謎の至高Xオルタ   作:えっちゃんの羊羹

27 / 35
26話です。

感想評価誤字報告ありがとうございました。

ちょっと遅くなりましたがどうにかできました。

今回は番外席次について大幅な独自解釈(ねつ造と妄想)があります。名前も知らないのにどう動かすべきか

もう1つ、後書きがとても長い。

後、サブタイトルがなんか嫌だったので変えました。あまり変わってないけど




26話 恨みを受け継ぐ話

 エ・ランテル最高級の宿屋である「黄金の輝き亭」に異常な速さで飛び込んで来る黒い影があった。ほんの1週間ほど前にミスリル級に昇格したばかりの冒険者チーム"漆黒"のリーダーである"漆黒のモモン"だ。食事時ではないため他の人間は宿に居なかったのが幸運だった。彼は誰の目にも留まらずに上の階の自分達が泊まる部屋に向かった。

 

 彼等がこの街に来てからそれほど経ってはいないが既にエ・ランテルの街にその名を知らないものはいない。

 伝説の魔獣を従え、王国のみならず帝国にすら被害を出した凶悪犯を捕らえた翌朝に僅か一時間足らずで共同墓地に発生した無数のアンデッドを討伐し尽くすという功績を挙げているのだ。

 その怒涛の功績により登録して5日でミスリル級に上り詰めるという偉業を成し遂げた彼等を英雄視するものも多い。また、それに嫉妬したもともとこの街にいたミスリル級冒険者チーム"クラルグラ"の挑戦をリーダーのモモンが1人でたやすく退けた話は冒険者御用達の宿では飽きるほどに語られている。

 

 この1週間エ・ランテルに流れる噂は漆黒一色といっても過言ではなかった。冒険者組合長がさらなる昇格のために王都に伺いを立てているという眉唾な噂さえあった。

 その噂の主役である"漆黒のモモン"が何に慌てていたのか、と見たものがいたら思うだろう。彼は部屋の中に入ると音が漏れていないことを確認し中にいた相方に伝えた。

 

「レベル100相当の存在が現れました。街の南側を警戒していたシャドウデーモンがかなりやられてます。彼等はまっすぐエ・ランテルに向かっているようです。多分、例の奴だと」

 

 モモンこと、モモンガの言葉は部屋にいた少女、Xオルタの意識を切り替えさせた。のんびりと用意されていた果物を食べていた彼女も背筋を正し真剣な表情で口を開く。

 

「洗脳系のワールドアイテムの奴、ですよね。ようやくといったところだけど……タイミングが悪い」

「外で迎撃したいですが、もうそろそろ街に入っていると思います」

「じゃあ、どこか外におびき出さなきゃ、ですね」

 

 近づいて来る相手が小説でシャルティアを洗脳した存在と断定した2人は迎撃の準備を始める。既にモモンガは鎧を脱いで神器級装備を取り出していた。

 

「もうちょっと時間があれば色々対策できたんですが……」

 

 モモンガは街の中心で戦闘しなかればならないことに愚痴をこぼした。それを聞いたXオルタは準備の手を止めてモモンガに尋ねた。

 

「……もし……時間があったら、何ができますか?」

「え、取り敢えず山河社稷図とか使えます。後は準備にもっと時間がかかるけど強制転移でアンフィテアトルム行きもありでしたね。後はパンドラズ・アクターにトラップを大量に仕掛けさせた部屋を用意するとか」

 

 じゃあ、モモンガは小さな声で「ほとんどぷにっと萌えさんの言っていた事と同じですけどね」と付け加える。大したことではないと思っているのだろう、会話中も作業する手を休ませていた様子はない。

 だからこそ、続くXオルタの発言はモモンガを驚かせた。

 

「じゃあ、私が時間を稼ぎます。その間に準備をしておいてください」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! わざわざオルタさんがそんなことしなくてもいいでしょ! 危険過ぎます!」

 

「でも、時間があればどうにかなるんですよね。それに私は大丈夫です。囮なら慣れていますから。モモンガさんは一旦ナザリックに戻って山河社稷図の用意をお願いします」

 

 言い切るXオルタの表情はこれ以上の反論を許さないものだった。

 Xオルタの実力なら可能性があることはモモンガにも理解できる。ギルメンの揃っていた頃はPKの囮役として活躍していたし、なんとなく上手くこなしてくれるような気はする。

 しかし、納得はしても不安がないわけではない。現状でできる全ての補助魔法をかけてからモモンガは鬼札を切った。

 

「ああ、もう……わかりましたよ。囮役は任せますが、相手がワールドアイテムを持っているかもしれない。だからこれを預かっていてください。後で必ず返してもらいますから。……じゃあ、15分で山河社稷図持ってきます。それまで絶対に無事でいてください」

 

 モモンガはXオルタの手にこの場にある唯一のワールドアイテムを押し付けると返事を待たずにゲートを通ってナザリックに帰還した。残されたXオルタは渡されたアイテムの重みに戸惑うもしっかりと仕舞い込み気持ちを落ち着けて戦闘準備を整える。

 

 彼女が渡された物はその場にあった唯一のワールドアイテムだ。それはユグドラシルにおいても極めて少ない唯1人のプレイヤーの名を冠することを認められたワールドアイテム、通称"モモンガ玉"。

 ギルド"アインズ・ウール・ゴウン"の頂点、モモンガの力の象徴である。

 

「頑張らないと、ね」

 

 手元にある時計のタイマーを15分に揃えたXオルタは装備外見統一により見えなくなっていたステータス偽造の指輪の1つを外して窓から飛び出した。

 ここからは命懸けの逃走劇だ。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「やけに悪魔が多いね。『破滅の竜王』が蘇りでもしたのかな?」

「それはないでしょう。植物系の『破滅の竜王』は悪魔との関係性は無いかと」

「悪魔については念のために警戒しておけばいい。今は迅速に任務をこなすことを考えろ」

 

 順に番外席次、クアイエッセ、第1席次の言葉だ。確かに「破滅の竜王」とは関係ないとしても警戒すべきであることは変わらない。悪魔は自然発生するようなモンスターではないので背後に何かがいるとわかるからだ。しかし、何らかの未知の存在があるというのは陽光聖典の失踪の時点でわかっていた。

 この時点で当初の予定からはズレが生じているが、計画の変更はしない。大した誤差ではないので対処可能という判断だ。

 

「ターゲットは『黄金の輝き亭』という宿にいるらしい。大通りに出てすぐのはずだから真っ直ぐ行くぞ」

 

 意気揚々と言った感じで熱意に溢れていた第1席次の言葉は次の瞬間には無意味なものに成り下がっていた。何かを見つけた番外席次がドスの効いた声で呟いた。

 

「あ……、見ぃつけた。へぇぇ……ゴースト、だったのね」

「っ!いきなり何を!」

 

 第1席次の言葉を振り切り番外席次は屋根の上に飛び上がりかけて行く。第1席次は追い縋ろうとするが、何が起きているのか理解できてないクアイエッセに気が付き、僅かにためらってしまった。

 それが失敗だった。番外席次と彼女が見つけた霊体は既にかなり遠い場所にいる。視認こそできるものの神人と雖も実力の劣る彼ではもう追いつけないだろう。

 この任務の責任者として状況を制御しきれなかった己を責める。

 

「くそっ! 気づかれていたんだ!」

「ど、どういうことですか⁈」

 

 隣ではクアイエッセが狼狽えながら聞いてくる。第1席次は悔しげな表情を浮かべながら述べた。最早彼に出来ることはこれくらいしかなかったのだ。

 

「先ほど番外席次がターゲットを見つけた。そこで相手が何らかの高等なゴースト種だと看破したんだろう。そして敵と判断して飛びかかっていったわけだ」

「そういうことですか。……任務って交渉のはずでしたよね。かの者達なら外見上、異形でも人類側の可能性もあるとの事では……」

「まあ、仕方ないんじゃないか?割り込めるとも思えないからな」

 

 クアイエッセの言葉には納得と呆れが入り混じっていた。

 それもそのはず、彼らの任務は本来交渉であり戦闘ではない。神人が2人という過剰とも言える戦力は交渉の席に着く、或いは着かせるための前提である。それ以外では有事のための備えとしての意味しかなかったのだ。

 

「それでどうしますか、隊長?」

「取り敢えず戻ってくるまで待つしかないだろ。それで相手がまだ無事だったら一言謝って交渉のやり直しだ」

 

 第1席次は相変わらず番外席次を制御できなかったことを悔やんでいるが次善策を選ぶ。アクシデントにあっても即座に対応しようとする彼の姿は未熟とはいえ優秀な指揮官と言えるだろう。

 

 ミスがあったとすれば一つだけ、番外席次の勝利を疑わなかった事だけだ。

 

 一方で番外席次の方は発見した相手、霊体化していたXオルタを屋根の上で追いかけながら実力を測る。

 確実に第1席次より速いが自分と比べると僅かに遅い。追いかけることに集中すれば何とか追いつけるが追撃の手を緩めれば即座に逃げられるだろう。

 その事実はただでさえ昂ぶっていた彼女の感情をさらに高揚させる。気を抜けば笑い声が漏れてしまいそうだった。

 

 本来であれば番外席次はもう少し落ち着きのある女性だ。種族のせいで子供っぽいところもあるが並の人間の寿命を優に越える年月を生きているだけあって相応の思慮深さを身につけている。

 そんな彼女が暴走した理由は2つある。

 

 1つは単純に溜まっていた鬱憤が弾けたからだ。彼女のこれまでの生活の反動とも言えるだろう。しかし、これは決定打ではなかった。

 

 もう1つの理由こそ彼女の行動を決定づけたものであり、番外席次という個人の根幹にある感情だ。

 

 それは人間以外の対象への敵意。

 

 番外席次という少女はスレイン法国にかつていた神人がエルフの王族による暴行を受けた結果、孕まされた存在だ。彼女の存在が原因で法国とエルフの関係は悪化したと言っても過言ではない。

 そして彼女の母こそがその時の法国で最も人間以外を憎んだ者だった。その女が渾身の愛憎を注ぎ込み育て上げた最強こそが番外席次であり、確かにその根底には確かに母の遺志が流れていた。

 

 結果、人間以外を憎むように育てられた人間ではない少女は折り合いをつける理由を力に求めた。

 

 力が有ったから母は彼女を育ててくれた。

 力が有ったから彼女は法国で生きている。

 力が有ったから彼女は生まれてきた。

 

 そうして彼女は力を求めるようになる。異種族にその憎悪を振るうためより強い血を求めた。奇しくも彼女の憎悪の根源たる父と同じ手段をもって。

 

 全ては番外席次の思想の根底に流れる憎悪によって決められた行動だった。

 

 その憎悪が彼女がXオルタという霊体を襲うことに対するためらいを消した。血を交えることもできない異形の女など番外席次にとって打ち倒すべき敵でしかなかった。

 

 そして、この暴走は番外席次私情の混じった失敗であり第1席次とクアイエッセの計画を乱したが、完全に無価値だった訳ではない。結果論ではあるが彼女の行動はXオルタの計画を第一歩から蹟かせたのだ。

 

 Xオルタの最終目的は襲撃者が全員宿の室内にいる状態で山河社稷図を使うこと。つまり、やるべき事はモモンガが山河社稷図を取ってくるまでの時間稼ぎだ。

 故に、Xオルタの計画はターゲットであるだろう自分が霊体化した状態で一定の距離を保ったまま人混みの中を動き回ることだった。かなり荒い計画だが、Xオルタには成功させる自信があった。

 相手のターゲットは残りの2人が精々30レベル程度にしか見えないようになっていることから自分だと確信していた。さらに、宿に引き込むことも道中のシャドウデーモンに対する行動とユグドラシルでの囮の経験をもとに、面倒な小道を通らせたり、追いつけそうなところで隠れたりして少しイラつかせれば直ぐに突入させることができると思っていた。

 

 事実、不可能ではなかったはずだし、宿に引き込めずとも山河社稷図を持っていれば穴熊を決め込むだけでも意味があった。突入されるまで待ち、突入されたらそのまま異空間に取り込めるためだ。

 しかし、相手の行動があまりにも素早く、窓から飛び出た時に番外席次にいち早く襲撃されてしまった。それさえなければ時間稼ぎは充分うまくいっただろう。たとえ霊体を見られていたとしても人ごみに隠れたらそのまま時間を稼げたかもしれない。

 

 結果、Xオルタの策は破綻して彼女は目の前の1人以外に手を出す手段を失った。だからこそ、Xオルタは目の前の1人を絶対に逃がさないように立ちまわる。もう失敗はありえなかった。

 

 当然、番外席次は目の前のターゲットが何を考えているかわかっていない。彼女にわかるのはXオルタが焦った表情を浮かべ逃げ回っていることだけだ。

 

「ねぇ、何で本気で反撃しないの? 私から逃げられるって事は戦士なんでしょ? なんかしなさいよ、ねぇ」

 

 Xオルタの表情は番外席次の嗜虐心を刺激する。幾度も斬りつけるがそれらは妙な力で押し返される事で決定打に欠けていた。しかし、確実にダメージは与えている。

 斬りつけたり押しのけたりを繰り返すうちに、Xオルタの懐から微かな声が聞こえた。それと同時に番外席次の一撃が入る。相変わらず決定打ではないが今までの傷と比べると明らかに深手だ。

 方向転換し、Xオルタは宿に向かって全力で駆けはじめる。相手が今の深手を回復しようとしていると感じた番外席次はそれを追った。そして、「黄金の輝き亭」の看板が見える屋根の上で追いつき、捕まった。

 番外席次が飛びかかった瞬間、Xオルタがその胴体にしがみついたのだ。腹部に柔らかいものが当たり、自分の胸に淡い金髪が沈み込んでいるのが番外席次には見えた。しかし、四肢はどれも自由だ。僅かに戸惑うも無様な抵抗だろうと番外席次は判断し、直ぐに引き剥がそうとして失敗した。

 力が強い。

 単純に膂力でXオルタの方が数段上にいたのだ。そのままXオルタは屋根を蹴り、弾丸のように宿の部屋に飛び込んだ。

 待ちかまえていたように声がきこえた。

 

「お疲れ様です。此処からはチーム戦ですね」

 

 モモンガが持っていた巨大な巻物を広げた。部屋の風景が瞬く間に変化していく。

 

「ありがとうございます、モモンガさん。この状況を待っていました」

 

 番外席次の見たことのない場所で先程まで追いかけていた相手と見るからに強大なアンデッドが並んでいる。

 

 今、漸く番外席次は自分が罠にかけられ、狩られる立場に回ったと理解した。

 




とりあえずいろいろ突っ込みどころがあると思います。

まず、山河社稷図について
これは発動したエリア内のものを纏めて異空間に転移させるアイテムとのことです。
つまり街中で使うと町ごと転移すると思う。
で、当SSでは屋内使用してますがこれなら部屋の中だけの転移に出来そうだと思った次第です。ゲームって屋内に入ると完全にエリア切り替わりますし……

そして、えっちゃんの囮作戦
まず、ユグドラシルで囮だったことについてそういうことにしました。たぶんPKの食いつきよさそうだし。課金アイテムドロップしそうなキャラということで。
AOGでのえっちゃんの役割考えたらこんなのありかなと思って。

次、番外席次
彼女の父は11巻の幕間のエロフ王と断定しています。
つまり、レ〇プされた母親が犯人の特徴をもろに受け継いだ娘を生んだということ。闇が深すぎる気がする。
そして、その母親に育てられた彼女はきっといろんな影響を受けています。
結論として当時の最高会議が番外を母から引き離さなかった程度には彼女は愛されていて、現在の最高会議が嘆く程度にはゆがんだ教育を受けていたんだと判断しました。

最後におまけ
このあたり考えるとエロフ王ってたぶんツアーの仲間の13英雄の1人かもとか妄想できます。
そうなると二巻のクレマンのセリフだとツアーって友達(レイパー)の娘を見つけ次第戦争吹っ掛けるやばい人になるじゃないですか。
でもツアーってそんな感じじゃないし
だからこれ、クレマンが嘘言ったか(あいつ信用できない)、
戦争吹っ掛けるのは番外の方か(上述の闇深を参照)、
やばいのは他の竜王か(空飛んでばっかりいるやつとか引きこもりとか)
と考えました。
そこから番外の生まれを捏造していくとこんな感じに。

結構面倒なこと書きましたが次回バトルです。今回描写も少なくいじめられていたえっちゃんの応援をよろしくお願いします。

感想評価指摘いろいろお願いします。あると喜んで悶えます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。