憐憫の獣、再び   作:逆真
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セイラムの配信決定が予想より早かった。
一つだけ言うなら、信じているからなラウム。新宿とまでは言わない、せめてゼパらないで……!


誰が悪なのか

 曰く、その悪魔は天使のように美しい。

 曰く、その悪魔はルシファーの直後に生まれた。

 曰く、その悪魔の名前は『悪』『無価値』を意味する。

 曰く、その悪魔はソロモン七十二柱の一柱である。

 曰く、その悪魔は賢明で弁舌で狡猾である。

 曰く、その悪魔はソドムとゴムラを堕落で染めた。

 曰く、その悪魔は――唯一神と救世主を訴えた。その時の弁護人は予言者が、裁判官は魔術王が務めたと伝説では語られている。







 私――姫島朱乃は今更ながらに後悔している。あのヒトと――父様ともっと話したかった。

 聖書に名前を記された堕天使、『神の子を見張る者』幹部、雷光のバラキエル。私の父。

 母様はあのヒトのせいで死んだ。本当は父様が悪くないことは分かっていた。

 だけど、死んだ。私は謝るどころか、あの日以来顔も見れていない。そして、和解できないまま父様は殺されてしまった。魔神柱の反応を同僚のサハリエルと探っている任務の最中で、魔術王の手によって殺されたそうだ。

 この星で最も罪深い人間ソロモン。怒りしか知らぬ王。『真理』を構築した魔術王。

 彼の逸話を、真実を知れば知るほどに理解できなくなっていく。私は人間の娘でもあるけど、彼の風評には人間性が感じられない。いえ、本当に人間だったのかさえ疑う部分が多い。

 魂レベルで殺害され、指輪の力で蘇り、もう一度サーゼクス様とアザゼルによって葬られた。だけど、本当に死んだのだろうか。救世主の復活とは全く異なる形の復活だ。それこそ、どこにあるか分からない九個の指輪に魂が封印されている可能性だってある。どこまでも、不気味だった。

 だけど、何らかの形で父様の仇を討つ。父様、朱乃は大丈夫です。親友や仲間たちとともに生きていきます。堕天使も悪魔も関係なく、私のことを好きだと言ってくれた男の子もいます。どうか、母様と共に見守っていてください。

 そんな決意を抱えながら、私はこの世界神話会談の警護に参加した。そして、予想通りに出現した魔神柱の反応。

 計測された魔神柱の反応は五十六。二十八柱の反応があったポイントには魔王セラフォルー様とその眷属、その他最上級悪魔が向かった。十柱の反応があったポイントが二つあり、片方はサーゼクス様の眷属が、もう片方は堕天使と教会の混成チームが出撃した。七柱の反応があった場所には、レーティングゲームの上位プレイヤーメインとなって出ているそうだ。

 そして、私たちが向かっているのは、一柱分の反応だけがあった場所。一度魔神柱を単騎で倒したイッセーくんがいるけど、彼が倒したゼパルが異常に弱かった場合も考えて、タンニーンが同行している。

「タンニーン、本当に私たちに同行していいの?」
「心配は無用だ、リアス姫。俺は一度、獅子王なる者の手下から兵藤一誠を守れなかった。これから向かう場所に魔神は一体しかいないらしいが、他の伏兵がいる可能性もある。万が一のことがあれば名折れだ。何、他の戦場では俺の眷属が戦っている。奴らは強い」

 目的のポイントが近くなってきたあたりで、強い光が目に入った。

「っ! 皆、避けろ! あれは聖なる力の類の攻撃だ!」

 タンニーンの警告に従い、私たちは即座に散る。その一瞬の後、私たちがいた場所を聖なる光の塊が通過した。イメージとしてはビーム砲。

 地上に人の気配がしたので、其方を見ると三つの人影が見えた。

「アーチャー、何故あの距離で放った? かわされるのは目に見えているだろう」
「……面目ない。感情が高ぶってしまった」
「ハハハ! いいじゃないか、セイバー。……龍の首は私たちが競う。それでいいかな?」
「好きにしてくれ」

 全員男性だ。ひとりは赤毛の少年。少女のように美しい。ひとりは金髪の青年。多くの女性を虜にするであろう美男子だ。最後に、外套を着た包帯男。露出が皆無だけど、体格からして男性で間違いないだろう。

 今の攻撃はこの中の誰かがしたとみて間違いないだろう。

 私たちは次の警戒をしながら、地上に近づく。一呼吸の間合いまで近づくと、赤髪の少年と金髪の青年が前に出る。

「龍王よ、おまえの相手は余たちがしよう」
「場所を移さないか? ここでは君も彼らを気にして本気が出せないだろう」

 最上級悪魔で元龍王のタンニーン。その一撃は隕石に匹敵するとまで言われる。この二人は間違いなく強い。確かに、強固な防御手段がない私たちでは足手まといになってしまう可能性がある。

「いいだろう。リアス姫、兵藤一誠、悪いが俺は一旦外れる。この二人は本気で挑まねばならない猛者だ」

 即座に相手の申し出に応じたことと、声音が緊迫していることがタンニーンの真剣さを伝えてきた。元とはいえ龍王で転生悪魔の中でも最強の一角に数えられるタンニーンにこれほど余裕がないなんて……。この二人が英雄派最強かそれに近い実力者であることは間違いないだろう。

 タンニーンがバサリと飛び立つと、二人の戦士はそれを追跡する。

 残された私たちは周囲に伏兵がいないか警戒しながら、包帯男と対峙する。リアスが問う。

「貴方、私たちをひとりで相手にするつもり?」
「逆に問おう。おまえたちだけで俺に勝てると? 魔王も堕天使の総督も天使長もいないのに? また異世界から神様でも呼ぶか?」

 異世界の神様? この男は急に何を言い出すのだろう。それに、またってどういうこと? 初対面、よね?

「知っているでしょうけど、私はグレモリー家次期当主、リアス・グレモリー。貴方は誰かしら?」

 包帯男はリアスの問いに嘲笑で返事をする。

「名前などないさ。そんなものはとっくの昔に捨てている。どうせ短い付き合いだ。アーチャー、あるいは掃除屋とでも呼んでおけ」

 アーチャー……弓兵? 背負っているのは弓矢でも銃でもなく、棺桶だ。まさかあれから弓矢が出るとでも言うのかしら。先程の攻撃はあの棺桶から? アザゼルならあの棺桶の正体が分かったのかもしれないけど、私たちにはあれがどういうものなのか検討もつかない。

「た、戦いのま、前に聞いておきたいことがあります!」
「ギャスパー・ヴラディか。何だ? 聞くだけ聞いておいてやろう」
「ヴァレリーは、ヴァレリー・ツェペシュは無事なんでしょうね!」

 いつもは引っ込み思案のギャスパーくんが包帯男に問う。語調を強くしようと努めているけど声が震えている。それでも問わなければならないほど、彼にとって大事なことなのだ。

 ヴァレリー・ツェペシュ。ギャスパーくんと同じツェペシュ派出身のハーフヴァンパイア。ギャスパーくんにとっては恩人。魔神柱による吸血鬼の国襲撃事件で発生した行方不明者の一人でもある。ツェペシュ派に残された資料によれば、彼女こそが神滅具『幽世の聖杯』の所有者の模様だった。そしてアザゼル曰く、聖杯の乱用は所有者の精神を歪ませる可能性があるという。

「ヴァレリーか。ああ、彼女なら問題ないとも。今頃は、共に生涯を歩いていく親友と楽しく過ごしているだろうさ」
「う、嘘です! 適当なことを言わないでください!」
「それが真実なのだから仕方がないだろう? 彼女の幸福を願うなら、おまえはここで死んでおけバロール」

 さっきからこの男の言動は意味不明だ。どうしてギャスパーくんを指して、ケルトの魔神の名前が出てくるのか。確かに、彼の神器はかの魔神にちなんだ名称がつけられているけど……。

「――無駄話はここまでだ。いつもやっている掃除に、私情を混ぜ過ぎだな」

 男は顔の部分の包帯を全て取る。そこにあったのは、火傷のような傷で覆われた醜い顔だった。左目が赤く濁り、そこから放たれる視線はゾッとするほどの殺意を孕んでいた。

「ヴァレリーやトスカには悪いが、おまえたちは全員死ね」
「聖魔剣よ!」

 裕斗くんが聖魔剣を男の周囲に出現させる。だが、男は慌てた様子もない。

「鬱陶しいな」

 男の棺桶から同等の数の剣が射出される。あれはおそらく聖剣? 彼は『魔剣創造』の聖剣版である『聖剣創造』の所有者……いえ、だとしたら棺桶から出す必要なんてないはず。あれはアザゼルの人工神器と同じ類のものなんだわ。

 棺桶から出た聖剣が、裕斗くんの聖魔剣とぶつかり合い、互いに砕ける。禁手である『双覇の聖魔剣』と同等だなんて。

「聖十字架起動。宝具三重展開」

 男の棺桶が再び開く。また聖剣でも射出されるのかと思ったが、違った。

「霧の鎖!」

 鎖のようにも見えるそれは、一瞬で私たちの身体の周囲に展開され、拘束されてしまった。しかも尋常ではない強度だ。どれだけもがいても外れそうにない。それどころか、鎖が触れている部分に強い痛みが走る。これは光を受けた時のダメージに似ている。魔力が吸い取られているようですらある。

「な、何、これ……!」
「俺オリジナルの拘束術式だ。ベースとなっているのは結界系神器最強の神滅具、『絶霧』。おまえたち程度ではどうあがいても解除はできない」

 アザゼルが会談前に要注意だと告げていた上位神滅具の一つ、絶霧。よりにもよってテロリストの手に渡っていたなんて。

 私たちが拘束にもがく中で、包帯男はイッセーくんの方に歩いていく。イッセーくんも男の接近を見て必死に動こうとするが開放される様子はない。

「く、くっそおおお!」
「兵藤一誠、まずはおまえを殺す。仲間が死ぬ無力を味わわせるのもいいが、おまえは危険だ。機を逃す前に殺す。……おまえを殺すなら、こいつを使うか。もう『槍』としては使わないと思っていたがな」

 包帯男は棺桶から一本の槍を取り出した。それは神々しい輝きを放つ槍。悪魔にとって最大の天敵とも言える武器の正体に、私たちは即座に辿り着く。

「『黄昏の聖槍』、最強の神滅具……!」
「最強、ね。はっ、虚しい響きじゃないか。たかだか槍だろう?」

 最強の武器をたかだか呼ばわりなんて……。いえ、神滅具を二つも所持しているのならばその物言いは傲慢であると同時に当然のものなのかもしれない。

「神器はひとりひとつしか生まれ持ってこないはず……まさか本来の槍の持ち主から奪ったの?」
「逆だ、俺が生まれ持った神滅具はこの槍の方だよ。霧の方は仲間から譲ってもらったんだ」

 そんな馬鹿な話があるわけがない。リアスもそう思ったのか、拘束にもがきながら訴える。

「そんなことを言って本当は奪ったんでしょう? 堕天使の技術には神器を抜き取るものがあるわ……貴方たちはそれを悪用した。違うかしら?」
「……奪った、奪ったか。まあ、結果的にそうなったものもあるよ。獅子王の戦斧とかな」

 神滅具を三つも持っていることに、私たちは絶望するしかなかった。しかも、この男は明らかに全力を出していない。私たちなど、最初から相手にならなかったのだ。

「だが、盗品にしろそうでないにしろ、獣になっていないこの悪魔を殺すには十分だ!」

 包帯男は聖槍をイッセーくんの腹部に突き出す。接触部分から煙が見える。悪魔の身体が聖槍の力によって浄化されようとしているのだ。本来、悪魔が聖槍にあのように攻撃されたら即死だ。

 イッセーくんの身体は現在複数の生命の細胞が混ざることで複雑になっている。そのおかげかもしれない。イッセーくんはまだ生きている。それでも即死でないだけで、重大なダメージを受けていることには違いない。

「がぐぁ……!」

 苦悶の声を漏らすイッセーくん。私たちは皆、その様子を見ていることしかできなかった。

「イッセー!」
「イッセーくん!」
「イッセー先輩!」
「そのまま黙って見ているがいい。この男の最後を」

 包帯男は槍を一度引き抜き、再びイッセーくんに向ける。

「そういえば、おまえはゼパルを倒したそうだな? ましてその力を取り込んだ? おまえが兵藤一誠というだけで腹立たしいというのに、よりにもよって彼らの力がおまえに利用されているのだから、不愉快の極みだよ」

 動け、私の身体。このままでは彼を失ってしまう。母様のように。父様のように!

「さらばだ、兵藤一誠。己の罪を知る前に死ぬがいい」

 だが、イッセーくんと包帯男の間に、予期していなかった人物が立ちはだかった。







「ちょうど良かった……いえ、なんとか間に合ったようですね」

 私――リアス・グレモリーは絶望していた。もう駄目かと思った。援軍なんて聞いていなかったけど、これがきっと運に恵まれているということなのね。

 この場に現れた救援は二名。

 レーティングゲーム界の不動のチャンピオン、『皇帝』ディハウザー・ベリアル。旧魔王の実子、超越者のひとり、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

 冥界に軟禁状態にあるはずのリゼヴィムがこの状況を見て笑う。

「うひゃひゃひゃ! 何とも愉快な――」
「リゼヴィム・リヴァン・ルシファァアアアアアアアアアア!」

 怒号とともに包帯男は聖槍を突き出すが、リゼヴィムに触れる直前で槍が消えた。

「無駄無駄! 俺の『神器無効化』がある限り、神器じゃ傷一つ付けられないって! 宝具化されていようと、神器は神器だからね」
「なら、これならどうだ? 行くぞ、デュランダル!」

 包帯男が棺桶から取り出したのは、聖なる剣。悪魔である私たちには無条件で寒気を与えるもの。しかも、あれはゼノヴィアとかいう教会の戦士が持っていたはずのデュランダル。まさか神滅具だけではなく聖剣まで奪って使いこなしているというの?

「ちょ、それは反則でしょ!」
「戦いに反則も判定負けもあるか!」

 聖剣を振るわれながらも、リゼヴィムは紙一重でかわす。流石は旧魔王の実子といったところなのかしら。

「うひゃひゃひゃひゃひゃ! 嫌われたもんだねえ? そっちの俺はどんなことをしたんだい?」
「貴様ぁあああああ! 貴様が、貴様さえいなければ、俺は! 泥になど塗れずに済んだものを……! アーシアを、皆を、失わずにいられたんだよ!」
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! ……何言ってんのかさっぱりだ。何を言いたいのかは分かるけど!」
「ああ、そういう奴だよな、おまえは……!」

 強い違和感を覚える会話だった。包帯男はリゼヴィムに憎悪を抱いているようだけど、リゼヴィムはその件を知らない。だけど心当たりはある。そんな感じかしら。

 敵が引き付けらている間に、チャンピオンが私を拘束していた術式を『無価値』の魔力によって解除する。自由になった私はイッセーに駆け寄る。

「イッセー! お願い、死なないでイッセー!」
「ぶ、ちょう」
「……死の直前といった様子ですね、リアス姫。私には彼を救済する手段がありますが、賭けますか?」

 それを聞いて私は安堵した。良かった。イッセーが犠牲にならないで済むのね。ベリアル家の特性は『無価値』だから回復には使えないはずだけど、不死鳥の涙でも持っているのね。運が良かった。

「お願い、イッセーを助けて!」
「ええ、彼を解放しましょう」

 そう言って、ディハウザー卿は――イッセーの傷口に手のひらに収めていた何かを押し込んだ。

「ギャアァイアアアアィアアアアアイアアアイアアァアアァアアアアアア!」

 悲鳴。だけど、傷口を抉られたような反応じゃないわ。私はディハウザー卿を問い詰める。

「イッセーに何をしたの! いま、彼の身体に何を入れたの!?」
「ソロモンの指輪だよ、リアス姫」

 悲鳴が止まったかと思えば、イッセーが立ち上がる。

 良かったと思うと同時に、イッセーは私やディハウザー卿から距離を取った。その表情には強い苦悶が浮かんでいるが、それ以上に敵意と混乱が顕著だった。

「どういう、ことだ……!」

 でもおかしい。イッセーの目が、赤い?

「兵藤一誠……否、魔神ゼパルか」

 魔神、ゼパル……? それってイッセーの倒した……ま、まさか相手を倒したことでイッセーの身体が乗っ取られていたとでも言うの?

「何故だ。何故貴様がここにいる。貴様がどうして、ソロモンの指輪など持っている……! 貴様は我々がこの世界に来て初めて接触した悪魔だ。貴様は復讐のために我らとの協定に同意した。だからこそ監視していた。だからこそ観測していた。我々が貴様らを裏切れぬように、あるいは裏切っても問題がないように、情報は厳選して渡していたはずだ……!」
「ベリアルのことか。初対面で贋作呼ばわりは実に失礼だと思ったが、まあ、私は本当に偽物だから反論はしようがないな。しかし魔神一柱にだけ担当させるのは失敗だったな。君達を騙すなど因子一つで自在だと知っただろうに。一介の悪魔と侮った君達の失敗だ」

 何よ、それ。チャンピオン、どうして、まるで、貴方が悪魔を裏切っているような台詞を言っているのですか?

「誰だ。貴様は一体、誰と組んでいた?」
「全員だ」

 ディハウザー卿――いえ、ディハウザー・ベリアルからの返答は実にあっさりとしたものだった。

「私がここにいるのは、唯一神に与えられた使命であり、魔術王の計画の一部であり、明星の王子の理想の序曲であり、獅子王との交渉の結果であり、古き悪魔たちへの復讐のためでもあり、君達魔神柱の慢心のおかげでもある」

 え? 彼の口から並べられた単語は、私の理解を超越したものだった。

「例えば、獣を発見したばかりのリゼヴィム陛下と復活したばかりのソロモンを引き合わせたのは私だ。獅子王とソロモンを会わせたのも私だし、昏睡状態の兵藤一誠の下に災厄の獣を連れて行ったのも私だ。ハーデスに指輪の情報を渡したのも私であり、京都妖怪が必死に隠していたキングゥの存在を外部に流布したのも私だ。当然、獅子王によるアグレアス襲撃が君達の強奪作戦開始より少しだけ早かったのは、私が獅子王サイドに情報を流したからだ」

 それもこれもどれも私だ、とディハウザー・ベリアルは宣う。

「自分達の行動を疑うのならば、何故一番に私を取り入れようとしたのかを考えておくべきだった。神の計算にはなかったのだろうが、私は優秀に生まれてしまったのが原因かな」
「き、さま……!」
「発端は、私のルーツになる。魔術王の壺の一件の共犯者は、初代アスモデウスと初代ベルゼブブ、当時のアスモダイ当主、そして初代ベリアルとなる天使、すなわち私の先祖だ」

 何を……何を言っているの? 初代の魔王や七十二柱がソロモンの共犯者だなんて話、信じられるわけない。でも、それ以上に私には聞き捨てならない単語が聞こえた。

「リアス姫、不思議そうな顔をしているね。私の発言は、まるで『ベリアル』という名門悪魔が三千年前まで存在していなかったかのように聞こえただろう。実際その通りなのだ。私の先祖は、初代ベリアルは天使だった」

 天使が邪悪に染まったとしたら、それは堕天使のはずでしょう? 天使が悪魔になる方法なんてない。まして三千年前では『悪魔の駒』もないんだから。

「いや、『ベリアル』という悪魔の一族はいたのかもしれない。あるいは別の名前で七十二柱序列六十八位にいたのかもしれない。だが真相は分からない。私たちにも魔術王にも唯一神にも分からない。『真理』の呪いとはそういうものだ。人間のために作られたが、あれは異形の認識にさえ作用する。あらゆる知的生命体に干渉する。そして、それを実感できるものはいない。『真理』について語られている事象はすべて『おそらく真理の影響だろう』という推測に基づく確実性のない理論でしかないのだよ。だから――『真理』の影響で間違いだとされている‟俗説”が真実である場合もあるのだよ。この話の笑えるところが、異形たちは自分が『真理』の影響をそのレベルで受けていることを分かっていながら認めていないところだ。ソロモンの所業に恐怖や憎悪を抱きながら、未だに彼を『人間如き』と舐めている。自分達超常の存在が、人間の術式如きに記憶を書き換えられるはずがないと侮っている」

 つまり『ベリアルという悪魔がかつては天使だった』というのは人間達の誤認ではなく、真実だったというの? そしてその事実に悪魔はずっと気づかなかった? 違和感を覚えたとしても、全ては『真理』のせいだと自己完結してしまったから?

「私の血には神の術式が仕込んであった。時が来るまでは悪魔として生き、人類悪召喚に成功した時に、使命の記憶が蘇る。魔神よ、そしてそれらを率いる王よ。君達はもう少し私を信用すべきだった。私を同志としてではなく駒として見ていた以上、この結果は必然だった。君達の体内に仕掛けられた因子と同じ物が、人間だけではなく異形の体内に仕掛けられているかを考えるべきだった」

 だとしても、貴方は悪魔でしょう。初代が天使だったんだとしても、貴方には私たちと同じ悪魔の血が流れているはずなのに、どうして私たちを裏切るの?

「だが、そんなことはどうでもいい。私にとって、魔神の悲哀も、女神の願いも、魔術王の憤怒も、明星の王子の悪意も、唯一神の遺志さえどうでもいい。貴様らの思惑など知ったことか。興味の外で、関心など皆無だ」

 その表情に浮かんでいるのは、愛する者を穢された憤怒と憎悪。

「これは復讐だ。くだらない『王』の駒の秘密を隠すために殺された我が従妹クレーリア・ベリアルに捧げる鎮魂歌だ。すべての悪魔の断末魔を以って、我が復讐を完成させる」
「悪魔への復讐を望むなら何故、我々を裏切った! 神やソロモンの遺志に従うなら悪魔の滅びを拒絶しているわけでもあるまい。最大の復讐相手である初代バアルを殺されたことが気に入らなかったか?」
「いいや? あんな大物ぶった化石の死は然程問題ではない。単に君達の計画が気に入らなかっただけだ。焼き尽くして再利用されて終わり? そんな苦痛なき有意味な絶滅など、認められるはずがないだろう」

 ディハウザー・ベリアルは右手を掲げる。彼の人差し指には指輪が嵌められていた。

「これは三千年前にソロモンがすり替えた指輪。限りなく本物に近い偽物だ。違いは容量くらいで、魔法や魔力を行使する上ではそれほど差がない。そうでなければ神の目を誤魔化せるはずもない。――神の目は誤魔化せても、ベリアルの目は騙せなかったわけだが。この指輪自体、本物の指輪で作られたもので、三千年も同じ場所にあったからだろうね。本物の九個と連動しているのだよ。では最後の仕上げに入らせてもらおう」
「ディ、ハ、ウザー、ベリア、ル……!」

 ディハウザー・ベリアルは命じるようにその言霊を吐き出した。

「赤龍帝よ、『取り繕うな』」

 イッセーの表情が大きく歪んだ。

「リアス・グレモリーの『兵士』よ、『君が見て来た人間を思い出せ』」

 止めなきゃいけないと理解しているのに、私は動けない。それは恐怖があるから。ここで何かをすれば、もっと悪いことが起こるんじゃないかという不安が、私の足を止めた。

「兵藤一誠よ、『人間の本質を受け入れろ』」



覚悟ある者のみ、この先を見よ。






















始まるね
いや、終わるのだ

結局そうなのですね
そうじゃな、最後までこうなのじゃな

我々から奪われるのは――いつだって愛でした
世界から与えれるのは――いつだって痛みだった

次回「人類悪顕現」

おまえたちは、最後まで滅びを選択するのだな!