憐憫の獣、再び   作:逆真
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新生活に慣れず時間が取れないため、これから更新は結構間が空きそうです。ご了承ください。

イベントについてですが、「そういうのもあるのか!」とテンション上がりました。


選択肢

 視点の多角化。バアルが主体となって生み出した技術の実証。

 この二つの目的を満たすために、ある英霊が召喚された。その英霊は『聖書推敲』の計画を知ると、計画についてこう指摘した。

「アリバイ作りが必要だね」

 聖書推敲を完全犯罪にするために、その英霊は持論を展開した。

 聖書が世界に与えている影響は甚大だ。世界最大の宗教というだけではない。救世主がいなければ西暦は始まっていない。大航海時代の建前の一つには、布教があった。世界共通の倫理観のベースには、十字架の教えが多く含まれている。世界で最も印刷され、販売されている書籍とは他でもない聖書だ。

 その教えを書き換えようとするためには、辻褄合わせが必要なのだ。単に記録を書き換えただけでは不自然になる。単に記憶を挿げ替えただけでは不都合が起きる。

 聖書が弱体化したとしても、他の神群を増長させては元も子もない。神による悲劇は変わらない。魔による悲鳴は消えない。神秘と文明の力加減はこのままに、あくまでも聖書の定義だけを変更させなければならない。そのためには、念入りな過去の改竄が必要だった。そんなことは魔神柱たちも理解していたが、その英霊は別視点からのアプローチを提案した。

 これまでゲーティアの計画を『文書偽造』だとするならば、英霊の提案した事項は『偽の証言』の準備だった。

 かつて、あらゆる国の王家は自らを『神の末裔』であると宣言した。神の血を引くがゆえに、人を統べる義務と権利があるのだと説いた。当然だが、本当に神がいたとしても、『神の末裔』を自称する王家が神の血を引いているなんてことはない。英雄派も同じだ。『曹操の末裔』がいるからには、あの時代を生きた曹操がいる。『ヘラクレスの魂を継ぐ男』がいる以上、伝説の大英雄の実在は証明されている。

 それと同じようなことをしておく必要がある。書き換えた神話の辻褄が合うように、現代の英雄を見つけておくのだ。そして、その英雄にはこれから書き換える予定の聖書に関する要素を加えておく。

 俗っぽい言い方をすれば、漫画の主人公に後付けで血統設定を加えるようなものか。あるいは、本編の設定の調整のために未来編を描くようなものかもしれない。

 そして、ちょうど良い代物が確認されていた。管制塔が監視していたフローレンス・ナイチンゲールの前に現れた、救世主殺しの槍である。一部では、『手に入れた者は世界を征する』と言われる槍だ。

 だが、これには槍だけでは足りない。願望器としてではなく、『システム』に干渉するための杯が必要だ。処刑道具としてではなく、神の遺産を紐解くための十字架が不可欠だ。

 聖遺物を用いた世界線の固定。バアル主導の作戦だった。この作戦が遂行された時、大偉業の失敗の可能性は完全に排除される。

 冥界を焼く準備はできつつある。各神話の地獄に相当する領域との交渉はすでに終了している。大航海時代を始めとして、聖書の勢力は『布教』に力を入れすぎた。どこの神話でもやっていることだが、彼らはやり過ぎた。特に、近年の『悪魔の駒』による被害が地獄の長たちの首を縦に振らせた。

 各神話の天国に相当する領域だが、天上の神々は地獄ほど簡単にはいかない。どれだけ禄でもない連中であるかは神話を紐解けば明らかだからだ。

 仮に天上の神々との交渉を怠った場合、地獄を焼いた後、迅速に天国を焼く手筈を整えなければならない。三千年に及ぶ人理焼却を成したとはいえ、世界一つを簡単に焼けるはずもない。それに、性質的にも勢力的にもインド神話に介入された場合は非常に厄介だ。武神インドラを始めとして、あの神話の上位陣は強力な神々が多い。一体一体はゲーティアには及ばないが、群体としては非常に厄介だ。知識に貪欲である北欧の主神オーディンが台頭してくる可能性もある。

 そして、最後の問題として、聖書に記された天使の対応だ。光帯の対策を練られるならばまだマシだ。その対策を上回れば良いだけの話なのだから。最悪のパターンは、ゲーティアの真意に気づき、自暴自棄になった熾天使が天界ごと自爆することだ。この場合、彼らはエネルギーにはならないような自爆をするはずだ。もしそうなってしまえば、燃料が不足してしまう。地獄だけでは聖書の改竄は、彼らの大偉業は果たせない。

 だからこそ、この二つの問題を解決するために、フラウロス主導の作戦が必要だった。天界が最も信用する使徒であり、教会最強の戦力であり、上位神滅具の所持者である『彼』に裏切ってもらう必要があった。







 かつて冥界には四人の魔王がいた。明けの明星ルシファー、蝿の王ベルゼブブ、終末の怪物レヴィアタン、色欲の大悪魔アスモデウス。

 だが、四名とも先の聖書の三つ巴の大戦争において没した。先の大戦において最も疲弊されたと言われるのは悪魔だ。数そのものが消耗したこともあるが、それ以上に四大魔王が全員いなくなってしまったことが大きい。代表者が四人もいながら全滅してしまえば弱体化してしまうだろう。

 まして、悪魔は大戦後に大きな内戦が起きた。戦争を続けようとする旧魔王の一族と、国家の立て直しを方針とする革命派の一派――後の新魔王派の内戦だ。結果だけ述べると、勝ったのは革命派だ。旧魔王の一族は権力を奪われ、冥界の僻地へと押し込められた。加えて、魔王の名前を『役職』にまで貶められた。これで憎まないと言うほうがどうかしている。

 だから、旧魔王派――本人たち曰く真魔王派――がテロリストになるのは必然でさえあった。

 彼らの理想は、言ってしまえば滑稽なものだ。悪魔こそが、否、魔王こそがすべての支配者となることだ。

「どうなっている!」

 ベルゼブブの血筋、シャルバ・ベルゼブブは激高していた。

「オーフィスはどこに行った! 蛇は、約束の蛇はどうなっている!?」

 オーフィスは無限に等しい力を持つドラゴンなだけではない。逆に、それほどの力を持ちながら『強いだけ』などそちらの方が問題だろう。オーフィスは、使用者の力を増大させる『蛇』を創り出すことができるのだ。『蛇』は様々な使い方ができるのだが、専ら力の強化に使われている。

 皮肉なことに、シャルバたちが偽りの魔王と呼ぶ者たちは、シャルバたちよりも強い。だからこそ、『蛇』の存在が不可欠だった。『蛇』を使えば、シャルバたちは前魔王クラスにまで力を上げることができる。逆説的に、『蛇』を使ってようやく前魔王級になれるという意味でもあるのだが。

 サーゼクス・ルシファーが、前ルシファーの十倍強いという話を信じていないのだろうか。

 以前オーフィスから渡された『蛇』は実験や試運転で在庫切れだ。補充のためにオーフィスを探していて、ようやくいなくなったことに気づいた。禍の団(カオス・ブリゲード)の全構成員が捜索しているが、この数日誰も姿を見ていないらしい。

 こうなれば、『蛇』の補充は絶望的だった。

「英雄派の小僧どもも、調子づきおって!」

 禍の団(カオス・ブリゲード)の次に大きい派閥である英雄派には、最近奇妙な動きが見られる。ナポレオンを名乗る参謀が加わったそうだが、それ以来動きが変わった。具体的に表現するには曖昧な部分が多いのだが、強いて言うなら『空気が変わった』あるいは『狂気が見えてきた』。人間の癖に不遜なだけの集団に、これまではなかった何かが加わってしまった。その変貌に嫌悪以上に忌避を覚えていることを、シャルバは自覚していない。

 秘密裏に協力関係にあるギリシャ神話のハーデスも、ここしばらくで協力を渋るようになった。理由は不明だ。現冥界――というか、聖書の勢力そのもの――に対して、ハーデスは嫌悪感全開なのだ。三大勢力の協定は、彼にとってもマイナスであるはずだ。だが、だからこそ死神の助力を願ったのだが、断られた。あの対応では今後の協力も控えると言っているようなものだった。

 これでは駄目だ。

 これでは――近日開かれるという三大勢力の会談を妨害できない。魔法使いや真魔王派の悪魔だけでは、数はどうにかなっても決定的に『個』の戦力が不足している。計画ではレヴィアタンの末裔であるカテレア・レヴィアタンが単騎で首脳陣に挑むはずだったが、シャルバやクルゼレイ・アスモデウスも出張る必要がある。

 真なる魔王である自分たちが負けるとは露程も考えていないが、サーゼクスたちの方が強いことは理解している。計画が決定的に狂わされたことには憤りしかなかった。自分のことを棚上げして、約束を反故にしたオーフィスへの怒りを吐き出した。

 それに加えて、肉柱の件もある。教会を襲撃した犯人なら構わない。真なる魔王よりも偽りの魔王を選んだ初代たちを襲撃したこともどうでもいい。だが、ある筋からの情報では、真なる七十二柱を名乗っているそうだ。あのような醜い怪物が、悪魔の名を穢しているのだ。魔王の血統として許せるはずがなかった。そして、彼らの強さや正体、目的など眼中になかった。その憤怒のままに叩き潰そうとしていた。

 つい最近発生した魔女の夜(ヘクセン・ナハト)壊滅事件にも、あの怪物が関わっているという。彼らは禍の団(カオス・ブリゲード)の魔法使い派閥ニルレムと近い関係にあったため、ダメージのあった件だ。特に、神滅具の一つ、聖十字架の消失は大きい。

「おのれ……おのれおのれおのれおのれおのれぇ! 偽りと偽善の魔王め! 馬鹿ドラゴンめ! 忌々しい触手のバケモノめ!」

 真なるベルゼブブは、屈辱に拳を握りしめる。過去の誇りよりも先に、重んじるはずの未来を掴むという選択肢は彼にはなかった。考えるとか実行するとかそんな話の次元ではない。――そんなものは、サーゼクスたちに負けたあの日に消滅した。

 古き魔王の血筋に、他に選択肢などなかったのだ。







「ガープより要請。熱が溢れる。怒りが零れる。バアルとフラウロスの作戦が終了するまで何もせずに待機しろと言うのか。この憤怒に耐えろと言うのか。我らの贋作を、天を貶める天使を、人を嘲る堕天使を一匹でも多く屠るとしよう!」
「グラシャ=ラボラスより提案。シトリーの贋作を優先して葬るべきだ」
「ゲーティアより却下。魔王の死は悪魔の行動を活性化させる。奴らにはあくまでも、『警戒』をしてもらわなければ計画に支障が出る。だが、グラシャ=ラボラス。なぜ、今更そのようなことを言い出す?」
「バラムより確認。グラシャ=ラボラスの贋作――魔王ファルビウム・アスモデウスは眷属に仕事を一任していると聞く。この怠惰は各勢力に周知され、冥界はそれを許容している。堕落が許せぬか。だが、なぜシトリーの贋作――魔王セラフォルー・レヴィアタンを憎悪する」
「グラシャ=ラボラスより解答。私は私の贋作よりも、シトリーの贋作に強い憤怒を抱いている。なぜだ。なぜなのだ。なぜ、あのような魔法少女の偽物が許容されている!? 一介の権力者が児戯に興じて、その痴態を公共の電波で放映するなど。あの女は狂っている。悪魔という種族は狂っている。あのような魔法少女の偽物に何の価値がある! なぜ、あのような見苦しい姿を視界に入れた者が不快になると、知覚した者が嫌悪すると気づかない! あの女は……その存在そのものが彼女たちへの侮辱である!」
「デカラビアより質問。グラシャ=ラボラスの真意の説明を求める」
「バルバトスより解答。不明だ」
「パイモンより推測。シトリーの贋作は種族面を加味しても、少女と呼べる年齢ではない。更に、一定の年齢になった悪魔は姿を若く見せることができるはずだ。だが、セラフォルー・レヴィアタンは年齢相応の肉体で魔法少女の姿をしている。グラシャ=ラボラスはそれを許容できないのだ」
「アムドゥシアスより否定。グラシャ=ラボラスの憤怒の起点は其処ではない」
「ブネより報告。三大勢力による会談が実施される模様。場合によっては協定が結ばれることになるだろう。先のグレモリーの一件も含めた我らの情報交換も行われるはずだ」
「アスモダイより補足。魔王サーゼクス・ルシファー、魔王セラフォルー・レヴィアタン、天使長ミカエル、堕天使の総督アザゼルが出席する模様」
「ロノウェより補足。証人として、リアス・グレモリーとその眷属、ソーナ・シトリーとその眷属も出席する模様」
「オリアスより補足。停戦と共同戦線の締結はほぼ確定と思われる」
「ハルファスより疑問。なぜ彼奴らは戦争を始めぬ。なぜ彼奴らは対立を終わらせる。戦いが止まることはない。痛みが消えることはない。彼奴らは定命の者よりも長く螺旋の底にいる。なぜ我らへの恐怖だけで手を結べると思うのか。なぜ彼らへの不信を無視しようと選ぶのか。そんなことで戦いを止められるのならば――()()()()()()()()()()?」
「ゲーティアよりグラシャ=ラボラスに命令。やる気があるなら雑用をこなして来い。だが、戦力は制限する。頭を冷やすがいい」



感想に魔神柱会議の意訳(長め)を書くとハーメルンの規約に引っかかる傾向にありますのでご遠慮ください。
意訳したいって皆さまの気持ちは分かるのですが、感想欄に「運対」の文字を見るのは作者としては何かきついので。

だから、作者が代わりに書いておいたぜ! あくまでも参考程度にご覧ください。

ガープ「バアルとフラウロスの作戦が終わるまで時間あるし、あの害獣ども一匹でも多く殺そうぜ!」
グラシャ=ラボラス「そうだ、特にシトリーの贋作を」
ゲーティア「計画に支障が出るから却下。だが、グラシャ=ラボラス。急にどうした?」
バラム「グラシャ=ラボラスの贋作は怠け者らしい。それが嫌なら分かるけど、何でシトリーの方?」
グラシャ=ラボラス「俺は俺の偽物より、シトリーの偽物の方が嫌いなんだ。だって、あの女、あれで魔法少女の名乗ってんだぜ!? 魔法少女馬鹿にしてんだろう!」
デカラビア「グラシャ=ラボラス何言ってんの?」
バルバトス「分からん」
パイモン「少女じゃないのに魔法少女名乗ってんのが嫌なんじゃない?」
アムドゥシアス「分かってねーな。其処じゃねーよ」
ブネ「いよいよ三大勢力、会談するってよ。グレモリーの話も出るっぽいよ」
アスモダイ「魔王二人と天使長と堕天使の総督が出席するって」
ロノウェ「現場にいた悪魔どもも出席するな」
オリアス「まあ、停戦と共同戦線の締結だろうね」
ハルファス「あいつら何千年も因縁あってよく仲良くしようと思うよな」
ゲーティア「グラシャ=ラボラス。やる気があるなら行って来い。でも、魔力はあんまり回さないからな。ぶっちゃけ負けて来い」