狂女戦記   作:ホワイトブリム

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#042

 act 42 

 

 目標地点まで25マイル(約40キロメートル)に差し掛かると地上からの攻撃が激しくなる。だが、高高度を保つ魔導師に歩兵の銃弾は届き難い。

 砲兵でもない限り、常時展開している防御膜だけで問題は無い。

 その砲兵部隊の撃破は魔力を少しでも温存する為に部下に排除してもらっていた。

 

『ラインコントロールより各部隊に通告』

 

 と、急な通信に身構えるエステル。

 これは作戦行動中の全部隊に送られるものだった。

 

『観測者狩りの増援を確認したとの報告があった。各部隊はそれぞれ留意せよ』

 

 報告だけして通信は切れた。

 

ロビン02から04。目視はまだだな?」

「はい」

「こちらもまだ敵が見えません」

 

 ならば進むしかない。

 新たな座標が示されるまでは現行の作戦は継続される。

 

「死ね~!」

 

 と、別部隊の叫び声が聞こえてきた。

 血気盛んな新兵が接敵行動をしているようだ。

 

「……貴官らもああいう事をしたいのか?」

「い、いえ。今は作戦が最優先です」

「まあ、分からなくはないですけどね」

 

 空を飛んで上から敵を狙い放題だ。

 一人でも多く敵を殺したくてたまらない。そういう風にエステルには見える。

 殺人が好き()()()頃とは違い、今は弱い者を手当たり次第に殺す事はしない。命令や邪魔だなと思った時は殺してきた。

 少なくとも()()自重(じちょう)は出来ると思う。

 

「……あ」

 

 先ほど突っ込んでいった魔導師が被弾して地面に落下した。

 今は助けに行けないが仲間が居るようなので無視する。

 

「……死んではいないようだ。我々も気を付けないとね」

「はい」

「……一応、連絡してもよろしいですか?」

 

 ポウペンの言葉に頷きで答える。

 後始末は後方任務の別働隊に任せ、地上の敵兵を排除しつつ突き進む。

 四つの小隊が等間隔で進んでいたのだが気が付けば一つの小隊が居なくなっていた。

 それは二〇六強襲魔導中隊だけの問題ではなく、二〇五強襲魔導中隊も一つの小隊を失っていた。

 砲兵にやられたか、負傷の為に引き返したか。

 それでも最低限、デグレチャフとエステルの小隊だけは残っていなければならない。

 

          

 

 指定された地点まで12マイル(約20キロメートル)を切った頃に通信が届いた。

 

ロビン01お客さん(敵魔導師)の最新座標を送る。規模は三個中隊』

 

 声の主はデグレチャフだった。

 

「了解」

『一つは別行動しているもよう。こちらは我々が相手をする。トランスの影響を考え、貴官の小隊は速やかに退避する事をお勧めする』

「……貴官がそれでいいなら了解した」

 

 デグレチャフにとってエステルは命を狙う刺客だ。その安否を気遣う必要は本来ならば無い筈だ。

 だからこそエステルは苦笑する。

 銃弾飛び交う中にあって笑うのは不謹慎だ。しかも幼女の姿で。

 常識ある大人であればさぞかし滑稽で恐れおののく事態に見えることか。

 

『……いい性格してるな貴官は。少なくとも……貴官が居ないと私は楽が出来ない。では、アウト』

 

 言うだけ言って通信を一方的に切られた。

 

「……それが貴官(デグレチャフ)の目的ならば……、()()として頑張らないとね」

 

 一つ深呼吸をするエステル。

 

「これより殲滅戦を開始する。その後は離脱予定だ。申し訳ないが、貴官らを戦場に残せない可能性を思い出した」

「承知しています」

「我々はまだ散りたくないので」

「よろしい。目に付く砲兵はまだ片付けてていい。では、祖国の為に」

『了解っ!』

 

 二〇六強襲魔導中隊第四小隊は他の小隊より先に加速を開始する。

 指定された座標まで時間にして120(2分)を切る。

 三人の部下達はエステルの盾として一定間隔の距離を維持しつつ下方に銃撃を繰り返す。

 航空戦は今のところ無く、魔導師の標的は主に下方にしか無い。

 フランソワ共和国側の魔導師も多くを戦場に投入できない事情があるからこそ制空権が取れている、のかもしれない。

 たとえ制空権が取れなくとも魔導師を撃ち落す砲兵は充分な数があるともいえる。

 その辺りは軍の上層部の認識に寄るのだが、エステルにとって意識出来る対象が少ないほど集中できるので楽ではある。

 

「……見えた。……敵魔導師は……隊列を組みつつ我々を狙っているもよう」

「了解」

 

 敵の装備は支給された服装で区別するのが基本だ。

 魔導師の場合は装備しているものが国ごとに規格が異なるせいか、全身鎧(フルプレート)だったり、何かの乗り物に乗っていたり多種多様である。

 戦闘前に一応、敵の基本的な装備は頭に叩き込んでいるが実際に目にすると珍しさを改めて感じる。

 

「……ロビン02から04……。これより接敵する。貴官らは他の隊と合流し、少し離れておくように」

「お気をつけて」

「意識を無くされたらすぐに回収に向かいします」

 

 回収できればいいが、と思いはしたが言葉に出さず頷きだけにとどめる。

 エステルと部下達は互いに顔を見合わせ、一つ頷いた後に別行動をとる。

 


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