、納得はできるが相当に大事なものなのだろう。そんな物を人に預けてもいいのかね?」
「ええ、数と素材は一通り有るので」
そこで先程まで殆ど口を開かなかったンフィーレアが言った。
「で、でもモモンさんが昨日――」
「そうだ。問題はそこです。ンフィーレアさん、そしてリィジーさんも、です。昨日は冗談のつもりでしたが今日は本気で言いましょう。お二人とも、カルネ村に移り住みませんか?」
リィジーが息を呑みンフィーレアが固まる。
「決断は今すぐじゃなくてもいいです。襲撃者の尋問が済んでからでも構いません。ですが我々はあの村ならたとえ相手が一国家であろうとも守りきる自信がある」
そのまま立ち上がり固まっているリィジーとンフィーレアを置いてXオルタとナーベラルに声をかけた。
「そろそろ宿に戻るぞ。……結局襲撃者の背後に何もなかったら気にすることもないんですけどね。今日はお騒がせしました」
そう言ってモモンガ達が家から出て言ったのを見届けたリィジーが漏らす。
「あやつ言いたいことだけ言って帰って行きおった……ポーションも置いていっておる」
「あ、本当だ。追いかけたほうがいいかな?」
「やめておきなさい、癪だがお前が危険なのは本当なのじゃ。あやつの言葉も何も間違っとらんしの。今日はもう休みなさい、疲れたじゃろう」
そしてそれぞれの寝室に2人も戻ってその部屋からは誰もいなくなった。
◇◆◇
少し時を遡る。
モモンガ達が店から出る前に立ち去った漆黒の剣のメンバーについてだ。彼等は口々に九死に一生を得た幸運とその立役者について話していた。
「それにしてもすごかったよな。あんな超級の戦士が一方的にやられるなんて話あるんだな」
「相性もあったんでしょうがそうだとしても相当の腕です。あの距離で魔法によるカウンターなど普通できません……あんな事が出来たらなぁ……」
「ニニャも慣れればできる様になれるさ」
「その通りである! エックス嬢の魔法はあの2つの技のみである。きっとそれらをずっと磨き上げた努力をしたはず。ニニャも頑張れば良いのである」
「そうだってサポートするから一緒に頑張ろうぜ。……あれ?」
「どうしたんですか、ルクルット」
突如立ち止まったルクルットにニニャが問いかける。視線の先にはボロに包まれた歪な黒い珠があった。
モモンガさんの母親周りが不安
結構重要人物ですよね。下手しなくてもまだ名前も出てないギルメンよりか
あとえっちゃんはペロロンチーノの香水ではなくペペロンチーノは硬水を使うべきという話をしています。モモンガさんたぶん天然水の種類なんて知らないと思うんだ。だから勘違いということで一つ。