憐憫の獣、再び   作:逆真
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予言しよう!
アガルタではきっと魔神柱がアサシンちゃんの保護者ポジションになる!
あと、作者のカルデアにアサシンちゃんは来ない!


要となる一手

「つまり、『世界』を巨大な円と仮定しよう」

 その場には、三つの人影があった。

 一つは、先程の発言を発した老紳士。一つは、魔法使い風の青年。一つは、黒い祭服を来た褐色の青年。

「その円の中には複数の世界が存在する。聖書に記された天国や地獄、北欧に語られる世界樹ユグドラシル、ギリシャに伝えられるオリュンポスなどだね。そして、円と円の隙間にある空間が次元の狭間というわけだ」

 老紳士は卓上にある紙に円を描き、その内部に小さな円をいくつか書いていく。円は一つだけ離れた場所にあるものもあれば、複数の円が重なっているところもある。大きさや形も様々だ。

「だが、我々のいた世界はこの世界の円とは違う」

 老紳士は巨大な円をもう一つ描く。

「冥界から天界には手段があれば移動できる。同じ円の中にあるのだから当然だ。次元の狭間が海のような役割を果たしているのだろうね。しかし、あの世界とこの世界は根本的に違う図だ。この距離感は、国というより星に近い。だからこそ自由に行き来することができないのだよ。――僅かな例外を除いてね」

 老紳士の言葉に、魔法使い風の青年――ゲオルクが身を乗り出す。

「その例外の一つが、聖杯による英霊の召喚なのですね」
「その通り。例えるならば、宇宙人相手に放った電波が偶然拾われたようなものだ。まあ、この世界――宇宙観に『座』があれば話は違ったんだろうけどね。だが、神々が現代でも実在している以上、この世界の神秘と人理のバランスは曖昧で歪だ。あくまでも異世界人の私から見た視点だから、そう見えるだけかもしれないが」

 神代と人理が確立された世界の住人から見れば、この世界の神秘の在り方は矛盾している。だが、この世界の住人から見れば成立しているのだろう。現代における神秘の濃度では、此方側の世界の方が圧倒的である。あの世界の魔術師ならば、この世界を知ると同時に渡来する手段を探すだろう。

「ですが、教授。この世界ではゲーティアの聖杯に近いものは作れないでしょうね。いえ、実物の聖杯を見せてもらったわけではありませんが、この時間神殿を見てしまうと……」
「君も異空間を作れるのだろう?」
「次元が違います」

 ゲーティアの固有結界、時間神殿。第二宝具『戴冠の時来たれり、其は全てを始めるもの』。時間と隔絶した虚数空間の工房にして、宇宙の極小モデルケース。

 その空間に足を踏み入れた瞬間、ゲオルクは発狂した。

 ゲオルクの神滅具『絶霧』は結界系神器最強であり、国一つを滅ぼすことができる。その禁手『霧の中の理想郷』を発動すればより強固な結界空間を築ける。だが、時間神殿は比較することさえ烏滸がましい代物だった。次元が違い、性質が違う。レベルが違って、ステージが違う。

 自分の積み上げてきた実績や技術がどれだけ視野の狭いものだったかを思い知られた。ゲオルクが立ち直れたのは敗北感よりも知的好奇心や探究精神が勝ったからだ。良くも悪くも彼は魔術師であり、学者だった。

「君も興味を持っていただけたかな? アポプス君」

 黒い祭服の青年の正体は、邪龍の代表格の一体にして、エジプト神話において日食を司るとされるドラゴン。『原初なる晦冥龍』アポプス。ヴァレリーの聖杯によって蘇った異形の一つ。

《無論、私にとっても興味深い話だ。我々邪龍がこの計画に協力する条件、それは異世界、そして未知の勇者への挑戦なのだから》

 邪龍。滅ぼされたドラゴン。破壊衝動と自滅願望を持つ異形。最も忌むべき怪物だ。

《人王が作ろうとする世界に我々の居場所はない。求めることさえ許されない。存在を否定された気分だ。だが、新しい遊び場に連れて行ってもらえるというのならば話は別だ。アジ・ダハーカもグレンデルもラードゥンもニーズヘッグも、その計画に賛同している。……クロウ・クルワッハは違う光景を見たがっているようだが》
「ゲーティアのような存在が複数いると知りながらあの世界に行きたがるとは。君達も中々狂っているね」
《お褒めに預かり光栄だよ、教授殿》

 紳士からしてみれば皮肉のつもりだったが、全く通じていない。当然だ。彼は邪龍。頭の螺子がはまってすらいないとまで言われるドラゴン、その代表格なのだから。

「異世界への挑戦。実は、『世界』について新しく分かったことがあるのだよ。知りたいかい?」
《ほう? 興味深いな。是非教えてくれ》

 応じたアポプスだけでなく、ゲオルクも教授に注目する。

「私はこの巨大な円と円の間について調査した。ほら、彼らが帰る方法を探らないといけないからね。そこで判明したのだが、世界は二つだけではない。この世界を『D』とし、私のいた世界を『F』とすると、それとは別に『E』という世界があることが判明しているんだよ。我々の世界とも、この世界とも、大きく世界線が異なる世界のようだ」
「なっ・・・・・・!」

 ゲオルグが突然の新事実に驚愕していると、近くで気配が慌しく動くのを感じた。銃声まで聞こえてくる。戦闘かと警戒して、聞こえてきた声で事態を理解した。

「待ちなさい、レオナルド! 虫歯は危険な病気です! 直ちに治療する必要があります! 最新の治療法ならば少し削るだけで終わります! だから待ちなさい! 待ちなさいと言っているでしょう!」
「・・・・・・・・・・・・!」

 簡潔に述べると、それは治療を嫌がる子どもの抵抗だった。だが、問題は治療される側にではなく、むしろ治療する側にあった。

「・・・・・・レオナルドの歯が全部削り取られる前に助けてきます」
「ミイラ取りがミイラにならないようにネ!」

 ゲオルクは死戦の前に死線に臨むことになった。







 謎の騎士団による堕天使の総督アザゼルと最上級悪魔タンニーンへの襲撃。そのニュースは瞬く間に冥界だけでなく世界中の神話に知れ渡った。

 テロリスト対策の会議出席のために冥界を訪れていた北欧の主神オーディンの耳にも、当然と言うべきか、その話は世間よりも詳細なレベルで入っていた。

「驚きじゃのう」
「ええ。まさか堕天使の総督や元龍王が遅れを取るなんて。『禍の団』の英雄派には想定よりも強大な戦力が集まっているのでしょうか」

 御付のヴァルキリー、ロスヴァイセの言葉にオーディンは呆れたように首を横に振るう。

「違うわい。アザゼルやタンニーン、赤龍帝の小僧を襲ったという連中は英雄派ではない」
「え? ど、どういうことですか、オーディン様」

 今回の下手人は、騎士の一団だった。多くの騎士たちは全身甲冑で顔は見えなかった上、名乗ることもなかったという。しかし、三人はそうではなかった。

 一人は、行方不明だった教会の戦士紫藤イリナ。エクスカリバーの破片を所持しているはずの彼女の身許は教会がずっと探していたのだが、襲撃まで足取りが掴めなかった。これは急な和平によって教会に問題が多発したことで、其方に割ける人員が限られたことも原因だ。

 そして、残る二人は、クラレントとアロンダイトを持っていたそうだ。片や王殺し、片や同胞殺し。どちらも呪われた魔剣だ。クラレントを持っている方に至ってはモードレットを名乗ったという。

 状況証拠だけ見れば、英雄の末裔や勇者の転生体が集められた英雄派のようにも考えられる。だが、オーディンはそれを真っ向から否定する。

「世間の混乱を防ぐためにサーゼクスやアザゼル達はこの真実をあえて伏せるじゃろうな。まあ、公表したところで何が変わるわけでもない。儂が同じ状況でもそうするの」
「だ、だとすると、彼らは一体何者なのでしょうか?」
「それは――儂にも分からん」

 その言葉を受けて、ロスヴァイセは戦慄した。呆然としすぎて一周回ったのではない。知恵を司り、未来を見通す予言神としての側面を持つオーディンが、『何も分からない』と匙を投げたのだ。

「世間には出されていない事実が二つある。一つは、ドライグの魂を神器から抜き出されたこと。もう一つは下手人の一人である紫藤イリナが口にした『獅子王』なる人物。敵の首魁だろうが、問題なのはこれが『女神』と言われたことじゃ」
「……どこかの神話が裏で糸を引いていると?」
「そんなことはあらかじめ予想されておったわい。ハーデスやら帝釈天やらじゃな。前者は聖書の勢力への嫌がらせ、後者は戦乱の世を作ることで強い戦士を生み出すことじゃ。……皮肉なことじゃが、あの小僧どもの和平は戦乱の火種にしかならんだろうな」

 オーディンとしては、帝釈天の考えを否定できない。オーディン自身が戦いの神であり、強い勇者をヴァルハラに受け入れることは彼の役割の一つなのだから。

「それこそおまえの勇者が見つかるかもしれんのう。ヴァルキリーの癖にその歳で彼氏いない歴年齢で生娘とか恥ずかしくないのか?」
「私だって好きで生娘なんじゃありませんよ!」
「ならば機があれば必ずものにしてみせよ。勇者をヴァルハラに導き奉仕することは、戦乙女の本懐じゃぞ」

 そう言うオーディンの脳裏には、娘の姿が思い出された。自分の意に反した罰で炎の館に封印した戦乙女。それが何の因果か、人間の勇者と恋に落ちた。そして、その愛は悲恋に終わった。おそらく北欧神話の中でも最大級の知名度を持つ悲劇で、彼と彼女の愛は終わった。

「あの、オーディン様。ずっと気になっていたことがあるのですが……」
「何じゃ?」

 ロスヴァイセは数秒の逡巡の後、思い切って口を開く。

「件の柱型の異形、魔神柱、でしたか。確認されている個体が七十二柱と同じ名前を自称したと聞きます。そして、英雄派には英雄の末裔や転生体が集まっているのですよね。さらに、七十二柱は『禍の団』の戦力だと考えられています。つまり、英雄派にはソ――」
「一介の戦乙女が、この場で、その名前を安易に口にしてはならんぞ。特に、魔王や天使の前ではな」

 オーディンの隻眼に、穏やかではない色が宿る。普段のセクハラジジイとは違う、主神であり戦神としての威厳がある大神がそこにいた。だが、それも一瞬だ。眼からは威圧感が消え、おどけるように肩を竦める。

「案ずるな。おまえの考えているような事態はおそらく発生しておらん」
「ど、どうしてそう言い切れるのですが、オーディン様。お言葉ですが、状況が状況だけに……」
「なあに。簡単なことじゃよ。『奴』の意思が復活したというのならば、この冥界が今なお形を保っているはずがないんじゃよ」

 それを聞いて、その意味を理解して、ロスヴァイセの背筋に冷たいものが走る。

「あくまでも『奴』は人間じゃった。じゃが、聖書の神の奴隷などではなかった。儂らの神話も巻き添えを食らったがの。良い迷惑じゃわい」

 言いながらどこか愉快そうに笑むオーディン。

「さて、主人をなくした小僧どもはどうするかのう。儂としては、ヴァルハラに来る勇者が増えるのは大歓迎じゃが。ラグナロクとは言わずとも、ワイルドハントになりそうじゃのう」

 ロスヴァイセは思い出す。

 見たものを仲間に加えるとも、禍の前兆であるとも言われる死者の大行進、ワイルドハント。それの頭目は様々な神や英霊が語られるが、オーディンのパターンもある。

 他のパターンには、『救国の海賊』や『勝利の女王』、そして『騎士王』などが語られている。







「ウァラクより報告。聖書勢力は獅子王の脅威に気づいていない模様」
「グラシャ=ラボラスより補足。若手悪魔によるレーティングゲームは予定通りに開催される」
「ゲーティアより通達。奴らが祭事に浮かれている間に獅子王打倒の準備を進めろ」
「ウァサゴより報告。グラシャ=ラボラスの贋作の後継者を、旧魔王派が暗殺。アスタロスの贋作の後継者は、フローレンス・ナイチンゲールが抹殺。この二名に関しては、血族より代理が選出された。代理であるがゆえに、『王』、眷属ともに注目すべき力はない」
「キマリスより補足。グレモリーの贋作の後継者は、赤龍帝の弱体化により眷属内に精神的な支障が発生。シトリーの贋作の後継者は、突出した火力不足が否めない」
「ロノウェより補足。アガレスの贋作の後継者は、シトリーの眷属よりも火力は高いが構成が酷似している。バアルの贋作の後継者は、『王』を含めた眷属の能力が極めて高い。若手悪魔第一位の称号は偽りではない。ただし、計画に支障が出るほどではない」
「サレオスより質問。天使または堕天使陣営に警戒すべき戦力はないのか」
「レラジェより解答。堕天使陣営には幹部以上に警戒戦力はない。天使陣営には、デュリオ・ジェズアルドの他には元デュランダル使いヴァスコ・ストラーダ、元エクスカリバー使いエヴァルド・クリスタルディ、奇跡の子テオドロ・レグレンツィが脅威に成り得る。ただし、いずれも現段階での脅威性は低い」
「ヴィネより指摘。デュリオ・ジェズアルドだけではなく彼らも此方側に引き入れるべきではないか」
「ウェパルより否定。これ以上教会側に干渉すれば、情報の流出が有り得る」
「モラクスより同意。元より、性急な和平の締結により、教会内部は主張の衝突が発生している。我らの接触による勢力バランスの変化は危険だ」
「フルフルより要請。英雄派では獅子王を打倒できぬ。邪龍でも足りぬ。追加戦力が必要だ」
「アロケルより提案。英霊の召喚が戦力増加には確実だ。我らの聖杯を起動させろ」
「クロケルより拒否。奴らの手をこれ以上借りることは認められない」
「ハーゲンティより同意。我らに害する英霊を召喚する可能性が高い」
「アモンより補足。我々は人理を滅ぼし、かつての時間神殿で数多の英霊と戦った。奴らと縁を持ってしまった以上、これ以上の英霊召喚は控えるべきだ」
「ゼパルより提案。ならば、此方の世界で手駒を増やすとしよう」



なんだかんだで書くのが楽しい魔神柱会議(意訳)

ウァラク「聖書の連中、獅子王への対応甘いぞ」
グラシャ=ラボラス「若手悪魔のレーティングゲームも予定通りだってよ」
ゲーティア「連中がお祭り騒ぎしている間に獅子王倒すぞ」
ウァサゴ「と言っても、グラシャ=ラボラスの贋作の後継者とアスタロスの贋作の後継者は急遽の代理だから魅力ないよなー」
キマリス「グレモリーの贋作の後継者は、ドライグの影響かピリピリムード。シトリーの贋作の後継者は、いざって時のパワーがない」
ロノウェ「アガレスの贋作の後継者は、シトリーの贋作の後継者とだいたい同じ感じ。バアルの贋作の後継者は、結構やるっぽい。でも、私たちの計画の邪魔になるレベルじゃない」
サレオス「天使とか堕天使に要注意人物は?」
レラジェ「堕天使側には目立った芽はない。教会には、元デュランダル使いとか元エクスカリバー使いとか奇跡の子とかがいるけど、現状じゃそれほどかなー」
ヴィネ「彼らも一応勧誘しとく?」
ウェパル「これ以上教会側に接触するのはちょっと」
モラクス「教会、今結構デリケートなムードだから下手に関わらない方がいい」
フルフル「やっぱり英雄派じゃ獅子王は無理ぽ。邪龍があってもたりねーな」
アロケル「じゃあ追加の英霊でも呼ぶか」
クロケル「これ以上英霊の手を借りるのは絶対やだ」
ハーゲンティ「そうだ、パンケーキにされたらどうしてくれる!」
アモンより「まあ、誰がどう来るか分からんからね。触媒による召喚も絶対じゃないし」
ゼパル「じゃあこっちの世界の奴を手駒にしよう。私に秘策がある」

せーの。
ゼパなんとかおめえ余計なことこれ以上すんじゃねえよ!
ちなみに、ドライグの真意を魔神柱達は知らないのでゼパルがやらかしたことに気づいていません。