憐憫の獣、再び   作:逆真
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ハロウィンの展開というかコンセプトが予想の斜め上すぎた……!


真実

「感謝するよ、キャスター殿。これで(おれ)が完成した」
「礼には及びませんよ、ほとんどソロモンの遺した術式のおかげですし。……それに、貴方の場合、完成した方が危険性が低いという変な人類悪ですからね」
「フォウ!」
「では、タマモちゃんはこれから優雅な英国旅行ですから!」
「ああ、ハクノ様にもよろしく伝えておいてくれ」
「ええ、勿論。……さようなら、魔術王より原罪を継承した獣。二度と出会うことはないでしょう。ところで、人間側の解釈では貴方ってローマ帝国の暗喩って説が有力なんですけど、そのあたりどう考えています?」
「ローマ死すべし。慈悲はある。ソロモンの『真理』の影響もあるんだろうから、ソロモン死すべし。もう三回くらい死ね。慈悲はねえ」
「フォ~? フォウフォフォフォフォフォ~?」
「左様ですか。あ、そこの猫と猿はご自由に小間使いにでもしてください」
「にゃ? 私たちの意思は?」
「はあ!? ちょっと待てよ、聞いてないぜぃ!」
「フォーウ」
「そう言われるなら遠慮なく。では(おれ)も、アサシン殿の用事に付き合うとしよう」







 俺――アザゼルは落ち着かない気分でこの席に座っている。

 場所は世界神話会談と銘打った会談の会場だ。隣にはサーゼクスとミカエルがいる。サーゼクスもミカエルも苛立った様子だ。理由は会談開始直前を狙った魔神柱の出現。しかも、レーダーでは合計で五十六体の反応が確認されている。

 本来であれば俺やサーゼクスたちも出張るべきだ。だが、そうはいかない。この会談の席に出ないわけにはいかないし、今回の行動はあからさま過ぎた。どう考えても、このタイミングで連中が出てきたのは何かの作戦の陽動だ。問題は、どんな作戦かって話だ。奴らの本当の狙いは何か。何より分からないのが、襲撃ではなく出現だったって点だ。

 あくまでも会場近くに出現しただけ。しかも、ご丁寧に人間の目を避けられる山奥に出たり、異空間を作ったりしてやがる。俺たちを誘ってやがる。舐められたもんだ。おそらく俺達を会場から引き離して、その隙にキングゥあるいはこの場に集まったVIPを殺害するつもりなんだろうが、そうはいかねえ。

 陽動だと分かっていても襲撃されていなくても、出現した以上は出張る必要がある。防衛的な問題でも、心情的な問題でもだ。一番反応が集中している――二十八体分の反応があったポイントにはセラフォルーに向かってもらった。サーゼクスと俺はこのまま会談に参加するしかないが仕方がない。リアスには一番弱い反応のポイントに向かってもらった。もしもの場合に備えてタンニーンにも同行してもらっている。一体しかいないようだから、大丈夫だろう。

 俺達が魔神柱から受けた被害はすでに洒落にならないレベルだ。相手が正体不明でありソロモンが関わっている可能性が高い以上、どうしても動きが後手後手に回った。あのクソ野郎が指輪に魂を封印していた可能性を思いついていればこんなことには……。いや、今更言っても遅いか。それでもバラキエルやサハリエルを失わずに済んだんじゃないかって思うとやるせない。

 指輪と言えば、天界に保存されていた指輪は十個すべてが偽物だった。

 ミカエルが本物を偽物だと言い張っている可能性もあった。神が復活する以上、あいつが俺たちを騙すことは有り得る。だが、これも的外れな気がする。理由は期間だ。もしも天に本物の指輪が九個あったとしよう。その場合は神が復活していないのはおかしい。時期を狙うような問題じゃないだろうし、聖書の神ほどの存在が復活すれば世界に何かしらの変動が起きる。指輪の現状を報告した時のミカエルの落胆ぶりからしても間違いないだろう。

 ……ただ、聖書の神に関してはどうだろうか。ソロモンのクソ野郎が優秀だったことは認める。それでも、指輪すべてを偽物にして、聖書の神の目を欺けるかとなれば疑問は出る。となると、ソロモンの返還後に聖書の神が本物と偽物をすり替えて保存していたってのが一番有り得そうなんだが……どうしてそんなことをしたのかって疑問が残る。結局振り出しだ。

 指輪はどこにあるのか不明。この情報はさすがに開示しておかないとやばい。後々突っ込まれるのも面倒だし、世界中の神話で力を合わせて探すべきだからな。他の指輪にソロモンの魂が封印されているって可能性もそれなりに高いし。

 とにかく、今回の魔神柱への対戦力にはセラフォルーが主体となって、他の魔王眷属や最上級悪魔、堕天使の幹部、熾天使や最強クラスのエクソシストも出ている。

「これより世界神話会談を始めます。この会談を取り仕切らせてもらうシヴァです。お見知りおきを」

 大黒天――シヴァが宣言する。

 ……本来、目下敵であるはずの魔神柱が出たんだ。会談は相手の目的が分かるまで中断すべきだ。だが、今回集まった修羅神仏は予定の変更なく決行した。理由は、俺達への当てつけだろう。魔神柱への対処はほとんど俺達三大勢力に丸投げされた。確かに俺達が戦うべき相手だが、他の神群はほとんど戦力を回していない。俺達に被害を出させてもしもの場合に自分のところの兵を出すつもりなんだろう。……そんなことをしている場合かよ。いまはあらゆる神魔が手を結んで、ソロモンの思惑を打ち破らないといけない時期だろう……! この会談の結果次第で、世界は滅ぶかもしれないんだぞ!

「前置きの挨拶も必要なのでしょうが、我々には時間はない。外も慌ただしいようですし、本題を明確化しましょう。唯一にして最大の議題は、あの怒りしか知らぬ王、忌まわしい『真理』を構築した魔術王ソロモンへの対策です。さて、あの王の災禍を振り返る前に、件の異形――魔神柱について『彼』に証言をしてもらいましょう」

 シヴァの視線が、日本の妖怪勢力陣営にいるキングゥに向けられる。キングゥが会場に現れてから、ほとんどの修羅神仏の意識はこいつに向けられていた。

「もっとも、彼は魔神柱との契約で彼らの正体を口にはできないのですが……彼の正体を聞けば自ずと理解できるので。私は先に聞かせてもらっていますが、色々と驚きの内容でした。この会談の内容を左右しかねないほどのものです。話し合いの前に知っておいた方が良い。早速――」
「魔神柱の前に、明確にしておくべきことがあるのではないか?」

 シヴァの言葉を遮ったのは、ある神話の神だった。……おいおい、流れを壊すなよ。周囲の視線はキングゥに一気に集まって、キングゥ自身身構えていたってのに、それが狂っちまった。キングゥの奴、出鼻をくじかれて気まずそうにしている。それを京都妖怪のお姫様が背中をぽんぽんと叩くことで慰めていた。

 シヴァはその神に問う。

「魔神柱の一件以上に、優先して話し合うべき内容とは? おおよそ察しはつきますが」
「決まっている。三大勢力の受けるべき国際的制裁について、より正確にはソロモンについてだ」

 会場がざわめく。

「彼の復活を通告してこなかったことはどうでもいい。……どうでもいいは言い過ぎか。だが、理解はできる。あの魔術王はそういう存在だ。確実に復活した証拠がなかった、というのもあるのだろう。指輪の管理を怠っていた天界に対しても言いたいことはあるが、それ以上に私は魔王と堕天使の総督に抗議をしたい」

 その神の視線が俺たちに向けられた。

「貴様ら、何故ソロモンを殺した?」

 は? こいつは何を言っているんだ。

「ソロモンの危険性は分かっているだろう。あの男が目の前に現れたらそりゃ殺すしか――」
「魔術王が、『真理』を組み立てたあの男が生きてさえいれば、『真理』の術式を解除できたかもしれんのだぞ!?」

 ソロモンが作り出したと言われる術式『真理』。その正体は不明で、その技術は未知だ。一切合切ソロモンにしか理解できないシステム。何をどういう仕組みにして組み上げたのかすら分かっていない。一部では『壺』の一件が術式構築の手順だったとも言われているが確証はない。

 色んな学者やら機関やらが調べているが、何も分からない。分かっているのは、あれは異形の過去と未来を奪うものってことだ。人間の神話だけではなく、異形側の記憶さえ改竄する。特に創造神の類はあれをどうにかしようと躍起になった。……当然だろう。何せ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って状況なんだから。

「貴様らが、貴様らのせいで作られてしまったあの忌々しい呪いが、ようやく! この時代でどうにかできたかもしれないのに! おまえたちは、それを台無しにした……!」

 ちっ! 好き勝手言ってくれやがって。『真理』構築の動機について、あの男は人類愛なんて寝言をほざいたんだぞ。あれだけ世界に暴力をばら撒いたくせに愛なんて騙りやがった。そんな男がどう頼んだところで『真理』について口にすることはないだろうぜ。

「まあまあ、落ち着いて。その件については私も思うところがありますが、キングゥに話してもらう内容はそのあたりにも関係していますので。彼の話を聞いてから三大勢力の責任を追及しても遅くはないでしょう」

 シヴァに制止されてその神は渋々といった様子で席についた。周囲は批難というよりは同感って顔をしている奴が多い。けっ! どいつもこいつも。そもそも『真理』が組み立てられたのは、おまえらがソロモンに騙されたからだろうが!

 会場の空気は最悪なまま、ようやくキングゥの話になった。

「はじめまして、この世界の修羅神仏たち。私の名はキングゥ。今は京都妖怪勢力の一員ですが、私の正体は妖怪というわけではありません。こことは異なる世界の、創世の女神の仔にして、天の鎖の後続機です」

 そして開示された情報は、文字通りの意味で世界の見方を変えるものだった。







 俺――匙元士郎は内心で震えながらこの場にいる。

 世界神話会談の開催において、三大勢力はかなりの戦力を備えていた。堕天使の幹部や熾天使、魔王様とその眷属と豪勢だ。勿論全員が来ているわけじゃない。特に、現ベルゼブブ様と現アスモデウス様は不参加だ。まあ、冥界の守護とかもあるから当然だけど。

 予想通り、魔神柱たちは出現した。堕天使勢力が開発した魔神柱探知機のおかげで、襲撃する前に出現が判明できたんだ。特に反応が集中しているポイントにセラフォルー様は向かった。会長や俺達眷属もサポートとして同行している。魔王様の戦闘の邪魔にならないよう、そして邪魔をしてくるであろう奴らの部下を倒すためだ。

 正直、怖い。怖いけど、俺はこの戦いで絶対に活躍してみせる。すべては会長の夢、俺たちの夢のためだ。この戦いで功績を上げたら、それはゲームでの活躍よりずっと評価されるはずだ。そうなったら、俺達の夢の実現にまた一歩近づく。

 俺達は魔神柱が作り出したであろう異空間に潜入していた。会場近くに作りやがるとか肝が据わりすぎだろう。入った途端に出られなくなる、みたいな罠はないみたいだ。

「この空間はおそらく上位神滅具の一つ、『絶霧』によるものでしょう。罠でも仕掛けてあると思ったのですが、何も起きませんね」

 会長が教えてくれる。上位神滅具か。全部で十三しかない神滅具の中でも最上位のもの。神さえ殺せる聖槍や自由自在に操れる天候などの四つ。兵藤が持っている赤龍帝の籠手すら上回る最強の力。

 相手はそれほどのものを持っている。そのことを再認識した瞬間だった。

「待っていたぞ。聖書に名を連ねる害獣どもが!」

 どこからか声がした。敵意と殺意に満ちた怒号のような声が。

「顕現せよ。牢記せよ。これに至るは七十二柱の魔神なり!」

 声と同時にその場に出現したのは――あまりにも巨大で醜悪なバケモノだった。大樹とも触手の怪物ともいえる形状。おぞましい以外のどんな言葉も似あわない。そんな奴が出現した。怪獣映画かよ……! スケールが違いすぎる!

「魔神柱二十八柱による融合。それこそが、このクラン・カラティン! 恐怖せよ。怯懦せよ。冥界に犇めくすべての命より一足先に、地獄の底に堕ちるがいい。だが、戦闘の前に問答をしようではないか」

 も、問答?

 身体に張り付くようにある大量の眼球の一つが、明確にある御方を捉えた。会長のお姉さんにして魔王の一人、セラフォルー・レヴィアタン様だ。

「セラフォルー・レヴィアタンよ。おまえは魔法少女についてどう考えている?」

 ズッコケた。その場にいたほとんどの者がズッコケた。空中で飛んでいたはずなのにズッコケた。確か、駒王会談の時のグラシャ=ラボラスだっけ? そいつも急に魔法少女について語り出したんだよな。魔神柱ってこんな奴らばっかりなのだろうか。

「ちょっと待て」

 セラフォルー様が答える前に、先程とは別の目玉の一つが、先程の目玉を睨んだ。先程と同じだったけど、声音でなんとなく違う奴なんだってのは分かった。

「おまえ、この状況でその質問か」
「何だ、私の魔法少女への愛に文句でもあるのか」
「時と場所を選べと言っているのだ」

 ああ、会長が遠い目をしている。副会長が言葉を掛けているけど反応が薄い。こいつら、俺の主に精神攻撃を仕掛けて何が楽しいんだ!

「まあ、待て、アンドロマリウス。グラシャ=ラボラスの熱意も理解できぬものではない。人間は等しく同価値だが、『少女』という部類は精神的に特殊なのだ。彼女たちのリビドーは魔術的にも非常に価値がある」
「黙れゼパル。殺すぞ」
「何故そこまで殺意が高い!?」

 ……いま、聞き捨てならないことを言わなかったか?

「ちょっと待てよ」
「何だ、龍擬きの少年よ。先に言っておくが私は魔法少女を利用しようなどとは考えていない。かつてはそうだった。人間を利用しようとしていた。だが、その思想は破棄された。我々は――」
()()()()()()()()()()()()って……どっちも倒されたはずだろう!?」

 グラシャ=ラボラスは駒王会談の時にトップ陣に倒された。ゼパルは兵藤が死に物狂いで倒した。そのはずだ。そうでなければならなないはずなのに。名前が同じだけ、とかだよな?

「……貴様ら、まだそこにいたのか」
「笑止。我らを一度倒したくらいで、殺したつもりでいたとはな」

 周囲の皆に困惑と恐怖が宿るが、それを魔神柱たちはせせら笑う。

 待てよ。何だよ、それ。じゃああの会談時、三大勢力のトップ陣が袋叩きにした時のあれは、負けた振りだったとでも言うつもりかよ。俺達が、世界が、おまえたちの手のひらの上で踊っていたとでも言うつもりかよ! 何様なんだよ、おまえらは!

「我々を完璧に滅ぼしたいのなら一秒に四十四柱のペースでこふっ!」
「パイモン! ブエル、グシオンまで! ついでにフェニクスが!」
「これだから管制塔は!」
「古傷を抉るな! おまえたちだけではなく我々全員のトラウマなんだぞ!」
「溶ける沈む痛苦の無限もう黙れクズが死にたくない悲願のため速度痛いアアアアギィアアア!」
「喧しいぞ、この似非詩人が!」

 ……こいつら何で敵前でコント始めてんだろう。一秒で四十四体って無理だろう。大体、そんなペースで倒したら二秒で全滅できるじゃないか。それとも、こいつらって一秒以内に全滅させないと増えるのか?

「皆! 気を引き締めて! 彼らの動きに集中しなさい! 相手が上級悪魔を倒せるほど強いことを忘れないで!」

 会長の声に気を取り直す俺達だったが、この触手の怪物はそんな態度を嘲笑いすらしない。

「改めて問おう、セラフォルー・レヴィアタン。怠惰な魔王よ。おまえ達の杜撰な政治のせいで、魔法少女たちを襲った悲劇について、おまえはどう考えている?」



内外ともに混沌とする世界神話会談。
そして、その裏で画策されたアグレアス強奪作戦。
だが、予想外の乱入者が現れる。
この宴は誰のために。

次回「撃墜」

次の人類悪顕現まであと四話。