憐憫の獣、再び   作:逆真
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拙作においての改変
・一巻 アーシアとの初対面以降のイベントはすべて消滅。しかし、日々の鍛錬のおかげで籠手の力には目覚めた。
・二巻 ライザーとの試合は『延期』。そのため、山での特訓はしていない。肉体を売り払っていないため不完全な禁手も使えていないが、ドライグとのコミュニケーションは取れている。

あと、今回は魔神柱が登場しませんので悪しからず。


それぞれの道

 俺――兵藤一誠は今、神父の恰好をして夜の町をうろついている。俺だけじゃなくて、木場、小猫ちゃん、よその眷属である匙もいる。

 ……悪魔としてはかなりグレーだと思うけど、これも仲間の木場のためだ。

 俺はゼノヴィアやイリナと交渉して、エクスカリバーを破壊する許可をもらった。交渉は難航するかと思ったんだけど、ゼノヴィアが『悪魔の力ではなくドラゴンの力を借りる』という屁理屈を出してくれたおかげであっさり交渉が成立した。……部長や匙の主人である会長には内緒だ。今回のことは下手をしたら悪魔と教会のバランスを崩すかもしれないから、バレないようにしないと。

 神父が襲われているという話だったから、神父に化けたら相手の方から来ると思ったんだ。だけど、この数日まったく収穫なし。あまりにも暇だったので、ずっと気になっていたことを匙や木場と話してみた。冥界を騒がせている肉柱のことだ。

「初代様たちを殺したって肉塊の柱。あれって結局、何なんだ? 部長曰く、冥界の歴史にもない生物だって話だけど」
「さあな。会長も知らないって。魔王様たちも知らないって話だからな。だからこそ、宿敵であるはずの神や堕天使とも協定を結ぼうって話になったらしいぞ。例の教会の事件もそうだけど、堕天使側でもこの数か月で人間界にある堕天使の拠点が襲撃を受けていたんだって。この町でもあったらしいぞ。あれも関係しているんじゃないかって」

 ああ、それは知っている。アーシアが派遣されたはずの教会で起きたガス爆発のことだろう。部長から聞いた話だけど、あれは本当はガス爆発なんかじゃなかったんだ。……アーシア、また会いたいなぁ。

 そっか。あれと同じようなことがあちこちで。堕天使だけが被害を受けたならざまあみろって思えるんだけど、悪魔にまで被害が出ているんじゃそうもいかない。夕麻ちゃん……じゃなくて、レイナーレもどうなったのか気になるな。

「ただ、悪いことばかりでもなくてな」
「え?」
「魔王派と大王派のパワーバランスのことだね?」

 木場の問いかけに匙は首肯する。要領を得ない俺に、木場が説明してくれた。

「イッセーくん。現在の悪魔の政権のバランスは、大きく魔王派と大王派に分かれているんだ」

 魔王派は、部長のお兄様であるサーゼクス・ルシファー様を始めとする四大魔王を襲名された方々による勢力。『悪魔の駒』を生み出すなど、新しい時代の波を起こしている革新派だ。逆に、大王派は古来から続く七十二柱の伝統を重んじる勢力。主義の違いから、魔王派とは折り合いが悪いらしい。もちろん、魔王派も大王派も一枚岩じゃなくて小さな複数の勢力から構成されているらしいけど。

「保守派である大王派は、実質初代大王のゼクラム・バアル様によって運営されていたと言っても過言ではないんだ。その初代大王が突如としてお亡くなりになられた。だから、大王派には指導者がいない。現大王を始めとする歴代の大王も、初代大王ほどのカリスマはない。いや、初代大王がいなくなったからこそ、大王派では次に誰が実質的な指導者になるかで揉めているそうなんだ」
「め、冥界が大変なときなのにか?」
「冥界が大変だからこそ、背中を狙いやすく、狙われやすいんだろうね。さっきも言ったけど、大王派は悪魔の片翼となる大きな派閥だ。そこに属する政府関係者も多い。ようは、大王派の議員は動けない状態なんだ。大王派の方針がまとまっていないからね。勝手に動くと、トップが決まったときに派閥から追い出されるかもしれない。大王派は初代大王の方針に従う派閥だったから、自主的に動こうとする議員があまりいないんだ。そして、大王派が動けないとなると、魔王派の意見が通りやすくなるんだ」
「魔王派に協力的でも、いちいち意見だけ言ってくる初代たちもいたらしいからな。会長は言葉を濁していたけど、間違いなく魔王様たちには今回の件はプラスだったんだ」

 それがさっき言った『悪くないこと』か。確かに、国会中継とかでも「何でこんなことに時間をかけているんだろう」って思う場面は多いものな。衝突が少なくなれば政治的決定も早くなる。だから、神や堕天使との協定を結ぼうという交渉がスムーズにいったのか。俺がそう納得していると――全身を寒気が襲った。

「上だ!」

 匙の叫びを受けて、全員が頭上を見上げると白髪の少年が長剣を構えながら降ってきた。

「神父の一団にご加護あれってね!」

 白髪の神父の一撃を、木場が神器の剣を出すことで防ぐ。木場の神器は、どんな魔剣でも作り出せるっていうすごいものなんだ。

 そして、俺はその白髪の少年神父のことをあらかじめ知っていた。

「フリード・セルゼン!」
「へえぇぇ? 俺さまのこと知ってんの? 有名人は辛いですネ!」

 ゼノヴィアとイリナから、このはぐれエクソシストの情報はもらっていた。フリード・セルゼン。ふざけた口調と態度だけど、その実力だけは高いらしい。天才だったけど、同時に仲間さえ手にかけた狂人らしい。

 実は木場は数日前にこいつと一度交戦していたんだ。本当なら部長に報告しなくちゃいけないんだけど、こいつがエクスカリバーを持っていたから黙っていた。自分で倒すために。エクスカリバーを自分の手で破壊するために。

「僕はエクスカリバーを破壊する!」
「寝ぼけたこと言ってくれてんじゃねえぞ、クソ悪魔が! そんな簡単にはいかないぜ!」

 木場が神器で新しく剣を作り出し二刀流で斬りかかるが、フリードはそれを受け流す。

 数度鍔迫り合いをした後、木場とフリードは一度距離を取る。冷や汗を垂らす木場に対して、フリードは余裕そうだ。

「くっ! やはりエクスカリバーを破壊するのは容易ではないか」
「いやあ、剣もそうだけど、俺さまが強いのよ! なんたって、チョー天才なんでね! それにしても……これが『グレモリー』の眷属か」

 ん? いま、口調が変わったような気がした。狂気に満ちた下品な喋り方じゃなくて、もっと機械的で理路整然とした口調になったみたいな。

「俺さま、おまえらチョー嫌いなんで! ぶっ殺しまーす! 死んでちょ!」

 いや、やっぱり気のせいだったみたいだ。とにかく、こいつを倒して、木場とエクスカリバーの因縁を断つ!







 禍の団(カオス・ブリケード)

 様々な勢力の不穏分子が各派閥に属して出来上がった集団であり、人間で言うところのテロリストだ。内部の関係は複雑に絡み合い、お互いを利用し合っている。現在は世界情勢の水面下で各所から人材が集い、力を蓄えている。

 形だけではあるが、頭目は『無限の龍神』オーフィスということになっている。その頭目はここしばらくは勝手に抜け出すことが多く、どこかに行っている。力を集めるための錦の旗であるため、勝手な振る舞いは避けて欲しいのだが、制御もできない。オーフィスには『蛇』を貸してもらえるだけで良いと考えているものも多いため、問題視している者もそれほどいない。大きな騒動が起きていないところを見ると、どこかの神仏や魔王に接触しているわけではないのだろうが。

 そんな集団の中に、英雄派という派閥がある。真なる魔王の末裔とその配下で構成された旧魔王派の次に巨大な派閥だ。構成員は人間のみ。人間が異形相手にどれだけのことができるかを主な目的とし、徒党を組んだ。高名な英雄の末裔や転生体、神滅具(ロンギヌス)の所有者までいる。

 リーダーの曹操は、かの三国志の曹操の末裔。その身に宿す神器は、最強の神滅具(ロンギヌス)とまで言われる黄昏の聖槍(トウルー・ロンギヌス)。かの救世主を貫いた槍であるため、逆説的に神殺しの力を宿している。『聖槍』というだけあって、聖なる力があるため、悪魔など不浄に属する異形にも効果的だ。加えて、曹操は亜種の禁手(バランス・ブレイカー)に目覚めており、手数も豊富だ。曹操は英雄派を率いるにふさわしい男だった。

 参謀に相当するゲオルグもまた神滅具(ロンギヌス)の所有者だ。結界系神器最強と評される絶霧(ディメンション・ロスト)。当然、禁手(バランス・ブレイカー)にも目覚めている。

 そんな男たちがいま、ある国の空港でぐったりと倒れていた。とんでもない挫折を受けた顔をしている。実は彼ら、スカウトに失敗してきたばかりである。ただ人材を得られなかったのではない。もっと大きなものが壊されてしまった。

 事の発端は、ある噂の真偽を確かめるためだった。そして、その噂の内容とは『悪魔の駒を摘出できる看護師がいる』というものだ。もしも本当ならば、英雄派としては黙っていられない話だ。いや、『悪魔の駒』の存在を知っていながら、この話を聞いて黙っていられるような存在はいないだろう。大きく動いているものが曹操の他にいないのは、信憑性が低い段階だからだ。水面下で行動中のテロリストであるからこその、フットワークの軽さが彼らの利点だった。

 目撃証言にあった『看護師』を探すのは容易ではなかった。明らかに何者かの手によって情報が消されていたからだ。情報を操作したという痕跡を見つけることも、人手がある組織でなければ難しいだろう。それでも、僅かな情報を頼りにしてお目当ての看護師を見つけ出した。そこは、ある紛争地域の病院だった。



 だが、ようやく辿り着けた場所は――地獄だった。



 地獄であると同時に、古今東西、戦場に生きた人間であれば誰もが見たはずであろう光景だった。

 枯れた声で『殺してくれ』と頼む負傷者。四肢が欠落し、意識のない者も大勢いた。見える包帯はどれも血染めだ。どうしようもないくらいに充満した死の臭い。止まることのない悲鳴に混じって、死神の足音が聞こえてくるようだった。大の大人が何人も泣き喚きながら、神に許しを乞うていた。

 曹操もゲオルグも戦ったことがある。命を奪ったこともある。グロテスクな死体を見たこともある。組織の研究の一環として、人体実験を行った経験だってある。だが、過去の英雄たちが当たり前のように見ていたはずの光景を見て、苦痛しか感じない空気を吸い込んで、吐き気を催した。

 自分達が求めている栄光とは真逆のものがそこにはあった。戦場にあるはずの戦士への名誉などそこにはなかった。血と痛みと苦しみと死。

 醜い、醜い、醜い、醜い。痛い、痛い、痛い、痛い。汚い。汚い。汚い。汚い。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。怖い。怖い。怖い。怖い。

 自分たちの戦いはこうではないと、自分たちはこうならないと頭で否定しながら、曹操たちは目を逸らした。目の前の地獄からも、自分たちの未来からも。

 そんな地獄の中で、その看護師は戦っていた。その女性自身、かなり傷だらけのような雰囲気があるにもかかわらず、その心が摩耗している様子がなかった。彼女を手伝っている女性たちにもかなり疲労感が漂っているが、その手を止めることはない。負傷者たちからの八つ当たりめいた罵声にも怯むことはなく、むしろ力ずくで黙らせるようなことをしていた。衛生を確保し、治療を実行し、迅速に終了させていく。彼女たちが動く度に、空間に満ちていた負の空気が薄れていくようだった。

 英雄。

 自分たちがなろうとしていた英雄とは違う。だが、それ以外の言葉が見つからない。そして、英雄になりたい自分たちとは異なり、彼女はすでに英雄だった。これ以上ないほどに完成された一人の人間だった。その輝きが眩しく、嫉妬さえ覚えた。彼女たちの姿は、美しい天使そのものだった。

 事前の予想では、この病院は『悪魔の駒』摘出のための隠れ蓑だと思われた。だが、実際は本当に『ただの病院』で、彼女は『ただの看護師』だった。ここで行われていたのは特別でも最新でもない、少し荒っぽいだけの『ただの治療行為』だった。彼女にとって『悪魔の駒』摘出は施した治療行為の一つでしかないのだろう。

 治療が一段落し、曹操たちは彼女と対話することができた。英雄派の存在とその目的、協力の要請をした。そんな彼女は曹操たちの話が一段落するなり、言った。

「貴方たちは病気です」

 この後、曹操たちは控えめに言って心を砕かれた。

 広義の意味での『治療』――実に真実の的を射たカウンセリングを受けたのだ。何をどう言われたのかは本人たちだけが知っていれば良いことだろう。

 そして、新しい患者が病院に運び込まれた段階で、曹操たちは隙を見て逃げ出した。絶霧(ディメンション・ロスト)の能力を全開で使って。

 そして、現在に至るのである。曹操は決意を語る。

「ゲオルグ。あの看護師のことはもう忘れよう」
「ああ。二度と会いたくない……。早くアジトに帰ろう」
「フォウ!」
「ん?」

 曹操たちが自分の足元を見れば、猫のような兎のような白い小動物がいた。いつからいたのか不思議に思っていると、背後から少女の声がした。

「どこに行こうと言うのですか? 先生の治療は途中ですよ」







「ヴァーリ。コカビエルの馬鹿の居場所が判明した。よりにもよって、サーゼクスの妹の縄張りだとよ。急いで回収に行け」
「分かった、アザゼル。確か、日本の地方都市だったな」
「ああ。細かい座標はここだ。……日本と言えば、最近京都にとんでもなく強い妖怪が流れてきたって話があったな」
「それは面白そうな話だ。俺がコカビエルを回収に行っている間に調べておいてもらえるか?」
「そうだな。ちょっと手が空いている者にでも様子を見に行かせるか? 俺も日本が好きだからな。せっかくの京都を荒らされたら敵わねえ」
「俺を満足させてくれるだけの強者であることを願うよ」
「そうかい、何でこんな戦闘狂になったんだか。ああ、そうだ。リアス・グレモリーの眷属には赤龍帝がいるって話だけど戦うんじゃねえぞ。これから協定を結ばないといけないんだ。加えて、コカビエルの馬鹿のせいで、俺たちは立場が悪い。これ以上悪化させるわけにはいかないんだ」
「もしもの場合は、戦ってもいいだろう?」
「駄目に決まってんだろう。戦いたいなら、例の肉柱と戦える機会があるだろうから、それで我慢しろ。協定が成功したら嫌でも戦う羽目になるんだからよ」
「ふふ。七十二柱の初代たちを倒せるくらいなんだ。その肉柱とやらも、俺を楽しませてくれるだろうな」



最後に、ガチャ報告。
我がカルデアに沖田さんは来てくれませんでした(吐血)。

魔法のカードに手を出そうになったが、『今後』のことを考えると温存しておきたい。