憐憫の獣、再び   作:逆真
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セイレム終了。
描写の不足に目を瞑れば内容には満足。〇〇〇〇〇は絶対に引いてみせる。
これで魔神柱の物語も終わり。
アンドラスの逆パターン(どっかのアホが魔神柱の死体を利用する)でもない限り、彼らの登場がないと思うと寂しいね。
さあ、この作品も完結に向けて突っ走るぜ。


計画の真意

「何がどうなってやがる!」

 苛立ちを隠せないアザゼル。当然だ。情報が足りない。「よくないことが起きた」ことだけが漠然と、しかし確信的に理解できるのだから質が悪い。

「おいキングゥ……っていねえ! トライヘキサ……もいねえ! あいつらどこ行きやがった!」

 見れば、会場内の修羅神仏の数が大分少ない。今も足早に会場から出ていこうとする者が多数いる。体裁や現状把握よりも即時撤退を決意したということか。その気持ちは分かる。この纏わりつくような嫌悪感は、恐怖さえも上回る。黙示録の獣や山の翁と比較してなお苦痛だ。

 山の翁が告げる。

「――獣が生まれたのだ」
「獣、だと? トライヘキサ級の何かが生まれたってのか?」
「晩鐘は汝らの名を指し示さぬ。だが、あの獣は汝らの首を求めているだろう。そのために、あの王は三千年の計画を練ったのだから。自らの首を差し出すことさえ躊躇わず。だが、かの王の怒りは狂信ではなく妄信だ。かの王の願いを実現するための手段など、どのような星にもないというのに」
「頼むからもうちょっと分かり易く言ってくれよ!」

 聞けば答えてくれるが、山の翁の言は分かりにくい。これはアザゼルの傾聴力が低いというわけではなく、山の翁がわざと口数を減らしているからだ。これは最後の機会だ。これを試練として乗り越えれば良し。災害としてやり過ごすのも良し。だが、これでも自らの罪から目を逸らすのならば、滅びしかない。今回はどうにかなっても、次回はない。この世界に『人類悪』の概念が生まれてしまった以上、逃れようのない事実だ。

 すると、会場に何者かが転移してきた。またぞろあちら側の存在かと警戒したが、そこに現れたのは紅のローブの魔術師。サーゼクスの『僧侶』マグレガー・メイザースだった。『女王』グレイフィア・ルキフグスを抱えているが、彼女に意識がないようだ。

 サーゼクスの姿を確認するなり、彼は安堵の表情を浮かべ膝をついた。臣下の礼というよりは、肉体と精神の限界を迎えたからだ。

「申し訳ありません、サーゼクス様」
「マグレガー!」
「私よりもグレイフィア様を」

 サーゼクスは満身創痍の『僧侶』から意識のない妻を受け取る。

「セカンドや炎駒はまだ戦っているのだな? こうなれば私も出る――」
「いいえ、彼らはもう戦っていません」
「――そうか。勝ったということか」
「いいえ。我らでは彼らを倒すことはできませんでした」
「――――では、魔神柱は撤退したのだな」
「いいえ。逃げたのは私の方です。私は気絶したグレイフィア様を託され、逃げてきたのです。この身体ですから」

 マグレガーは自分のローブをめくって身体の左半身を見せる。そこには焼き爛れた身体があった。左腕は完全に消滅しており、足も膝までしかなかった。

「申し訳ありません、サーゼクス様。スルト・セカンド、バハムート、ベオウルフ、炎駒。私マグレガーとグレイフィア様以外のルシファー眷属は全滅しました」

 サーゼクス・ルシファーの眷属、『戦車』、『騎士』、『兵士』死亡。

 セラフォルー・レヴィアタンの眷属、『王』を除き全滅。

 レーティングゲームトッププレイヤー、第一位離反、第二位死亡、第三位重症。各眷属、重症または死亡。

 初代七十二柱全滅。旧魔王派全滅。リゼヴィム・リヴァン・ルシファーおよびその一派離反。

 アグレアス撃墜。アグレアス内に埋蔵されている『悪魔の駒』原材料の希少金属、完全消失。

 赤龍帝・兵藤一誠、××××。

 それが()()()の冥界だった。






 冥界、アガレス領、アグレアス周辺の森にて、二人の若き剣士が向かい合っていた。

「――まさか君とこんな形で再会するとはね、アーサー」
「私としては、貴方がそのような立場で戦うことの方が意外ですよ、ジークフリート」

 魔帝剣グラム所有者、ジークフリート。元教会の戦士で、通称は『魔帝』。シグルド機関の最高傑作にして禍の団英雄派幹部。神器『龍の手』所有者でもあり、禁手にも至っている。グラムだけではなく名のある魔剣を多く所有している。

 聖王剣コールブランド所有者、アーサー。ペンドラゴン家出身で、騎士王アーサーの末孫。スーツにメガネという格好の美青年。所有者として認められていたとはいえ、家宝であるコールブランドを勝手に持ち出したという経歴を持つ。元は英雄派にいたが、しばらく前にヴァーリチームに入ったはずである。

 禍の団内で最強の剣士の座を争っていたはずの彼らは、敵として相対していた。

 ジークフリートはアーサーの背後にいる騎士たちを見る。ゲーティア達から与えれた知識にあった者達と特徴が合致する。第六特異点、獅子王の威光の下で虐殺を行った粛清騎士と同じ鎧だ。

「……獅子王に下ったと考えていいのかな?」
「ええ。そう考えてもらって間違いはないでしょう。リーダーのヴァーリは勿論、黒歌や美猴も行方不明。チームとして機能しない以上、所属を変えるのは当然のことですから」
「英雄派に戻ってくるという考えは?」
「それも考えましたが、その前に魅力的なオファーを受けたものですから」
「君のことだから獅子王の首を狙うつもりでそこにいると考えているけど?」
「ええ。そのつもりです」

 その問答に対して、粛清騎士は反応しない。アーサーが獅子王を討つことに賛同しているのか、獅子王が彼如きに殺せるはずがないと確信しているのか。あるいはもっと別の理由があるのか。

「意外と言うなら、円卓たちがよく許したものだ。『アーサー王の末裔』が家を抜けてテロリストになったというのに」
「彼らにも色々と心情があるということですよ」

 漠然としたことを言いながら、アーサーはジークフリートを真正面に捉えたまま視線だけを横に向ける。ジークフリートも同じようにすると、視界には上空から落下していく浮遊都市が見えた。あれはもう駄目だ。今回の作戦は完全に失敗したと考えていいだろう。

「アグレアスが堕ちているのは獅子王の仕業らしいね」
「ええ。貴方たちが……というか、ゲーティアがアグレアスの希少金属を狙っているという情報があったもので。『悪魔の駒』や『御使い』を増やされても面倒だと、陛下は判断されたようです」

 ゲオルグから連絡があったが、この場だけではなく、囮だった会談の方も随分と事態が混沌としているようだった。獅子王が此方にいる以上、あの魔神柱が遅れを取るような相手などそうはいないはずだが。そのスタンスからして、この世界の修羅神仏が積極的に動くとは考えづらい。

 一度帰還するように指示があったところで、アーサーが現れたというわけだ。指示通りに帰還すべきなのだろうが無理だ。コールブランドは空間を切り裂く力がある。転移しても追跡される可能性がある。

 否、道理も義務も捨てて、ここで決着をつけたいというのが本音だ。

「どっちが最強か白黒つけようか、聖王剣」
「此方もそのつもりですよ、魔帝剣」

 双方、剣を抜いた。







 兵藤一誠であるはずの彼は、リアス・グレモリーの身体からアスカロンを引き抜く。

「あ……」

 リアス・グレモリーはその場に倒れた。傷口からは止めどなく血が流れていく。

「リアス!」
「部長!」

 ようやく拘束から逃れたグレモリー眷属。朱乃と小猫とギャスパーはリアスに駆け寄り、裕斗は聖魔剣を創り出して一誠の前に立つ。その刃の切っ先は震えていた。恐怖はある。主人を害された怒りはある。事態についていけない混乱がある。だが、それ以上に目の前の男から溢れ出る瘴気が気持ち悪かった。

「イッセーくん、どうしてこんな……!」
「話しかけるな、クソ悪魔が。耳が穢れる」

 兵藤一誠――否、赤い鎧の男は同僚であるはずの眷属たちには目もくれず、リアスの流血で穢れたアスカロンの刀身を見る。そしてリアスを一瞥する。リアスは眷属たちに身体を庇われながら、虚ろな目で赤い鎧を見る。

「い、イッセー……?」
「悪魔が聖剣で刺されたのに死んでいない、か。聖剣の特徴は消失しているな。流石にこんな骨董品じゃ泥には耐えられないか。神器と一体化していたことの弊害だな」

 独り言を吐き出す彼は、やがて視線を掃除屋へと移す。掃除屋も悪魔の王子との戦闘を中断し、彼を見ていた。悪魔の王子は事前に聞いていた話と展開が異なる為、呆けていた。

「アーチャー。おまえには感謝しているよ。おまえの情報がなければ、ここまで完璧にはできなかっただろう。やはりトライヘキサを完成させておいて正解だった。あいつが『真理』に繋がったままだったら、指輪との融合に支障が出たからな」
「貴様、誰だ……?」
「俺はソロモンだ」

 その予感はしていた。口調や話の内容から、自分の知る魔術王だとアーチャーは理解していた。だが、問題なのはこの男が魔術王であることではなく、兵藤一誠の身体を乗っ取っていることである。

「どういうことだ、ソロモン。どうやって兵藤一誠の身体に魂を移した? おまえが魂を移した指輪は、サーゼクス・ルシファーの手で破壊されたはずだ」
「おいおい。まさかとは思うが、俺が神に返還した九個の指輪には細工をしていなかったとでも? すり替えに気づかれなかったんだ。細工にだって気づかせないさ」

 それはアーチャーの知らなかった情報だ。彼が人間として生きた世界において、ソロモンの指輪は『訣別』によって破壊された。アスモデウスが保管していた一つを例外として。最後の指輪はまだ曹操だった頃のアーチャーが破壊した。

「俺の計画を成功に導いてくれた礼だ。種明かしをしよう。負けフラグ臭いから、本当はこういうのやりたくないんだけど、ぼちぼち暴露してもいいだろう。ここまでやれたんだ。誰かに俺の願いを知ってもらいたい。ああ、賛同しなくていいぞ? 俺の計画が達成された時、全人類は俺の計画の価値を理解してくれるのだから」

 本来、この星には人類悪などない。人理――すなわち人間のための宇宙法則が存在しないためだ。だが三千年前にソロモンが星を改変させることで、『期待』と『真理』の原罪が発生した。そして、本来であればRもLもなくソロモンだけが『期待』を背負うはずなのだ。人類に期待したのも、人類に期待されたのも彼だったからだ。

「俺は『真理』と『システム』を使って泥を集めた。この泥を浴びた人間は、魂の反転と引き換えに、その位相が上がる。俺はずっと待っていた。泥が熟成するのを。熟成した泥に触れてくる誰かがやって来るのを。今しがた兵藤一誠が発動した宝具。世界よ、我を讃えろ(アイ・アム・ア・ヒーロー)! これに辿り着くための三千年だった! 俺の計画には次の段階を踏まえても、どうしてもここに辿り着く必要があった」

 対人宝具、ランクA+。その効果は、星の記録の閲覧と修得だ。星の痛みの具現化である泥を積み重ねなければ手に入らなかった醜悪な奇跡。

 単体では役に立たない宝具だ。どれだけ優れた能力を得ようと、出力と機能に限界がある。生前のソロモン級ならばどうにかできるが現代の人間にそれは難しい。だが、スキル『ネガ・エヴォリューション』と組み合わせて使うことで、どんな奇跡だろうとどんな極限だろうと再現できる。

「この星の誰かに出来たことは、俺にできるんだよ。当然、人間だけじゃない。天使だろうが悪魔だろうが魔物だろうが妖怪だろうが精霊だろうがドラゴンだろうが――神だろうが、誰かのできたことは俺にできる」

 兵藤一誠の身体を乗っ取ったソロモンは大仰に手を広げる。鎧で隠されているが、その表情は歓喜の色で満ちていることだろう。怒りを込めてではなく、心底から笑っているだろう。

「これで、俺は神の御業を再現できる! 主を超えられる!」

 聖書の神の所業。それを聞いたアーチャーの脳裏に蘇るのは、あの地獄だった。泥に覆われた世界と、そこに溢れる双貌の獣。蹂躙される人類の悲鳴と、聖書の神に抵抗した修羅神仏の屍。だが、あれはすべて『真理』が破壊されたからこその光景だった。

「馬鹿な! 『真理』によって世界は作り直せないはずだ!」
「いいや、それは正確じゃない! 正しくは、『世界を作り直せるほど強大な神』全員が、『世界を作り直せない』という縛りを受けているだけだ! 『真理』によって新しく強大な神が生まれることもない。だが、他ならぬ『真理』によって作り出された神ならばどうだろうな?」

 この醜悪な獣が神だとでもほざくのか。こんな邪神とすら呼べないような異形が。

「だが貴様は、『今ある人類』の価値こそを求めたはずだ! それだけは間違いない。だからこそ、俺の世界線では、おまえは聖書の神の手を払いのけたんだ」
「そうだ。俺ならばそうする。だって俺はあくまでも『今ある人類』の価値を証明したい。そうじゃないと俺たちが間違いみたいだろう? 俺みたいな例外を除いた全員が出来損ないみたいだろう? 失敗作だから作り直すなんてそんなのおかしい」

 そんな馬鹿な話があるものか、と聖書の神の最高傑作は宣う。同じ最高傑作である預言者や救世主にはない発想だった。彼らが持つはずもない狂気だった。

「だからこそ、生命はそのままに、この世界を作り直す。間違いなのは人間じゃない。人間を軽んじているこの世界の方だ。世界の法則を俺の求める形に改める。『真理』だけじゃ徹底的に不足している。三千年前じゃあれが精一杯だったからな。俺の時代じゃサマエルを引っ張り出すのは無理があったしな」

 そして語られるのは魔術王の本当の計画。怒りしか知らぬ王の願望の正体。

「人間が主役となる世界を創り出す。人間以外のあらゆる生命は人間を進化させる砥石とする。この世界の生命でも足りぬならゲーティアのように他の宇宙から招き入れる。――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それこそが、このソロモンの真の計画だ!」