憐憫の獣、再び   作:逆真

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まさかの漫画で分かるイベント!
てか、×××・××××ちゃん周回に超特化した性能じゃん! 星1だから育てやすいし。こんなの、種火や修練ですぐに絆MAXになっちゃうよ……。


指輪

 龍神オーフィスを頭目とするテロリスト、『禍の団』。

 

 旧魔王の血筋とそれに従う悪魔で構成された旧魔王派と英雄の末裔や勇者の生まれ変わりで構成された英雄派を二大派閥とし、他にも魔法使い派閥などの大小様々な集団がひしめき合っている。言うならば、異形の蟲毒と言ったところか。

 

 その脅威に対する会議。本来であれば数多の神話を穢し、壊し、奪い、犯した聖書の勢力からの招集に応じるなど業腹だ。しかし、それを差し引いても『禍の団』――より正確には頭目のオーフィス――は厄介な存在だ。真龍を例外とすれば、絶対の一位。随分と長い間行方不明だったドラゴンが犯罪集団をまとめ上げたというのだ。これが脅威に感じないわけにはいかない。その動向に関する情報や各勢力の対応などは知っておくべきだ。防衛とは人も神も問わずに為政者に求められる義務の一つだ。

 

 聖書の三大勢力を始めとして、ギリシャ、北欧、ゾロアスター、ケルト、スラブ、アステカ、日本、中国、インド、アフリカ、インドネシア、メソポタミア、エジプト……数多の神話の神々が集った。

 

《早速で悪いが、私はこの会議から退席させてもらう》

 

 ギリシャの三神の一柱、冥府の主人ハーデスは開口一番にそう言った。

 

「いきなりと言えばいきなりですが、理由を教えていただけますか? ハーデス殿」

《巻き添えはゴメンだと言っている》

 

 サーゼクスからの問いかけに、ハーデスはシンプルに答えた。それ以外にないとばかりに。

 

 無論、それだけが理由ではない。元々、ハーデスは他の神話の存在が好きではない。神話を読めば明らかだが、冥府の主人という肩書きに似合わず、彼は人間に甘い節がある。間違いなくギリシャ神の良心と言うべき存在だ。そんな彼だからこそ、聖書の勢力は好かない。否、許すわけにはいかないと言った方が正しいか。

 

《そこの馬鹿二人はともかく、私は二度もおまえ達の自業自得のとばっちりを受けたくないのだ。冥府は聖書の勢力と一切の縁を切らせてもらう。今回はその通告に来ただけに過ぎん》

「デハハハ! 言ってくれるな、ハーデス!」

「ガハハハ! 兄弟に対して冷たい態度だ!」

 

 ゼウスとポセイドンの哄笑に対して、ハーデスは冷めた様子で溜め息を吐き出す。だが、サーゼクスはそんな兄弟漫才よりもハーデスの口にしたある言葉が気になった。

 

「二度も、とは?」

《忘れたか? あの王のことを。お前たちが未だに名前を呼ぶことさえ忌避している男のことを。イスラエルの古き王のことは、嫌でも覚えているはずだ》

 

 神仏の脳裏に、ある男の笑顔が浮かび上がる。愉快さなど欠片も見られない、歓喜など微塵も感じさせない、怒気に染め上げられた男の笑みを。

 

 神も、悪魔も、堕天使も、どいつもこいつも滅ぼしてみせると笑いながら怒っていた王がいた。その功績は歴史に残されず、その罪過は神話に語られない。だが、神々は忘れない。思えば、あの王の存在こそが聖書への憎悪の始まりだったのかもしれない。

 

《あの王が何をやったか、忘れたとも知らぬとも言わせぬ。その動機も同じだ。せめておまえ達があの王の時代だけでも大人しくしていれば、このような事態にならずに済んだ。このような時代を迎えずに済んだ。ほぼすべての神話が貴様らの愚行の巻き添えを受けたのだ。同じことがあれば、今度こそ我らの神話は終わる。滅ぶなら貴様らだけで勝手に滅べ》

「言ってくれるじゃねえか、ハーデス」

 

 流石に苛立ちを隠せなくなったのか、アザゼルは強めの口調で物申す。

 

「アンタにとってもオーフィスは脅威のはずだ。まだあいつの目的も分からない。いや、オーフィスだけじゃない。新世界の秩序とやらを作ろうとする旧魔王派だって物騒なはずだ。英雄派は人間の限界に挑もうとしているらしい。アンタの首を取るつもりかもしれないぜ?」

 

 ハーデスが悪魔や堕天使を嫌っていることは知っていたが、このような公の場でこれほど攻撃的な発言をしてくるとは思っていなかった。ハーデスとて無駄な敵は増やしたくないはずだ。

 

《事情が変わったのだ、カラスの頭。信頼できる筋からある情報が手に入ってな。これを聞けば、貴様らと仲良くしようとする者などいない》

「は? 言ってみろよ。『禍の団』にオーフィス以上の脅威でもあるってのか?」

 

 そして、ハーデスの口から出された凶報は、その場にいたすべての神仏を凍りつかせた。

 

《旧魔王派があの王の指輪を手に入れたと聞いても、その態度を保っていられるか?》

 

 

 

 

 

 

 夢を見ている。

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)だ』

 

 憎悪に満ちた声がする。

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使え』

 

 怨嗟に染められた言葉が聞こえる。

 

『おまえの望みを果たすには、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使うしかない』

 

 絶望に塗り潰された呪文が耳に入ってくる。

 

 歴代の赤龍帝の残留思念。ろくでもない最期を迎えたという彼ら。そんな彼らが俺の背中を押してくる。その先の崖から飛び降りろと告げてくる。どうせおまえも碌な死に方をしないと、早く絶望してしまえと、泣きながら伝えてくる。

 

「何を躊躇っている、我らが新たな人類悪(どうほう)よ」

 

 魔神ゼパル。

 

 俺がこいつの力を取り込んだせいで、こいつは俺の精神世界に自由に語りかけられるようになったらしい。俺の中に語り掛けてきたきゃぱぱりーぷ? いやちょっと違うな……。とにかく、いつかアーシアの足元をうろちょろしていた獣からの情報もこいつに教えてやった。

 

 逆に、俺も教えてもらった。こいつらの正体。こいつらの原罪。こいつらの世界。こいつらの計画を。

 

「疾く目覚めよ。そしておまえの望みを果たすがいい」

「俺の望みは、ハーレム王になることだ! そのためにはおまえ達は邪魔なんだよ! 冥界を焼却なんてさせるもんか! そりゃ聖書の神様の計画をぶっ壊すことには賛成だけど」

「おまえは目覚めていない。なぜ、この情報を魔王や堕天使の総督に伝えようとしない? 何をどうして躊躇っている?」

 

 その指摘に、俺は背筋が凍る想いだった。

 

「おまえは肯定したはずだ。冥界の、そして聖書の終了を。おまえには見せたはずだ。並行世界のおまえの姿を」

 

 ゼパルの能力の一つ、並行世界の閲覧。いつかの乳龍帝はその能力で発見したものだった。

 

 ゼパルの言っていた俺の「生まれてこれなかった兄弟」ってのは、並行世界の俺が知ったことだ。ヴァーリの爺さんだか初代ルシファーだかリリンだかっておっさんが、俺の両親を人質にした。その時に、俺は両親の過去について知った。のぞきやら何やらを繰り返していた俺は、父さんや母さんにどれだけ辛い想いをさせていたんだろうか。

 

 魔神柱がいなかった場合の世界。並行世界の俺は「乳龍帝」「おっぱいドラゴン」として冥界のヒーローになっていた。その世界では、アーシアやゼノヴィアがグレモリー眷属になっていた。俺は今頃部長のおっぱいをつついて禁手に目覚めていた。ライザー・フェニックスとのゲームなんて夏に入る前に終わっていた。ゲームには負けたけど、婚約発表のパーティーで俺がライザーを倒すことで婚約をぶち壊した。ゲームで、匙と殴り合った。異世界の乳神様を呼び出した。色んなことがあって、新しい赤龍帝の可能性を引き出した。テロリストの頭目であるオーフィスとは友達になった。英雄派の首魁曹操にはサマエルの毒でギリギリ勝った。666が目覚めたが、犠牲もあって対処できた。悪魔に転生して一年ほどで、俺は異例の上級悪魔昇進となった。あれは、とても素晴らしい物語のはずだ。

 

「あれは、正しく偶像だ」

 

 だが、ゼパルは否定する。

 

「おまえがいれば何とかなる。おまえならば何とかしてくれる。おまえはきっとこの問題を解決してくれる。おまえは救いだ、未来だ、奇跡だ、希望だ、可能性だ。自分にはできぬからと、様々なものを押し付けられた。そんな風に、並行世界のおまえは勝利と救済を強制された。何千年という時間を生きてきた聖書の勢力にな。奴らがちゃんとしなかったから、おまえはああなったのだ」

 

 無責任な連中だ、とゼパルは嘲笑する。残留思念の先輩方もそれに同意する。

 

 世界が求めるのはいつだって力だった。世界が否定するのはいつだって愛だった。

 

 何度でも彼らは滅びを選択する。

 

「その結果が、並行世界のおまえに押し付けられた。『期待』の理を担う獣として、おまえは顕現した。もうおまえは人間でも悪魔でも魔神柱でもない。ア・ドライグ・ゴッホは望んだそうだな、おまえに天龍になれと。ならばその願いに報いてやれ。それが、奴への手向けとなるだろう。最後の赤龍帝となるがいい」

 

 こいつはこいつで、勝手なことを言ってくる。手向けってなんだよ。死んでねえよ。いや、ある意味死んでいるんだっけ。今のドライグは身体がなく魂だけの存在だ。

 

「なあ、俺の考えは正しいのか?」

「おまえの決意は正しいぞ。この聖書の勢力は腐りきっている――」

「違う。そっちじゃない。分かってんだろう」

 

 沈黙するゼパル。

 

「理解しているとも。新たな同類よ。戦う決意ではなく、根源的な動機。自らの身に起きた事象に対する推測。我は魔神柱。人知を遥かに超越した魔術式。その問いには真摯に答えよう」

 

 一拍御置いて、ゼパルは簡潔に述べる。

 

「分からない」

 

 ふざけているわけじゃないんだと思う。

 

「判断材料が不足している。否、判断しようのない事象だ。どう判断したところで、無意味であり、無価値だ」

 

 またこいつはそんなことを言う。文句を言おうとしたが、続く言葉がそれを止めた。

 

「何故ならば、おまえの結論が変わらないからだ。おまえの思考が事実であろうと被害妄想であろうと、おまえの結論は変わらない。違うか?」

「……違わないな」

 

 ――『運がなかったのでしょうね』

 

 まったくだ。俺は運がなかった。不運だった。不幸だった。

 

 だけど、俺にとっての不運って一体何なんだろう。

 

 それは赤龍帝の籠手に選ばれたことか。

 

 堕天使に強い神器を持っていることがバレたことか。

 

 それとも、リアス・グレモリーが駒王町を支配する悪魔だったことか?

 

「リアス・グレモリーがレイナーレなる堕天使を意図的に見逃していたかどうか。眷属にするためにおまえを見殺しにしたかどうか。あの日のすべてが作為によるものだったのか。そんなことはどちらでも同じことだ。どちらにしろ、おまえはあの悪魔のせいで死んだのだ」

 

 ああ、まったくその通りだよ。

 

「通常で考えれば、偶然だ。魔王の妹たる立場を理解し、堕天使と悪魔の関係性に影響が出ることを恐れたとも考えられる。人間の一人、見殺しにしても不自然ではない。だが、リアス・グレモリーはそういう気性か? 恋愛をしたいからと貴族の義務である婚約を拒否し、堕天使の幹部が縄張りに襲来しても魔王に連絡しなかった。堕天使の血を引く娘や処分寸前だった猫又を眷属とした。聖剣計画の実験体や半吸血鬼の死にかけに立ち会ったそうだが……貴様も合わせると三名だ。このような偶然が有り得るのか? 木場裕斗とギャスパー・ウラディに関しては、()()()()()()に立ち入ったことを意味している。そんな女が、自らの縄張りで敵対種族が好き勝手にすることを看過すると? 各勢力のバランスを意識できるほどの器量があると?」

 

 でも、あれは突然の出来事だったはずだ。あの日、俺がたまたま悪魔を召喚できるチラシを持っていたから、助かった。俺の助かりたいって想いが強かったから、悪魔を呼び出せた。あの日、他の皆が忙しかったから『王』の部長が来てくれた。俺の転生に『兵士』の駒八個が必要だから、絶対に眷属にしたいと思った。そんな風に、部長は言っていたはずだ。

 

「リアス・グレモリーはレイナーレの情報を知っていた。姿だけではなく名前まで。事前に情報を探っていた証拠だ。レイナーレに殺害された日、おまえは悪魔召喚のチラシを持っていた。そして召喚された悪魔は、悪魔の駒を持つ『王』だった。これは本当に偶然であり、運命か? おまえがどんな神器を持っているか不明なのに、『兵士』の駒八個をすべて費やすのか?」

 

 福袋みたいなものだろうか。中身は不明で値段だけ明らか。そして、その値段に見合うだけの商品が入っている。必要なものかどうかは別として。でも、悪魔の駒は新しくもらえるようなものではないと部長は言っていた。だったら、そんな貴重品をそんなギャンブルみたいに使うのか?

 

「あのグレモリーの贋作は、何か一つでもおまえに本当のことを教えてくれたのか?」

 

 俺は誰に殺された?

 

「では、そろそろ治療が開始される時間なので私は消えるとしよう」

 

 こいつ言いたいことだけ……って治療? どっか悪いのか?

 

「これも我らが極点に至るための試練の一つ。忌まわしい神の呪縛から解き放たれるための工程だ。万全の状態での再会を誓うぞ、我らが同類よ」

 

 

 

 

 

 

「では、次の患者の治療を開始します。『投薬』の準備を」

「はい、先生!」

「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない! 絶対に死んでたまるものか!」

「生死生死生死生死生死生死生死生死生死生死生死生死生死生死! この繰り返される痛み、あの戦いを想起させる。何故、このような苦痛を味わわなければならない……! もういっそ終わりを与えてくれ……!」

「誰かアンドラスとフェニクスを黙らせ、ギャアアアア!」

「ゲーティア、頑張る。これが終わったら遊園地」

「それおまえが行きたいだけだろがああああ!」

「……教授。あれは何をしているんですか?」

「オーフィスの蛇があるだろう? あれに特殊な能力を持たせてネ。魔神柱の思考を操作している因子を捕食させているというわけだ。例えるなら、血清を投与しているようなものか。ゲーティアと同次元の力を持つオーフィスにしかできない所業だ。実に興味深い」

「いや、とてもそんな絵には見えないんですが……」

「魔神柱たちが阿鼻叫喚なんですがこれは……」

「そりゃ体内をむしゃむしゃされているわけだからネ」

「うっぷ」

「いたいよぉ! やだよぉ!」

「麻酔とか作っても良かったんじゃ」

「こんなの、ひどすぎる……」

「これだけの患者がいるのに、そんな時間はありません! 緊急治療!」

「痛みは生きている証拠です!」

「だからって切開して無理やり詰め込むんじゃぐあああああ!」

「おのれ、間違った定義の神め! 貴様のせいで我々がこんな目に……!」

 

 ――あの神を。

 許してはならないと、私たちは改めて誓った。

 

 

 

 

 

 

「クルゼレイ! あの忌まわしい男の指輪が見つかったというのは本当か!」

「ああ。あの偽物どもに反撃する手はないかと、初代の遺産を探していたらな」

「くっくっく……くはははははは! この戦い、我々の勝利だ! 指輪があれば、あの偽物どもに勝ち目などない。いや、他の神話さえも我らにひれ伏すだろう! 神が死んでいたことは僥倖以外の何物でもないな! ミカエルめ、回収し忘れていたか」

「ええ、シャルバ様! これであの偽物どもは滅ぶ以外にありません!」

「真なる魔王こそが次の世界の王となるのです!」

「これでカテレア様も報われるでしょう!」

「真なる魔王万歳!」

「よくやってくれた、クルゼレイ! ……どうした、クルゼレイ?」

「……いやな、本当に残念だと思ってな。もういっそ笑えてくるよ。相変わらず、俺はこういうことでしか笑えないらしい。我が共犯者アスモデウスやベルゼブブの末裔が、ここまで劣化しているとか。何のために、俺の指輪をすり替えたと思っているんだ。アスモデウスに関しては、アスモダイに序列を譲ってもらうなんて小細工までしたのに。まして、指輪の真実も伝わっていないとはな」

「クルゼレイ?」

「クルゼレイ様?」

「……クルゼレイ?」

「俺はソロモンだ」




最後のやつをちょっと説明。分かりづらいと思うし。
原典の伝説的に、アスモデウスはソロモンの指輪を一度盗んでいる。すぐに取り返されたけど。
拙作においては、この指輪盗難事件時に本物と偽物が二重の意味ですり替えられた。指環には後世のための細工がしてあった。というオチ。なお、盗難の犯人と被害者はグルだった模様。

設定を見る限り、D×Dでは魔王アスモデウスと七十二柱アスモダイは別々の存在らしい(本来はアスモダイはアスモデウスの別名)なので、指環を盗んだのは魔王アスモデウスであると明言しておきます。

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