憐憫の獣、再び   作:逆真
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今更ではあるが、キングゥと九重を絡ませた理由。
過去に色々あった青年or少年と、若干態度の大きいませたロリの組み合わせは最高なんや。


再戦の時来たれり

 世界神話会談。日本の某都市の某ホテルにて行われるものだ。一応の名目は復活したソロモンに関する会議ということになっている。無論、アザゼルとサーゼクスが彼を倒したことは周知した上での開催である。

 ほんの一か月ほど前、対『禍の団』対策として三大勢力の下に多様な神話が集まったが、それよりも各神話の重鎮の出席率は高い。『禍の団』対策というよりも、彼らの興味はソロモンにある。そして、その配下ではないかと思われる魔神柱とその関係者キングゥ。キングゥから語られる情報について各勢力は重きを置いているのだ。ともすれば、再びあの王の怒りの巻き添えを食うことになるのだから。

 なお、最近まで引きこもっていた天照大御神が主催では面子の問題もあるため、仏教の縁により大黒天――シヴァが会談を取り仕切ることになった。このあたりの自由さは多宗教でありながら無宗教という特性のある日本ならではだ。蛇足だが、帝釈天とこの会談の開催について色々と揉めたらしい。開催そのものにではなく、舵を切るのが誰になるかでだが。

 ある意味今回の会談の主役であるキングゥだったが、京都妖怪のために用意された会場の待機室で非常に困っていた。

「ほれ、キングゥ。あーん」

 狐妖怪の幼女に爪楊枝で刺された羊羹を差し出されていたのだ。

「やっぱり、やめないかい?」
「私は母上からキングゥに悪い虫がつかぬよう言われておる。そのためにも私とキングゥの関係を見せつけねばならぬのじゃ!」

 今回の会談に、八坂は出ない。九重が代理で、キングゥはその付き添いという形だ。代理を出席させている勢力も少なくはないが、他の勢力と京都妖怪ではその真意は異なる。

 京妖怪にとって今回の会談の目的は、キングゥと魔神柱の関係を証言する他に、キングゥがすでに京妖怪の一員であることを世界に示すことが挙げられる。キングゥの全力をその目で見たのは八坂だけだが、他ならぬトップが見たのだから揺るぎない決断が生まれた。

 この子を他者に奪われてはならないと。

「でも今は他所の勢力が見ているわけでもないからやっても意味ないと……」

 実際は此方の動きを感知しているのを逆探知しているキングゥだったが、九重にとっては他人の視線の有無はあまり関係ない。

「ほれ、あーん!」
「あ、あーん」

 渋々、しかし照れを隠しきれていないキングゥは、九重から差し出された羊羹を口に入れる。その反応に、九重は嬉々とした笑顔を浮かべた。

 更にその様子をきゃーきゃー言いながら見る京都妖怪たち(主に女性陣)。

 だが、急に部屋の外が騒がしくなる。女中の一人が部屋の外に確認に出てすぐに戻ってきた。

「九重様、キングゥ様。魔神柱が出たそうです。例の堕天使陣営が開発した探知機に反応があったとか」
「へー、連中面白い手を打つね」

 キングゥのあまり関心のなさそうな態度を意外に思う京妖怪たち。キングゥがこの時点で自分の正体を明かしたのは、八坂と天照大御神、シヴァだけだ。

『レヴィアたん対大怪獣再びね☆』
『お姉様ご自重ください!』

 どこからか底抜けに陽気な声とそれを窘める悲鳴のような声が聞こえるが、無視する。

「むっ! もしや奴らキングゥを、ぬおおお!?」
「多分、連中の目的はボクじゃないよ。ここに攻撃を仕掛けることはないだろうね」

 キングゥは九重を抱き上げると、自分の膝の上に乗せ、そのまま後ろからそっと抱きしめた。

「な、何じゃ、キングゥ。突然驚くではないか。いや、今の状況が嫌と言っておるわけではないぞ」
「これでも緊張しているんだ。ちょっとだけ、こうさせてもらっていいかな?」
「う、うむ! 私を使って安心するといいぞ!」

 建前ではなく、本気で緊張していたキングゥ。この世界の神魔でも魔神柱でも獅子王でもない奇妙な気配がその原因なのだが、あえて口にするつもりもない。九重の声と気配を間近で聞きながら、魔神柱の計画の真意はともかくそこにある意思を察する。

(三大勢力は気づくだろうか。連中がこのタイミングで現れた意味を。陽動だってのには気づくヤツもいるだろうけど、本題はそっちじゃないんだろうな)







「連中、動き出したようだな」
「やはり三大勢力が主体となっているか」
「当然だ。奴らにも面子がある。加えて、我々を討伐し会談を無事に終了させることで、他勢力に貸しを作る算段なのだろう」
「まして我々の襲撃を受けているのは三大勢力を除けば鎖国状態だった吸血鬼のみ。積極的に動く理由がない。むしろ三大勢力で我々の力を試しているといったところか」
「だが、此方も全力で戦うつもりはない」
「今回の我々の目的はあくまでもアグレアス強奪のための陽動」
「そして、我々とおまえたちとの最初で最後の対話」
「聖書焼却の理想は推敲された」
「聖書推敲の世界は破棄された」
「我らの最終目的に必要なエネルギーは冥界を焼き尽くすだけで事足りる」
「私たちが真に目指す極点に、おまえたちの生命は要らない」
「しかし、その前に最後の機会を」
「だから、その前に一度の対話を」
「汝らの答えを聞かせてくれ」
「我らの想いを言わせてくれ」
「君達の言葉を言ってくれ」
「俺達の理想を聞いてくれ」
「おまえたちの、命の価値を教えてくれ」
「それと何の因果か……『あれ』がある例の地点にセラフォルー・レヴィアタンが向かっているようだ」
「必然である。『あれ』は二十八の魔神柱を内包している。聖書の異形どもが私たちの反応を感知している以上、最も多くの反応がある地点に動かせる最大戦力が向かうのは必定」
「グラシャ=ラボラス、待ちに待った再戦となるな。精々バアルとアンドラスがアグレアスを奪うまでの足止めを果たすがいい」
「足止めをしろと言うがな、統括局。あれは倒しても構わんのだろう?」
「……いいだろう。我々が奴らと()()であることを証明する必要性はあった。あの不愉快な魔王の首を落とし、我々の力を示せ」
「了解!」
「それから、もう一つ報告が」
「何だ、このゼパ何とか」
「いよいよ私も出る所に出るぞ!? ……グレモリー眷属も魔神柱の反応があった地点に向かっているのだが、我々が配置していない場所のようだ。これはどういうことだ?」







 世界神話会談の会場からやや離れた場所にある森で、ソロモンが召喚した三騎士は集まっていた。

「本当に来るのか?」
「必ず奴らは来る」

 アーチャーは普段包帯で隠している両目のうち、左目を露わにしていた。その目は明らかに人間のそれではなく、赤黒い色をしていた。

「その力を使用している間だけ、魔神柱と同じ反応になるのだったか? 余たちからすれば魔神柱の力を取り入れるなど狂気の沙汰だが……いや、余計なことは言わないでおこう。余たちの知る魔神柱とは決定的に違っているようだ」
「本質はそう変わらないさ。ただ方向性が少しだけ良い方向に向いただけだよ。……別に付き合わなくてもいいんだぞ? 俺が過去の自分と同じくらい殺したい男が来ることは確実だが、こちらに堕天使の幹部が来るという保証はない。それに、お二人の妻を呼ぶための聖杯なら既にソロモンから受け取っているだろうに」
「侮るな、アーチャー」

 アーチャーの言葉に対して、セイバー――理想王ラーマは誇りを持って返す。

「余は王だ。ソロモンも王だ。例え内容が個人的なものであろうと、王と王が交わした約定を犯すなど有り得ぬ。ヴィシュヌ様の名に誓ってな」
「そうか。英雄になれなかった俺には理解できない感情だ」
「それに、聖書の勢力が人間にした所業を知りながら放置するほど、余は寛容でも無慈悲でもない。ソロモンの真意が見抜けぬうちはシータと安心して会うこともできんしな」
「私も同意見だ。私は人を守る立場にある。であれば、彼らとの敵対は必然。武勲は堕天使の首一つでは、サーヴァへの恰好もつかない。ソロモンは大した王だが、善良な王ではない。優しい王というわけでもない。鮭の叡智でも底が見えてこない。さて、生前も死後もあの男を知っている君ならば、何か知っているんじゃないか?」

 ランサー――フィン・マックールの問いに、アーチャーは頬をかく。

「あー、何というかな。俺も実際のところ、あの男の真意は見えていないんだ。生前に関わった記憶に基づくなら、人類史上最悪の詐欺師という印象しかない。だが、それさえも偽りだ。何せ、俺の世界線ではあの男も聖書の神の敗北者だからだ。敗者に堕ちてなお、あの王は本音らしい本音を語らなかった。……まさか俺が並行世界の自分に召喚されることを予期していたのか? あ、ちなみに、俺が生きた並行世界では、ソロモンはサーヴァントを召喚しなかった」

 この世界線においてソロモンがサーヴァントを召喚した理由。それは獅子王の存在があったからに他ならない。ソロモンにとって獅子王の登場など如何なるシナリオにも書かれていなかったアクシデントだ。聖書の神に敗北する以上に、彼にとっては予想外すぎた。

 だからこそ、ソロモンはサーヴァントの召喚を決意した。最初に召喚されたのはアーチャーだ。触媒は『この世界そのもの』だ。

 アーチャーから得た情報を元に、アサシンを召喚し、ある世界の月の王と交渉してキャスターに出張してもらった。そして積極的に人外を倒してくれるであろうセイバーとランサーを召喚し、裏切られることを前提でライダーを召喚した。最後のバーサーカーは駄目押しだ。

「確かなのは、あの男の正体がただの獣であることだ。あの男は人間の存在を愛していたんだろう。人間の可能性を信じていたんだろう。人間が弱っちいことさえ知っていた上で、その価値を認めていたんだろう。だがな、あの男にはどうあっても人間を救うことなんてできやしない。何故なら、あの男は――」

 そこで、アーチャーは言葉を区切った。

 悪魔の一団が近づいてくる気配を感じ取ったのだ。巨大な龍らしき影もあるが、あれは最上級悪魔で元龍王のタンニーンだろう。その一団で特に目を引くのは、紅髪の美しい悪魔の少女だった。あれこそは、最強の魔王の妹リアス・グレモリー。

「いよいよ敵のお出ましか。……ふむ、悪魔のようだが、龍までいるとは驚きだ。その首級、頂くとしよう」
「余も負ける気は……どうした、アーチャー?」
「兵藤、一誠……!」

 魔神と同質になったアーチャーの眼球が、記憶が摩耗しようと忘れぬ怨敵の姿を捉えた。

「認めよう。これは八つ当たり、逆恨みだ。英雄の意味を履き違えた馬鹿者の癇癪だ」

 冷静など放棄した。そんな余裕は今の自分にはないのだから。

「だがな、この感情さえも飾りなんだよ」

 理論など忘却した。そんな御託はこの戦いには不要なのだから。

「おまえだ」

 ここで、一人の聖女の話をしよう。

「おまえが憎い兵藤一誠」

 聖女はある教会で何不自由なく生活していた。

 だが、ある時、ある悪魔の姦計によって教会を追放されてしまう。そして無理やり悪魔の眷属となり、道具として扱われた。聖女は元聖女になった。犯され、壊され、嬲られ、弄ばれ、穢された。夢も希望も潰えた。人間性など捨て去るしかなかった。痛みも涙も我慢して神を恨むしかなかった。

「どうしておまえは、俺たちと同じ惑星、同じ時代、同じ戦場に現れたんだ」

 ある時、転機が訪れる。聖女を貶めた悪魔が死んだのだ。悪魔を殺したのは、軍服の女だった。鋼鉄の如き精神を持つ看護婦。彼女によって聖女だった少女は救われた。

 その看護婦は聖女の仲間たちも同じように救ってくれた。当然、聖女だった女たちは看護婦に感謝し、彼女を師と仰ぐようになり、心の支えとした。いつかこの人のようになりたいと、聖女だった女たちは聖女だった頃よりも真剣に人を救うことに心血を注ぐようになった。

 だが、その聖女だけは師よりも姉弟子となる少女を心の支えとした。年齢は聖女よりも年下だったが、弟子の中で誰よりも師に近いのはその少女だった。……悪いところまで似てしまったが。

「死の恐怖ではなく、おまえへの憎悪で――」

 ただ、その聖女には問題があった。それは戦場に立つと、男性に対して異常に恐怖を抱くようになったことだ。苦痛から開放された反動だろうか。

 それでも、師や姉弟子の存在があった。他の同胞たちの支えもあって、ようやく立ち直れる、自分も皆と同じ場所に立とうと決意した。当時は聖書の神が復活し、人類を淘汰するために双貌の獣が動き出した頃だった。人王亡き後だったため、戦力や後方支援は一つでも多く欲しかった。

「英雄の真似事としてではなく、愚者の八つ当たりとしておまえに挑めていたならば――」

 だが、心の支えにしていた年下の姉弟子は死んだ。英雄を目指した馬鹿な男を救うために、邪悪な泥から救い出すために、その命を犠牲にした。英雄を目指した馬鹿な男は、自分と引き換えに死んだ彼女の最後の言葉を嫌でも覚えている。

 ――後のことは、お願いしますね。

 少女の死を誰もが悲しんだ。元聖女も同じだ。師の制止に逆らって、心の傷が完治しないまま、彼女は仲間たちと同じ戦場へと足を踏み入れた。

「俺は、皆に報いることができたかもしれない」

 しかし、元聖女は、その戦場で辱めを受けた。ある悪魔に衣服を消し飛ばされ、胸の中の声を暴かれた。男への恐怖心を治しきっていない彼女にとって、それはかつてあの悪魔にされた凌辱と何ら変わらない行為だった。

「人間としておまえに勝つことができたかもしれない」


 その女は首を吊った。

 ごめんなさい、と在り来たりな遺言を残して。


「誰かを、救えたかもしれないんだよッ!」

 結局、最強の槍を持って生まれた男は、託されたものを何一つ守れなかった。元聖女の件だけではない。人王が価値あるものだと考え直した人間の歴史を、仲間たちと守ろうと決めた人々の生活を、ソロモンが信じていた人類の未来を、何一つ守ることなんてできなかったのだ。

 最後に残ったのは、血まみれの槍と、誰も救うことができなかった両腕と、自分が槍の持ち主でさえなければこうはならなかったという強い後悔だけだった。

 自分が偽物なんて、とっくの昔に知っていたというのに。

「再戦の時だ、覆すべき終末のⅠ(アナザー・エンド)。一度殺した相手なんだ。楽勝だろう? 今度こそ、奴を憎悪で殺すぞ……!」

 アーチャーの宝具、覆すべき終末のⅠ(アナザー・エンド)。形状は棺桶であり、その性質もまたある意味では棺桶である。ただし死体は入っていない。入っているのは遺品だ。復活した聖書の神の敵として、最後まで抗った者たちの想いの欠片。

「聖槍起動」

 忌々しい役立たずの槍。神殺しとは名ばかりの人殺しの槍。そう断じながらも、こうして捨てられずにいる。これだけが、自分と仲間たちの道の証明だから。

 これこそが自分が生きた世界線の証明。唯一神の絶対的な殺戮にもがいた人類の足跡。この人が背負える程度の棺桶こそが、あの世界の人類史の墓標だった。神が勝者となったため、どのような手段でも見ることができぬように閉ざされた世界が、確かに存在していた証拠。

「宝具多重展開」

 聖槍を軸に、棺桶に収められたすべての遺品が力を呼び起こす。

 国を覆う霧が、獣を生み出す器が、命を弄ぶ聖杯が、紫に燃える十字架が、拳を滾らす爆裂が、聖剣で形作られた聖龍が、龍王を滅ぼした魔帝剣が、万物を両断する聖剣が、蛇の女神が張り付けられた大盾が、攻撃を飲み込む影が、精神を惑わす幻が、両手に宿る白炎が、敵を射る緑や青の矢が、次元を切り裂く聖王剣が、誇り高き獅子の斧が、絶対零度の人形が、自在に荒れ狂う天候が、幾億の刃の狗神が、何者をも癒やす光の指輪が、アーチャーの力となる。

偽・焼却式ⅩⅢ(カタストロフ・ロンギヌス)!」



 真名 ――(真名は破棄されている)
 クラス アーチャー
 ステータス 筋力:C+ 耐久:B 敏捷:A 魔力:C 幸運:E 宝具:A+
 スキル 対魔力:D 単独行動:B 心眼(偽):A 魔神の加護(真):A 神滅具:EX
 宝具 覆すべき終末のⅠ

 備考 かつて英雄派という集団を束ね、曹操を名乗った男の成れの果て。ゲーティアの一派が聖書の神に敗北した並行世界の曹操。
 ゲーティアの死後、聖書の神が再現したラフムの群れを相手に仲間と戦った。だが、奮戦虚しく、恩人と恩師を失い、仲間を殺され、人類を滅ぼされた。一人でも多くの人を守るため、最期の手段として異世界である『F』と契約し、死後は其方の守護者となった。他の守護者の例に漏れず、死後の彼は抑止力の尖兵として「自分が守ると決めていたはずのもの」を殺す運命に囚われた。摩耗していく記憶の中で残ったものは、過去への後悔だけだった。――自分は最強の槍など持って生まれるべきではなかった、と。
 余談だが、この男の死はゲーティアとトライヘキサの決戦から五年後のことである。
 彼の宝具の正体は、仲間たちの遺品を収納した棺桶型重火器である。本来の持ち主ではないため、本来の使い方ができない武器も多い。『槍』は専ら炉としてのみ使用している。